3コマ目は「ウブカタ・スクランブル」。出演は冲方丁氏、柴田維氏(TOE)、司会は三村美衣氏。
三村:以前、大森さんと『ライトノベル☆めった斬り!』のトークショーで、冲方さんに来ていただいたんですけど、それがファフナーの脚本を5日で書き上げて、レギオンを11日で書き上げて、そのまま倒れて入院してて、点滴の針をつけたままの状態で来て(笑)。なんかもう暗黒パワー全開の冲方さんで(笑)、「ええんかいこんなこと言って!」みたいな話をしてくれたんですよね。
そこで話されてたのが、「今のライトノベル(以下ラノベ)出版は新人をどんどん出しているけど、育成できずにそのまま使い潰しているのが問題だ。ラノベはサービス業であって、サービスに徹するべきであって、たとえば頑固親父のやってるラーメン屋ではなく、ファミレスチェーンやホテルチェーンのようになるべきだ」、まあ暗黒面抜くと(笑)、こういうカンジのことをおっしゃってたんですよね。
そして現在は「シュヴァリエ」という冲方さんが原作を書いたマンガが連載中で、今夏にアニメでも放映される予定になってます。で、冲方さんは「文芸アシスタント制度」というのを始めたんですよね。ネットで募集して。冲方:どうしても人海戦術が必要で、作業の効率をはかるためにはひとりじゃ限界があるので、人を使おうと。ひいては人材育成、業界への貢献にもなるかなと。それにはパートナーシップをとってくれる人が必要だったんで、柴田さんとプランを練って、文芸アシスタントを募集したんです。
三村:「文芸アシスタント」って、まず聞いたことない言葉ですよね。具体的には?
冲方:まず仕事を10個くらいに分けて。情報を集める人、文体考察をする人、企画プランニングをする人、ベースを作成する人など。募集に応じてくれた人を、いかに配置するかがまた難しくて。
三村:マンガ描きみたいな分業ということ?
冲方:そうですね、他の作家さんたちにも通じるように、人材育成というか。その第一弾ですね。今、「作家」っていってもすごく広いんですよ。アニメ作家もいるし、ゲーム作家もいるし、とか。その中で文章・活字を選ぶ人を選んだわけです。中核に「小説」が来る人を取りました。
柴田:僕はもともと、ラノベの編集をはってて、その中で大御所よりも、若手を育てるのがすごく好きで、会社やめちゃったんです。冲方さんとニーズがあったんですね。冲方さんはプランを考え、僕はそれをビジネスに変えるのが仕事なんです。今はネットがあるからホントはどこでもいいんだけど、「会社」ってのがあるとやりやすいんで、会社を作ったんです。
三村:そしたらものすごく応募が来たと!(笑)
柴田:そうなんですよ、60人くらい来たんでびっくりして。一切告知とかしてなくて、ウェブでトップページにほんのちょっと載せただけなのに。で、まずは小説も一緒に送れ、小説以外でもなんでもいいから、と言ったらすごくいろんなのが来まして。キャッチコピーやら詩やら(笑)。ネットって、別にフツーなんですよ。特別なことでもないし。だから若い人なら来るんじゃないかなあ、と思ったらちゃんと来た。自分のリアリティを信じたら正解だった。
三村:ネットって、「ワタシ」を表現したい人たちが多いですよね?そういう人たちが、誰か他人と組むのって、やりたいのかなあ?
冲方:表現したい、というのは作家だけじゃないし、ぶっちゃけ作家だって、個人作業じゃないんですよね。評価は個人だけど、やってることは編集さんとの共同作業なんですよ。ゲームなんてもっとそうだし。
三村:今、結局何人いるの?
冲方:60人から絞って、今は5人です。最初はひとりしか取らないつもりだったんだけど。
三村:えっ、ひとり!?
冲方:応募しても、来るのは5、6人かなって思ってたんですよ。それが60人も来ちゃったもんだから逆にびっくりして。「どうしてもやりたい」って人もいて、じゃあってやらせてみて、自分からやめるように仕向けて、で、5人残った。でもこれでいろいろデータがそろいましたね。どう言えばどういう反応が帰ってくるのかとか。
三村:今、小説も書いてもらってるんですよね。冲方さんは『冲方式ストーリー創作塾』という本も出されてるわけですが。このあおり文句すごいな、「キミにも『マルドゥック・スクランブル』が書ける!」(笑)
冲方:もうあるものを書いてどうするんだ(笑)。創作のための修行として、まずストーリーを解析すること自体が勉強になるんですよ。とか言ってたら「他にもそういうことしてる人がいるよ」って言われて、それが菊池寛だった。彼が昔、弟子たちにやってたんですね。なんだ実は昔からやってたのか!俺、これ作るのにめちゃめちゃ苦労したのに!なんでネットとかに記録残ってないの!(笑)
三村:「シュヴァリエ」ですが、これ、ざっと説明すると、詩を残していく切り裂きジャックみたいな殺人鬼なんですよね。で、言葉がキーワードになってたりするんですよね。アナグラムだっていうんだけど、これがフランス語なんですよ!
冲方:そう、で、フランス語でアナグラムやっても誰も読めないからわからないんですよ!(笑)最初はマンガだけだったんだけど、いっぺん映像化権などを全部こっちで預かったんですね。それと平行してアシスタント制度をやってて、て言ったら「じゃあそれ、うちでやってくださいよ」とかあちこちで言われて。日経とかアニメとか。
柴田:クオリティのコントロールは冲方さんがやってるんですけど、冲方さんとアシスタントさんはじかにやりとりしないんですよ。全部、間に僕が入ってやってる。僕が彼らのナイーブな部分を刺激しないようにやってるんです(笑)。
冲方:小説家同士は、殺し合い始めるんですよ(笑)。漫画家だって、漫画家自身でなくて、編集者がアシスタントをまとめてたりしますからね。
三村:「シュヴァリエ」の基本設定は冲方さんですよね?
冲方:そうです、プロットまで時間なくて、ホントは彼らにやらせたかったんだけど、ほとんど全部僕がやっちゃったんですけど。
三村:5月からこれの小説の連載が始まったんですよね。これはアシスタントが?
冲方:書ける限り書かせてますね。むしろ自分が書いたほうが早いくらいなんだけど、自分がやっちゃいけないなあ、と身に沁みました。聞いた話だと、ある会社で、25,6歳でもう部下つけちゃうんですって。で、部下にやらせないで自分が仕事やっちゃうヤツは上司にぶん殴られる。「給料泥棒!」って。人を育てないなら仕事してる意味がないって。
第一話は僕が書いちゃったんですよ。で、やり方をひとつひとつ教えて。背景書くのがうまくても、セリフが全然ダメなのとかいて。柴田:5W1Hとか、全部冲方さんは分けてるんですよ。まず冲方さんが背景、設定、人物などの基準を最初に作って。
冲方:「考えられるキャラ50人くらい出して来い」とかアシスタントに言うわけですよ。で、「なんで女ばっかりなんだよ」とか「時代設定にあってないじゃん」とか言って。実在に基づいた話なんで資料を図書館で集めさせたり、解釈させたりと本当に大変でしたね。資料をセレクトしないで手当たりしだい持ってきちゃったりするから。最終形のレベルが低いんですよね。プロット渡して書いて戻して、を繰り返したり。
柴田:シリーズ構成は冲方さんなんです。シリーズ全話をアシスタントがそれぞれ書くなら、システムいらないんですよね。出させて、戻して、出させて、レベルを上げていくのを繰り返して。
三村:じゃあ今は、ひとりで書くほうがよっぽどラクなんですね?(笑)
柴田:はい!
冲方:いずれは小説週刊誌を出すところまでいくかも。でもそれには10年かかりますね!(ため息)でもそれが普通になって売れれば、皆書きますよ。
三村:……書ければ、ね!(笑)
冲方:書ける人だけが残りますよ。
三村:10年たてば、この制度が当たり前になると?
冲方:アシスタント制度が常識化すると思いますよ。
三村:小説は個人作業、という考え方が強いですよね?
冲方:簡単に言うと、さいとう・たかをプロなんですよ。横へ上へ下へ提言できる人を育てるってことですよ。
三村:実際どうですか、やってみて?
冲方:もっとじっくり育てる時間が欲しかった。実際、僕は彼らがうらやましくなりましたね。教えてもらっていいなあ、って。僕なんか自分でここまで来たわけだから。
三村:小説って、人に教わりたい、って思わないんじゃないのかなあ?
冲方:作家になりたい人への最短距離を教えてあげるわけですよ。僕もメディアミックスについては、あかほりさん、水野さんという先人がいたからできたんですよね。
三村:昔はありえなかったですよね、メディアミックスって。昔は小説が出て、マンガ化されて、CDになって、アニメになって、という順番だったけど、今は全部同時に仕掛けていく。あかほりさんがやったら、もうかっちゃった。
冲方:僕も今、彼らにそれとなく聞いてますよ。作家って、編集者に育ててもらう人、多いんじゃないですかね。○○さんは××さんにしごかれて大きくなったとか。実名はやめときますが(笑)。
三村:作家って、接する相手が他にいないですよね。
冲方:編集者と相性悪かったらおしまい、みたいなのありますね。
三村:今はネットがあることで作家はラクになってる?
冲方:そうですね。そうでない人もいますけどね。
三村:アニメは基本的に冲方さんが?
冲方:僕はストーリー構成ですね。プロット書いて、アシスタントを投入して。
三村:シナリオはアシスタントに任せる?
柴田:一人で書けるようになったヤツもいるし、できなかったヤツもいますね。でもこのシステムじゃないとできなかったですね。資料準備とかが必要なんですよ、そういうのをやらせたり。
三村:シリーズ構成は冲方さんなんですよね?
冲方:そうです。今回のは、あちらがキチガイじみたクオリティを求めてるんで大変ですよ。昨日は昼から深夜まで、延々と会議してました。シナリオのたった1行でも、アニメの絵にするにはすごいお金がかかるわけですよ。「とてつもない大群」って!?とか(笑)。この1行だけで大変な絵を描かなきゃならない。おのずと言葉に敏感になりますよね。監督がすごい入れ込んでるんで、すごいいいものになると思いますよ。「るろうに剣心」とか「ジパング」やってた人で、今回はオリジナルとして挑みたい、と言ってくれて。
三村:同一世界を部隊にしてるけど、マンガも小説もアニメも全てがオリジナルなんですよね。
冲方:夏に「カルドセプト」というゲームが出るんですけど、このシナリオを世界設定にも使ってます。けっこう皆、気が狂いながら作ってますんで(笑)。1人50個くらいキャッチコピー持ってきたり。
柴田:そもそも冲方さんの原作をアニメにできるのか?ってところから始まって。
冲方:ホント、死ぬ!(笑)ラクになるためにやってるのに!今、財布に、15,6枚、病院の診察券がありますよ(笑)。
三村:普通なら、アニメ1本だってメディアミックスやってるのだって大変なのに、さらに今、スニーカーとドラゴンマガジンで同時連載を開始してるんですよ!「オイレンシュピーゲル」と「スプライトシュピーゲル」。しかもこのふたつの世界がリンクしてるという。
冲方:変身物で、手足が変形する少女が3人、というのが共通してます。文化がごちゃまぜの世界というのをやってみたかったので。もうホント大変ですよ、こないだ『マルドゥック・スクランブル』の続きを脱稿したんですけど、もう時間なくて、新幹線のトイレでノートパソコンをベビーベッドに置いて書いたんですよ!こーんな姿勢で!ペットボトル置いて!
三村:トイレの中でコカコーラ飲むの!?(笑)そのあいだずっとトイレにこもりっきりで?
冲方:そうです。ついにエピローグ書き終えました!1600枚くらい書いた!もういやだ!!ホント、かみさん殺しかけましたからね。今回はバロットの過去なんですけど、もうホント死ぬかと思った!忘れたい!2週間、こもってピザだけ食って書いて!(笑)
三村:今はもう募集してないの?
冲方:そのうちまた。ホント不思議ですよ、あのページにしか告知してないのに、プロとか来るんですよ!(笑)まあ、自分と平行してやれる人も募集してたんですが。継続して、時期がきたらまた募集します。35歳未満で小説家志望の方。
三村:というわけなので、われこそはと思う方はどうぞ(笑)。
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実を言うと、「ラノベの話なら別にいいかな…」なんて思ってたんですが、聞いてびっくり、こんなに興味深い話だったとは。目からウロコがぼろぼろ落ちました。小説をマンガみたいにアシスタントを使って共同作業で書く、というのは本当にいずれスタンダードになるかも、と思わされる内容でした。軌道に乗るまではものすごく大変そうでしたが(笑)。
4コマ目は「ワン・ヒット・ワンダー・オブ・SF」。出演は舞台右からジーン・ヴァン・トロイヤー氏、小川隆氏、中村融氏、東茅子氏。
沖縄在住のアメリカ人SF評論家&詩人でいらっしゃるトロイヤー氏を迎えてのバイリンガル企画。私は存じ上げなかったのですが、日本SFの英訳でも知られる方だそう。SFの短篇の魅力、それもたった1つの短篇だけでSF史に名をとどめた人あるいはその作品(いわゆる音楽で言えば一発屋)を紹介、といった企画。
司会進行は小川氏だったのですが、言葉に詰まることが多くて、ちょっと聞きづらかったのが残念。トロイヤー氏の英語はかなり聞きやすくわかりやすかったのですが。話の焦点もなんとなくボケてしまったような印象でした。
小川氏の挙げたのは「冷たい方程式」。トロイヤー氏が「闘士ケイシー」。中村氏が「火星のオデッセイ」、「努力」、「ベティアンよ帰れ」、「壁の中」、「旅人の憩」、「みっともないニワトリ」、「わが友なる敵」。ほかに「たんぽぽ娘」なども。東氏はテッド・チャンがそうなってしまうかも、とちょっと心配しておられました。
最終コマだったので、さすがに集中力もとぎれてしまって、メモもほとんど取れず。全然レポになってなくて申し訳ありません。「異色作家」企画のように、短篇の一覧をレジュメにしたものがあるとうれしかったかな。SFファンには既知の作品でも、会場には私のようなSF初心者もいたと思うので。トロイヤー氏が急遽出演になったこともあって、仕方なかったとは思いますが。
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17時ちょっと前に終了。今回も合宿は泣く泣く断念。いつものメンバーと夕食だけご一緒して、合宿会場に向かう皆様と別れました。今回も非常に充実した、よいセミナーだったと思います。スタッフの皆様、お疲れ様でした。ありがとうございました。また来年もどうぞよろしくお願いします。
(間違いなどあれば、ご一報くだされば幸いです)
06.5.25 安田ママ