富士山の幕岩溶岩 2017年5月23日 、2021年9月20日調査作成中

1. はじめに
 ふわふわした軟らかい富士黒土層は、広々とした大野原に分布し、サッカー場、スポーツ広場、ゴルフ場、陸上自衛隊の演習場として使われている。この富士黒土層と下位の三島溶岩の接触部を示す露頭は、なかなか見ることができない。 町田 洋 (1996年3月)によると、「富士黒土層は富士山南東麓の幕岩におけるように、薄い多数の火山灰やスコリア層から構成されることがわかる。」とある。幕岩は富士黒土層を挾んで、上位、下位の溶岩ともに観察できるのではと期待して調査を始めた。(2017年5月23日)
 これまで、町田(1964)、宮地(1988)の資料から、幕岩中央の溶岩(T)、幕岩右岸の溶岩(U)、幕岩左岸の溶岩(V)の3種類の溶岩に区分された。
 2021年9月20日、再調査をした結果、谷間の幕岩は表面に堆積した火山灰やスコリアが侵食され、下位の溶岩が露出していた。幕岩中央の溶岩(T)と幕岩左岸の溶岩(V)は同じ溶岩体であり、これを幕岩溶岩と仮称した。また、幕岩右岸の溶岩(U)は気孔が多く、黒っぽい溶岩で、幕岩溶岩より新しい溶岩と思われる。溶岩の斑晶観察を主とする調査結果を説明する。
 

 2017年5月23日の調査
 幕岩中央の溶岩(T)
 幕岩右岸の溶岩(U)
 幕岩左岸の溶岩(V)


2021年9月20日の調査 
 幕岩右岸の溶岩( 気泡多い)
 幕岩溶岩(中央と左岸の溶岩)



  図1.国土地理院 2万5千分の1 印野
@、Aはサンプル採集地点



図2.幕岩の谷間へ分布する溶岩。

2.幕岩までの自然観察

2017年5月23日の調査
富士山スカイラインと須山口下山歩道の交差点から、野鳥や溶岩を観察しながらゆっくりと幕岩へ向う。(9時50分)
 須山口下山歩道の交差点と須山御胎内の中間付近の露頭から、溶岩@を採取した。30分程で須山口御胎内に着き、溶岩Aを採取した。この溶岩流のなかには、途中崩れているが、長さ数十mの溶岩トンネルがある。溶岩トンネルの形状が人体の胎内に似ているので「御胎内」と名付けられた。洞穴内の御胎内祠には木花咲那姫の石像が安置され、安産の神として信仰されていたそうである。(「御胎内」は御殿場市印野の清宏園にもある。)
 富士山麓のクマザサ(熊笹)は一斉に全部枯れた。数年前、富士山麓の3合目付近へ野鳥観察に行ったときのことを思い出す。繁茂するクマザサのなかのコマドリは、数m先にいるのに鳴き声のみで姿を見せない。写真撮影ができず残念な思いをした。コマドリの写真撮影は時間をかけ、苦労したが、未だ成功していない。 その頃、珍しいクマザサの花を見て、枯れるのではと思ったのを覚えている。現在、幕岩付近はクマザサの枯れた黒い細い竹の残骸がいっぱいである。コマドリはクマザサが枯れて困っているに違いない。そのうちクマザサの芽が出て、地下茎が伸び、再びクマザサが繁茂するだろう。笹は40〜60年に1度一斉に花を咲かせて枯れると言われている。幕岩へは11時30分頃着いた。

 
図3.富士山麓のクマザサは一斉に枯れた。  2017年5月23日撮影
 
図4.須山口下山歩道@と御胎内祠Aの溶岩
並べて比較すると違いがよく分かる。
右@の玄武岩は気孔が多く、黒っぽい、鉱物の結晶は微細である。この溶岩は幕岩の右岸の溶岩に似ている。
左Aの輝石玄武岩は須山御胎内の溶岩、白い2〜3mmの斜長石を含む。

2021年9月20日の調査
 御殿場登山口を8時30分出発、エゾマツ林、スコリアの緩やかな坂道を登っていき、幕岩へ10時00分に着く。溶岩の調査を終り、11時30分二ツ塚へ向かって出発する。エゾマツ林、スコリアの坂道を登り、図1の二合へ着く。ここからはイタドリやアザミが咲く平らな道で、二ツ塚の鞍部へ12時00分に着く。二ツ塚の鞍部から御殿場登山口まではスコリアの急な下り坂である。太郎坊、御殿場登山口駐車場へ13時00分到着した。


二ツ塚で撮った宝永火口壁のアグルチネート*    2021年9月20日撮影

 宝永火口壁のアグルチネートは小規模な崩壊を繰り返しているが、2016年10月に大きな崩壊があった。
 2021年8月28日にも大きな崩壊があり、そのあとの写真である。
*アグルチネートは、このHP 1.富士山の地質と火山 「火山活動に使われる用語」 に説明がある。

3.幕岩溶岩(中央溶岩と左岸溶岩)

  幕岩の中央溶岩と左岸溶岩は、厚い溶岩で外側(図8の上部)と内部(図8の下部)で鉱物の大きさが違う。外側は早く冷えるので鉱物が微細で、内部はゆっくり冷えるので結晶が大きく成長している。図8の下部にある白い結晶は斜長石で大きいもので直径約5mmある。図8、図9を参照。


図5−1.幕岩の中央溶岩  サンプルB 輝石玄武岩
 
図6.幕岩の左岸溶岩 
左岸に分布する溶岩は厚い溶岩の外側の部分で非結晶質である。サンプル図7のC 
 
図7.幕岩の中央溶岩TBと幕岩の左岸溶岩VC
B中央の幕岩溶岩T
は輝石玄武岩、黒っぽい、気孔がある、斜長石(大きさ2〜5mm)、輝石などを含む。
C左岸の幕岩溶岩Vは非結晶質玄武岩、斜長石や輝石の0.5mm以下の微晶を含む。
BとCの見かけは大分違うが、厚い溶岩の外側と内部の固結するまでの時間差によるものである。図8参照
 
図8.幕岩の中央溶岩 輝石玄武岩 2021年9月20日撮影
幕岩の中央溶岩と左岸溶岩は、厚い溶岩で外側(写真の上部)と内部(写真の下部)で結晶の大きさ
が違う。上部は結晶が微細で、下部は斜長石や輝石の結晶を肉眼で見ることができる。下部の白い結晶は斜長石で大きいもので直径約5mmある。スケールは図9を参照。
 
図9 幕岩の中央溶岩  2021年9月20日撮影
溶岩の内部は斜長石や輝石の結晶が大きい。下部の白い結晶は斜長石で大きいもので直径約5mmある。


4.幕岩の右岸溶岩

 幕岩の右岸溶岩は気孔が多く、黒っぽい、結晶が微細な玄武岩である。右岸溶岩は幕岩の1段上に観察しやすい露頭がある(図10)。右岸溶岩と幕岩溶岩との接触部の観察から、幕岩溶岩より新しいと思われる。右岸溶岩は須山口下山歩道のサンプル@に似ている。(図4)

 
 
図10.幕岩から1段上の幕岩の右岸溶岩  2021年9月20日撮影
気孔が多い玄武岩
 
図11. 幕岩の右岸溶岩  2021年9月20日撮影
気孔が多く、黒っぽい、斑晶が少ない。斜長石、輝石の微晶がある。


4. おわりに
 谷間の幕岩は、表面を覆う宝永噴火のスコリアや二ツ塚のテフラが侵食されて、下位の溶岩が露出している。また、厚い溶岩も侵食され、内部の斑晶の様子が観察できる。周辺には黒曜石など宝永噴火のテフラも採集できる。

下の幕岩溶岩分類の図表は、町田(1964)、宮地(1988)の資料を参考にして作成した。鍵層は、町田(1964)が作成した幕岩の柱状図から選択したものである。(再調査により、変更がある。)

 幕岩溶岩の分類と鍵層・時代など
 ・ 宝永テフラ(HO) 
  幕岩溶岩1 (MKL-T) 幕岩の中央B、厚さ2.5m
  幕岩溶岩U (MKL-U) 幕岩の右岸、厚さ2m
 ・ 幕岩溶岩V (MKL-V) 幕岩の左岸C、厚さ3m
 ・ 湯舟第2スコリア (YU-2)約2200年前
 ・ 砂沢(ずなさわ)スコリア (ZU) 2600年〜2800年前、厚さ6.8m。
   砂沢(ずなさわ)はZU分布の中心地(印野の溶岩隧道の西)の名。
  幕岩溶岩W (MKL-W)
 ・ 鬼界アカホヤ火山灰 (K-Ah) 約7000年前
  ( 三島溶岩 )          約1万年前


(ご意見、訂正した方がよい点など、ご指摘下さい。 aihara@mxz.mesh.ne.jp )


 幕岩へは前から行きたいと思っていたが、体力が衰え、諦めていた。井上さん、片山さんのサポートで実現でき、喜んでいる。二人に深く感謝したい。( 2017年5月23日 )

2021年9月20日は息子(仁)のサポートがあった。