青柳ういろうは、文庫界における講談社文庫に匹敵する名声を、お菓子業界で獲得しているらしい。そりゃあ、いくら何でも大げさじゃない!?というわけで、行ってきたぞSF大会「CAPRICON1」!
SF初心者のぼくは(ウソつけ!:発行人注)、大会参加は昨年の「あきこん」に続いて二度目。その時はちょっと遅刻したので、オープニングから観れてうれしいな。映像も結構凝っててイイ感じ。さあこの後、いざ大会に突入〜!なんだけど、企画は20以上の会場で同時進行だから、紹介できるのは大会の極々一部にすぎないことをお忘れなく。
さて、ぼくが向かったのはやっぱりというか「SFセミナー名古屋出張版」の部屋である。ここは活字系の人たちの、ベースキャンプとなっていましたね。まずは「メイキング・オブ・SFオンライン」からスタート。97年2月始動の月刊SFwebマガジンを始めたきっかけ・トピックから、作成の舞台裏まで聞けたぞ。
引き続いて「辺境の電脳たち〜SF大会篇」では、大森望・水玉螢之丞のレギュラーコンビに堺三保も参加。最近のコンピュータが登場するSFをネタに、爆笑トークが繰り広げられた。読んでなくても大丈夫さっ。まあこんな具合で企画が目白押しだから、当然食事に抜けるなんてもったいなくて困りもんです。
お次は会場を移動して、「SFハンマープライス」だ。自分の欲しいのが出なくても、やっぱ面白いんだよね。自動的に観に行ってしまう。手塚漫画とか出品。他に印象に残ったのでは、十数年前の雑誌のフロクを落札した人とか。そして「ディーラーズルーム」を一回り。〈宇宙塵〉のバックナンバーなどを購入。これで〈宇宙塵〉は半分揃いまでこぎつけました。
「SFセミナー」に戻って「ライブ・スキャナー&ライブ・海外SF取扱説明書」へ。これは、翻訳者・解説者などの方々が、注目作家の次回翻訳作から絶対に日本語にならないであろう作品まで、海外SFの息吹き?を伝えるおなじみ企画。怪作の話の方が面白いのは、致し方あるまい(笑)。
ということで1日目を終わり、夕食の後、創元SF文庫編集者小浜徹也さんの好意に甘えて、翻訳家古沢嘉通さんの星雲賞残念会にお邪魔させていただきました。これ、古沢訳のイアン・マクドナルド『火星夜想曲』受賞宴会になるはずだったのですが…。逃すなんて、ホント、誰もが驚いた。賞なんてわからんもんです。会場になった古沢さんのスイートルームには、海外SF関係を中心に25人程。結局夜中の二時過ぎまでワイワイやってました。ありがとうございます。
SF大会2日目は「SFマガジンはこう作られる」からスタート。塩澤編集長はやり手ですね。質問にも実に丁寧に答えていました。
続いての「パルプマガジンとジャンルSFの成立」では、牧眞司によるパルプ時代のアメリカSF研究が披露されました。「架空遠近法・ライブ版ー田中光SF画を語る」では、最近進境著しいSF画家、田中光によるレクチャー&インタビューが。
そしてやっぱり「SFハンマープライス」(笑)。天野嘉孝リトグラフが、ハンマープライス史上最高値を樹立し13万で落札。あとは次回作に登場する権利とか。ぼくも遂に!動いて、人間大学講師野田昌宏の近刊『SFを極めろ!この50冊』(早川書房)の原稿とサインを、ジャンケンにもつれ込みながらも落札しました!原稿上がってから後日郵送とのこと。
「SFアートギャラリー」を急ぎ足で見たら、ああ、もうエンディングです。星雲賞を始めとする各賞の授与・スピーチ等々。ネタも豊富で楽しかったっス。運営スタッフの皆さん、本当におつかれさまでした。解散後は、〈宇宙塵〉主宰・翻訳家柴野拓美ご夫妻と牧眞司ご夫妻に、きしめんをごちそうになりました。うまかったー。
さあ、次は長野だ、来年も行きたくなってきたぞ。ってもう受付済ませちゃったし(笑)。行くゼィ!
真夏のホラー連続企画は、アメリカ初の怪奇幻想小説出版社「アーカム・ハウス」に最後を飾ってもらおう。アーカム・ハウスは、1939年にオーガスト・ダーレスが設立した。何のために?ラヴクラフトを出版するために!
37年3月、ラヴクラフト死去。ダーレスは師匠であるラヴクラフトの作品を、なんとかして残したいと考えた。確かにラヴクラフトはパルプ・マガジン最大の人気作家ではあったが、それはあくまでパルプの世界での話であり、生前に単行本は一冊も刊行されていないのだ。いや、これはSFを含む全てのパルプ・ライターも同様であった。印税生活なんて、夢のまた夢。
ダーレスは自宅の新築費用を流用してまで、ドナルド・ワンドレイと資金集めに奔走した。その結果出版されたのが、ラヴクラフトの『THE
OUTSIDER AND OTHERS』1268部である。しかし150部しか予約が集まらず、2ドルの予定が5ドルにまで高騰。売り切るのに4年を費やしたという。
しかしダーレスは、発行部数を三千部前後に限定し再版を行わない、という方針で本の希少性を高め、またウィアード・テールズ系を中心に収録作家も広げて、読者の支持を確実に掴んでいった(但し、のちにラヴクラフト作品に限り再版したようである)。そのためSF史に興味を抱く者にとって、アーカム・ハウスは特別な思い入れの対象なのである。
それでは、ぼくの所有しているアーカム・ハウスのラヴクラフト本を紹介しよう。まず最初の『SOMETHING
ABOUT CATS AND OTHER PIECES』(49年3000部)は、地味な表紙ながらお気に入り。かの紀田順一郎に、「…本が届いたときの、ほとんど官能的ともいうべき歓びは筆舌に尽しがたいものがあった。〜私の書庫に収まった記念すべき日のことは、永久に忘れることはないだろう。」(『ウィアードテールズ3』巻末エッセイ「黄金時代は一度だけ」国書刊行会84年)と言わしめた本である。同エッセイには、コピーの普及していない時代にあって、本書収録の創作ノートにある「壁の中の鼠」の地図を「…どうしても欲しかった大伴昌司が、私の勤務する会社にそっと忍びこんで、コピーを取った」というエピソードも紹介されている。
お次は『COLLECTED POEMS』(63年2000部)といこうか。この本は、大阪の古書店の棚隅から拾い出してきたものである。これにはビビった。なにがって、数カ所に“NYU LIBRARIES〜”というハンコが押してあるじゃあーりませんか。最初は何かと思ったけど、カバーに隠れていた部分に貼り付けられたプリントを見て、疑問は氷解した。「NEW YORK UNIVERSITY」。ニューヨーク大学の蔵書がウチにあるミステリー。誰だ?ガメて来たのは!?そういや大学図書館の分類カードまで挟んであるゾ。
さて今度のは…ゲッ、もうスペースが無い!ので、あとは駆け足で。古い順に、『THE DUNWICH HORROR AND OTHERS』(63年3000部)は、「the BEST of LOVECRAFT」の副題が付けられている。『AT THE MOUNTAINS OF MADNESS AND OTHER NOVELS』(64年)は、グリーンジャケットと呼ばれる緑の表紙の重版もの。4刷4000部。赤い表紙もあるらしいから、それが初版なのかな?
『DAGON AND OTHER MACABRE TALES』(65年3000部)、『THE HORROR IN THE MUSEUM AND OTHER REVISIONS』(70年4000部)、『THE WATCHERS OUT OF TIME AND OTHERS』(74年5000部)の全部で7冊。日本でも『アーカム・ハウス叢書』が刊行されてます。
いやー、やっぱイイッスね。まだ始まったばかりだけど、このテのお話を語らせたら、さすがというか当然というか、もう独壇場である。なんたってネタの仕込みが違いますゼ、旦那。まったくもって、木曜の夜が楽しみである。
もうお解りですね?そうです、そうです。NHKです。人間大学です。野田昌宏です!もし皆さんの中に…否そのやうな人のゐるわけが…文字通り万に一つの可能性ながらも、まだご覧になっていないという奇特な御仁がおられるとすれば、持てる演技力の限りを振り絞り涼しい顔でさり気なさを演出しつつ、明日にでもテキストを入手なさる事をお勧めする。
焦って開店前に行かないように注意してネ(笑)。
今月は、ラヴクラフトの主要な発表舞台となった〈ウィアード・テールズ〉を取り上げます。イヤしかし〈ウィアード・テールズ〉(以下「WT」と略)ほど作品内容うんぬんを超えた、伝説の雑誌も珍しいだろう。20世紀前半アメリカにおいて大量発生しては消えていった、安価なパルプを使用した粗悪な用紙の大衆娯楽読み物雑誌、いわゆる「パルプ・マガジン」を見渡してみると、WTの30年という歴史は、単純にそのこと自体特筆すべきものがある。だが今日WTを伝説たらしめているのは、掲載作品や作家達がのちに広汎な読者を獲得したこと、そして刊行当時WTの売れ行きがそれほど芳しくなく、今となっては入手が難しいことなど様々である。
WT全279冊の中には、こんな作品、あのシリーズも…とやり始めるとそれだけで終わってしまうので、日本におけるWTアンソロジーを紹介しよう。だいたいそのテの物が複数あるだけでスゴイと思いません?他に思い付くのは、1950年の『アメージング・ストーリーズ日本語版』全7巻や、〈プラネット・ストーリーズ〉から選んだ『お祖母ちゃんと宇宙海賊』、〈ギャラクシー〉傑作選『ギャラクシー』上下巻ぐらいか。
個々の作品を越えて、初めてWT自体を特集したのが〈幻想と怪奇〉74年10月12号(終刊号)である。
「与えられた条件のなかで精いっぱい努力したことだけは、自信をもって言っておこう。」(荒俣宏)という一冊。その他には青心社やソノラマ文庫等いくつかあるが、ちょっと珍しい所で『慄然の書』(継書房75年)を挙げておこう。
マーケット・リサーチの為、内容の一部を書き込んだ不思議なハガキ≠数千人に送りつけ(いいのか?)警察に通報もされたという。造本も結構アヤシげ。
しかし何といっても、国書刊行会の『ウィアードテールズ』全5巻別巻1(84〜88年)にトドメを刺す。判型・イラスト・目次・広告・レイアウトから手紙欄、紙質に至るまで再現された、掛け値なしに素晴らしいシリーズである。ま〜ったく、日本に存在しないパルプ・サイズの本をよく出したもんじゃ。
本物WTの書影はまた別の機会に!