in BBS...



 ある晩のこと、T子はパソコン上で作成した自分の
ホームページをFTP転送しながら、ため息をついた。
 はぁ〜...
 ”もっと面白くて魅力あるホームページにしたいなぁ〜”
 それはアマチュアなら誰もが抱えている悩みには違いなかった。
 しかし、ホームページを作りはじめたばかりのT子には、
そんなことはわからなかった。
 商用の、プロが作ったダイナミックHTMLを駆使して画像が
飛び回るサイトだとか、アマチュアでもハッカークラスの人物が
Javaで無茶苦茶しているサイトだとか、ばかりみていたせい
なのかもしれない。
 かっこよくて毎日カウンタがびゅんびゅん増加するページに
したい!
 ま。かっこよくするには、デザインの才能がないので無理
だとしても、カウンタはもっと増えてほしいなぁ。
 そう思っていた。

 パソコンの画面をみつめるのにも疲れて、部屋のなかを
なんとなく見回してみる。
 ふと視線を惹きつけるものがあった。なにか人の顔のような
ものが、、、。
 それは読者の恐怖体験をマンガにする、というのを売り物に
しているマンガ雑誌の表紙に書かれた、憎悪にゆがんだ女性
の顔だった。
 なぜか惹きつけられる。
 こんなものジッと見つめていたら、あとでトイレに行くときに
苦労しそうだ。とは思いながらも、疲れているせいか、視線を
はずせなかった。
 !!
 そうか! これだ!
 あるアイデアがひらめき、T子は今しがた更新したばかりの
ホームページをまた、一生懸命更新しはじめた。

 そうして、出来上がったのが「百物語掲示板」だ。
 掲示板を使って、みんなの恐怖体験談を募集するという、趣向
だった。
 T子のアイデアはみごと成功し、カウンタも毎日千人単位で
増加していった。

 ...そこまではよかったのだ。

 もともとT子にも、インターネットで知り合った友達が
何人もいた。しかし、「百物語」を始めてからというもの、
ネット友達がひとり、またひとりとネットから消えていくの
だった。
 あるものは体調をくずしたり、あるいは、なんの連絡もなく
突然に、、、姿を消していった。
 最初のうちは、T子もなんの疑念も持っていなかったのだが、
そのなかでも、毎日チャットやメールのやり取りをしていて、
一番仲のよかったネット友達が、奇妙なメールを一通残して
消えたことから、不思議に思うようになった。
 ”何かがおかしい、、、”
 友人からの最後のメッセージはそれだけだった。
 おかしい、、、
 T子もそう思った。だいたい「百物語」をはじめてから、
消えていったネット友達は両手でもあまるのである。ネットを
はじめてから日の浅いT子にしてみれば、大変な数である。
 しかし、何が原因なのかはT子にもわからなかった。
 ただ、おかしいと思うだけである。
 しょうがないので、ネットで知り合った、T子が”師匠”と
呼ぶ人物に相談メールを書くことにした。
 この”師匠”は世の中の役に立つことは何も知らないが、
なんの役にも立たないようなことなら、なんでも知っている
という人物で、ある意味、こういう場合にはたよりにはなる
のであった。(こういう時にしか役に立たない、ともいう)
 ”師匠、何かがおかしいのです、、、”
 そこまで書いて、突然なぜかあの掲示板が問題のような
気がしてきた。それは、自分で思いついたというよりも、
頭のなかに直接、誰かがアドバイスしてきたような奇妙な
感覚だった。
 だが、その考えはこの場合、あたっているような気がした。
 メールを書くのも途中のままで、いそいで自分のホームページ
をのぞいてみる。
 掲示板にたどり着き、過去ログをよく読んでみる。

 今まで読み慣れたはずの、怪談話がいつもと違っていた。
 そこに書かれていたのは、ずいぶん前にネットから消えて
いったはずの友達たちの名前で、みんな同じようなことを
書いてるのだった。
 みんなが書いているのは、ひとりひとり多少の違いは
あるが、だいたい次のようなことである。
 ”...おかしいと思ってはいたが、その原因がこの
掲示板にあるなんて、考えもしなかった。。。だが、
みんな、どうしてもこの掲示板に引き寄せられてしまう
ようだ。。。頭のなかで誰かがささやくのだ。ここへ
来い、と”
 ”。。。誰もが引き寄せられ、、、そうして、消えて
いった友達がどこへ行ったのかようやく気づくのだ。”

 ”われわれはみな、ここにいる!”
 はっ、とT子がわれにかえり、うしろを振り向くのと
同時に、T子に真っ黒な闇が襲いかかり、T子は闇に
のまれて消えていった。
 その友人たちが消えた時とまったく同じように、、、

 そして、次の日、”師匠”の元にT子から一通のメールが
届くのだった。
 ”師匠、何かがおかしいのです、、、”