模索を続ける日本経済を尻目に、一足お先に景気回復を遂げたSF出版の活況は、果して何度目かの“SFブーム”と数えられるものなのだろうか。直接的には取り組む出版社の増加であるが、例えば1980年前後の、蓄積されつつあった機運に『スター・ウォーズ』公開が起爆剤となったような、空前の社会的フィーバーは見当たらない。今の状況は、ジャンル内部的にはクズ論争に噴出した、低迷した状態への反動とも捉えられるし、ただ単に、飽和した出版界で、付け入る余地ある隙間として「SF」が再発見されたに過ぎず、過去の財産のリサイクルが読者の世代交代によるニーズと合致。滞っていた新たな才能の躍進という展開は、偶発的に重なっただけ…なのかもしれない。強いて挙げれば「21世紀」という“未来”への突入、およびネットワークの浸透がもたらしたSF的日常の一般化と関心の高まり。はたまた伝網上を席捲する双方向口コミ情報文化の発達…、という程度しか思い当たらない中での要因なき盛り上がりは、終焉を宿命付けられた「ブーム」という名の消費物と化すよりも、むしろ遥かに好ましく思われる。
…なんて、またイイカゲンなこと言ってるけど、ま、要は「イイんじゃない!?」ってこと。長距離ランナーはペース配分が肝要なのだ。
さて、2000年はジャンル関連書もかなり充実していたので、ザッとおさらいしてみたいと思う。年明け早々から『思考する物語』(森下一仁著、東京創元社、キーライブラリー)に『SF万国博覧会』(北原尚彦著、青弓社、寺子屋ブックス)と来て、まずは幸先良く好発信。3月3日の日本SF大賞・同新人賞授賞式に合わせ、徳間書店が〈SFJapan〉(ロマンアルバム)を投入。同時に早川書房からも、例年の年間回顧を〈SFマガジン〉巻末特集から大幅増補・独立化させた、『SFが読みたい! 2000年版』(〈SFマガジン〉2000年4月臨時増刊 528号)を刊行。水玉螢之丞の表紙画も絶大なプラス要因として機能し、本誌で普段吸収しきれなかった層を含め、広く読書界一般に向けるガイドブックとして、雑誌ながら異例の重版を遂げる成功を納めた。
『このミス』のパクリ(!?)なんてチャカせばそれまでだけど、しかしジャンルの1年を総括する仕事の重要性に加え、これを機にフェアを組む書店の登場を促し、新刊として旬を越えた本が読者と出会うきっかけを、再度演出する副次的効用は計り知れないものがある。
同じく3月に、『戦後「翻訳」風雲録‐翻訳者が神々だった時代‐』(宮田昇著、本の雑誌社)も発売。〈本の雑誌〉連載当時から話題だった翻訳者評伝の本書は、早川的エンターテインメント翻訳文化に育った人間なら必読拝読の書である。
4月に登場は、『ブックハンターの冒険‐古本めぐり‐』(牧眞司著、学陽書房)。SFプロパーを外し、広く“イマジネーションの文学”を扱った内容だが、そこはそれ。SFファンの期待にも応える古書エッセイに仕上がるは、著者の面目躍如と言ったところ。
発売の待たれた『日本SF論争史』(巽孝之編、勁草書房)は、満を持して5月に刊行。最も端的にジャンル観・SF観が表出し、SFを知る/時代を観るための有効な手掛かりを与えてくれるのは、いつも論争が闘わされた時である。これまで多くの人が思い付いたであろう切り口ながら、誰も夢想の域を越えられなかった“論争を軸に再構築したSF史”の誕生は、もはや壮挙と言えよう。これが商業ベースで実現するのだから、まさに人を得たと評価するほかあるまい。その後本書は、10月に発表された第21回日本SF大賞を受賞した。
さらに11月は『図説ロボット 野田SFコレクション』(野田昌宏著、河出書房新社、ふくろうの本)も登場。豊富なカラー図版で、SFとパルプ・マガジンの魅力が満喫できること請け合いである。ファンならずとも楽しめる、テーマ編集のバラエティ・ブック。ファンはもちろん常備すべし。続刊予定も有り!
これら以外にも、マイク・アシュリー『SF雑誌の歴史』(東京創元社)が予告され出番待ち状態だし、高橋良平「日本SF戦後出版史」(〈本の雑誌〉隔月連載)も、再開後地道に進行している。ならば、まだこれからも期待出来るかも知れない。期待したい。いや期待してしまおう!! となれば望まれるのは、良きブックガイドの登場に決まってる。もう決定(笑)。
ぼくにとって、「SF」と「SFというジャンル」の輪郭と距離感を掴ませてくれた教科書は、『SFハンドブック』(早川書房編集部編、ハヤカワ文庫SF)だった。SF宇宙の航宙図として、これ程役立ったものはない。出版された1990年当時としても品切れが目立つラインナップは、しかし逆に、総体的に目配りの効いたガイドとなり、古びてしまう部分が少ない。
…でも、そうは言えども、本書は文庫SF875番である。1300番を優に越えた今、さすがにアップ・トゥー・デートなハンドブックの登場が必要とされるだろう。
あるいは、年度版『SFが読みたい!』がその任を果たしていくのかもしれない。けれども、飛び込み切れないでいる罪のない若人をSFに突き落とす(笑)、ジャンルの蓄積と振幅を備えた教育的誘導装置として、年度総括本だけでは不足である。最もこれに近いのが『SFを極めろ!この50冊』(野田昌宏著、早川書房1999年)で、巻頭の「親愛なる若きSFファン諸君!」でのアジテーション振りも素晴らしいけれど、“文庫こそ本の全て”だった学生時分の自らを想い起こすに、単行本じゃ存在に気付いたかすら心配が残るところ。文庫のガイドは、やっぱ文庫本が望ましいよネ。
てなワケで、こういった本やら何やら色々が、ズバズバ出て来てくれるなら、SFの未来明るく我も楽し。アア、出版社さん、無理せず転ばず、グイグイッ!とお頼みしますよ!!
世の中、何がどう転ぶか分からない。こんなに暑い、いや、熱い季節になろうとは…。もちろん、SFの話さ。SF読者獲得の為、秘密裏に暗躍する地下組織の活動が功を奏したから、かどうかは定かではないが、ともかく出版状況の好転振りは驚くばかり。ま、コアな層に関しては、昔も今も大幅な増減って無かったと思うのだけど。
とりあえず、自分用に記録を残しとかないとワケ分からなくなるゾ。
日本SF活性化の震源地、角川春樹事務所は、ハルキ文庫にて9月から文庫内叢書〈ヌーヴェルSF〉シリーズを新設。〈SFスタンダール ヌメロ〉、〈SFクラシック〉と分化し、刊行点数を大幅に伸ばし続けている。同社主催の小松左京賞も、10月遂に選考結果発表。第1回受賞作、平谷美樹『エリ・エリ』は、単行本にて11月下旬出版。SFセミナーにて怪気炎を上げた角川春樹の予言は、自ら成し遂げる確信を秘めたものであったのか。
新人の登竜門無くしてジャンルの隆盛無し。一足先に発足した日本SF新人賞(主催/日本SF作家クラブ)の第1回受賞作、三雲岳斗『M.G.H.‐楽園の鏡像‐』(徳間書店)は6月に単行本化。
またそれに先立ち、〈SFJapan〉00号にも一挙掲載された。3月発売の〈SFJapan〉は、紙媒体としては〈SFマガジン〉に続く、待望の専門誌誕生である。〈SFアドベンチャー〉休刊以後、かろうじて日本SF大賞の後援として名を留めるのみであった徳間書店は、これにてSFシーンへ復活の狼煙を上げる。その後、10月に第2号(01号)を無事刊行。年2回刊のペースを活かした、じっくりと特集を組み上げる雑誌として号を重ねることを期待する。
文庫・新書共に創刊ラッシュで各社しのぎを削る中、徳間書店はさらに《徳間デュアル文庫》で参入。8月の創刊ラインナップ6点にしても、以後の新刊を見ても、今のところ完全にSF文庫路線である。
9月第2弾では三雲岳斗の新作と、青木和『イミューン ぼくたちの敵』及び、杉本蓮『KI.DO.U』の日本SF新人賞佳作入選作も同時刊行。路線に合った賞を創設した角川春樹事務所に、賞に見合った器を用意した徳間書店。これを当然とばかり言えないのだから、両社の姿勢は評価されて良い。
かつて国内SFの牙城として君臨した徳間書店は、その厖大な財産と新たな才能取り交ぜた攻勢により、新時代のエンターテインメントの出現を試みる。従来のヤングアダルト文庫よりも、デュアル文庫は若干上の世代の読者をターゲットにした感あり。しかし考えてみるとこの若き読者層こそは、時に漫画家の口絵・挿絵を多用し、肩の凝らない通俗娯楽物にて本格中心の銀背と差別化を図った、30年前のハヤカワ文庫創刊時に狙った年代層と重なるのではなかろうか。
そのハヤカワ文庫では、30周年記念企画が各種催され注目を集めた。中でも9月に発表開催された、読者アンケートによるリクエスト記念復刊フェアでは、当〈銀河通信〉の支援キャンペーンでも希望の多かった作品が、アンケート上位に幾つも登場。最多得票のゼナ・ヘンダースン『果しなき旅路』を筆頭に、名のみ高く入手困難だった作品の復刊へと結実した。
また、99年の『アルジャーノンに花束を』と共に“まず文庫落ちしないよな”と思われた双璧、ダン・シモンズ『ハイペリオン』がよもやの文庫化。この場で文庫オリジナル翻訳作品の個々に言及する余裕は無いが、創元SF文庫の中村融編訳『影が行く』に始まる、驚きの海外SFアンソロジー・ラッシュという新たな動きは頼もしい。
《異形コレクション》は光文社文庫で再スタート、多角経営化を進めるし、イキのいい作家たちは電撃文庫で大活躍。内外共に触れるべきは山積みなれど、どこから切り込みゃいいのやら。さあ、楽しもう! 夏への扉はすぐそこだ!!
ダサコンは、朝陽館がよく似合う。…かどうかは定かでないが、もはやホームグラウンドの趣と風情漂う湯島の旅館に、第三勢力コンベンションが帰ってきた! 未だ極秘事項に属する、何を以って「第三」なのか?という謎の解明に向け、地道な聞き取り調査はしていない。
今回初めて、バッグひとつでダサへ出発。ぼくにとっては特筆に値する(笑)出来事として、特に明記しておきたい。オークションに出品できる本が(ホントに)無い、というのも寂しいものだが、サインを貰うための本さえ持ち込まないという身軽さも、また魅力あり。
朝陽館への道程は迷うことなく、意外と覚えているものだった。すっかり日が暮れた道すがら、昨年はまだまだ明るかったことに気付く。SF大会との間隔が同じなので違和感がなかったが、そうか、去年は一月早い開催だったのか。到着するや否や、早くもu‐ki総統に遭遇。入院中でかなりヤバめとの事前情報だったが、思ったよりは元気そうでなによりだ。そして、参加費値下げのウレシイ受付。
会場入りに余裕があるのは良いね、やっぱ。スタッフの皆さんに挨拶したり、集まってくる参加者の面々と雑談して寛いだり。ダサ初参加ののむのむさんも、SFセミナースタッフでお馴染みだしね。企画会場の大部屋では、清水賢治さんにワセミスのSFファンジン〈アステロイド〉のバックナンバーを見せて戴く。重かったでしょうに、ありがとうございます! 湯川光之さんからは頂き物あり。感謝。
7時を少し廻ってから、開会の辞、参加者紹介と、ダサコンの幕が開く! ここで早くも、事前に行われた「オンライン書評に関する大型アンケート」より、タニグチリウイチ@積ん読パラダイスさんと、銀河通信の偉大なるゴッドマザー、安田ママ@乱読めった斬り!に対する、「最も参考にしている書評」として最多得票を獲得した栄誉を、讃え敬い崇め奉る表彰式を行う。
今回のメインとなるゲスト企画は、『不良のための読書術』(ちくま文庫、2000年)の著者、永江朗をお迎えしての、書籍・流通に関するガイダンスである。この著書を見ても伺えるように、ぼくのような片寄った現場サイドの観点からしても、永江さんは机上の空論と感じさせることの少ない、地に足の着いた議論とアジテーションを展開する論客として信頼が高い。
ダサコンは、作家・ライター・翻訳家、編集・出版社、ネット&リアル書店関係者のほか、読者として業界に意識の高い構成メンバーが多いゆえ、質疑応答が白熱。錯綜するあらゆる話題に数値を交え明快に答えてゆく、永江さんの精力的な姿が光る好企画であった。
その後はいつもの調子で雑談モードに。もはや見知った顔触れ多し。ディーラーズで購入した、東洋大S研(東洋大にのみ適用)の会誌〈ASOV〉22号『野田大元帥への返歌』が、期待通りオモシロイ。
そうこうしているうちに、バード中津@角川春樹事務所さんを中心に、ジャンル分けとプロモーションなどのSF出版絡みの話が始まったが、ほどなくしてオークションが予告されたため移動する。
しかし、MZTさんはすっかり古本屋のオヤジ化していた。と断言するのもあんまりなので、今回は若旦那くらいにしておこう(笑)。などとうっかり油断していると、mutさんまでが古本ブルドーズへと躍進めざましいらしい。一体、彼に何が(笑)。とかなんとか言った所で、ぼくらの遥か彼方にはあの(!)彩古さんがいるんだから、全くもってノー・プロブレムだ!
ぼくはまあ、おとなしく(?)していたが、イイ感じで競り落としていくのはπRさんである。SF大会で証明済みだけど、気持ちの良い競りを演じてくれる。そして、愛・蔵太さんや倉阪鬼一郎さんが、フラリと来て大人買い。総統も盛り上げる。例え値は上がらずとも!
終了後はご歓談タイム。というか、朝までダベる(笑)。彩古さんとちゃんとお話するのは初めてかな。内容はご想像の通りだ(笑)。しかし、今はもうミステリオンリーなのかと思っていたら、SFもまだまだ主戦場とのこと。収集に賭ける情熱と行動力に頭が下がる。
そして、茅原友貴クンや青木みやさんらを中心に何やら色々と話し込んでいたものの、記憶に留めるべきは、一部において内容外の物議を醸した(?)映画『U‐571』が、「O‐157」と紛らわしい、という事実であろう(笑)。
途中、ダサコン名物のカードゲーム新型が投入された模様だったが、なんとなくずるずると参入せずにいた事は、今となっては惜しむべきかもしれない。ぼちぼち朝を迎え明るくなった頃、顔を洗って大広間へ戻ってみると、眠りから目覚めたu‐ki総統が、並み居る人々の関心を攫っていた。そこでは総統の、かなりプライバシー入った部分までをも含んだ過去から導き出される、夢見がちな人々(通称、ドリーマー)へ捧げる賛歌が叫ばれていた>ホントか?。しかし思いのほか、その過去は近かったりする。およそ人生経験の全てがネタと化し、確実にヒットを飛ばすという稀有な才能は、総統の独壇場と言っても過言ではあるまい。減衰中でも、無敵生命体としての機能に変化は無かったようである。
朝を迎え、エンディング。解散後もワイワイと、いつもの如くルノアールへ押し寄せる。そこでは志村さんに、「星ヅル」折り紙の指南をお願いする。しかし、普通の折り鶴さえ覚えていない人間を阻む困難に立ち向かうためには、幾人もの助っ人の手を渡らねばならないのだった。まあ、名人の星ヅルとの紙相撲対決において、完勝を納めたのでヨシなのだ(笑)。
いつ雨が降るか、という予断を許さぬ天候の下、一歩さん、羽鳥一紀さん、πRさんと共に行く、魅惑の東京観光をコーディネート。コースは神田神保町経由、早稲田行きという、都会の魅力を余すことなく盛り込んでみました(笑)。そこで如何なる成果があったのか、なかったのか? 各人の奮闘、逡巡の程は、これはまた別の話…。
ダサ4は、安定したカラーを醸し出した点で、最も成功したと言ってよい。スタッフにとっては、毎回危ない綱渡りなのかもしれない。だがそんな事とは関係無く、「ダサコン」という場が自ら歩みだす足音を感じるのだ。回を重ねるとはそういう事。今は解らずも良し。ダサコンは、ここにあるのだから。