第拾九話 AD物語〜15〜

 放送局の制作部に勤める人間が一番恐れるモノ・・・、それは、
 「放送事故」です。

 「放送事故」と呼ばれるモノは大きく分けて3つあります。
 1.CMに関する事故
 2.無音にしてしまう事故
 3.「放送禁止用語」を使ってしまった事故
 ・・・の3つです。

 過去の例を挙げて、解説してみましょう。

 まず1つ目。「CM中に起こってしまう事故」。
 民放放送局にとっては、リスナーと同じくらい「神様」なのが、「スポンサー」様です。
 そのスポンサー様の「CM」に雑音を混ぜたりしたら、こりゃもう立派な事故です。
 この種の事故で笑ったモノがいくつかあります。
 
 スタジオの中のマイクの横には、「カフ」と呼ばれる、マイクのスイッチがあります。
 この「カフ」は非常に敏感なスイッチでして、
 ほんの少し持ち上げただけで、「スイッチオン」の状態になってしまいます。
 CM中は、マイクの音がオンエアにのらないように、
 ミキサーさんがマイクのフェーダーを下げるのが基本なのですが、
 喋り手が放送局のアナウンサーだったりすると、カフの使い方がうまいので、
 安心しきってマイクのフェーダーを上げっぱなしにしてたりすることがあります。
 ところが、「放送事故は忘れた時にやってくる」モノなのです。
 
  その日、そのアナウンサーさんの前には、大量の原稿がありました。
 しかし、そこはプロのアナウンサー。
  大量の原稿をものともせず、見事にさばきながら番組をこなしていきます。
 そしてCM中。
 何気なく触った原稿が、カフのスイッチを数ミリ押し上げてしまったのです。
 先ほども書いたように、このカフのスイッチは非常にデリケートです。
 わずか数ミリの動きも見逃しません。
 「さっきのニュースさあ・・・・。」
 「あ、お茶欲しいなあ。」
 アナウンサーの声はCMにかぶって、全てオンエアされてましたとさ!

 他にも、ADがCM中に間違えてCDのスイッチを押してしまい、曲がかかってしまったとか、
 水曜日のCMを月曜日に流してしまったとか、
 渡されたCMのテープに何も録音されてなくて大慌てだとか、
 ま、いろんなことがおこるわけです。
 俗に、CMでの事故は「3倍返し」といわれてまして、
 被害を被ったスポンサーのCMは、同じモノを無条件で「3回放送する」のがルールだそうです。


 次に、「無音にしてしまう事故」。
 これは結構有名ですよね。
 「ラジオは音声しかないから、5秒間黙っちゃうと放送事故。」なんていわれてます。
 実際には、ニッポン放送の場合、13秒〜15秒くらい無音状態が続くと、
 千葉県木更津にある、送信所(電波塔があるところ)のコンピューターが、
 「ありゃ、ヤバイじゃん。」
 てなことで、「エマージェンシーテープ」と呼ばれる、
 「クラシック」の曲をかけ始めちゃいます。
 この「エマージェンシーテープ」が出ると「放送事故」です。

 「無音状態」に関する事故にも面白いエピソードがありまして、
 1993年のミュージックソンでの出来事。
 24時間放送の最後の最後、大フィナーレでその事件は起こりました。
 ニッポン放送1階に設置された「愛の泉」という中継所に、
 番組出演者やリスナーが大勢集まり、「ラストクリスマス」を歌う、という感動の演出です。
 ところが、この時、アナウンサーの「逸見政孝」さんがお亡くなりになっていたのです。
 ミュージックソンが終わったと同時に、逸見さんの死亡記者会見がニュースで流れる予定になっていました。
 さあ、不幸の始まりです。
 放送局には「マスター」と呼ばれている所があります。
 ここは、スタジオの音を送信所に送ったり、中継の電波を管理するのが仕事です。
 で、このミュージックソンの大フィナーレのさなか、「マスター」の誰かが、
 「愛の泉」の音が来ているパネルに「逸見さんの記者会見の会場」の音をつないじゃったのです!
 ・・・・すると、どういうことが起こるかというと・・・・、
 オンエアには「記者会見の会場で静かにイスをならべる音」が流れるわけです!
 今まで感動的に歌っていた「ラストクリスマス」はどこ行っちゃったの?
 制作の人間はてんやわんやです。
 「何が起こってるんだ?」
 「大丈夫なのか? オンエアにはラストクリスマスが流れてるのか?」
 「多分大丈夫だと思います。」
 いやいや、全然大丈夫じゃありません。
 ただただ「イスをならべる音」が流れてます。
 それも、「限りなく静か」に「イスをならべる音」が。
 15秒間の無音状態が続くと、木更津の「エマージェンシーテープ」が作動してしまいます。
 「エマージェンシー」が作動したら、「放送事故」です。
 何でもいいから音を送信所に送らなくちゃいけません。
 スタジオのミキサーさんは、送信所に対し、最大レベルで、
 「記者会見会場のイスをならべてる音」を送り続けてたそうな。


 さて、最後の「放送禁止用語」を使っちゃった場合の事故。
 これはちょっと難しくて・・・・、
 実際には「放送禁止用語」というモノはありません。
 「放送に適さないので、使用を注意した方がいい言葉、あるいは使用するべきでない言葉」
 というモノはあります。
 でも、その種の言葉が1冊の本とかになってディレクターに配られてる訳じゃありません。
 あくまでも、「放送に適さない言葉」は各ディレクターの判断にまかされてるわけです。
 でも、やっぱり「放送禁止用語」というモノがあるわけで、
 それを使ったら「事故報告書」を書かなきゃいけないわけで、
 そこんとこが難しくて、訳分かんないですな。

 ということで、ここから先は僕個人の意見です。
 「日本」という国は、一応、「関東弁」を基本とする「標準語」というものが、
 「国」の言葉となってるわけですよね。
 で、その「関東」でいうところの女性器の俗称「オマンコ」というのは、
 「放送禁止用語」と言われてます。
 ところが、そのほかの地区の女性器の俗称「オメコ」や「ボボ」や「ホーミー」は、
 「放送禁止用語」じゃないんですよね。
 他の例を挙げてみます。
 「キチガイ」というのも、「放送禁止用語」と言われてます。
 ところが、それを「プッツン」とか「アブナイ」とかいう言葉を用いて表現した場合、
 「放送禁止用語」の対象とはならないんですよね。
 でも、「オメコ」「ボボ」「ホーミー」「オメチョ」「アカガイ」・・・、
 何と表現しようと、それがリスナーに「オマンコ」のことを言っているんだと伝わった場合、
 「オマンコ」と言っちゃったのと同じじゃないんでしょーかねー?
 どんなに言葉を規制して、殺そうとしても、それは「不可能」なんじゃないか・・・と。
 むしろその言葉を使った人の意識の方が問題なんじゃないか・・・と。
 そんな風に思うわけです。
 悪意をもって使った言葉はみんな「放送禁止用語」、
 善意をもって使った言葉はみんな「セーフ」・・・ってことにしてくんないかな。
 だって、なんで「オマンコ」が「放送禁止用語」なのかって誰も知らないでしょ?
 分かんないのに規制ばっかされても、困るって!

 今回の話・・・マニアックすぎて難しいですな。
 反省反省。
続く  1997/06/08

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