さて、2001年の夏。今年もSF者のお祭りの季節がやってきた!今世紀最初のSF大会は、千葉の幕張メッセにて、8月18〜19日(土日)に開催されました。わりと涼しくて快適。
入り口を間違えてSF広場に先に着いちゃったりしたけど(ここでタカアキラ ウさんと遭遇)、9:00過ぎ、なんとか無事到着。受け付けにはちはら嬢や鈴木力氏が。スタッフはネクタイつきの制服みたいなのをびしっと着ててカッコイイ。パンフ入りのでっかい封筒には、例の自分の名刺が(100枚入りですか?)。さっそくダイジマンと交換。へー、裏に絵がついてるんだ。つまり、これを集めて絵を完成させろってことだね。ニクイ心配りじゃないですか。
オープニング会場は、コンベンションホール。10:00スタート。尾山則子嬢の司会。おおっ、銀髪だよ!(笑)挨拶の武田@実行委員長、いきなり「すんません、間に合いませんでした〜」とぺこり。そう、オープニングアニメが間に合わなかったのです。「完成したら、ネットで配信しますから」とのこと。だったら皆見れるし、オッケーオッケー。次に名誉実行委員長の小松左京氏が壇上に。おっ、なんか去年より元気そうだぞお。今年で70歳だそうで。「今日泊亜蘭が生きていたのが驚き」とか、「日本人はSF好き」とか、星新一のエピソードを話してくださったりとか。
今年は、会場内でラジオ配信があったり、メール配信があったりとなかなか新世紀的な試みが。武田さんの、「会場にあるモノリスは、触っても賢くなりませんので触らんように。倒れますから」というのに爆笑。「まだ乾いてませんから。ちなみに、あれはちゃんと1:4:9で作ってあります」だそう。
10:25、その場にて引き続き「ライブ 教養」。徳間書店から出た『教養』(小松左京、高千穂遥、鹿野司の対談本)についてのトークショーという企画。壇上には、左から高千穂氏、鹿野氏、小松氏。
まず高千穂氏が「小松さんは知識のブラックホール」と述べ(「悪かったな!」という小松氏のツッコミあり^^)、「その知識を多くの人に知ってもらいたい、形にして残したいと思って『教養』という本を作った」と挨拶。高千穂氏は今日のテーマをいくつか用意していたようで、まずはエネルギーについて小松氏に話題を振りました。とここまではよかったんですが、この後、小松氏暴走(笑)。というか、話が次から次へと飛んでいって、昔話炸裂(笑)。なんとか話題を元に戻そうとする高千穂氏と鹿野氏。が、小松さんのパワーにはかなわず、たじたじ。お気の毒なほど。いやあ、すごかったよ、小松さん!(笑)元気でなによりです!高千穂さんは宇宙開発の話なんかもしたかったようですが、時間切れ。「まあ、これが『教養』という本なんです」という苦しい締めくくりに、会場爆笑。お疲れさまでした。11:30、閉幕。
12:00より、それぞれの企画がいっせいにスタート。私の参加した企画はもちろん、「SF/ミステリの今」。パネリストは、向かって左から大森望(司会)、西澤保彦、森博嗣、綾辻行人、山田正紀(敬省略)。森さんは黒いサングラス姿で登場。
大森「このパネルは毎年恒例なんですが、ミステリの方をお呼びしてお話を伺うということで。西澤さんと森さんは初参加ですよね。西澤さんは高知から飛行機で、森さんは名古屋からいらしたんですよね。森さんはコミケは草創期からいらしたそうで」
森「4回めからかな。75〜76年ごろから。晴海で。サークルはまだ600ちょっとだったんじゃないかな」
大森「SF大会のほうが古いんですよ。でもいまやコミケは20万人、対するSF大会は2000人という100倍の格差が(笑)。綾辻さんは京都から、山田さんは一番近くて横浜からですか。山田さんは、今日は迎撃担当ですからね(笑)」
山田「えっ、そうなの?」
大森「そうですよ、この企画はSF者がミステリ者を迎え撃つんですから(笑)。西澤さんは、あくまでミステリをSF設定で書いてらっしゃるんですよね」
西澤「実は同人誌の時代はSFを書いてたんですよ。ずっと、そもそもSF作家になりたかったんです。ミステリ作家になれるとは思ってなかった、あの頃。20年前は。えと、70年後半〜80年代前半の頃かな。SF作家だったらなれるかなあ、と思ってました。ミステリは、あの頃は江戸川乱歩賞くらいしかなくて、難しそうだったので」
大森「山田さんはSF作家になりたかったの?」
山田「いや、たまたま書いた小説がSFだったんですよ。書いてみたら、これはSFだろうと言われてSFマガジンに載って。そもそも作家になれると思ってなかった(笑)。謙虚でしょ(笑)」
大森「(森さんに)『スカイ・クロラ』ってSFですよね」
森「そうですか?『女王の百年密室』のほうがSFじゃないですかね。僕はSFってあまり読んでなくて、今まで3冊くらいしか読んでないんですよ。えーと、『アルジャーノン』とか、あ、これは面白かった。あと『星を継ぐもの』とか。これでちょっとがっかりしちゃって。こりゃないだろう、と。でも映画はSFしか観ないんですよ。僕はSFって何かよくわからないんです」
大森「萩尾望都のSFは?」
森「大好きです!あれがSFですか?(と大森氏に詰め寄る)あれがSFなら、SF作家になりたい!(笑)昔、僕がマンガを描いてた頃は、皆SF研だったんですよ。SF研の中でマンガ描いてたりとか。僕は乱歩も知らないんです。それくらい、何も読まない(笑)」
大森「映画でSFが好きってのは?」
森「ミステリは文字で読んでて面白いんですよ、SFは映像で見て面白い」
大森「SFは絵だ、ってよく言うじゃないですか。SFは映画と勝負しなくちゃいけないから、しんどいなあ」
山田「いや、そもそも映画と小説は全然違うでしょ。ミステリが映画になりにくいのはわかる。読んでたほうが面白い、というのはわかる。だからといってSFが映画と勝負、ってのはちょっと短絡すぎるかな」
大森「ロジックの面白さがSFの中心だということですかね」
森「SFは映画で2時間かけてそのロジックを説明するけど、ミステリはラスト10分で説明しなくちゃいけないから大変ですよ。そこの差じゃないですかね?」
綾辻「僕はずっと小学校の時からSF作家になりたかったの。実は初めて言ったんだけど(笑)。でも本格ミステリ作家になっちゃったけど。実は『神狩り』を読んで挫折しまして(笑)。ああ、こんなにすごいのはとても自分には書けない、と(笑)。映画って、小説よりできたのは後ですよね。小説を読んで、それを絵にしてみてみたいと思って映画ができた。ミステリは、絵にしてみたいけど、ある程度想像がつくじゃないですか。でもSFは、想像つかないものを絵にして見せて欲しい、ってのがある。タイムマシンとかのウェルズの作品、ああいう昔の小説を映画化したのも面白いですよね」
大森「この夏なんて、もうSF映画ばっかりですよね。小説はそうでもないけど(笑)」
山田「なんでそう景気の悪い話ばっかり(会場、笑)。ミステリの映像化だと、最近はドラマでも「ケイゾク」とかあったけど、3作目の「トリック」でもう腐っちゃってるね」
大森「仲間由紀恵、よかったじゃないですか(笑)」
山田「ミステリ小説ってのは、映像と=(イコール)じゃないのね。映像だとチャチなカンジがしちゃう。文章なら納得いくんだけど。活字の論理で説明されてるから」
綾辻「そういえば、「スターウォーズ以前・以降」ってあったけど、「2001年宇宙の旅」の時ってそういうのあった?」
山田「SFの人たちは、むしろ活気づいたんじゃないですかね。「これがSFなんだよ!」って皆喜んだのでは」
大森「あれ観て皆「SFってこんなに難しいの?」って思って、で、「猿の惑星」観てホッとした(笑)」
綾辻「山口雅也が言ってたんだけど、あの2つはほぼ同時公開で、その時小学校の自分のクラスが猿の惑星派と2001年派で、きれいに分かれたんだって」
大森「猿は分かりやすいですよね。オチもあるし」
綾辻「そういえば、「猿の惑星」のDVDの表紙はネタバレじゃないかなあ。こうだもん(類人猿が骨だかを振り上げてるマネ>注:ホントは自由の女神でした、すいません〜)。(会場爆笑)」
大森「あれはもう皆知ってる名作だから、ネタバレでも大丈夫だと思ったんじゃないの(笑)。昔のほうの映画「猿の惑星」は、原作をうまく使ってますよね。昔のほうが、ちゃんと「SF」を作ろうとしてた。今はSFは道具になっちゃってる気が。「A,I.」とか」
山田「原作の「猿の惑星」にはコールドスリープがあって、SFファンはそれを喜んだんじゃないかな。あとラストね。ディテールを喜んだんじゃないかな。あと、「ベン・ハー」の肉体美をもういちど見たいってのがあって、じゃあどうやって裸を映画で出そうかって考えて、それで猿にしたという話も」
大森「今はシュワルツネッガーが「ターミネーター」でやってますよね。未来から来るときに何も着てない」
西澤「それだけの理由?つっまんない〜」(会場笑)
大森「(西澤さんに)『瞬間移動死体』ではどうだったんですか?」
西澤「ああ、そういえばあれは男は裸になるんでしたね、(ちょっと考えて)うん、そうでした。女性を主人公にすべきだった(笑)。さっき、森さんの話を聞いてて思ったんだけど、小説だとSFは100枚でロジックを組み立ててるのね。長篇でも500枚かけてロジックを組み立ててる。映画SFは、それを2時間かけてロジックを組み立ててる、そこがなんか面白いなあと思った」
綾辻「西澤作品で、全作品中のSF率ってどのくらい?作品数で」
西澤「ええと…7割くらいですかね」
綾辻「一番最初にSF設定を使ったのは?」
西澤「ええと、『完全無欠の名探偵』ですかね」
綾辻「なぜそういうことをしようと思ったんですか?」
西澤「僕は法月倫太郎さんの大ファンなんですけど、彼が新作を書くのにすごく悩んでて、なんとかお力になりたいと思って。って言っても別に知り合いじゃないんですけど(笑)。こういう設定にしたら法月さんも悩みが晴れて新作を書いてくれるかな、と(笑)」
大森「この『完全無欠の名探偵』ってのは、探偵が事件に介入することでどんどん事件が変わっていっちゃうのをどうするか、というのに取り組んだ話なんですよね。で、探偵は何もしなくて、依頼人が勝手に事件を解決するように仕向ける、と」
西澤「探偵が記憶の触媒になるんですよ。で、SFにならざるをえなかった」
綾辻「それ(西澤さんが法月さんのために書いたってこと)、法月さんは知ってるんですか?」
西澤「いや、知らないと思う(笑)。でも最近は、法月さんはロジックな新作を書くようになったから、少しは役にたったのかなあ、と」
大森「単に結婚したからじゃないですかね(笑)」
西澤「結婚して書いてくれるようになったんなら、よかったんじゃないですか。「メフィスト」開いたら、法月さんの新作が載ってる!(笑)」
大森「(森さんに)『女王の百年密室』は、どういういきさつで書かれたんですか?」
森「もともとはね、宇宙船の中というかスペースコロニーの中で起こる密室殺人という話だったの。でも幻冬舎の編集に言ったら、「SFだけはやめてくれ」って(会場笑)。僕は、現実にないもの、未知のものは書けないんですよ。想像の範囲で、これくらいなら起こるかな、てことしか書けない」
大森「物理法則だけは守りたい、とか(笑)」
森「重力が半分になるならいいんだけど、反重力はありえないですよね。『星を継ぐもの』は、物理的にありえないでしょ。成り立たない」
大森「ううん、『星を継ぐもの』に関しては、SF内にもいろいろ流派がありまして(会場笑)。ミステリでのありえないことはどうなんですか?」
森「ああ、ミステリなら許せる(笑)。どうしてかな?少なくとも、あの天体がこうなっちゃうのは確率的に限りなくゼロに近いでしょ。あの死体が移動しちゃうほうが、まだ確率的にありうるかな、って。ミステリって、そもそもリアリティに書かれてるけど、書きたいのはアンリアリティなんですよね。SFは、書いてるのは超自然的なのに、それをどうリアルに見せるか。ロジックの見せ方が反対なんですよね。SFは3冊しか読んでないので、よくわかりません(笑)」
綾辻「『スカイ・クロラ』は全然ミステリではないですよね」
森「パラレル・ワールドですかね。(大森さんに)パラレル・ワールドはSFですか?」
大森「そうです!」
森「じゃあSFなんだ(笑)。架空戦記も?」
大森「広い意味ではそうです。始まった頃は、架空戦記もロボットアニメもSFだった。ただ今はそれぞれひとつのジャンルに確立しちゃって、SFからは遠くなりましたかね。世界そのものの成立が謎、というのはSFですね」
森「『百年密室』書いてて、すごくいいシーンだけどミステリだから隠さなきゃという場面があって。せっかくのカッコイイシーンなのに、書けないんですよ!今、ここで書きたいのに!で、『スカイ・クロラ』ではそういうのを隠さないで、最初からさらさらっと書きました」
大森「だんだんSFに近づいてますね(笑)」
森「SFに引き込まれてるのかも(笑)」
綾辻「なんか、ああいう共同体作るのって大変そうだよねえ」
大森「『どんどん橋』はそうですよね」
綾辻「えっ!?そう?そうかな?ミステリは、共有してる特殊ルールがあって、作家がそれをどう取捨選択するかがポイントですよね。最近出た『中空』もそのタイプですよね。本格の中のメインストリームになってる」
大森「ミステリだと、孤島(小野不由美の『黒祠の島』とか)か、宗教か。SFでやれば簡単なのに」
綾辻「僕は書いたことないから。殺人鬼ならできるんだけど(笑)」
大森「どこまでその世界を説明できるかがミステリでは不可能ですよね。かなり異世界にしたとき、全部ルールを説明するわけにいかないから難しい」
西澤「実は10月に出る新刊があるんですけど、それがタイムスリップする話で」
山田「えっ!それ、ネタかぶってます(笑)。いつ?10月?同じだ!」
大森「同じ本だったりして(笑)」
山田「いや全然違います」
西澤「あ〜よかった〜(笑)。で、これもどこまで(設定を)説明するかに悩んだんですが、結局あきらめた。うまくいかなくて、これまでやってることを投げ出しちゃった感じ。ミステリとしても壊れてるし、SFでもない。ティム・バートンはSFを借りてきて何かやったわけですよね。僕は今まではSFを借りてきてミステリを書いてたんですけど、今はSFからもミステリからも借りてきてる」
綾辻「次は官能ですか?(笑)」
西澤「あ、それは12月に。官能じゃないけど(笑)」
森「西澤さんの作品読んでて思うのは、Aという現実にできないことができちゃうと、じゃあBもできるんじゃないかな、って思っちゃう。そういう超自然現象があると、読者はもう推理しないですよね。説明がないところがいいんじゃないかな」
西澤「一度、森さんに解説書いてもらったんですけど、ルールを全部こちらでは説明したつもりでも、そうは思わない読者もいるんですよ。このルール説明には限界があるというのが実感ですね。どれだけ最後にカタルシスを感じてくれるかが勝負なんですけど」
山田「次に出る本の宣伝していいですか?実はトラベルミステリやろうとしてて。タイムトラベルミステリ(笑)。で、頭に西澤さんの本のことがあったんで、タイムトラベル10則というのを考えてみた。そしたら、超長いルールブックができちゃって。正確に考えようとすると、ものを見るだけでも難しいんですよ。時間を逆行してるとき、ものは見えるのか?意識はあるのか?とか」
大森「タイムトラベル中でも、旅をする過程があるんですね?お弁当売りにくるとか(笑)」
山田「そう。でも、意識なければ見えてないでしょ。それはミステリとしてはアンフェアじゃないかと。人を殺しても忘れちゃうし。そうすると、タイムトラベルでミステリやるのは無理なんですよ。350枚くらいの短いの書いてたら、気がついたら1000枚書いちゃった(笑)。で、500枚とって、いつか出しましょうね、ということに(笑)。厳密には、SFとミステリをあわせるのは難しいですね。全然別の論理なので。僕の論理だと、死体しか時間移動できないんですよ。生きてる人間はできないの。そうすると密室の死体が未来から送り込まれたことになっちゃって、それじゃ読者は怒るだろう、と」
山田「さっきの話だけど、ミステリは新本格、ハードボイルド、冒険小説といろいろあってどれも謎があればミステリで、許容範囲が広いのね。だけど、SFは架空戦記だとSFじゃないとか、縛りが強いよね。SFは狭いと感じるなあ」
綾辻「SFには狭い人がいる、のでしょう」
大森「僕は「架空戦記はSFではない」とは言ってないですよ。「SFからは遠ざかっていく」と言っただけで(笑)。僕はみんなSFの仲間でいいという立場ですよ」
西澤、森「(ひそひそと)ムズカシイね(笑)」「ムズカシイ(笑)」
山田「僕は「これはミステリじゃない」ってのは聞かないなあ。そういう言われ方はしないよね?」
綾辻「昔は「探偵小説」と言われてたんですよ。それが「推理小説」になって、「ミステリ」と呼ばれ方が変わってきて、名前が変わるたびに間口が広くなっていってる」
山田「じゃあ、SFはリニューアルの許容度が狭いのかも」
大森「じゃ、カタカナで「エスエフ」とでもしますか」
綾辻「(大森さんに)あのさ、いっぺん聞こうと思ってたんだけど、…「サイファイ」ってなあに?(会場大爆笑)」
大森「それはですね、アメリカでは「サイエンスフィクション」って言うんですよ。「エスエフ」ってのは英語では発音しにくいそうで。で、アッカーマンという人が70年に「サイファイ」という呼び名を提唱したんですが、アメリカで総スカンを食った。でも映画や新聞とかの一般エンタテイメントではその「サイファイ」って言葉を使うようになったんです。でも本職のSF作家はあまり使いたがらないですね。じゃあ日本でも「SF」を「サイファイ」と呼べばいいんじゃないかという人が現われて(笑)。たとえば『パラサイト・イヴ』みたいなのにサイファイとつけましょうと」
綾辻「じゃあ(SFもサイファイも)同じなんですね。新しい概念とかじゃなくて。ありがとう」
森「「新SF」ってのはどうですか。「本格SF」とか」
大森「本格SFって呼び方はもうありますね」
山田「「SF」ってのは売れないから、SF作家と呼ぶな〜!という人も(笑)」
大森「僕らの思うSFと、一般のSFが離れちゃってるの」
綾辻「今、仲悪いんですか(会場爆笑)」
大森「現実に近いSFを、SFとみなさない風潮があるんだよね」
綾辻「数年前のSFセミナーに、僕は呼んでいただいたんですが、あの頃ってSFの氷河期とか言われてたでしょ。今はどうなの?」
大森「今はあの頃に比べたらすごく元気ですよ。あのあと、SF新人賞や小松左京賞ができたり、デュアル文庫ができたり、ハルキ文庫がSFレーベル立ち上げたり。SFやると社長が死ぬとか言われてますけど(笑)」
山田「2つも新人賞があるのはありがたいですね」
大森「山田さんはSFは書かないの?」
山田「書いてますよ。宣伝しますと、SFマガジンに書いてたのを手直ししてたんですが、いろいろ設定直してたら面倒だからいっそのことって600枚書き下ろしにしちゃったの。それが来年か再来年に出ます。あとは9月中旬に、400円文庫で短いのが出る予定」
西澤「僕もSFとかホラーも書いてみたいけど、そういうスキルが自分にはあるのかと…」
大森「綾辻さんも、死ぬまでには1冊SF書くんですよね」
綾辻「う〜ん、SFには挫折した経験があるから(笑)、ちょっといろいろ修行してから。今や、本格ミステリでも挫折しそうだし(笑)」
大森「山田さんはなんか削ってばかりですよね(笑)」
山田「今、SF書くのはすごく緊張します。(興行的に)失敗しないようにって。もし僕がSFで失敗しちゃったら、後がないもの。とにかく売れるようにと」
大森「眼鏡っ子と巨乳書いてれば大丈夫ですよ(笑)」
綾辻「そういうこと言ってるからダメなんですよ(笑)」
大森「でもいっぺんくらい、そういうのもいいかも(笑)。2ちゃんねるとかで何書かれるか(笑)」
西澤「大森さんて、ジャンルはいっぺん滅びたほうがいいとかって昔どっかで言ってましたよね」
大森「えっ、そんなこと言ってないですよ(笑)」
綾辻「いや、だいたいのことは大森さんが言ってますよ(笑)」
大森「僕は『スカイ・クロラ』読んでて、「あ、これ『(戦闘妖精・)雪風』じゃん!」と思ったんですけど」
森「あ、読んでないですねえ」
大森「意図的に抽象化した世界というか。今、こういうのは珍しくて、新鮮だった」
森「あれは書きたいものを抽象して書いたの。実は続編があるんですよ。3年くらい先になるかな」
西澤「森さんから、スタンダードなSFジャンルが生まれるかもしれないですね」
綾辻「まとめにかかってるな(笑)」
森「僕は書きたいものしか書けないから、今はあちこち球を打ってる。どこが面白がってもらえるのか。全体像をつかみたいんですよ。どこらへんに読者がいるのか」
西澤「それがど真ん中いってるんじゃないですか」
山田「今僕が一番こわいのは、売れないこと。SFの足を引っ張るんじゃないかと思って。むしろ森さんのような努力をするべきかもしれないな。SFファンってのは案外つかみやすいんですよ。僕は」
森「そういえば、SFファンからはメールもらったことってないですね。ミステリファンからはたくさん来ますけど。女性が多いです。で、「ミステリはあまり読まないのですが」という出だしで始まるメールが圧倒的に多い(笑)」
西澤「これから引っ張っていくのは森さんかもしれない。その無自覚性がいいのかも(笑)」
森「僕は今までにないところに向けて、「こういうのはひょっとしたら読者がいるかな?」って書いてる。隙間に球を打ちたいんですよ。実はすごくマイナーなんですよ」
大森「犀川&萌絵ファンが、『スカイ・クロラ』とかをどう思ったんだろう?今はまだ「ふ〜ん」って流してるのかな?」
森「『スカイ・クロラ』を書いたときは、すごく消耗しましたね。ミステリは、労働して疲れててもラクに書けるの(笑)。『スカイ〜』の時は、人格変わるくらいダークになりましたね。周りの人に驚かれるくらい。再読もしてない。僕、自分の作品は再読しないんですよ。他の人の本も再読しない。再読ってできないんです。そもそも、僕はほとんど本を読まないんです、時間かかるから。例えば西澤さんのノベルスなんかだと、1冊に20時間くらいかけて読みます。笠井さんが前に、「ミステリは再読せよ」っておっしゃってたんですよ。それは伏線にすごくいい場面があったりするけど、そこは最初に読んだときには教えてあげられないから、もう一度読めと。でも僕はそれできないんですよね」
西澤「でも、思い出せるなら再読しなくてもいいんじゃないですか」
森「再読を強いる読み方ってのは…う〜ん、よくわからないです」
西澤「感動して、もう一度読みたいってことは?」
森「ない!(笑)」
西澤「腹がたって、もう一度読むってことは?」
大森「普通ないでしょ(笑)」
西澤「僕はありますよ(笑)。再読すると、全然印象が変わることもありますよね」
森「読むときにも文章を映像に転換するのに時間がかかりますよね。小説って、書くのに時間かかるけど、読むのにも同じくらい時間かかるはずじゃないかと思うんですけど。どうしてみんな、あんなに早く読めるんだろう?」
綾辻「僕はどっちも遅いよ(笑)」
大森「じゃ、そろそろ新作の宣伝を」
綾辻「今、角川でホラー書いてるんですけど、ひょっとしたらそれはSFに近い異世界ファンタジーかも」
森「僕はおととい書き上げました。来年1月に出ます。今年はすごくたくさん本が出ましたけど、それは去年までに書いたのが本になっただけで。今年は忙しくて2つしか長篇書いてないんで、来年はあまり本出ないです」
大森「年2作で低迷とか言うと、他の人たちが(笑)」
森「そういえば、『堕ちていく僕たち』は超常的ですね。男女が入れ替わるという。でも天体が降りてくるよりは確率高いでしょ(笑)。あ、Vシリーズの7巻目も9月に出ます」
西澤「僕は9月にカッパノベルスから新作が出ます。新作といっても、雑誌「ジャーロ」の連載がまとまったものですが。あと例の10月の集英社のと、12月に小説推理の連載が1冊になります。例の「官能」ですね(笑)」
山田「僕はトラベルミステリが。タイムトラベルじゃなくて(笑)。写真とかも入れるみたいです」
大森「本日はありがとうございました」
その後、速攻で前に走っていき、森さんにサインをお願いしたのは私です(笑)。でも、「あ、すいません、僕はサインってしないんですよ。そのかわりに名刺を」とおっしゃって、その場では3枚しかなかったオリジナル名刺をいただきました。きゃ〜、うれしい(感涙)!ありがとうございました!西澤さん、山田さん、綾辻さんとも名刺交換。うれしい!
(以下、まだ続きます。何か間違いやツッコミなどありましたら、メールか掲示板でご連絡くださいませ)01.8.22 安田ママ