第44回日本SF大会 HAMACON2レポート その1

 2005年7月16・17日(土日)、パシフィコ横浜にて、第44回日本SF大会「HAMACON2」が開催されました。今回は2日とも自宅から通うことに。みなとみらい線ができたので、JR横浜駅からはとても便利になりました。子供らはパパに預けて参加。

 11時半のオープニングにやや遅れて到着。入場寸前にharuさんとyama-gatさんにお会いして、受付でもらった袋に入ってた透明のケースがシール帳を入れる袋だと教えてもらう。なるほど!じゃあ自分の名前とこれと二つも首にぶらさげるのか。うーん。名前をぶら下げる紐は「創元グッズだ」とダイジマン大喜び(笑)。

 公募のオープニングアニメ(来たのは2本のみだったとか)を途中から見て、配布物をチェックしながら、ゲスト・オブ・オナーの野田大元帥・福井晴敏氏・水野良氏の挨拶を聞く。…あれ?配布物の中にタイムスケジュールが入ってない??こりゃあ超不便だなあ〜と思ってたら、あとで会場の外で配ってたのをもらうことができました。よかった。でも次からは最初から入れといて欲しいと思った。

 オープニングのあと、星雲賞授賞式の前に抜け出して(今回は授賞式も企画の時間に組み込まれていた。ちょっと残念)、ダイジマンと彩古さんとディーラーズルームを少し冷やかして、私だけ1コマ目の企画「本屋の現実」に行く。30分遅れ。

 今回参加した企画は、
 1日目 1、本屋の現実
      2、クラシックSFを語る部屋
      3、星雲賞授賞作家座談会

 2日目 1、SF書評を楽しもう!
      2、クイズ!SFヘキサゴン
      3、キッズコン     でした。

☆本屋の現実…途中から参加なので前半は不明。壇上にいらしたのは榎本秋さん、木原さん、東京創元社の小浜さん、お名前を忘れましたが長野県の某書店の方。「いったい本屋(もしくは出版社)はこれからどうしたらいいの!?誰か教えて!」という悲鳴が聞こえるようでした(^^;。結局出版界ってすごくアナクロで遅れてる世界だとか、ハリポタが膨大に売れ残ったときに、(ハリポタは買い切りで返品できないので)店の在庫を減らすために他社本の返品がすごかったとか(要するに本って札束なんだよね)、電撃組についてとか、アマゾンについてとか、多岐に渡る話で盛り上がりました。アマゾンのオススメ機能は、これから整備されてくれば使えるようになるだろうとか、アマゾンの順位は数字のマジックとか(最近はそれを使って販売促進をする出版社あり)、アマゾンで売れた本の正確な数は出版社にもわからないとか、立ち読み機能とか、知らなかったことをいろいろ聞けて勉強になりました。惜しむらくは時間がもっと欲しかったかな。ちょっと話にまとまりがなかったかも?

 最後の質疑応答で、会場から「読者が好きな作家をプッシュするには、どうしたら?」という好質問。小浜さんの答えは「100冊買ってください」でした(爆)。さらには榎本さんが「ひとつの書店で100冊買うんじゃなくて、中規模で売れ行きに書店員の目が届いていそうなお店で10冊×10店舗買う」という補足。小浜さんは「ファンレターは必ず、出版社に手書きで出すこと。メールじゃダメ、著者宛てじゃダメ。できれば社長宛てとかだとなお良し。お目に留まって感動してくれれば、プッシュしてもらえることもあるかも。ホントにアナクロな世界なんで」とのことでした。

 ここで風野ドクター夫妻とダイジマンとお昼に出る。街の混み具合で、今が3連休だと思い知る。ささっと食べて、2コマ目の企画へ。間は30分しかないのだ。

☆クラシックSFを語る部屋…山本弘さんの独り舞台。司会がいたほうがよかったんじゃないかと思うけど。ひとりでしゃべるのは大変そうだったよ。自著である『トンデモ本?違う、SFだ!』(洋泉社)を元にしたと思われる、オススメのクラシックSFの紹介。まずは「クラシックSFとは何か?」という定義から。前の黒板には

 今は書かれなくなったSF 
・科学的に時代遅れ ・はずかしくて書けない

 と書いてありました。まず前者の「科学的に時代遅れ」の例としては、『渇きの海』『月世界旅行』などがあげられました。「でも実は『月世界旅行』は当時のハードSFなんだよね。今読んでもすごく面白いんだよ!」と熱弁をふるっておりました。「恥ずかしくて書けない」の例としては、『火星ノンストップ』の紹介など。これはハヤカワから出たばかりのアンソロジーなんでぜひ!とプッシュしておられました。他にはヴァン・ヴォクトの『野獣の地下牢』、ムーアの『シャンブロウ』、ジョン・ブラナーの『思考の谺』、ノーマン・スピンラッドの『美しきもの』などなどたくさんのSFを紹介(このへん、よく調べないで書いてるのでタイトルや著者違うかも。ツッコミ歓迎)。

 「今のSFは賢くなりすぎてる。イーガンにしろチャンにしろ。バカな話書いたら「バカ」って言われそう。でもそのバカこそ実はSFの面白みではないか」と山本さんは語る。さらに「僕はエンタメに徹した作品が好きなんです。文学的価値とは違った、センス・オブ・ワンダーが好き」。「中学の時、『車輪の下』を読んだけど全然面白くなかった。宇宙人出てこないし(笑)。自分には文学はダメだと思った」。「クラシックSFは文学じゃないって言われるけど、今流行の恋愛小説なんて、文学的価値もセンス・オブ・ワンダーもない!文学でもSFでもないなんて、面白くもなんともない!あんなの面白がるなんて、世の中バカばっか!(笑)」と言って会場からやんやの拍手を受けていたのは、会場からツッコミを入れてた牧眞司さんだったかな?

 山本さんがウェルズの『宇宙戦争』を紹介していたときに、「とりあえず、今、水に溶けちゃう宇宙人とかはもうペケ(もう恥ずかしくて書けないSF)でしょう」などとしゃべっていたのを受けて、牧さんが「ウェルズの場合は、火星人は人間の進化の先にある未来人という設定なんですよ。それがあっさりとウイルスに倒されてしまう。ウェルズは思想哲学が最初にあって、それを表すのにSF的アイデアを使っているんだよね。テーマを書くための手段として、アイデアがあった。SF的アイデアを使うために話を書いてる、というのとはちょっと違うんですよ」といった発言をされて、おお!と思いました。牧さんは文学的価値も大切にする姿勢なので、「文学としてというのと、SFアイデアを楽しむのと、どっちも読んでいただければ」とおっしゃってました。

 会場から「○○もクラシックSFですか?」「○○はどうですか?」などと、いっぱいコメントが飛ぶ。それにしても牧さんのツッコミというか解説は素晴らしかった。あれで一方からだけでなく反対側からも作品を見ることができ、おおいに話に深みが出て、勉強になりました。

 他にも、今書かれなくなったクラシックSFとして、方程式モノは?という会場からの声。「これは思考実験小説であって、どんな解があるかを考える小説なんですよ」と。他には発明家モノもあったね、ということで『ふわふわの泉』を紹介。牧さんは「ガーンズバック遺伝子説」というのを唱えていて、未来やテクノロジーが世の中をこう変える、っていう主張を書くためにSF小説の形にしてるんだ、という意見を。あとはバーサーカーSF(いやおうなしに攻められて、生き残るには戦って勝つしかないという話)は?というので、最近だと『アグレッサー・シックス』があったね、など。そういえば冷戦モノ、核戦争モノももう書けないSFだよね、という話になり、将来は現実としてロボットの代理戦争になるんだろうか?などという意見も交換しあいました。牧さんは「今はSFを書くのに、あまり飛躍できないよね。日常とか、政治とか、テクノロジーなんかのしがらみに捕らわれちゃって」と発言。

 最後に山本さんのまとめとして、「クラシックSFはノスタルジーじゃなくて、読むと大事なものがまだたくさん眠っている。古いしヘタだけど、今風に書き直してみたら、もっといいものが書けるんじゃないかと思う。そうすればSFの未来はもっと広がるんではないだろうか?バカSFといって排斥するのではなく、温かい目で見直そうよ」というコメントで締め。『火星ノンストップ』(ハヤカワ書房)も、往年のSFファンが読むとただのノスタルジーだけど、むしろ若い人たちに読んで欲しい、とのことでした。「MONOマガジン」に連載していた「SF者の本棚」が終わってしまったので、少し加筆して『トンデモ本?違う、SFだ!』の第2弾をいずれ出したいとのこと、発売が楽しみです!

 いろんなSFを読みたくてたまらなくなる、好企画でした。

☆星雲賞受賞作家座談会…3コマ目はこれをチョイス。さぞかし満員だろうと思いきや、ガラガラな会場。あれれ?壇上には司会の塩澤編集長、『象られた力』(ハヤカワ文庫JA)で日本短編部門を受賞した飛浩隆氏、シオドア・スタージョンの「ニュースの時間です」(『輝く断片』(河出書房新社)収録)の訳で海外短編部門を受賞した大森望氏、『おたく:人格=空間=都市ヴェネチア・ヴィエンナーレ第9回国際建築展−日本館出展フィギュア付きカタログ』国際交流基金 (幻冬舎)で自由部門を受賞した森川嘉一郎、氏、『前田建設ファンタジー営業部』(幻冬舎)でノンフィクション部門を受賞した前田建設の野本氏、グレッグ・イーガンの『万物理論』(創元SF文庫)の訳で海外長編部門を受賞した山岸真氏というメンバー。

 まず飛さんから挨拶。「17年前に書いたものが今受賞するなんてうれしい」と。「『ラギット・ガール』は評判よくなかったですね」というツッコミには、「17年後にこれでまた賞をいただければと」と、相変わらずユーモラスなお答え。「『象られた力』は、発表当時のSFマガジン内にしても、すごくSF度が高かった印象」と大森さんが発言。『グラン・ヴァカンス』については「イーガンの『順列都市』を読んでなければ、もっと傑作だったろう」とも。飛さんは「イーガンと比べないで〜。あのレベルにするのは大変ですよ!」と苦笑。3部作第2弾も、今一生懸命書いてらっしゃるようです。「まあ書きながら先をいろいろ考えてます」とのこと。「今年じゅうになんとかしてください」と塩澤編集長の辛口発言(笑)。

 大森さんは、「今回すごくいろいろと画策したんだけど、まさかこれが取るとは!意外!」というコメント。「でもこれで今取っても、もう『輝く断片』は増刷しちゃったあとだから、帯に星雲賞て入れてもらえない〜」とちょっとだけ残念そうでした。

 森川さんは「おたく展」の裏話を披露。これがめちゃめちゃ面白かったですよ。「あれ、費用はいくらくらいかかったんですか?」という大森さんの問いに「全部で3250万だけど、うち保険が1000万(!)」とか。アクリル板がすごく値段高いので、アクリル会社に直接交渉にいって譲ってもらったとか、海洋堂から食玩をいっぱいもらってきたんだけど、その組み立てがものすごく大変で、学生をだまして(笑)作らせたとか、興味深い話が聞けました。

 前田建設の野本さんは、まずはファンタジー営業部について淡々と説明。あれは自主活動であって、自分の仕事は別にちゃんとあり、ファンタジー営業部の活動はサービス残業したり(ノーギャラ)、土日に喫茶店で原稿を書いたり、でやってるそう。5人でそれぞれ得意分野があり、力を出し合ってやってるとか。「この本が売れたことによって、仕事の注文は来ました?」という問いには「「サンダーバードの基地やエヴァンゲリオンの基地を見積もってください」とかいう意見は来ました」とのこと。社内にはこの部署を知らなかった方も多かったらしく、この本が売れて初めて知った方も、とか。リクルート学生さんはさすがにネット見て研究してくるので、知ってる方が多かったそう。SFはわりと基本は読んでらっしゃるそうで、「『第六大陸』なんかは読まれました?」という塩澤編集長の問いには「はい、面白かったです。やっぱり今はバブルはじけてこういう大口の注文が減ってるので、個人のお金持ちが発注してくれるとうれしいな、と思いました。光化学研究所みたいな」という答え(笑)。ユーモアのある方でした。

 『グラン・ヴァカンス』の話から、ネットに生息するコミュニティの話になって、森川さんが「コミュニティ・オブ・インタレスト」についてコメントしてくださいました。これからはリアルでなく、電脳世界で同じ意見の人とコミュニティが形成されていくだろうとか。このあたりも非常に興味深いお話でした。

 山岸さんは、もう4回目だかの星雲賞受賞で、今回も前に受賞したときにもらったというTシャツで参加。うれしそうでした。イーガンの新作は、9月下旬に『ディアスポラ』というタイトルで、ハヤカワ文庫SFで出る予定だそう。帯には「この本がわからなくても、他のイーガンはわかります」と入れようかと思ってるとか(笑)。それくらい、非常に難解な話だそう。でも結末は、素晴らしい知的興奮が味わえるそうなので、皆様ご期待ください、とのことでした。

 大森さんの今後の予定は、『現代SF1500冊』の後編が10月くらいに出るそう。あとはコニー・ウィリス短篇集が来年の初めあたりに、奇想コレクションとして出るそう。4本中、2本が新訳。『エンジン・サマー』が扶桑社ミステリから新訳で出る予定だけど、忙しくて途中で止まり中だとか。ハヤカワからは、異色作家短篇集が復刊されそうということで、あの『一角獣・多角獣』も!?という話でした。

 前田建設さんは、今、プロジェクト第3弾として、ゲーム「グランツーリスモ」のグランバレーサーキットの見積もりを進行中だとか。詳しくはWEBを見てくださいとのこと。

 森川さんは今、東池袋に女おたく街ができてるそうで、なぜ池袋なのかを研究中だそう。私は初耳でした>女おたく街

 本日の企画はこれにて終了。中華街に流れるグループに後ろ髪を引かれつつ、一人で帰宅(涙)。

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2005.7.21 安田ママ


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