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後拾遺和歌集

佐々木弘綱、男 信綱 標註
日本歌學全書 第四編 博文館 1891.2.22、三版 1905.6.15
〔原注〕(*入力者注)

   詞セ  序文  第1 春上  第2 春下  第3 夏  第4 秋上                                  
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日本歌學全書 第四

詞セ(*詞セのうち、後拾遺集の分のみ掲出。)

後拾遺集

後拾遺集の時代
同撰者
後拾遺集は、白河院の應コ三年九月十六日、中納言通俊卿撰進せらる。これよりさき、承保二年九月に、此集を撰ぶべきよし、勅命をうけたまはれりといへども、公務にさまたげられ、數年を經て、終に應コ三年九月に撰び終り、十月中旬に奏覽せられたり。さて其年十一月堀河院受禪の後披露ありて、あくる年寛治元年に申し出して、こゝかしこ直されたりとぞ。
同題號
後拾遺集と名づけしは、只後の拾遺集といふ事なるべし。たとへば日本紀ありて日本後紀あり、續日本紀ありて續日本後紀あり、漢書ありて後漢書あるたぐひ、和漢に其ためしいと多かり。
同序文
序文には、後拾遺集を撰びし故よし、公務しげくて勅命をうけし後九年の間え撰ばざりし事、近世の人の歌を撰べる事、万代集(*ママ)・三代集及私撰の集の事などありて、通俊卿の記されしなり。
同當時の批評
難後拾遺の事
此集を撰ばれし當時、種々の誹謗ありし由は、袋草子に、「後拾遺は末代規模の集也。然りといへども、彼時は種々の誹謗あり。先序別樣也。次にョ綱の歌、させる事なきを多く、是を入る云々。予按[レ]之不當なり。件の人の歌皆以染[二]汗膽[一]。これ尊[レ]耳卑[レ]目之誤歟。又號[二]小鰺集[一]。又難後拾遺といふ物あり。世以稱[二]經信卿之所爲[一]。而近年俊頼朝臣の息子僧俊惠相語云、吾妹女房逝去之後、彼遺物を開き見る所、故頭遺草少々、其中有[二]件難後拾遺之草案[一]。故頭之手跡也。若彼所爲歟云々。予按[レ]之若以[二]帥口状[一]執筆之間草歟」とあり。此難後拾遺は今も世に傳はりて一册の書なり。
八雲御抄云、後拾遺集撰ばれし折、經信卿をおきながら、通俊是をうけたまはれるは、末代の不審なり。然れども此事故ある事なり。彼集は天氣よりおこらず。通俊是を申しおこなへりと云々。又袋草子にも私に是を撰びて、後に御景色をとる云々とあり。されば古くよりかゝるいひつたへも有しなるべし。(*後半に相摸集の説明あり。省略。)


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序文

我君の天下しろしめしてよりこのかた、四の海浪の聲きこえず、九の國みつぎ物たゆる事なし。
おほよそ日のうちによろづのことわざ多かる中に、花の春・月の秋、折につけ事にのぞみてむなしくすぐしがたくなんおはします。これによりて、近くさぶらひ遠くきく人、月にあざけり風にあざむくことたえず、花をもてあそび、鳥をあはれまずといふことなし。
つひにおほんあそびのあまりに、しき嶋のやまと歌あつめさせたまふ事あり。拾遺集にいらざる中頃のをかしき言の葉、もしほ草かきあつむべきよしなんありける。
仰をうけたまはれる我ら、あしたにみことのりをうけたまはり、ゆふべにのべ給ふ事、まことにしげし。此仰心にかゝりて思ひながら、年をおくる事、こゝのかへりの春秋になりにけり。
いぬる應コのはじめの年の夏、みな月の二十日あまりの頃ほひ、やくらのつかさにそなはりて、五日の暇もさまたげなし。そのかみの仰を、老曾の森に思う給へてちり/〃\なることの葉かき出る中に、いそのかみふりにたる事は、古今・後撰・拾遺集にのせて、一つも殘らず。其外の歌、秋の虫のさせるふしなく、芦間の船のさはり多かれど(*ママ)、中頃より此かた、今にいたるまでの歌の中に、とりもてあそぶべきもあり。
天曆の末より今日にいたるまで、世は十つぎあまり一つぎ、年は百とせあまりみそぢになん過にける。住吉の松久しく、あらたまの年も過て、濱のまさごの數しらぬまで、家々の言の葉多くつもりにけり。
事を撰ぶ道、すべらぎのかしこきしわざとてもさらず。ほまれをとる時、山がつのいやしきこととてもすつる事なし。すがた秋の月のほがらかに、ことば春の花のにほひあるをば、千歌二百ふたもゝちとをあまり八を撰びて、二十卷はたまきとせり。名づけて後拾遺和歌集といふ。
おほよそ古今・後撰二つの集に入たるともがらの家集をば、世もあがり人もかしこくて、難波のよしあし定めん事もはゞかりあれば、これにのぞきたり。
昔、梨壺のいつゝの人といひて、歌にたくみなるものあり。いはゆる大中臣能宣、C原輔、源順、紀時文、坂上望城等これなり。さきに歌のこゝろをえて、呉竹のよゝに、池水のいひふるされたる人なり。これらの人の歌をさきとして、今の世のことを好むともがらにいたるまで、めにつき心にかなふをばいれたり。世にある人きく事をかしこしとし、見る事をいやしとすることわざによりて、近き世の歌に心をとゞめんことかたくなんあるべき。しかはあれど、後みん爲に、吉野川よしといひながさん人に、あふみのいさら川のいさゝかにこの集を撰べり。
此事今日にはじまれるにあらず。ならの帝は万葉集二十卷をえらびて、つねのもてあそびものとし給へり。かの集の心は、やすきことをかくして、かたき事をあらはせり。そのかみのこと今の世にかはなずして、まどへる者多し。延喜のひじりの帝は、万葉集の外の歌二十卷を撰びて、世に傳へ給へり。いはゆる今の古今和歌集是なり。村上のかしこき御代には、又古今和歌集にいらざる歌二十卷を撰び出て、後撰集となづく。又花山の法皇はさきの二の集にいらざる歌をとりひろひて、拾遺集と名づけ給へり。かの四の集は、言の葉はぬひ物のごとくにて、心は海よりも深し。
此外大納言公任卿みそぢあまり六の歌人をぬき出て、かれがたへなる歌、もゝちあまり五十いそちをかきいだし、又十あまり五つがひの歌を合せて世につたへたり。しかるのみにあらず、やまともろこしのをかしきこと二卷を撰びて、物につけ事によそへて、人の心をゆかさしむ(*ママ)。又こゝのしなのやまと歌を撰びて人にさとし、我心にかなへる歌一卷をあつめて、深き窓にかくす集といへり。今もいにしへも、すぐれたる中にすぐれたる歌をかき出して、こがねの玉の集となん名づけたる、其言葉名にあらはれて、其歌なさけ多し。おほよそ此六くさの集は、かしこきもいやしきも、知れるもしらざるも、玉くしげあけくれの心をやるなかだちとせずといふことなし。
又近く能因法師といふものあり。心花の山の跡を願ひて、言葉人にしられたり。わが世にあひとしあひたる人の歌をえらびて、玄々集と名づけたり。これらの集にいりたる歌は、海士のたく繩くりかへし、おなじことをぬきいづべきにもあらざれば、此集にのする事なし。
うるはしき花の集といひ、足引の山伏がしわざと名づけ、うゑ木のもとの集といひあつめて言の葉いやしく、姿だみたる物あり。これらの類は、誰がしわざともしらず。又歌のいでどころ詳ならず。たとへば山河の流を見て、水上ゆかしく、霧のうちの梢を望みて、いづれのうゑ木と知らざるが如し。しかれば、これらの集にのせたる歌は、かならずしもさらず。つちの中にこがねをとり、石の中に玉のまじはれる事あれば、さもありぬべき歌は所々のせたり。
此内に、みづからの拙なき言の葉も、度々の仰そむきがたくして、はゞかりの關のはゞかりながら、所々のせたる事あり。此集もてやつすなかだちとなんあるべき。
おほよそ此外の歌、み熊野の浦のはまゆふ世を重ね、白浪のうちきく事、鴫のはねがき書あつめたる色ごのみの家々にあれど、埋木のかくれて見る事かたし。今の撰べる心は、それしかにはあらず。身はかくれぬれど名はくちせぬ物なれば、いにしへも今も、情ある心ばせを、行末にも傳へん事を思ひて撰べるならし。しからずは、たへなる言の葉も、風の前にちりはて、光ある玉の言葉も、露とともに消えうせなんことによりて、すがの根の長き秋の夜、つくばねのつく/〃\と、白糸の思ひ乱れつゝ、三年になりぬれば、同じきみつの年のくれの秋のいさよひのころほひ、撰びをはりぬることになんありける。


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後拾遺和歌集第一

春 上

1
正月一日によみ侍りける
小大君
小大君
いかにねて 起る朝に いふことぞ 昨日を去年と 今日を今年と
いかにねて おくるあしたに いふことぞ きのふをこぞと けふをことしと
1
春上
2
みちのくに侍りける時、春たつ日よみ侍りける
光朝法師母
光朝法師母
出て見よ 今は霞も たちぬらん 春はこれより すぐとこそきけ
いでてみよ いまはかすみも たちぬらん はるはこれより すぐとこそきけ
1
春上
3
春は東よりきたるといふこゝろをよみ侍りける
源師賢朝臣
源師賢
東路は なこその關 ある物を いかでか春の こえてきつらん
あづまぢは なこそのせきも あるものを いかでかはるの こえてきつらん
1
春上
4
春たつ日よみ侍りける
橘俊綱朝臣
橘俊綱
あふ坂の 關をや春も こえつらん 音窒フ山の けさはかすめる
あふさかの せきをやはるも こえつらん おとはのやまの けさはかすめる
1
春上
5
寛和二年、花山院の歌合によみ侍りける
大中臣能宣朝臣
大中臣能宣
春のくる 道のしるべは みよしのゝ 山にたなびく 霞なりけり
はるのくる みちのしるべは みよしのの やまにたなびく かすみなりけり
1
春上
6
年ごもりに、山寺に侍りけるに、今日はいかゞと人のとひて侍りければよめる
大中臣能宣朝臣
大中臣能宣
人知れず 入ぬと思ひし かひもなく 年も山路を こゆる也けり
ひとしれず いりぬとおもひし かひもなく としもやまぢを こゆるなりけり
1
春上
7
山寺にて、正月に雪のふれるをよめる
平兼盛
平兼盛
雪ふりて 道ふみまよふ 山里に いかにしてかは 春のきつらん
ゆきふりて みちふみまよふ やまざとに いかにしてかは はるのきつらん
1
春上
8
題しらず
加賀左衛門
加賀左衛門
新らしき 春はくれ共 身にとまる 年はかへらぬ 物にぞ有ける
あたらしき はるはくれとも みにとまる としはかへらぬ ものにぞありける
1
春上
9
天暦三年、太政大臣の七十賀し侍ける屏風によめる
大中臣能宣朝臣
大中臣能宣
たづのすむ 澤べの芦の 下根とけ 汀もえいづる 春はきにけり
たづのすむ さわべのあしの しもねとけ みぎわもえいづる はるはきにけり
1
春上
10
一條院の御時、殿上の人々、春の歌とてこひ侍りければよめる
紫式部
紫式部
み芳野は 春のけしきに かすめども むすぼゝれたる 雪の下草
みよしのは はるのけしきに かすめども むすぼほれたる ゆきのしたくさ
1
春上
11
花山院歌合に、霞をよみ侍りける
藤原長能
藤原長能
谷川の 氷はいまだ きえあへぬに 峯のかすみは たな引にけり
たにがはの こほりはいまだ きえあへぬに みねのかすみは たなびきにけり
1
春上
12
題しらず
藤原鱚S臣
藤原隆経
春毎に 野べのけしきの かはらぬは おなじ霞や 立かへるらん
はるごとに のべのけしきの かはらぬは おなじかすみや たちかへるらん
1
春上
13
和泉式部
和泉式部
春がすみ たつやおそきと 山川の 岩まをくゞる おと聞ゆなり
はるがすみ たつやおそきと やまがはの いはまをくぐる おときこゆなり
1
春上
14
鷹司どのゝ七十賀の月次の屏風に、臨時客のきたる所をよめる
赤染衛門
赤染衛門
むらさきの 袖をつらねて きたるかな 春たつ事は 是ぞ嬉しき
むらさきの そでをつらねて きたるかな はるたつことは これぞうれしき
1
春上
15
春臨時客をよめる
小辨
小弁
むれてくる 大宮人は 春をへて かはらずながら めづらしき哉
むれてくる おほみやびとは はるをへて かはらずながら めづらしきかな
1
春上
16
入道前太政大臣、饗し侍りける屏風に、臨時客のかたかきたる所をよめる
藤原輔尹朝臣
藤原輔尹
紫も あけもみどりも うれしきは 春のはじめに きたる也けり
むらさきも あけもみどりも うれしきは はるのはじめに きたるなりけり
1
春上
17
同じ屏風に、大饗のかたかきたる所をよみ侍りける
入道前太政大臣
藤原道長
君ませと やりつる使 きにけらし 野べの雉子は とりやしつ覽
きみませと やりつるつかひ きにけらし のべのきぎすは とりやしつらん
1
春上
18
民部卿泰憲、近江守に侍りける時、三井寺にて歌合し侍りけるによめる
讀人しらず
読人しらず
春立て ふる白雪を うぐひすの 花ちりぬとや いそぎいづらん
はるたちて ふるしらゆきを うぐひすの はなちりぬとや いそぎいづらん
1
春上
19
鶯をよみ侍りける
大中臣能宣朝臣
大中臣能宣
山たかみ ゆきふるすより 鶯の いづるはつ音は けふぞ聞ける
やまたかみ ゆきふるすより うぐひすの いづるはつねは けふぞききける
1
春上
20
正月二日、逢坂にて鶯の聲を聞てよみ侍りける
源兼澄
源兼澄
ふるさとへ 行く人あらば ことづてん けふ鶯の 初音きゝつと
ふるさとへ ゆくひとあらば ことづてん けふうぐひすの はつねききつと
1
春上
21
選子内親王、いつきときこえける時、正月三日、かんだちめあまたまゐりて、梅が枝といふ歌をうたひてあそびけるに、内よりかはらけいだすとてよみ侍りける
讀人しらず
読人しらず
ふりつもる 雪きえがたき やまざとに 春をしらする 鶯のこゑ
ふりつもる ゆききえがたき やまざとに はるをしらする うぐひすのこゑ
1
春上
22
加階申しけるに、たまはらで、鶯のなくをきゝてよみ侍りける
C原元輔
清原元輔
鶯の なく音ばかりぞ きこえける 春のいたらぬ 人のやどにも
うぐひすの なくねばかりぞ きこえける はるのいたらぬ ひとのやどにも
1
春上
23
俊綱朝臣の家にて、春山里に人を尋ぬといふ心をよめる
藤原範永朝臣
藤原範永
たづねつる 宿は霞に うづもれて 谷のうぐひす 一こゑぞする
たづねつる やどはかすみに うづもれて たにのうぐひす ひとこゑぞする
1
春上
24
小野宮太政大臣の家に子日し侍りけるに、よみ侍りける
C原元輔
清原元輔
千年へん 宿の子日の 松をこそ よそのためしに 引んとすらめ
ちとせへん やどのねのひの まつをこそ よそのためしに ひかんとすらめ
1
春上
25
題しらず
和泉式部
和泉式部
ひきつれて けふは子日の 松に又 今千歳をぞ のべにいでつる
ひきつれて けふはねのひの まつにまた いまちとせをぞ のべにいでつる
1
春上
26
正月子日、庭におりて松など手すさびにひき侍りけるをみてよめる
讀人しらず
読人しらず
春の野に 出ぬねの日は ゥ人の 心ばかりを やるにぞありける
はるののに いでぬねのひは もろびとの こころばかりを やるにぞありける
1
春上
27
正月ねの日にあたりて侍りけるに、良暹法師のもとより、子日しになんいづる、いざ、などいひにおこせ侍りけるに、またもおとせで、日くれにければ、よみてつかはしける
賀茂成助
賀茂成助
けふは君 いかなる野べに 子日して 人のまつをば しらぬなる覽
けふはきみ いかなるのべに ねのひして ひとのまつをば しらぬなるらん
1
春上
28
今上六條におはしまして、上達部・うへのをのこどもなど、中嶋にわたりて子日し侍りけるに、よみ侍りける
右大臣北方
従二位隆子
袖かけて 引ぞやられぬ 小松原 いづれともなき 千代の景色に
そでかけて ひきぞやられぬ こまつばら いづれともなき ちよのけしきに
1
春上
29
三條院の御時に、上達部・殿上人など、子日せんとし侍りけるに、齋院の女房、船岡にもの見んとしけるを、とゞまりにければ、そのつとめて齋院に奉り侍りける
堀河右大臣
源顕房
とまりにし 子日の松を 今日よりは ひかぬ例に ひかるべき哉
とまりにし ねのひのまつを けふよりは ひかぬためしに ひかるべきかな
1
春上
30
題しらず
民部卿經信
源経信
淺みどり 野べの霞の たなびくに けふの小松を まかせつる哉
あさみどり のべのかすみの たなびくに けふのこまつを まかせつるかな
1
春上
31
承暦三年内裏歌合によみ侍ける
左近中將公實
西園寺公実
君が代に ひきくらぶれば 子日する 松の千年も かずならぬ哉
きみがよに ひきくらぶれば ねのひする まつのちとせも かずならぬかな
1
春上
32
正月七日、子日にあたりて雪ふり侍りけるによめる
伊勢大輔
伊勢大輔
人はみな 野べの小松を 引に行く けふの若菜は 雪やつむらん
ひとはみな のべのこまつを ひきにいく けふのわかなは ゆきやつむらん
1
春上
33
正月七日、卯日にあたりて侍りけるに、今日は卯杖つきてやなど、道宗朝臣のもとよりいひおこせて侍りければ、よめる
伊勢大輔
伊勢大輔
う杖つき つまゝほしきは 玉さかに 君がとふひの 若菜也けり
うづえつき つままほしきは たまさかに きみがとふひの わかななりけり
1
春上
34
題しらず
大中臣能宣朝臣
大中臣能宣
白雪の まだふるさとの かすが野に いざ打はらひ 若菜摘てん
しらゆきの まだふるさとの かすがのに いざうちはらひ わかなつみてん
1
春上
35
和泉式部
和泉式部
春日野は 雪のみつむと 見しかども おひ出る物は 若菜也けり
かすがのは ゆきのみつむと みしかども おひいづるものは わかななりけり
1
春上
36
後冷泉院御時皇后宮歌合によみ侍りける
中原ョ成妻
中原頼成妻
摘にくる 人は誰とも なかりけり 我しめし野の 若菜なれども
つみにくる ひとはたれとも なかりけり わがしめしのの わかななれども
1
春上
37
正月七日、周防の内侍のもとに遣はしける
藤三位
藤三位
かずしらず かさなるとしを 鶯の 聲するかたの 若菜ともがな
かずしらず かさなるとしを うぐひすの こゑするかたの わかなともがな
1
春上
38
長樂寺にて、故郷の霞の心をよみ侍りける
大江正言
大江正言
山たかみ キの春を 見わたせば たゞ一むらの かすみなりけり
やまたかみ みやこのはるを みわたせば ただひとむらの かすみなりけり
1
春上
39
能因法師
能因法師
よそにてぞ 霞たなびく ふるさとの キの春は みるべかりける
よそにてぞ かすみたなびく ふるさとの みやこのはるは みるべかりける
1
春上
40
題しらず
選子内親王
選子内親王
春はまづ 霞にまがふ 山ざとを たちよりてとふ 人のなきかな
はるはまづ かすみにまがふ やまざとを たちよりてとふ ひとのなきかな
1
春上
41
春、難波といふ所にて網ひくを見てよみ侍りける
藤原節信
藤原節信
はる/〃\と 八重の鹽路に おくあみを たなびく物は 霞也けり
はるばると やえのしほぢに おくあみを たなびくものは かすみなりけり
1
春上
42
題しらず
曾根好忠
曾根好忠
三嶋江に つのぐみ渡る 芦の根の 一よの程に はるめきにけり
みしまえに つのぐみわたる あしのねの ひとよのほどに はるめきにけり
1
春上
43
正月ばかりに、津の國に侍りける頃、人のもとにいひつかはしける
能因法師
能因法師
心あらん 人にみせばや 津の國の 難波わたりの 春のけしきを
こころあらん ひとにみせばや つのくにの なにはわたりの はるのけしきを
1
春上
44
題しらず
讀人しらず
読人しらず
難波がた 浦ふく風に 浪たてば つのぐむ芦の みえみみえずみ
なにはがた うらふくかぜに なみたてば つのぐむあしの みえみみえずみ
1
春上
45
春駒をよめる
權僧正靜圓
権僧正静円
あはづ野の すぐろの薄 つのぐめば 冬立なづむ 駒ぞいばゆる
あはづのの すぐろのすすき つのぐめば ふゆたちなづむ こまぞいばゆる
1
春上
46
長久二年弘徽殿女御歌合し侍りけるに、春駒をよめる
源兼長
源兼長
立はなれ 澤べにあるゝ 春駒は おのがかげをや 友とみるらん
たちはなれ さはべにあるる はるこまは おのがかげをや ともとみるらん
1
春上
47
屏風の繪に、きじのおほくむれゐて、旅人の眺望する所をよめる
藤原長能
藤原長能
かりにこば 行てもみまし かた岡の あしたの原に きゞす鳴也
かりにこば ゆきてもみまし かたをかの あしたのはらに きぎすなくなり
1
春上
48
題しらず
和泉式部
和泉式部
秋までの 命もしらず 春の野に 萩のふるえを やくときくかな
あきまでの いのちもしらず はるののに はぎのふるえを やくときくかな
1
春上
49
後冷泉院御時后の宮の歌合に、殘雪をよめる
藤原範永朝臣
藤原範永
花ならで をらまほしきは 難波江の 芦のわか葉に ふれる白雪
はなならで をらまほしきは なにはえの あしのわかばに ふれるしらゆき
1
春上
50
屏風の繪に、梅の花ある家に男きたる所をよめる
平兼盛
平兼盛
梅が香を たよりの風や 吹つらん 春めづらしく 君がきませる
うめがかを たよりのかぜや ふきつらん はるめづらしく きみがきませる
1
春上
51
ある所の歌合に、梅をよめる
大中臣能宣朝臣
大中臣能宣
梅の花 にほふあたりの 夕暮は あやなく人に あやまたれつゝ
うめのはな にほふあたりの ゆふぐれは あやなくひとに あやまたれつつ
1
春上
52
春の夜のやみはあやなしといふ事をよみ侍りける
前大納言公任
藤原公任
春の夜の やみにしなれば 匂ひくる 梅より外の 花なかりけり
はるのよの やみにしなれば におひくる うめよりほかの はななかりけり
1
春上
53
題しらず
大江嘉言
大江嘉言
梅の香を 夜はの嵐の 吹ためて まきの板戸の あくるまちけり
うめのかを よはのあらしの ふきためて まきのいたどの あくるまちけり
1
春上
54
村上御時、御前の紅梅を女藏人どもによませさせたまひけるに、かはりてよめる
C原元輔
清原元輔
梅の花 香はこと/〃\に 匂はねど うすくこくこそ 色は咲けれ
うめのはな かはことごとに にほはねど うすくこくこそ いろはさきけれ
1
春上
55
山里にすみ侍ける頃、梅花を詠る
讀人しらず
読人しらず
我やどの 垣根のうめの うつり香に 獨ねもせぬ 心地こそすれ
わがやどの かきねのうめの うつりがに ひとりねもせぬ ここちこそすれ
1
春上
56
題しらず
前大納言公任
藤原公任
我宿の 梅のさかりに くる人は おどろくばかり 袖ぞにほへる
わがやどの うめのさかりに くるひとは おどろくばかり そでぞにほへる
1
春上
57
和泉式部
和泉式部
春はたゞ 我宿にのみ 梅さかば かれにし人も 見にときなまし
はるはただ わがやどにのみ うめさかば かれにしひとも みにときなまし
1
春上
58
山家梅花をよめる
賀茂成助
賀茂成助
うめの花 垣根に匂ふ 山ざとは ゆきかふ人の こゝろをぞ見る
うめのはな かきねにほふ やまざとは ゆきかふひとの こころをぞみる
1
春上
59
春風夜芳といふ心をよめる
藤原顯綱朝臣
藤原顕綱
梅の花 かばかり匂ふ 春の夜の やみは風こそ うれしかりけれ
うめのはな かばかりにほふ はるのよの やみはかぜこそ うれしかりけれ
1
春上
60
梅花を折てよみ侍りける
素意法師
素意法師
梅がえを をればつゞれる 衣手に 思ひもかけぬ 移り香ぞする
うめがえを をればつづれる ころもでに おもひもかけぬ うつりがぞする
1
春上
61
大皇太后、東三條にて后にたゝせ給ひけるに、家の紅梅をうつしうゑられて、花の盛にしのびにまかりて、いと面白くさきたる枝にむすびつけ侍りける
辨乳母
弁乳母
かばかりの にほひなりとも 梅の花 賤が垣根を 思ひわするな
かばかりの にほひなりとも うめのはな しづがかきねを おもひわするな
1
春上
62
題しらず
大江嘉言
大江嘉言
我宿に うゑぬばかりぞ 梅花 あるじなりとも かばかりぞみん
わがやどに うゑぬばかりぞ うめのはな あるじなりとも かばかりぞみん
1
春上
63
C基法師
清基法師
風ふけば をちの垣根の 梅の花 香は我やどの 物にぞありける
かぜふけば をちのかきねの うめのはな かはわがやどの ものにぞありける
1
春上
64
道雅三位の八條の家の障子に、人の家に梅の木ある所に、水流れて客人來れる所をよめる
藤原經衡
藤原経衡
たづねくる 人にもみせん 梅の花 ちるとも水に 流れざらなん
たづねくる ひとにもみせん うめのはな ちるともみずに ながれざらなん
1
春上
65
水邊梅花といふこゝろを
平經章朝臣
平経章
すゑむすぶ 人の手さへや 匂ふらん 梅の下ゆく 水のながれは
すゑむすぶ ひとのてさへや にほふらん うめのしたゆく みずのながれは
1
春上
66
長樂寺にすみ侍りける頃、二月ばかりに人のもとにいひつかはしける
上東門院中將
上東門院中将
おもひやれ 霞こめたる 山ざとに 花まつほどの 春のつれ/〃\
おもひやれ かすみこめたる やまざとに はなまつほどの はるのつれづれ
1
春上
67
題しらず
小辨
小弁
ほに出し 秋とみしまに 小山田を 又うちかへす 春はきにけり
ほにいだし あきとみしまに をやまだを またうちかへす はるはきにけり
1
春上
68
歸雁をよめる
赤染衛門
赤染衛門
かへる雁 雲ゐはるかに 成ぬなり またこん秋も 遠しと思ふに
かへるかり くもゐはるかに なりぬなり またこんあきも とほしとおもふに
1
春上
69
藤原道信朝臣
藤原道信
行かへる 旅に年ふる 雁がねは いくその春を よそにみるらん
ゆきかへる たびにとしふる かりがねは いくそのはるを よそにみるらん
1
春上
70
馬内侍
馬内侍
とゞまらぬ 心ぞ見えん 歸るかり 花のさかりを 人にかたるな
とどまらぬ こころぞみえん かへるかり はなのさかりを ひとにかたるな
1
春上
71
津守國基
津守国基
うす墨に かく玉づさと 見ゆる哉 かすめる空に 歸るかりがね
うすずみに かくたまづさと みゆるかな かすめるそらに かへるかりがね
1
春上
72
辨乳母
弁乳母
折しもあれ いかにちぎりて 雁がねの 花の盛に 歸りそめけん
をりしもあれ いかにちぎりて かりがねの はなのさかりに かへりそめけん
1
春上
73
屏風に、二月山田うつ所に、かへる雁などある所をよみ侍りける
大中臣能宣朝臣
大中臣能宣
雁がねぞ 今日かへるなる 小山田の 苗代水の ひきもとめなん
かりがねぞ けふかへるなる をやまだの なはしろみずの ひきもとめなん
1
春上
74
天コ四年内裏歌合に、柳をよめる
坂上望城
坂上望城
あらたまの 年をへつゝも 柳の 糸はいづれの 春かたゆべき
あらたまの としをへつつも あをやぎの いとはいづれの はるかたゆべき
1
春上
75
柳拂池水といふ心をよめる
藤原經衡
藤原経衡
池水の みくさもとらで 柳の 拂ふしづえに まかせてぞ見る
いけみずの みくさもとらで あをやぎの はらふしづえに まかせてぞみる
1
春上
76
題しらず
藤原元眞
藤原元真
あさみどり みだれてなびく 柳の 色にぞ春の 風もみえける
あさみどり みだれてなびく あをやぎの いろにぞはるの かぜもみえける
1
春上
77
二月ばかり、良暹法師のもとに、ありやと音づれて侍りければ、人々具して花見になん出ぬときゝて、常はいざなふ物をと思ひて、尋ねて遣はしける
藤原孝善
藤原孝善
春がすみ へだつる山の 麓まで おもひもしらず ゆくこゝろ哉
はるがすみ へだつるやまの ふもとまで おもひもしらず ゆくこころかな
1
春上
78
人々花見にまかりけるを、かくともつげ侍らざりければ、つかはしける
藤原鱚S朝臣
藤原隆経
山ざくら 見にゆく道を へだつれば 人の心ぞ かすみなりける
やまざくら みにゆくみちを へだつれば ひとのこころぞ かすみなりける
1
春上
79
二月のころほひ、花見に俊綱朝臣の伏見の家に人々まかれりけるに、たれとも知らせで、さしおかせて侍りける
皇后宮美作
皇后宮美作
うらやまし いる身ともがな 梓弓 ふしみの里の 花のまとゐに
うらやまし いるみともがな あづさゆみ ふしみのさとの はなのまとゐに
1
春上
80
花見にまかりけるに、嵯峨野をやけるを見てよみ侍りける
賀茂成助
賀茂成助
小萩さく 秋まであらば 思ひ出ん さが野を燒し 春はその日と
こはぎさく あきまであらば おもひいでん さがのをやきし はるはそのひと
1
春上
81
題しらず
永源法師
永源法師
櫻花 さかばちりなんと 思ふより かねても風の いとはしき哉
さくらばな さかばちりなんと おもふより かねてもかぜの いとはしきかな
1
春上
82
中原致時
中原致時
うめが香を 櫻の花に にほはせて 柳のえだに さかせてしがな
うめがかを さくらのはなに にほはせて やなぎのえだに さかせてしがな
1
春上
83
橘元任
橘元任
あけばまづ 尋ねにゆかん 山櫻 こればかりだに 人におくれじ
あけばまづ たづねにゆかん やまざくら こればかりだに ひとにおくれじ
1
春上
84
一條院御時、殿上の人々花見にまかりて、女のもとに遣はしける
源雅通朝臣
源雅通
折ばをし をらではいかゞ 山櫻 今日をすぐさず 君にみすべき
をらばをし をらではいかが やまざくら けふをすぐさず きみにみすべき
1
春上
85
かへし
盛少將
盛少将
をらでたゞ かたりにかたれ 山櫻 風にちるだに 惜きにほひを
をらでただ かたりにかたれ やまざくら かぜにちるだに をしきにほひを
1
春上
86
後冷泉院御時、うへのをのこども花見にまかりて、歌などよみて、たかくらの一宮の御かたにもてまゐりて侍りけるに
一宮駿河
一宮駿河
思ひやる 心ばかりは さくら花 たづぬる人に おくれやはする
おもひやる こころばかりは さくらばな たづぬるひとに おくれやはする
1
春上
87
今上御時、殿上の人々花見にまかりける道に、中宮の御方よりとて、人にかはりて遣しける
右大臣北方
右大臣北方
あくがるゝ 心ばかりは やま櫻 たづぬる人に たぐへてぞやる
あくがるる こころばかりは やまざくら たづぬるひとに たぐへてぞやる
1
春上
88
障子の繪に、花多かる山里に女ある所をよみ侍りける
源兼澄
源兼澄
今こんと ちぎりし人の おなじくは 花の盛を すぐさゞらなん
いまこんと ちぎりしひとの おなじくは はなのさかりを すぐさざらなん
1
春上
89
題しらず
祭主輔親
祭主輔親
いづれをか わきてをらまし 山櫻 心うつらぬ えだしなければ
いづれをか わきてをらまし やまざくら こころうつらぬ えだしなければ
1
春上
90
菅原爲言
菅原為言
ゆきとまる 所ぞ春は なかりける はなに心の あかぬかぎりは
ゆきとまる ところぞはるは なかりける はなにこころの あかぬかぎりは
1
春上
91
遠き花を尋ぬといふ心をよめる
小辨
小弁
やま櫻 心のまゝに たづねきて かへさぞ道の ほどはしらるゝ
やまざくら こころのままに たづねきて かへさぞみちの ほどはしらるる
1
春上
92
長樂寺に侍りける頃、齋院より山里の櫻はいかゞとありければ、よみ侍りける
上東門院中將
上東門院中将
にほふらん 花のキの こひしくて をるに物うき 山ざくらかな
にほふらん はなのみやこの こひしくて をるにものうき やまざくらかな
1
春上
93
白河院にて、花を見てよみ侍りける
民部卿長家
民部卿長家
あづまぢの 人にとはばや 白川の 關にもかくや 花はにほふと
あづまぢの ひとにとはばや しらかはの せきにもかくや はなはにほふと
1
春上
94
南殿の櫻を見るといふ事を
高岳ョ言
高岳頼言
見るからに 花の名だての 身なれども 心は雲の 上までぞゆく
みるからに はなのなだての みなれども こころはくもの うへまでぞゆく
1
春上
95
うへのをのこども歌よみ侍りけるに、春心を花によすといふ事をよみ侍りける
大貳實政
大弐実政
春ごとに 見るとはすれど 櫻花 あかでも年の つもりぬるかな
はるごとに みるとはすれど さくらばな あかでもとしの つもりぬるかな
1
春上
96
花を惜むこゝろをよめる
大中臣能宣朝臣
大中臣能宣
さくら花 にほふなごりに 大方の 春さへをしく おもほゆる哉
さくらばな にほふなごりに おほかたの はるさへをしく おもほゆるかな
1
春上
97
河原院にて、遙に山櫻を見て詠る
平兼盛
平兼盛
道とほみ 行てはみねど さくら花 心をやりて 今日はかへりぬ
みちとほみ ゆきてはみねど さくらばな こころをやりて けふはかへりぬ
1
春上
98
夜思櫻といふ心をよめる
能因法師
能因法師
櫻さく 春はよるだに なかりせば ゆめにも物は 思はざらまし
さくらさく はるはよるだに なかりせば ゆめにもものは おもはざらまし
1
春上
99
櫻を植おきてぬしなくなり侍りにければ、よめる
讀人しらず
読人しらず
うゑおきし 人なき宿の 櫻花 にほひばかりぞ かはらざりける
うゑおきし ひとなきやどの さくらばな にほひばかりぞ かはらざりける
1
春上
100
遠き所にまうでゝ歸る道に、山の櫻を見やりてよめる
和泉式部
和泉式部
キ人 いかにと問はゞ 見せもせん かの山ざくら 一えだもがな
みやこびと いかにととはば みせもせん かのやまざくら ひとえだもがな
1
春上
101
題しらず
和泉式部
和泉式部
人も見ぬ やどに櫻を うゑたれば 花もてやつす 身とぞ成ぬる
ひともみぬ やどにさくらを うゑたれば はなもてやつす みとぞなりぬる
1
春上
102
和泉式部
和泉式部
我宿の 櫻はかひも なかりけり あるじからこそ 人も見にくれ
わがやどの さくらはかひも なかりけり あるじからこそ ひともみにくれ
1
春上
103
道命法師
道命法師
花見にと 人は山べに 入はてゝ 春はみやこぞ さびしかりける
はなみにと ひとはやまべに いりはてて はるはみやこぞ さびしかりける
1
春上
104
紫式部
紫式部
世の中を なになげかまし 山ざくら 花みるほどの 心なりせば
よのなかを なになげかまし やまざくら はなみるほどの こころなりせば
1
春上
105
なげかしき事侍りける頃、花を見てよめる
藤原公經朝臣
藤原公経
花みてぞ 身のうき事も わすらるゝ 春は限の なからましかば
はなみてぞ みのうきことも わすらるる はるはかぎりの なからましかば
1
春上
106
堀河右大臣の九條の家にて、毎山春ありといふ心をよみ侍りける
前中納言顯基
前中納言顕基
我やどの 梢ばかりと みしほどに よもの山べに 春はきにけり
わがやどの こずゑばかりと みしほどに よものやまべに はるはきにけり
1
春上
107
題しらず
藤原元眞
藤原元真
おもひつゝ 夢にぞ見つる 櫻花 春はねざめの なからましかば
おもひつつ ゆめにぞみつる さくらばな はるはねざめの なからましかば
1
春上
108
承暦三年内裏歌合によめる
右大辨通俊
藤原通俊
春の内は ちらぬ櫻と みてしがな 扨もや風の うしろめたきと
はるのうちは ちらぬさくらと みてしがな さもやかぜの うしろめたきと
1
春上
109
屏風に、旅人花見る所をよめる
平兼盛
平兼盛
花見ると 家路におそく 歸る哉 まつときすぐと 妹やいふらん
はなみると いへぢにおそく かえるかな まつときすぐと いもやいふらん
1
春上
110
屏風の繪に、三月花の宴する所に、客人きたる所をよめる
平兼盛
平兼盛
一とせに 二度もこぬ 春なれば いとなく今日は 花をこそ見れ
ひととせに ふたたびもこぬ はるなれば いとなくけふは はなをこそみれ
1
春上
111
後冷泉院、東宮と申ける時、殿上のをのこども花見んとて雲林院にまかれりけるに、よみて遣はしける
良暹法師
良暹法師
うらやまし 春の宮人 打むれて おのがものとや 花をみるらん
うらやまし はるのみやびと うちむれて おのがものとや はなをみるらん
1
春上
112
通宗朝臣、能登守に侍りける時、國にて歌合し侍りけるによめる
源縁法師
源縁法師
山ざくら 白雲にのみ まがへばや 春のこゝろの 空になるらん
やまざくら しらくもにのみ まがへばや はるのこころの そらになるらん
1
春上
113
宇治前太政大臣花見になんときゝてつかはしける
民部卿齊信
民部卿斉信
いにしへの 花見し人は 尋ねしを 老は春にも しられざりけり
いにしへの はなみしひとは たづねしを おいははるにも しられざりけり
1
春上
114
つゝしむべき年なれば、ありくまじき由いひ侍りけれど、三月ばかりに白川にまかりけるを聞て、相摸がもとより、かくもありけるはといひおこせて侍りけるに、よめる
中納言定ョ
藤原定頼
櫻花 さかりになれば ふる里の むぐらの門も さゝれざりけり
さくらばな さかりになれば ふるさとの むぐらのかども さされざりけり
1
春上
115
遠花誰家ぞといふ心をよめる
坂上定成
坂上定成
よそながら をしきさくらの 匂かな 誰わが宿の 花とみるらん
よそながら をしきさくらの にほひかな たれわがやどの はなとみるらん
1
春上
116
年毎に花を見るといふ心を詠る
源縁法師
源縁法師
春毎に みれどもあかず 山ざくら としにや花の 咲まさるらん
はるごとに みれどもあかず やまざくら としにやはなの さきまさるらん
1
春上
117
高陽院の花盛に、しのびて東面の山の花見にまかりてければ、宇治前太政大臣きゝつけて、此程いかなる歌かよみたるなどとはせて侍りければ、久しく田舍に侍りてさるべき歌などもよみ侍らず、今日かくなんおもほゆるとて、よみ侍りける
能因法師
能因法師
世中を おもひすてゝし 身なれども 心よわしと 花に見えぬる
よのなかを おもひすててし みなれども こころよわしと はなにみえぬる
是を聞て、太政大臣いとあはれなりといひて、かづけ物などして侍りけるとなん、いひ傳へたる。
1
春上
118
美作にまかり下りけるに、おほいまうち君のかづけ物の事を思ひ出て、範永朝臣のもとに遣はしける
能因法師
能因法師
よゝふとも 我わすれめや 櫻花 苔のたもとに ちりてかゝりし
よよふとも われわすれめや さくらばな こけのたもとに ちりてかかりし
1
春上
119
高倉の一宮の女房、花見に白川にまかれりけるに、よみ侍りける
伊賀少將
伊賀少将
なに事を 春のかたみに 思はまし けふしら川の 花見ざりせば
なにごとを はるのかたみに おもはまし けふしらかはの はなみざりせば
1
春上
120
内のおほいまうち君の家にて、人々酒たうべて歌よみ侍りけるに、遙に山の櫻を望むといふ心をよめる
大江匡房朝臣
大江匡房
たかさごの をのへの櫻 咲にけり と山の霞 たゝずもあらなん
たかさごの をのへのさくら さきにけり とやまのかすみ たたずもあらなん
1
春上
121
遠山櫻といふ心をよめる
藤原C家
藤原清家
吉野山 八重たつ峯の しら雲に かさねてみゆる 花ざくらかな
よしのやま やへたつみねの しらくもに かさねてみゆる はなざくらかな
1
春上
122
周防にまかりくだらんとしけるに、家の花をしむ心、人々よみ侍りけるに、よめる
藤原通宗朝臣
藤原通宗
おもひおく ことなからまし 庭櫻 ちりての後の 船出なりせば
おもひおく ことなからまし にわざくら ちりてのあとの ふなでなりせば
1
春上
123
花のもとに、歸らん事を忘るといふ心をよめる
良暹法師
良暹法師
訪人も 宿にはあらじ 山ざくら ちらでかへりし 春しなければ
とふひとも やどにはあらじ やまざくら ちらでかへりし はるしなければ
1
春上
124
基長の中納言、東山に花見侍りけるに、布衣きたるに、法師して誰ともしらせでとらせ侍りける
加賀左衛門
加賀左衛門
ちる迄は 旅寐をせなん 木の本に 歸らば花の なだてなるべし
ちるまでは たびねをせなん このもとに かへらばはなの なだてなるべし
1
春上
125
東三條院の御屏風に、旅人山櫻を見る所をよめる
源道濟
源道済
ちり果て 後やかへらん ふるさとも 忘られぬべき 山ざくら哉
ちりはてて のちやかへらん ふるさとも わすられぬべき やまざくらかな
1
春上
126
同じき御屏風の繪に、櫻花多く咲る所に、人々あるを詠る
源道濟
源道済
わがやどに 咲みちにけり 櫻花 外には春も あらじとぞおもふ
わがやどに さきみちにけり さくらばな ほかにははるも あらじとぞおもふ
1
春上
127
大納言公任、花の盛にこんといひて、おとづれ侍らざりければ
中務卿具平親王
具平親王
花もみな ちりなん後は 我宿に なにゝつけてか 人をまつべき
はなもみな ちりなんのちは わがやどに なににつけてか ひとをまつべき
1
春上


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後拾遺和歌集第二

春下

128
三月三日、桃花を御覽じて
花山院御製
花山院
三千代へて なりける物を などてかは もゝとしもはた 名付初けん
みちよへて なりけるものを などてかは ももとしもはた なづけそめけん
2
春下
129
天暦御時の屏風に、桃の花ありける所をよめる
C原元輔
清原元輔
あかざらば 千代迄かざせ 桃の花 はなもかはらじ 春も絶ねば
あかざらば ちよまでかざせ もものはな はなもかはらじ はるもたえねば
2
春下
130
世尊寺の桃の花をよめる
出貯
出羽弁
故郷の 花の物いふ 世なりせば いかにむかしの 事をとはまし
ふるさとの はなのものいふ よなりせば いかにむかしの ことをとはまし
2
春下
131
永承五年六月祐子内親王家歌合し侍りけるに、このなかの題を人々よみ侍けるに、よめる
堀河右大臣
堀河右大臣
櫻花 あかぬあまりに 思ふかな ちらずは人や をしまざらまし
さくらばな あかぬあまりに おもふかな ちらずはひとや をしまざらまし
2
春下
132
題しらず
内大臣
内大臣
惜めども ちりもとまらぬ 花故に 春は山べを すみかにぞする
をしめども ちりもとまらぬ はなゆゑに はるはやまべを すみかにぞする
2
春下
133
天コ四年歌合に
平兼盛
平兼盛
世とともに 散ずもあらなん 櫻花 あかぬ心は いつかたゆべき
よとともに ちらずもあらなん さくらばな あかぬこころは いつかたゆべき
2
春下
134
大中臣能宣朝臣
大中臣能宣
櫻花 まだきなちりそ なにゝより 春をば人の をしむとかしる
さくらばな まだきなちりそ なににより はるをばひとの をしむとかしる
2
春下
135
屏風の繪に、櫻の花のちるを惜みがほなる所をよみ侍りける
源道濟
源道済
山里に ちりはてぬべき 花ゆゑに 誰とはなくて 人ぞまたるゝ
やまざとに ちりはてぬべき はなゆゑに たれとはなくて ひとぞまたるる
2
春下
136
太神宮のやけて侍りける事しるしに、伊勢の國に下りて侍りけるに、いつきのぼり侍りて、彼宮人もなくて、櫻いとおもしろくちりければ、立とまりてよみ侍りける
右大辨通俊
藤原通俊
しめ結し そのかみならば 櫻花 惜まれつゝや 今日はちらまし
しめゆひし そのかみならば さくらばな をしまれつつや けふはちらまし
2
春下
137
山路落花をよめる
橘成元
橘成元
櫻花 道みえぬまで ちりにけり いかゞはすべき 志賀の山ごえ
さくらばな みちみえぬまで ちりにけり いかがはすべき しがのやまごえ
2
春下
138
隣の花をよめる
坂上定成
坂上定成
櫻ちる となりにいとふ 春風は 花なきやどぞ うれしかりける
さくらちる となりにいとふ はるかぜは はななきやどぞ うれしかりける
2
春下
原文詞書「隣を」
139
花の庭にちりて侍りける所にてよめる
C原元輔
清原元輔
花のかげ たゝまくをしき こよひ哉 錦をさらす 庭とみえつゝ
はなのかげ たたまくをしき こよひかな にしきをさらす にはとみえつつ
2
春下
140
承暦二年内裏後番の歌合に、櫻をよみ侍りける
藤原道宗朝臣
藤原道宗
をしむには ちりもとまらで 櫻花 あかぬ心ぞ ときはなりける
をしむには ちりもとまらで さくらばな あかぬこころぞ ときはなりける
2
春下
141
題しらず
永源法師
永源法師
心から 物をこそ思へ 山ざくら 尋ねざりせば ちるを見ましや
こころから ものをこそおもへ やまざくら たづねざりせば ちるをみましや
2
春下
142
三月ばかりに花のちるを見てよみ侍りける
土御門御匣殿
土御門御匣殿
うらやまし いかなる花か 散にけん 物思ふ身しも 世には殘りて
うらやまし いかなるはなか ちりにけん ものもふみしも よにはのこりて
2
春下
143
永承五年六月五日、祐子内親王の家に歌合し侍りけるに、よめる
大貳三位
大弐三位
ふく風ぞ おもへばつらき さくら花 心とちれる 春しなければ
ふくかぜぞ おもへばつらき さくらばな こころとちれる はるしなければ
2
春下
144
題しらず
中納言定ョ
藤原定頼
年をへて 花に心を くだくかな をしむにとまる 春はなけれど
としをへて はなにこころを くだくかな をしむにとまる はるはなけれど
2
春下
145
家の櫻の散て水に流るゝを詠る
大江嘉言
大江嘉言
こゝにこぬ 人も見よとて さくら花 水の心に まかせてぞやる
ここにこぬ ひともみよとて さくらばな みづのこころに まかせてぞやる
2
春下
146
白河にて、花のちりて流れけるをよみ侍りける
土御門右大臣
土御門右大臣
行末も せきとゞめばや しら川の 水とともにぞ 春もゆきける
ゆくすゑも せきとどめばや しらかはの みづとともにぞ はるもゆきける
2
春下
147
粟田の右大臣の家に、人々のこりの花を惜み侍りけるによめる
藤原爲時
藤原為時
おくれても 咲べき花は 咲にけり 身をかぎりとも 思ひける哉
おくれても さくべきはなは さきにけり みをかぎりとも おもひけるかな
2
春下
148
庭に櫻の多く散て侍ければ、詠る
和泉式部
和泉式部
風だにも ふきはらはずは 庭櫻 ちるとも春の ほどはみてまし
かぜだにも ふきはらはずは にはざくら ちるともはるの ほどはみてまし
2
春下
149
三月ばかりに、野の草をよみ侍りける
藤原義孝
藤原義孝
野邊見れば 彌生の月の はつるまで まだうら若き さいたづま哉
のべみれば やよひのつきの はつるまで まだうらわかき さいたづまかな
2
春下
150
躑躅をよめる
和泉式部
和泉式部
岩つゝじ をりもてぞ見る せこが着し 紅ぞめの 色に似たれば
いわつつじ をりもてぞみる せこがきし くれなゐぞめの いろににたれば
2
春下
151
藤原義孝
藤原義孝
わぎもこが 紅ぞめの 色と見て なづさはれぬる 岩つゝじかな
わぎもこが くれなゐぞめの いろとみて なづさはれぬる いはつつじかな
2
春下
152
月輪といふ所にまかりて、元輔・惠慶などともに庭の藤の花をもてあそびて、よみ侍りける
大中臣能宣朝臣
大中臣能宣
藤の花 さかりとなれば 庭の面に おもひもかけぬ 浪ぞ立ける
ふぢのはな さかりとなれば にわのおもに おもひもかけぬ なみぞたちける
2
春下
153
題しらず
齋宮女御
斎宮女御
紫に やしほそめたる 藤の花 いけにはひさす 物にぞありける
むらさきに やしほそめたる ふぢのはな いけにはひさす ものにぞありける
2
春下
154
源爲善朝臣
源為善
藤の花 をりてかざせば こむらさき 我もとゆひの 色やそふ覽
ふぢのはな をりてかざせば こむらさき わがもとゆひの いろやそふらん
2
春下
155
承暦二年内裏歌合に、藤花を詠る
大納言實季
大納言実季
水そこも むらさきふかく みゆる哉 岸の岩根に かゝる藤なみ
みなそこも むらさきふかく みゆるかな きしのいはねに かかるふぢなみ
2
春下
156
民部卿泰憲、近江守に侍りける時、三井寺にて歌合し侍りけるに、藤の花をよみ侍りける
讀人しらず
読人しらず
すみの江の 松のみどりも むらさきの 色にぞかくる 岸の藤波
すみのえの まつのみどりも むらさきの いろにぞかくる きしのふぢなみ
2
春下
157
題しらず
藤原伊家
藤原伊家
道とほみ 井手へもゆかじ この里も 八重やはさかぬ 山吹の花
みちとほみ いでへもゆかじ このさとも やへやはさかぬ やまぶきのはな
2
春下
158
大貳高遠
大弐高遠
沼水に 蛙なくなり うべしこそ きしの山ぶき さかりなりけれ
ぬまみづに かはづなくなり うべしこそ きしのやまぶき さかりなりけれ
2
春下
159
長久二年弘徽殿女御家歌合に、かはづをよめる
良暹法師
良暹法師
みがくれて すだく蛙の ゥ聲に さわぎぞわたる 井手のうき草
みがくれて すだくかはづの もろごゑに さわぎぞわたる いでのうきくさ
2
春下
160
題しらず
藤原長能
藤原長能
聲絶ず さへづれ野べの 百千鳥 殘りすくなき 春にやはあらぬ
こゑたえず さへづれのべの ももちどり のこりすくなき はるにやはあらぬ
2
春下
161
法輪に道命法師の侍りけるとぶらひにまかりたるに、よぶこ鳥のなき侍りければ、よめる
法圓法師
法円法師
我ひとり きく物ならば 呼子鳥 ふた聲までは なかせざらまし
われひとり きくものならば よぶこどり ふたこゑまでは なかせざらまし
2
春下
162
三月つごもりに郭公のなくを聞て、よみ侍りける
中納言定ョ
藤原定頼
郭公 おもひもかけぬ 春なけば 今年ぞまたで はつ音きゝつる
ほととぎす おもひもかけぬ はるなけば ことしぞまたで はつねききつる
2
春下
163
三月つごもりの日、春を惜むの心を人々よみ侍りけるに、よめる
大中臣能宣朝臣
大中臣能宣
郭公 なかずはなかず いかにして くれゆく春を 又もくはへん
ほととぎす なかずはなかず いかにして くれゆくはるを またもくはへん
2
春下
164
三月つごもりの日、親の墓にまかりてよめる
永縁法師
永縁法師
思ひいづる 事のみしげき 野べにきて 又春にさへ 別れぬる哉
おもひいづる ことのみしげき のべにきて またはるにさへ わかれぬるかな
2
春下


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後拾遺和歌集第三

165
四月ついたちの日、よめる
和泉式部
和泉式部
さくら色に そめし衣を ぬぎかへて やま郭公 けふよりぞまつ
さくらいろに そめしころもを ぬぎかへて やまほととぎす けふよりぞまつ
3
166
四月一日、郭公をまつ心をよめる
藤原明衡朝臣
藤原明衡
きのふまで をしみし花は 忘られて 今日はまたるゝ 郭公かな
きのふまで をしみしはなは わすられて けふはまたるる ほととぎすかな
3
167
津國の古曾部といふ所にて詠る
能因法師
能因法師
わが宿の 梢の夏に なるときは いこまの山ぞ 見えずなりける
わがやどの こずゑのなつに なるときは いこまのやまぞ みえずなりける
3
168
冷泉院の東宮と申しける時、百首歌奉りける中に
源重之
源重之
夏草は むすぶばかりに 成にけり 野飼し駒や あくがれぬらん
なつくさは むすぶばかりに なりにけり のかひしこまや あくがれぬらん
3
169
題しらず
曾根好忠
曾根好忠
榊とる う月になれば 神山の ならのはがしは もとつ葉もなし
さかきとる うづきになれば かみやまの ならのはがしは もとつはもなし
3
170
山里の水鷄をよみ侍りける
大中臣輔弘
大中臣輔弘
八重しげる 葎の門の いぶせきに さゝずやなにを 叩く水鷄ぞ
やへしげる むぐらのかどの いぶせきに ささずやなにを たたくくひなぞ
3
171
山里の卯花をよみ侍りける
藤原道宗朝臣
藤原道宗
跡たえて くる人もなき 山ざとに われのみ見よと さける卯花
あとたえて くるひともなき やまざとに われのみみよと さけるうのはな
3
172
民部卿泰憲、近江守に侍りける時、三井寺にて歌合し侍りけるに、卯花をよめる
讀人しらず
読人しらず
白浪の 音せでたつと みえつるは うの花さける 垣ねなりけり
しらなみの おとせでたつと みえつるは うのはなさける かきねなりけり
3
173
題しらず
讀人しらず
読人しらず
月影を 色にてさける うの花は あけばあり明の 心地こそせめ
つきかげを いろにてさける うのはなは あけばありあけの ここちこそせめ
3
174
ある所に歌合し侍りけるに、卯花をよみ侍りける
大中臣能宣朝臣
大中臣能宣
うの花の さけるあたりは 時ならぬ 雪ふる里の 垣ねとぞみる
うのはなの さけるあたりは ときならぬ ゆきふるさとの かきねとぞみる
3
175
正子内親王の繪合し侍りけるに、かねのさうじにかき侍りける
相摸
相模
見わたせば 浪のしがらみ かけてけり うの花さける 玉川の里
みわたせば なみのしがらみ かけてけり うのはなさける たまがわのさと
3
176
伊勢大輔
伊勢大輔
うの花の さける垣根は 白浪の たつたの川の ゐせきとぞ見る
うのはなの さけるかきねは しらなみの たつたのかはの ゐせきとぞみる
3
177
卯花をよみ侍りける
源道濟
源道済
雪とのみ あやまたれつゝ うの花に 冬ごもれりと みゆる山里
ゆきとのみ あやまたれつつ うのはなに ふゆごもれりと みゆるやまざと
3
178
つくしの大山寺といふ所にて歌合し侍りけるに、よめる
元慶法師
元慶法師
わがやどの かきねなすぎそ 郭公 いづれの里も おなじうの花
わがやどの かきねなすぎそ ほととぎす いづれのさとも おなじうのはな
3
179
題しらず
慶範法師
慶範法師
郭公 われはまたでぞ 心みる おもふことのみ たがふ身なれば
ほととぎす われはまたでぞ こころみる おもふことのみ たがふみなれば
3
180
四月つごもりの日、右近の馬塲に、郭公きかんとまかり侍りけるに、夜ふくるまでなき侍らざりければ
堀河右大臣
堀河右大臣
郭公 たづぬばかりの 名のみして きかずはさてや 宿に歸らん
ほととぎす たづぬばかりの なのみして きかずはさてや やどにかへらん
3
181
道命法師山寺に侍りけるにつかはしける
藤原尚忠
藤原尚忠
こゝにわが きかまほしきを あしひきの 山郭公 いかに鳴らん
ここにわが きかまほしきを あしひきの やまほととぎす いかになくらん
3
182
かへし
道命法師
道命法師
あしひきの 山郭公 のみならず おほかた鳥の こゑもきこえず
あしひきの やまほととぎす のみならず おほかたとりの こゑもきこえず
3
183
禖子内親王加茂のいつきと聞えける時、女房にて侍りけるを、年へて後、三條院御時齋院に侍りける人のもとに、昔を思ひ出て、祭のかへさの日、~舘かんたちに遣はしける
皇后宮美作
皇后宮美作
きかばやな そのかみ山の 子規 ありしむかしの おなじ聲かと
きかばやな そのかみやまの ほととぎす ありしむかしの おなじこゑかと
3
184
祭の使してかんだちに侍りけるに、人々多くとぶらひにおとなひ侍りけるを、大藏卿房長みえ侍らざりければ、遣はしける
備前典侍
備前典侍
郭公 なのりしてこそ しらるなれ 尋ねぬ人に つげややらまし
ほととぎす なのりしてこそ しらるなれ たづねぬひとに つげややらまし
3
185
四月ばかりに、有馬の湯より歸り侍りて、郭公をなんきゝつると人のいひおこせて侍りければ
大中臣能宣朝臣
大中臣能宣
きゝすてゝ 君がきにけん 郭公 たづねにわれは 山路こえみん
ききすてて きみがきにけん ほととぎす たづねにわれは やまぢこえみん
3
186
いにしへをこふる事侍りける頃、田舍にて郭公をきゝてよめる
増基法師
増基法師
このごろは ねてのみぞまつ 郭公 しばしキの ものがたりせよ
このごろは ねてのみぞまつ ほととぎす しばしみやこの ものがたりせよ
3
187
題しらず
橘資成
橘資成
宵のまは まどろみなまし 子規 あけてきなくと 兼てしりせば
よひのまは まどろみなまし ほととぎす あけてきなくと かねてしりせば
3
188
永承五年六月五日祐子内親王家歌合によめる
伊勢大輔
伊勢大輔
きゝつとも きかずともなく 郭公 心まどはす さ夜のひとこゑ
ききつとも きかずともなく ほととぎす こころまどはす さよのひとこゑ
3
189
能因法師
能因法師
夜だにあけば 尋ねてきかん 郭公 しのだの杜の 方になくなり
よだにあけば たづねてきかん ほととぎす しのだのもりの かたになくなり
3
190
藤原兼房朝臣
藤原兼房
夏の夜は さてもや寐ぬと 郭公 ふたこゑきける 人にとはばや
なつのよは さてもやねぬと ほととぎす ふたこゑきける ひとにとはばや
3
191
小辨
小弁
ねぬ夜こそ 數つもりぬれ 時鳥 きくほどもなき 一こゑにより
ねぬよこそ かずつもりぬれ ほととぎす きくほどもなき ひとこゑにより
3
192
祐子内親王家に歌合などはてゝ後、人々おなじ題をよみ侍りける
宇治前太政大臣
宇治前太政大臣
ありあけの 月だにあれや 郭公 たゞ一こゑの ゆくかたもみん
ありあけの つきだにあれや ほととぎす ただひとこゑの ゆくかたもみん
3
193
宇治前太政大臣、三十講の後、歌合し侍りけるに、杜鵑をよめる
赤染衛門
赤染衛門
なかぬ夜も なく夜も更に 郭公 待とてやすき いやはねらるゝ
なかぬよも なくよもさらに ほととぎす まつとてやすき いやはねらるる
3
194
赤染衛門
赤染衛門
夜もすがら まちつるものを 郭公 又だになかで 過ぬなるかな
よもすがら まちつるものを ほととぎす まただになかで すぎぬなるかな
3
195
相摸守にてのぼり侍りける夜、おいその杜のもとにて、郭公をきゝてよめる
大江公資朝臣
大江公資
東路の おもひ出にせん 郭公 おいそのもりの 夜はのひとこゑ
あづまぢの おもひいでにせん ほととぎす おいそのもりの よはのひとこゑ
3
196
郭公を聞てよめる
法橋忠命
法橋忠命
きゝつるや 初音なるらし 郭公 老はねざめぞ うれしかりける
ききつるや はつねなるらし ほととぎす おいはねざめぞ うれしかりける
3
197
長保五年五月十五日入道前太政大臣家歌合に、遙聞郭公といふ心をよめる
大江嘉言
大江嘉言
いづかたと きゝだにわかず 郭公 たゞ一聲の こゝろまどひに
いづかたと ききだにわかず ほととぎす ただひとこゑの こころまどひに
3
198
五月ばかり、赤染がもとにつかはしける
道命法師
道命法師
郭公 まつほどゝこそ おもひつれ 聞ての後も ねられざりけり
ほととぎす まつほどとこそ おもひつれ ききてののちも ねられざりけり
3
199
道命法師
道命法師
郭公 夜ぶかき聲を きくのみぞ もの思ふ人の とりどころなる
ほととぎす よぶかきこゑを きくのみぞ ものもふひとの とりどころなる
3
200
おほやけの御かしこまりにて、山寺に侍りけるに、郭公をきゝてよめる
律師長濟
律師長済
一こゑも きゝがたかりし 郭公 ともになく身と なりにける哉
ひとこゑも ききがたかりし ほととぎす ともになくみと なりにけるかな
3
201
郭公をよめる
能因法師
能因法師
郭公 きなかぬよひの しるからば ぬる夜も一夜 あらまし物を
ほととぎす きなかぬよひの しるからば ぬるよもひとよ あらましものを
3
202
大貳三位
大弐三位
またぬ夜も まつ夜もきゝつ 子規 花たちばなの 匂ふあたりは
またぬよも まつよもききつ ほととぎす はなたちばなの にほふあたりは
3
203
小辨
小弁
ねてのみや 人はまつらん 子規 物思ふやどは きかぬ夜ぞなき
ねてのみや ひとはまつらん ほととぎす ものもふやどは きかぬよぞなき
3
204
早苗をよめる
曾根好忠
曾根好忠
みたやもり けふはさ月に 成にけり いそげやさ苗 老も社すれ
みたやもり けふはさつきに なりにけり いそげやさなへ おいもこそすれ
3
205
永承六年五月殿上の根合に、早苗をよめる
藤原骼
藤原隆資
さみだれに 日も暮ぬめり 道遠み 山田のさ苗 とりもはてぬに
さみだれに ひもくれぬめり みちとほみ やまだのさなへ とりもはてぬに
3
206
宇治前太政大臣家に三十講の後、歌合し侍りけるに、五月雨をよめる
相摸
相模
五月雨は みづのみ牧の ま菰草 刈ほすひまも あらじとぞ思ふ
さみだれは みづのみまきの まこもぐさ かりほすひまも あらじとぞおもふ
3
207
宮内卿經長が桂の山莊にて、五月雨をよみ侍りける
藤原範永朝臣
藤原範永
梅雨は 見えしをざゝの 原もなし あさかの沼の 心地のみして
さみだれは みえしをざさの はらもなし あさかのぬまの ここちのみして
3
208
橘俊綱朝臣
橘俊綱
つれ/〃\と 音たえせぬは 五月雨の 軒のあやめの 雫なりけり
つれづれと おとたえせぬは さみだれの のきのあやめの しづくなりけり
3
209
題しらず
叡覺法師
叡覚法師
五月雨の をやむ景色の 見えぬ哉 にはたづみのみ 數増りつゝ
さみだれの をやむけしきの みえぬかな にはたづみのみ かずまさりつつ
3
210
五月五日、はじめたるところにまかりてよみ侍りける
惠慶法師
恵慶法師
香をとめて 訪人あるを 菖蒲草 あやしく駒の すさめざりけり
かをとめて とふひとあるを あやめぐさ あやしくこまの すさめざりけり
3
211
永承六年五月五日殿上の根合によめる
良暹法師
良暹法師
筑摩江の 底の深さを よそながら ひける菖蒲の 根にてしる哉
つくまえの そこのふかさを よそながら ひけるあやめの ねにてしるかな
3
212
右大臣、中將に侍りける時、歌合し侍りけるによめる
大中臣輔弘
大中臣輔弘
ねやの上に 根ざしとゞめよ 菖蒲草 尋ねてひくも 同じよどのを
ねやのうへに ねざしとどめよ あやめぐさ たづねてひくも おなじよどのを
3
213
年頃すみ侍りけるところはなれて、ほかにわたりて、又のとしの五月五日よめる
伊勢大輔
伊勢大輔
けふもけふ 菖蒲も菖蒲 變らぬに 宿こそありし 宿とおぼえね
けふもけふ あやめもあやめ かはらぬに やどこそありし やどとおぼえね
3
214
花橘をよめる
相摸
相模
さみだれの 空なつかしく にほふ哉 花たちばなに 風や吹らん
さみだれの そらなつかしく にほふかな はなたちばなに かぜやふくらん
3
215
大貳高遠
大弐高遠
昔をば はな橘の なかりせば なにゝつけてか おもひいでまし
むかしをば はなたちばなの なかりせば なににつけてか おもひいでまし
3
216
螢をよみ侍りける
源重之
源重之
おともせで おもひにもゆる 螢こそ なく虫よりも 哀なりけれ
おともせで おもひにもゆる ほたるこそ なくむしよりも あはれなりけれ
3
217
宇治前太政大臣卅講の後、歌合し侍りけるに、螢をよめる
藤原良經朝臣
藤原良経
澤水に 空なる星の うつるかと みゆるは夜はの ほたる也けり
さわみづに そらなるほしの うつるかと みゆるはよはの ほたるなりけり
3
218
題しらず
能因法師
能因法師
ひとへなる 蝉の宙゚ 夏は猶 うすしといへど あつくぞ有ける
ひとへなる せみのはごろも なつはなほ うすしといへど あつくぞありける
3
219
源重之
源重之
夏かりの 玉江の芦を ふみしだき むれゐる鳥の たつ空ぞなき
なつかりの たまえのあしを ふみしだき むれゐるとりの たつそらぞなき
3
220
曾根好忠
曾根好忠
夏ごろも 立田河原の 柳かげ すゞみにきつゝ ならすころかな
なつごろも たったがはらの やなぎかげ すずみにきつつ ならすころかな
3
221
氷室をよめる
源ョ實
源頼実
夏の日に なるまできえぬ 冬ごほり 春立風や よきてふくらん
なつのひに なるまできえぬ ふゆごほり はるたつかぜや よきてふくらん
3
222
夏の夜の月といふ心をよみ侍りける
土御門右大臣
土御門右大臣
夏のよの 月は程なく いりぬとも やどれる水に 影はとめなん
なつのよの つきはほどなく いりぬとも やどれるみづに かげはとめなん
3
223
大貳資通
大弐資通
何をかは あくるしるしと 思ふべき 晝にかはらぬ 夏の夜の月
なにをかは あくるしるしと おもふべき ひるにかはらぬ なつのよのつき
3
224
宇治前太政大臣家に三十講の後、歌合し侍りけるに、よみ侍りける
民部卿長家
民部卿長家
夏の夜も すゞしかりけり 月影は 庭しろたへの 霜とみえつゝ
なつのよも すずしかりけり つきかげは にはしろたへの しもとみえつつ
3
225
中納言定ョ
藤原定頼
床なつの にほへる庭は から國に おれる錦も しかじとぞ見る
とこなつの にほへるにはは からくにに おれるにしきも しかじとぞみる
3
226
道濟が家にて、雨の夜、床夏をおもふといふ心をよめる
能因法師
能因法師
いかならん 今夜の雨に 床夏の 今朝だに露の おもげなりつる
いかならん こよひのあめに とこなつの けさだにつゆの おもげなりつる
3
227
題しらず
曾根好忠
曾根好忠
きてみよと いもが家路に つげやらん 我獨ぬる とこなつの花
きてみよと いもがいへぢに つげやらん われひとりぬる とこなつのはな
3
228
平兼盛
平兼盛
夏ふかく なりぞしにける 大あらきの 杜の下草 なべて人かる
なつふかく なりぞしにける おほあらきの もりのしたくさ なべてひとかる
3
229
夏の夜凉しき心をよみ侍りける
堀河右大臣
堀河右大臣
ほどもなく 夏の凉しく 成ぬるは 人にしられで 秋やきぬらん
ほどもなく なつのすずしく なりぬるは ひとにしられで あきやきぬらん
3
230
くれの夏、有明の月をよめる
内大臣
内大臣
夏の夜の 有明の月を 見るほどに 秋をもまたで 風ぞすゞしき
なつのよの ありあけのつきを みるほどに あきをもまたで かぜぞすずしき
3
231
俊綱朝臣のもとにて、晩凉如秋といふ心をよみ侍りける
源ョ綱朝臣
源頼綱
夏山の ならの葉そよぐ 夕ぐれは ことしも秋の 心地こそすれ
なつやまの ならのはそよぐ ゆふぐれは ことしもあきの ここちこそすれ
3
232
屏風の繪に、夏の末に、小倉の山のかたかきたるところをよめる
大中臣能宣朝臣
大中臣能宣
紅葉せば あかくなりなん をぐら山 秋まつ程の 名に社有けれ
もみちせば あかくなりなん をぐらやま あきまつほどの なにこそありけれ
3
233
泉の聲夜に入て凉しといふ心をよみ侍りける
源師賢朝臣
源師賢
さ夜ふかき 岩井の水の 音きけば むすばぬ袖も 凉しかりけり
さよふかき いはいのみづの おときけば むすばぬそでも すずしかりけり
3
234
六月はらへをよめる
伊勢大輔
伊勢大輔
みなかみも あらぶる心 あらじかし 波もなごしの 祓しつれば
みなかみも あらぶるこころ あらじかし なみもなごしの はらへしつれば
3


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後拾遺和歌集第四

秋上

0235
    
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