時は98年8月、第37回日本SF大会in名古屋「CAPRICON1」に遡る…。未だ興奮冷めやらぬ人々でゴッタ返す閉会後のロビーにて、ぼくは牧眞司氏にご挨拶。と、そこに、雑踏の中から牧さんに声を掛け、打ち合わせの日程を確認して立ち去るSFセミナースタッフ(浜田さん)がひとり。
ぼく「へえ〜、こんな早くから準備するんですか。」
牧 「今度のは顔合わせ程度だけどね。あっ、そうだ。キミもスタッフやらない?」
ぼく「えっ(驚)!?
でも土日休めないですよ。」
牧 「まあ、当日スタッフでもいいからさ。来てみなよ。」
偶然というものは、恐ろしくも素晴らしい。フタを開けてみれば、昼の本会企画&合宿企画、それぞれの担当を持つという、なんかビックリな状態になったのであった。とは言え、企画は多くの助力の賜物であるし、そもそも打ち合わせを、ぼくが休みの平日夜に変更して頂いたお陰で実現出来たこと。こりゃ頑張らにゃイカンのう。
そんなこんなで、SFセミナーがやってきた!某所放出のSF古本を車に積込み、さわやかに晴れ渡った青空の下、いざ出陣!舞台設営その他。参加者集まり早し。アッという間に開場10時。こりゃあ、大入り満員御礼だ。
あ、そうそう、会場に入った瞬間、あれっ?と思ったこと。「こんなに舞台近かったっけか?」これが仰ぎ観ていた一般参加者とスタッフの違いなのか(笑)。
今年のセミナーは、いきなりぼくの担当した「文庫SF出版あれやこれや」からスタート。実は二転三転した企画だというのは内緒だよ(笑)。作家系企画が極度の充実振りを示す本会中唯一の出版系プログラムとして、楽しみになさっていた方がきっと多かったに違いない。かどうかは分からないが、とにかく会場はギッシリ!パネリストには、込山博実@ハヤカワ文庫、小浜徹也@創元SF文庫、村松剛@ハルキ文庫の3氏をゲストにお迎えし、SF研究家の高橋良平氏に司会をお願いしました。この豪華布陣をもってすれば、いやがおうでも期待は高まるというもの。でも驚きましたよ。ホントに打ち合わせしないのね、この人たち(笑)。プログラム・ブックにぼくが景気付けで書いた一文(どんな展開になるか分からなかったんだもん)にチラリと目を通しただけで、「打ち合わせ?イイんじゃない、別に。」(高橋さん)ですからね(笑)。それが、いざ舞台に上がれば、ツボを心得たやりとりを繰り広げる役者振り。さすが!
おおむね復刊の話を中心に進み、発掘するに値する作品とは?それらを読者へアピールするプレゼンテーションは?というような、どのように長いスパンで売っていく(読んでもらう)かの戦略的な話題が興味深かったです。欲を言えば、注目のハルキ文庫の話をもう少し聞きたかったかな、ということ。村松さんはSFイベント初登場だそうで、事実、依頼に際して「SFセミナーとは何ぞや?」という所からご説明した位なので、今回は他のタレントたちの出方拝見、という感じでしょうか。って言うか、アノ小浜さんのマシンガン・トークの前ではチト無茶な注文なのかも(笑)。
その小浜さんと共に、込山さんもファンいじり(?)の巧みな方で、大いに盛り上げて下さいました。最近のイベントに顔を出すことは稀なようですが、さすがはベテランSF担当者、ファン心理をよく解っていらっしゃる。聞けば、早川書房の近年のヒット作をほとんど担当しているのでは?と思う程。また、(H・K)というイニシャルの文庫SF解説は、氏が手掛けられたものだそうです。
盛況のうちにパネルは終了し、お昼休みに。すかさず柴野拓美&幸子ご夫妻にご挨拶に伺い、〈宇宙塵〉入会手続きをして会員に加えて頂く。実は、柴野さん(小隅黎)の訳された『造物主の選択』(ジェイムズ・P・ホーガン著 創元SF文庫99年)が、発売数日前に突然送られてきてビックリしたのですが、セミナーの直前にも〈宇宙塵〉最新号(195号)まで届いてしまい、大変恐縮していたのです。97年11月22日の「宇宙塵40周年パーティー」での名簿から送って頂いたようですが、さすがに「あ、こりゃマズイ!」と思ってすぐ入会。その場にいた牧さんには、「ナンダ、まだ入ってなかったのカイ。」と冷やかされましたけど、いや〜、実はそうなんです(笑)。ぼくはSF研出身じゃないので、特定のファングループに所属することにためらいというか、う〜ん、ちょっと敷居が高かったんですね。
ではなぜ40周年パーティーに?と謎に思う方もいようが、こんな歴史的イベントには“当然”行かなければいけないものだと考え、参加したのでした。そんくらい〈宇宙塵〉は別格ってこと。でも〈SFマガジン〉でパーティーの告知を見て来た、という全くのフリの客は、ぼくだけだったみたいです。
閑話休題。プログラムは「スペース・オペラ・ルネサンス」(出演/森岡浩之・大宮信光・堺三保)、「「雪風」また未知なる戦域へ」(出演/神林長平、聞き手/牧眞司)と進み、神林氏の最新作『グッドラック 戦闘妖精・雪風』(早川書房)の先行販売&サイン会へ。ぼくは売り子をしていた成り行きで、サイン会は神林さんの付き人としてお手伝いさせて頂きました。ずらり並んだファンの方のお名前を入れながら、丁寧にサインをなさる姿が印象的でした。
何かと話題の多かった「篠田節子インタビュウ」(聞き手/山岸真)を観ることなく、合宿準備に直行する。大広間でのオープニングも、ギッシリ埋め尽くされました。
合宿は企画が同時進行の分科会方式で見所はたくさんあるんだけど、ぼくは『グッドラック』を売りつつ(百部完売達成!)、そのまま大広間でダベリモードに突入。なんと3コマ目まで費やしてしまったのだった。えらくモッタイナイ事を…と自分を叱る反面、楽しかったからいいもんね。いや本当言うと、こういうのやってみたかったんだよ。大会ゴロみたいで(笑)。一緒に楽しい時間を過ごした沢山の皆さん、またヨロシク!
そして最後の4コマ目。セミナーに結集した“ださこにすと”はもちろん、多くのファンの関心を集めた「ネットワークのSF者たち」(森太郎@森太郎のサイト、田中香織@東洋大学SF研究会)に後ろ髪を引かれつつ、勇躍ぼくが向かうは「ほんとひみつ‐「つねならぬ本」編‐」(案内役/三村美衣)なのである。
96年以来4回を数える、歴史はあるけど権威の無い(笑)、珍本・稀本乱れ飛ぶ、丁々発止の名物企画。で、ぶっちゃけた話、古本自慢なワケですな。だが、まんまと担当を仰せつかり三村美衣さんに電話するぼくには、開口一番「あんたも出なさい!」との有無を言わさぬ指令が下ることなど知る由もなかったのであった(笑)。
今回の出演者は、SFのみならず「古本で買う絶版ミステリー」特集(〈アミューズ〉98年8/12号)をエスコートした博覧強記、日下三蔵氏を筆頭に、〈本の雑誌〉で古本コラム「神田番外地」を長期連載中の北原尚彦氏、《トーキングヘッズ叢書》に「新・古本あるけおろじい」を連載していた牧眞司氏(SF書誌研究の〈SFビブリオファイル〉主宰の方が分かり易いかも)という、錚々たる豪華レギュラー陣。で、〈銀河通信〉に「SF出たトコ勝負!」を連載中のぼく。いやはや(笑)。
結果としては、ネタはともかく語りの部分がへろへろで要反省!って感じ。芸の道は厳しいっス。
最も注目を集めたブツは、北原さんが当日入手したという隠し玉、“学年誌のふろく”でした。この小冊子は大抵が世界名作や推理小説なのだが、ナントSFばかり50冊!これだけ集まりゃヨダレもの!
引き続き行われたオークションでは、いろんな人の探求書が続々登場するという偶然はさておき、充実の品揃えで白熱。ぼくもSF特集号の雑誌などを落札しました。
個人的にいつもお世話になっている桐山芳男さん(青心社『ピーナツバター作戦』編者)の名言。「君もどんどん深みにハマッていくね(笑)。」なんかホントそんな感じ。ああ、堕ちていく(笑)。
さ〜てと、次回もガンバルぞ。皆さん、またお会いしましょう!
伝え聞く所によると、最近、大部な本が立て続けに出版されたため、嬉しい悲鳴を上げている者がいるという。その人物についての、誇張に満ちた噂の一つを信ずるならば、どうやら“D”という珍しいイニシャルを持つらしい…。
しかし、こんなこともあるんだね。『SF大百科事典』というSF図鑑の決定版的作品が出版されたと思ったら、今度は『幻想文学大事典』(ジャック・サリヴァン編、日本版監修 高山宏・風間賢二、国書刊行会1999年)という、非常にリッパな造本かつ美麗な装丁の本が登場した。内容もえらい大誤算である。いやなに、ぼくの期待以上に面白かったのだ。
本書は、「人名」「映画作品」及び「テーマ・エッセイ」の三つの項目全てを、渾然と50音順に配列した構成になっている。中でも注目したいのが、54ある「テーマ・エッセイ」項目である。試みに最初の「アーカム・ハウス」の項を繙いてみよう。すると、ぼくが98年8月号で特集した時点では解らなかった、限定出版専門のはずのアーカム・ハウスに重版のラヴクラフト本がある、という疑問を、鮮やかに解き明かしてくれるのだ。
但し、読者諸君よ、この題名に迂闊にダマサレてはいけない。“ENCYCLOPEDIA of HORROR and the SUPERNATURAL”という原題と、トールキンさえもが収録されていない事実から明らかなように、あくまでFANTASYではなく『(怪奇)幻想文学大事典』なのだ。OK?
収録作家数は300余りと若干少ない気もするが、その分個々の記述にはデータを交え十分なスペースを割き、多数収録された映画スチールやイラストレーションなどの、見る楽しみにも事欠かない。
だが本当に注目して頂きたい本領は、日本版だけの特別ボーナス、「怪奇幻想文学アンソロジー・リスト」と「怪奇幻想文学叢書・全集リスト」にある。これは戦前戦後を通じて、過去国内で紹介されたこの手の出版物をほとんど洩れなく網羅した、本書の秘めたる高いポテンシャルを窺わせる、資料性の高いリストである。
幻想文学の分野で本書に先立つ仕事としては、その「日本版への序」(高山宏)でも触れられている通り、『世界幻想作家事典』(荒俣宏著、国書刊行会1979年)がある。
こちらは、当時アジテーターとして、ほとんどあらゆる幻想文学関連企画に参画していた、荒俣宏入魂のマニフェストである。「編」や「編著」ではなく、「著」であることに注目せよ。それぞれの専門家に依頼した第一稿を、全体のトーンなどに矛盾が生じないよう留意して、荒俣が「すべて書き改めた」という強烈な書である。
収録作家数も『幻想文学大事典』の倍以上と網羅的だが、のっけから「〈引き読み〉をする限り少しも満足を得られぬ種類の出版物」と曰い、「はじめから〈通常の書物を読むように〉読んでいただくことを意図して記述」「本書を〈一冊のエッセイ〉として読みあげる作業を、読者諸賢にお願い」するという破格な構成の『世界幻想作家事典』より、実は『幻想文学大事典』の方が遥かにもてなしの良い仕上がりと言える。それはむしろ、『世界幻想作家事典』における荒俣宏の戦略が、現在も有効な刺激性を孕んでいる証明であろう。
それにしてもだ! ぼくは98年10月号において、『SF大百科事典』を1978年の『SF百科図鑑』と比較してみせた。そして今度は、79年の『世界幻想作家事典』である。どちらも比肩しうる対象がこれしか存在しない、という状況なのだが、この20年目の偶然は、一体何を暗示しているのだろうか。
まさに、歴史は繰り返す!?
1999/3/13、電脳空間を縦横無尽に跳梁跋扈する熱血SFネットワーカーたちが、続々と本郷は「朝陽館本家」目指し集結し始めていた。一見共通点の無いはずの彼ら…だが思いはひとつ。SFという“運命”に導かれし者よ、奢覇都の名は「DASACON1」!
しかしナゼに「ださこん」なのか?コンヴェンションに「〜CON」と愛称を付けることはSF界の伝統であり、命名者のBNF、森太郎による「第三勢力コンヴェンション」の略称、との説明はあるが、そのダサダサなネーミングに何か確信犯的な匂いを嗅ぎ取るのは、ぼくひとりではあるまい(笑)。
メイン企画は、浅暮三文@第8回メフィスト賞『ダブ(エ)ストン街道』(講談社98年)の司会による、山之口洋@第10回日本ファンタジーノベル大賞大賞『オルガニスト』(新潮社98年)と涼元悠一@同賞優秀賞『青猫の街』(同)による対談という豪華なもの。でも所用のため、ぼくが会場に乗り込んだのは対談終了後。既にお酒も振る舞われ、なごみモードで歓談中でした。残念!
その後は、最強ネットワーカーの座を賭けた(笑)クイズを数回挟みつつ、SFカルタ組とオークション組に別れ「ださこん」の夜は更けていく。ぼくはオークションに加わったが、みんなの持ち込んだ、とにかく大量の本が山を形成する迫力に、「朝までに終わるのか?」と思わず危惧してしまう。いや、原因の一部はぼくにもあるけどさ。さすがは完全ペーパーレス化を目指す、サイバーエイジの申し子(?)によるイベント。みんなトコトン古本に目が無いノダ(笑)。
このいつ果てるとも知れぬオークションにおいて、予想外の強さを発揮し恐れられる人が登場(笑)。時にはバブルを呼び、数々の名言・名勝負の誕生など、早くも伝説となりそうな気配十分であった。
そんなこんなで、数あるSFサイトの中から、当〈銀河通信オンライン〉が「役に立つサイト部門」の堂々5位(マジ?)の得票を獲得するという、望外の栄誉まで頂いてしまいました。こりゃスゲー!
思えば、いつの間にこんな所にまで来てしまったのだろう…。奇しくも〈SFマガジン〉4月号の特集、「SFファンのためのインターネット・ガイド」において風野春樹が指摘したように、始まりは98年SFセミナー合宿企画「ネットワークとファンダム」であった。
その時サイトマスターの方々が、「やあ、あなたがあの…」と挨拶を交わす光景を、ぼくは遠くから指をくわえて見ていたのだ。まだ〈銀河通信〉がネット進出する可能性など考えもしなかった頃の話。ぼくはSFの新しいカタチとしての「ネットファンダム」が、まさに生まれつつあることをヒシヒシと感じ、羨望と正直焦りにも似た感覚を抱いたのだった。
それが、安田ママの力業でホームページが立ち上がり、ぼくが少〜しSFにソソノカシて(笑)、とんとん拍子に9月26日の「SF者オフ会」に潜り込み成功する。
だが言ってみれば、誰もが、全てが激動だった。そして今や「ださこん」がある!君も新たな歴史の誕生に、おそらく立ち合っているのだ。ネットファンダムのファースト・ファンの一員として…。
いやいや、総括めいたハナシをするなんて、まったくどうかしている。だって、ぼくらは走り始めたばかりなんだぜ!