がん疼痛治療における医療用麻薬の使用について
WHO 方式がん疼痛治療法の 5 原則
- できるだけ経口投与とする。
- 時刻を決めて規則正しく投与する。
- 効力の順に鎮痛薬を選ぶ。
- 個々の患者の痛みが消失する量を求めながら用いる。
- これらの4原則を守ったうえで、細かな点にも注意する。
第1段階 | 第2段階 | 第3段階 |
弱オピオイド コデイン トラマドール |
強オピオイド モルヒネ オキシコドン フェンタニル |
|
非オピオイド鎮痛薬 NSAIDs アセトアミノフェン |
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± 鎮痛補助薬 | ||
軽度の痛み | 軽度〜中等度の痛み | 中等度〜高度な痛み |
- 第1段階では、非オピオイド鎮痛薬であるNSAIDsかアセトアミノフェンのいずれかが用いられる。
- 第2段階では、軽度から中等度の強さの痛みに用いられる弱オピオイド鎮痛薬の投与を行う。非オピオイド鎮痛薬の併用は鎮痛効果の増強が期待できる。弱オピオイドとして、コデインとトラマールが使用されるが、徐放製剤がなく,コデインは1日に4~6回(1回量20~60mg)、トラマドールは1日に4回の定時投与を行い(1 回量25~75mg),レスキューとしては1回量を疼痛時に投与することで、タイトレーションを行う。鎮痛効果の増強として考えると、弱オピオイド間のオピオイドローテーションを考えるより、強オピオイドへのローテーションを検討すべきである。
- 第3段階では、中等度から高度の強さの痛みに用いられる強オピオイド鎮痛薬(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル)の投与を行う。第1段階や第2段階で十分な効果が得られない場合が対象である。非オピオイド鎮痛薬の併用は鎮痛効果の増強が期待できる。レスキューとしてのオピオイド速放製剤が効きにくい痛みは、神経障害性疼痛である可能性を考え、鎮痛補助薬の適応を検討する必要がある。
- 神経損傷などによる痛みのうち、非ステロイド性消炎鎮痛薬やオピオイド鎮痛薬に反応しない疼痛に対しては三環系抗うつ薬、抗けいれん薬などが有効な場合がある。作用機序として、抗うつ薬は下行性抑制系の関与、抗痙攣薬、抗不整脈薬はNaチャネルをブロック、GABA受容体関連薬はカルシウムチャネル(α2δ)をブロックすることが知られており、NMDA受容体拮抗薬は神経障害性の痛みの発生に関与する受容体をブロックすることにより、神経障害性の痛みを和らげる可能性が示唆されている。また、難治性の痛みに対しては、多剤を併用することが多いが、併用する際に注意する点は、作用機序が同じものをできるだけ併用しないことである。
- 神経圧迫などによる疼痛に対しては、コルチコステロイドとオピオイド鎮痛薬の併用が有効な場合がある。
● 神経障害性疼痛に対する鎮痛補助薬
ステップ1 | ステップ2 | ステップ3 | ステップ4 | ステップ5 |
脊髄鎮痛法 | ||||
NMDA受容体拮抗薬 | ||||
三環系抗うつ薬と 抗けいれん薬の併用 |
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三環系抗うつ薬 または 抗けいれん薬 |
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コルチコステロイド |
WHO ラダーに沿ってがんの痛みを治療する場合に注意しなければならない点は、患者の痛みの強さに見合った鎮痛薬を最初から適応させることである。強度の痛みに対して、軽度の鎮痛薬から順番に開始したのでは、患者にとってはつらいということを知るべきである。がんの痛みは、経時的に増強していくことも多いが、強度の痛みを訴える患者が突然,痛みの外来に紹介されることもある。その場合には、躊躇せず、はじめから速放性の経口、もしくは持続静脈内投与などの非経口強オピオイド鎮痛薬投与法などを用いることにより、患者の痛みを癒すことを目的とすると同時に、その反応性をみることがポイントである。
薬剤 | 基本薬 | 代替薬 |
非オピオイド | アスピリン カロナール(アセトアミノフェン) ブルフェン(イブプロフェン) インテバン(インドメタシ) |
ナイキサン(ナプロキセン) ボルタレン(ジクロフェナック) |
軽度から中等度の強さの |
コデイン | ジヒドロコデイン トラマール(トラマドール ) |
中等度から高度の強さの |
MSコンチン、カディアン、アンペック、ピーガード (モルヒネ) |
オキシコンチン、オキノーム (オキシコンチン |
オピオイド拮抗薬 |
ペンタジン、ソセゴン(ナロキソン) | |
抗うつ薬(鎮痛補助薬) | アミノトリプチリン | トフラニール(イミプラミン) |
抗けいれん薬 (鎮痛補助薬) |
テグレトール(カルバマゼピン) | デパケン、バレリン(バルプロ酸) |
コルチコステロイド (鎮痛補助薬) |
プレドニゾロン デカドロン(デキサメタゾン) |
リンデロン(ベタメタゾン) |
コルチコステロイドは、神経圧迫、脊髄圧迫、頭蓋内圧亢進による痛みに効果が ある。骨転移痛に対しては非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)に代用または 併用してもよい。NSAIDsと併用すると副作用としての胃の障害や体液貯溜の危険性が高まる。
オピオイド鎮痛剤の開始時期
オピオイド鎮痛薬を開始する時期は、痛みの軽減にオピオイド鎮痛薬が必要な時期であって、がんの進行度や生命予後で決めるものではなく、早期からオピオイド鎮痛薬を開始することが麻薬中毒の原因になることはない。また、オピオイド鎮痛薬は、がん治療や神経ブロック、放射線治療などで疼痛が軽減した場合には、減量や中止も可能である。
オピオイド鎮痛剤の必要量と個体差
オピオイド鎮痛薬の投与量は、腫瘍の大きさや転移部位、あるいは病期などによって決めることはできないため、十分な鎮痛に必要な投与量は症例ごとの差が大きいため、個々の患者の鎮痛効果を見ながら増量を行う。
医療用麻薬の使用方法
軽度の痛みであれば、第一段階として非オピオイド鎮痛薬を選択する。
非オピオイド鎮痛薬で鎮痛効果が十分でない場合にはオピオイド鎮痛薬を使用する。非オピオイド鎮痛薬とオピオイド鎮痛薬の併用により、相加的な効果以上の鎮痛効果が得られることがあるため、非オピオイド鎮痛薬とオピオイド鎮痛薬を継続的に併用する場合がある。
十分な鎮痛が得られているがん疼痛患者では、同じ量の鎮痛薬で数週間から数ヶ月以上にわたり鎮痛効果が持続されることがある。オピオイド鎮痛薬は鎮痛がいつも維持されるように定期的な投与を行い、間欠的な痛みや一時的に現れる強い痛みにはレスキュー・ドーズ(臨時追加)を併用する。
非オピオイド鎮痛薬
NSAIDやアセトアミノフェンには、有効限界(一定以上の量を超えるとそれ以上の鎮痛効果は得られなくなる)があることを留意しておく。
NSAIDは、消化性潰瘍の既往や症状がある場合や腎機能障害が見られる場合には、アセトアミノフェンの選択を考慮する。
アセトアミノフェンは抗炎症作用はないが、がんの痛みの治療薬として有用な場合がある。通常、1回500〜1,000mgを使用し、1日の最大投与量は4gを目安にする。※ 通常、1回1,000mgを超えての投与によっては、鎮痛効果の増強は得られない。また、重篤な肝障害が起こる可能性があることに留意する。
効果が十分に得られない場合、速やかにオピオイド鎮痛薬の追加を考慮する。
オピオイド鎮痛剤の種類による使用方法
コデイン
- μ受容体アゴニストで、局所麻酔、鎮咳、および止瀉薬の作用を持つオピオイドである。
- コデインはプロドラッグであり、肝臓で代謝され、一部がモルヒネに変換されて鎮痛効果を発揮する。
- 麻薬に指定されているが、習慣性、耽溺性はモルヒネより弱い。
トラマドール(トラマール)
- トラマドールは、弱いオピオイド鎮痛薬としての作用と中枢神経におけるセロトニン及びノルアドレナリンの再取り込みを抑制することによる鎮痛作用を併せ持っている。
- SSRI等との併用は、セロトニン症候群を引き起こす可能性に注意する。
- 高用量では痙攣発作の副作用があるため、痙攣発作の既往がある場合や高用量を投与する場合には注意する。
- 他のオピオイド鎮痛薬と同様に便秘、眠気、悪心等の副作用が発現する。
モルヒネ(MSコンチン、オプソ、カディアン、アンペック、パシーフ、ピーガード)
- モルヒネは速効性で半減期が短い。塩酸モルヒネ水溶液は、吸収や血中濃度の上昇が速く速効性であり、徐放錠は、吸収や血中濃度の上昇が緩やかである。
- モルヒネは主に肝臓で代謝され、モルヒネ-6-グルクロニド(M6G)およびモルヒネ-3-グルクロニド(M3G)に変換される。M6Gは、オピオイド受容体に対する力価はモルヒネの100倍強いが、BBBの通過性は1/50であるため、最終的には脳内での作用は2倍程度となる。腎機能障害患者ではM6Gが蓄積して鎮静や呼吸抑制などの副作用が生じやすくなることに注意する。M3Gはオピオイドに結合せず、鎮痛作用を持たない。M6Gの副作用は、傾眠、悪心、嘔吐、昏睡、呼吸抑制で、M3Gの副作用は、興奮、ミオクローヌス、知覚過敏、せん妄などである。
- 経口剤で副作用が発現した場合、注射剤へ切り替えることで副作用を軽減できることがある。
- 坐剤はレスキュー・ドーズとして用いることもできる。
オキシコドン(オキシコンチン、オキノーム、オキファスト)
- オキシコドンは主に肝臓で代謝される。
- オキシコドンのoral bioavailabilityは、モルヒネの約30%に対して60〜87%であるため、鎮痛効力はモルヒネの1.5〜2倍である。(経口投与されたオキシコドンは、初回通過時にグルクロン酸抱合を受けにくいため、バイオアベイラビリティーが高い。)
- オキシコドンの代謝物の影響は無視できるため、モルヒネに比べて腎機能障害を持つ患者には使いやすいとされている。
- オキシコドン徐法錠は、モルヒネ徐法錠よりも血中濃度の上昇が早いので、効果発現が速く、タイトレーションが容易である。
タイトレーションとは、低用量から始めたオピオイドを、除痛するために必要な量まで段階的かつ速やかに増量していくこと。デュロテップパッチのような長時間作用型オピオイドは、タイトレーションが難しいので、ベースライン鎮痛薬として使用する。
フェンタニル(デュロテップMTパッチ、フェントステープ、ワンデュロパッチ、イーフェンバッカル、アブストラル舌下錠)
- フェンタニルは鎮痛作用はモルヒネの80倍と鎮痛効力が大きいが、内服すると腸管から吸収された直後の肝臓通過ですべてが分解されて鎮痛効力を失うため、内服しても作用しない。モルヒネと異なり、皮膚から吸収されやすいという特徴を持っている(フェンタニルは経皮的に吸収できる唯一のオピオイド)。
- バッカル錠と舌下錠は口腔粘膜から吸収される。
- モルヒネと比較して、吐き気と眠気が少ない。眠気は投与量の増量によって起こる可能性があるが、48〜72時間以内に減少する。
- フェンタニルは、便秘を引き起こすとされるμ2よりもμ1オピオイド受容体への選択性が高いため、低用量では便秘を起こしにくい。
- 貼付剤は貼付部位を加温すると血中薬物濃度が急激に上昇することに注意する。貼付剤は、1日製剤と3日製剤がある。3日製剤では、貼付3日目に血中薬物濃度が低下して痛みを生じる場合がある。(3日間鎮痛が維持できない時は、増量を行うか1日製剤を考慮する。)
- 貼付剤の使用中のレスキュー・ドーズには、通常、モルヒネまたはオキシコドンの速放製剤を使用する。
- 貼付剤は皮膚や肝機能等の状態により血中薬物濃度が大きく異なることがあり、鎮痛が困難な場合は他剤に切り替えることを考慮する。
- 貼付剤から注射剤へ変更する時は、変更後、痛みの程度や副作用に十分注意する。
痛みのパターンと医療用麻薬の使い方
痛みのパターンには持続痛と突出痛があり、がんの痛みはこの両者が混在するものが多い。痛みの治療は、持続痛を十分コントロール した後に、突出痛の残存があれば対処する。
持続痛の治療
- 定時鎮痛薬として徐放性製剤を開始する。徐放性製剤の鎮痛効果が不十分な場合に備えて速放性製剤をレスキュー・ドーズとして準備する。レスキューには、定時に用いている徐放性製剤と同じ成分のものを用いる。(フェンタニル貼付剤の場合は速放性のモルヒネまたはオキシコドン製剤を用いる。)
- レスキュー1回量は徐放性製剤1日量(内服量に換算)の1/6を目安に設定する。
- 内服速放性製剤は投与後30分〜1時間後に効果が最大となるので、内服1時間後には効果を確認する。
- 持続痛がなく、突出痛が1日2〜3回以下となるまで徐放性製剤を増量する。
突出痛の治療
- 突出痛が頻繁にある場合は徐放性製剤投与量の妥当性を再評価する。
- 持続痛治療に用いたレスキューを使用するが、効果が十分でなく、副作用がなければ1回量を増量する。
レスキュードーズの使い方
オキシコンチン錠とオキノーム散の基本的な使い方
オキノーム散レスキュードーズ(早見表)
オキシコンチン錠 1日投与量 | オキノーム散 1回投与量 |
10mg | 2.5mg |
20mg | 5mg |
40mg | 5〜10mg |
60mg | 10mg |
80mg | 10〜20mg |
120mg | 20mg |
- オキノーム散の1日使用回数の制限はないが、追加使用する場合はオキノーム散又はオキシコンチン錠の投与から1時間以上の間隔を空ける。
- レスキュードーズが1日2回以上必要であったときは、次の日からオキシコンチン錠の増量を考慮する。
- オキシコンチン錠の増量方法には、レスキュードーズで使用したオキノーム散の全量をオキシコンチン錠に加えていく方法、オキシコンチン錠を段階的に増量していく方法等がある。
MSコンチン錠とオプソ内服液・アペック坐剤の基本的な使い方
オプソレスキュードーズ(早見表)
MSコンチン錠 1日投与量 | オプソ内服液 1回投与量 | アンペック坐剤 1回投与量 |
30mg | 5mg | 5mg |
60mg | 10mg | 5mg |
90mg | 15mg | 10mg |
120mg | 20mg | 10mg |
150mg | 25mg | 10mg |
180mg | 30mg | 20mg |
240mg | 40mg | 20mg |
270mg | 45mg | 30mg |
オピオイドローテーション
オピオイドローテーションは、通常、モルヒネ、オキシコドンおよびフェンタニルの間で行われる。ペンタゾシンやブプレノルフィンからモルヒネ、オキシコドン、フェンタニルへの変更は、通常、可能であるが、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルからペンタゾシンや ブプレノルフィンへの変更は、通常、行わない。(鎮痛作用が拮抗される可能性が高い。)
- 痛みのない状況でオピオイドローテーションを行う場合の開始量は、換算等された用量よりも少ない用量(20〜30%減)を考慮する。
- 痛みがある状況でオピオイドローテーションを行う場合の開始量は、換算等された用量よりも多い用量を考慮する。
- 腎機能障害のあるまたはその可能性が疑われる患者に対してモルヒネ製剤に変更する場合は、副作用(傾眠や精神症状、呼吸抑制など)が生じる可能性が高いことに留意する。
- オピオイド鎮痛薬が複数あるいは大量に投与されている状況でのオピオイドローテーションでは、すべてを一度に変更せず段階的に変更することも考慮する。
オピオイドローテーションが必要とされるケース
(1) 副作用が強く継続や増量が困難な場合
例えば高度腎機能障害患者さんでは、モルヒネの副作用が強く現れやすくなるため、モルヒネからオキシコドンやフェンタニルへの変更が有効な場合がある。
(2) 鎮痛効果が不十分な場合
同じオピオイドを投与し続けると、耐性が生じて鎮痛効果が減弱し、増量しても鎮痛効果が得られないことがある。オピオイド間では交叉耐性が不完全なため、オピオイドローテーションにより良好な鎮痛効果が得られる場合がある。
(3) 投与経路の変更が必要な場合
イレウスなどのためにオピオイドの経口摂取が困難になった場合、投与経路の異なる注射剤または貼付剤などに切り換える必要がある。
オピオイドの等価換算表
経 口 ・ 坐 薬 ・ 経 皮 |
MSコンチン(mg/日) 【経口モルヒネ徐放製剤】 |
15 | 30 | 45 | 60 | 90 | 120 | 180 | 240 | 300 | 360 |
アンペック坐剤(mg/日) 【モルヒネ坐剤】 |
40 | 60 | 80 | 120 | 160 | 200 | 240 | ||||
オキシコンチン錠(mg/日) 【オキシコドン徐放製剤】 |
10 | 20 | 30 | 40 | 60 | 80 | 120 | 160 | 200 | 240 | |
デュロテップMTパッチ(mg/3日) 【フェンタニル経皮吸収型】 |
2.1 | 4.2 | 8.4 | 12.6 | 16.8 | 21.0 | 25.2 | ||||
フェントステープ(mg/日) 【フェンタニルクエン酸塩経皮吸収型】 |
1 | 2 | 4 | 6 |
8 | 10 | 12 | ||||
ワンデュロパッチ(mg/日) 【フェンタニル経皮吸収型】 |
0.84 | 1.7 | 3.4 | 5 | 6.7 | 8.4 | 10 | ||||
コデイン(mg/日) | 180 | ||||||||||
トラマール(mg/日) 【トラマドール】 |
150 |
300 | |||||||||
レペタン坐剤(mg/日) 【ブプレノルフィン】 |
0.6 | 1.2 | |||||||||
注 射 |
モルヒネ(mg/日) | 30 | 60 | 120 | 180 | ||||||
オキファスト注(mg/日) 【オキシコドン】 |
30 | 1.2 | 2.4 | 3.6 | |||||||
フェンタニル(mg/日) | 0.6 | 60 | 120 | 180 |
オキシコンチン錠とフェンタニル貼付剤の計算上の対応量を示したものであり、臨床においては、効果と副作用を観察しながら用量調節するなど、慎重な切替を行うこと。
初回貼付後及び増量後少なくとも2日間は増量を行わないこと。
デュロテップMTパッチ16.8mg、フェントステープ8mgは初回貼付用量としては推奨されていない。
副作用と対策
悪心・嘔吐
- 通常はオピオイド投与初期、あるいは増量時に起こることが多く、数日以内に耐性を生じ、症状が治まってくることも多い。
- 振り向いたり、起きあがるなど頭が動いたことによる悪心 やめまいを伴う悪心の場合には抗ヒスタミン薬の投与を考慮する。
薬物(ジキタイリス、抗菌剤、鉄剤、抗がん剤など)、消化器疾患(胃潰瘍、消化管閉塞、便秘など)、電解質異常(高Ca血症、低Na血症など)、感染症、高血糖、中枢神経系の病変(脳転移、癌性髄膜炎など)、放射線療法など。
● オピオイド以外の嘔気・嘔吐の予防と治療薬
主な作用部位 | 薬剤名 |
CTZ(ドパミン受容体拮抗剤) | ノバミン(プロクロルペラジン) |
セレネース(ハロペリドール) | |
コントミン(クロルプロマジン) | |
前庭器(抗ヒスタミン剤) | トラベルミン(ジフェンヒドラミン/ジプロフィリン) |
ポララミン(マレイン酸クロルフェニラミン) | |
消化管(消化管運動亢進剤) | プリンペラン(メトクロプラミド) |
ナウゼリン(ドンペリドン) | |
CTZ・VCなど(非定型抗精神病薬) | ジプレキサ(オランザピン) |
リスパダール(リスペリドン) |
便秘
- オピオイド鎮痛薬の投与開始時には予防的な便秘への対策に留意する。
- モルヒネやオキシコドンの投与時は緩下剤の継続的な併用を考慮する。
癌によるもの(直接の影響) | 消化管閉塞(腸管内の腫瘍、腹部・骨盤腫瘍からの外圧迫)、脊髄損傷、高カルシウム血症 |
癌によるもの(二次的な影響) | 経口摂取不良、低繊維食、脱水、虚弱、活動性の低下、混乱、抑うつ、排便環境の不整備 |
薬剤性 | オピオイド、スコポラミン臭化水素塩、フェノチアジン系抗精神病薬、三環系抗うつ薬、制酸剤(Ca、Al含有)、利尿剤、抗けいれん薬、鉄剤、降圧剤、抗がん剤 |
併存疾患 | 糖尿病、甲状腺機能低下症、高カリウム血症、腸ヘルニア、憩室、直腸ヘルニア、裂肛、肛門狭窄、脱肛、痔瘻、腸炎 |
眠気
- 眠気はオピオイドの投与初期または増量時(投与当日から3日以内)にみられ、1〜2週間以内に耐性をもつことが多く、個人差がある。
- 痛みがなく眠気が極めて強い場合は、オピオイド鎮痛薬の過量投与の可能性を疑い減量を考慮する。
- モルヒネやオキシコドンで眠気が強いと考えられる場合にはフェンタニルへのオピオイドローテーションを考慮する。
- オピオイド鎮痛薬以外の原因の可能性(高カルシウム、低ナトリウム、貧血、感染症、脳転移など)に注意する。
● オピオイド服用中の眠気の原因
- 痛み軽減により睡眠不足が解消されたことによる眠気
- 投与初期あるいは増量時に発現する眠気
- 過量投与
呼吸抑制
- 傾眠がみられる場合は、呼吸抑制の初期症状と考え、オピオイド鎮痛薬の投与量の減量などを考慮する。
- 重篤な呼吸抑制の場合は気道を確保したうえ、必要に応じオピオイド拮抗薬(ナロキソン)の投与を考慮する。ナロキソンは、通常、1回1/10アンプル程度(0.02mg)を目安として投与する。(呼吸抑制消失の持続時間に注意が必要であり、呼吸数をみながら反復投与を行う。疼痛が出現するまで投与する必要はない。)
せん妄
- 治療薬としてハロペリドールなどがあるが、オピオイド鎮 痛薬の投与開始に伴って生じたと考えられる場合などは、当該オピオイド鎮痛薬の減量・中止あるいはオピオイドロー テーションを考慮する。
- オピオイド鎮痛薬以外の原因の可能性(高カルシウム、低ナトリウム、貧血、感染症、脳転移など)に注意する。
がん患者さんにおいて頻度の高い精神症状であり、術後の30〜40%、高齢入院患者さんの10〜40%、終末期患者さんの30〜90%程度に認められる。モルヒネ単独せん妄になる頻度は1〜3%である。
オピオイドによるせん妄に対しては、抗精神病薬の投与、オピオイドローテーション、オピオイドの投与経路の変更のいずれかを行う。効果不十分な場合は、神経ブロックなどによるオピオイド減量・中止を検討する。
分類 |
薬剤名 | |
定型抗精神病薬 | セレネース(ハロペリドール) | |
非定型抗精神病薬 | セロトニン・ドパミン遮断薬(SDA) | リスパダール(リスペリドン) |
ルーラン(ペロスピロン) | ||
ロナセン(ブロナンセリン) | ||
多元受容体作用抗精神病薬(MARTA) | セロクエル(クエチアピン) | |
ジプレキサ(オランザピン) | ||
ドパミン部分作動薬(DSS) | エビリファイ(アリピプラゾール) |
抗精神病薬の有効性はどの薬剤もほぼ同等であると考えられるため、選択にあたってはその薬剤のもつ鎮静作用の強弱、有害事象のプロフィール、作用時間などを考慮する。
排尿困難・尿閉
- 通常、オピオイド鎮痛薬の投与中止を必要とすることはないが、排尿障害は重篤な場合、尿閉に至ることがあることに留意する。
オピオイド受容体の特徴
分類 | 生理作用 | |
μオピオイド受容体 | μ1 | 鎮痛、悪心・嘔吐、多幸感、掻痒感、縮瞳、閉尿 |
μ2 | 鎮痛、鎮静、呼吸抑制、身体・精神依存、消化管運動抑制、鎮咳 | |
κオピオイド受容体 | 鎮痛、鎮静、身体違和感、気分不快、興奮、幻覚、鎮咳、呼吸抑制、縮瞳、利尿 | |
δオピオイド受容体 | 鎮痛、身体・精神依存、呼吸抑制 |
※ κ受容体はμ受容体やδ受容体の活性化による種々の副作用を調節する役割を果たしているものと考えられます。
薬剤名 | オピオイド受容体 |
||
μ | κ | δ | |
モルヒネ(MSコンチンなど) | ◎ | ◯ | ◯ |
オキシコドン(オキシコンチンなど) | ◎ | ||
フェンタニル(デュロテップMTパッチなど) | ◎ | ◯ | ◯ |
コデイン | ◯ | ||
トラマドール(トラマール) | △ | ||
メサドン(メサペイン) | ◎ | ||
ペンタゾシン(ペンタジンなど) | △ | ◎ | × |
ブプレノルフィン(ノルスパンテープ、レペタン坐剤) | △ | × | ◎ |
ナルフラフィン(レミッチなど) | ◯ | ||
ナロキソン | × | × | × |
タペンタドール(タペンタ) |
◎:強作用性オピオイド:天井効果がないオピオイド
◯:弱作用性オピオイド:天井効果があるオピオイド
△:部分作動性
×:拮抗
鎮痛補助薬として処方される薬剤
作用機序 | 薬効分類 | 主な医薬品名 | 副作用 |
ノルアドレナリン・セロトニン作動性神経系の賦活 |
三環系抗うつ薬 | トリプタノール、アモキサン、ノリトレン |
眠気、口渇、便秘、排尿障害、霧視 |
セロトニン作動性神経系の賦活 | SSRI | パキシル、デプロメール、ルボックス | 嘔気、食欲不振、頭痛、不眠、不安、興奮 |
Na+チャネルの阻害 | 局所麻酔薬 | キシロカイン | 不整脈、耳鳴、興奮、痙攣、無感覚 |
抗不整脈薬 | メキシチール |
嘔気、食欲不振、腹痛、胃腸障害 | |
タンボコール |
浮腫性めまい、頭痛 | ||
抗痙攣薬 | テグレトール | ふらつき、眠気、めまい、骨髄抑制 | |
Ca2+チャネルの阻害 | 抗痙攣薬 | ガバペン | 眠気、ふらつき、めまい、末梢性浮腫 |
神経障害性疼痛治療薬 | リリカ | 浮動性めまい、傾眠、浮腫 | |
GABA作動薬 | 抗痙攣薬 | セレニカ、デパケン、バレリン | 眠気、嘔気、肝機能障害、高アンモニア血症 |
ランドセン、リボトリール | ふらつき、眠気、めまい、運動失調 | ||
NMDA受容体の阻害 | 全身麻酔薬 | ケタラール | 眠気 、ふらつき、めまい、悪夢、嘔気、せん妄、痙攣(脳圧亢進) |
ステロイド薬 | 抗炎症薬 | リンデロン、デカドロン |
高血糖、骨粗鬆症、消化性潰瘍、易感染性、満月様願望 |
骨・Ca代謝を賦活 | ビスホスホネート | ゾメタ、アレディア | 顎骨壊死、急性腎不全、うっ血性心不全、発熱、関節痛 |
アセチルコリン受容体の阻害 | ブスコパン | 抗痙攣薬 |
心悸亢進、口内乾燥、眼の調節障害 |
ソマトスタチンアナログ製剤 | サンドスタチン | 代謝調整薬 | 注射部位の硬結・発赤・刺激感 |