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古事談　第一

源顕兼
（早川純三郎〔國書刊行會代表者〕編『繪詞・史傳』　丹鶴叢書　國書刊行會　1913.4.25）
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　　一　王道后宮 　　二　臣節 　　三　僧行 　　四　勇士 　　五　神社仏寺事 　　六　亭宅、諸道
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（第一　目次）

（＊目次は入力者が作成。）
　　一　称徳天皇　　二　水江浦島子　　三　　四　　五
　　六　　七　　八　　九　　一〇
　　一一　　一二　　一三　　一四　　一五
　　一六　　一七　　一八　　一九　　二〇
　　二一　　二二　　二三　　二四　　二五
　　二六　　二七　　二八　　二九　　三〇
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王道后宮

[目次]
〔一〕 稱德天皇、（＊以下、【　】内は原文割注。）【聖武の御女。母光明皇后は不比等の女也。初め孝謙天皇、後稱德と號す。又高野姫と號す。】道鏡の陰猶ほ不足に思し召されて、薯蕷（＊原文「暑預」）を以て陰形を作り、之を用ひしめ給ふの間、折り籠むと云々。仍つて腫れ塞がり大事に及ぶの時、小手尼【百濟國の醫師。其の手嬰兒の手の如し。】見え奉りて云く、帝の病癒ゆべしと。手に油を塗つて之を取らんと欲す。爰に右中辨百川【宇合の二男。式部卿參議。淳和の外祖。拾子贈皇太后宮の父。贈太政大臣正二〔一イ〕位。】靈狐也と云ひて、劔を拔きて尼の肩を切ると云々。仍て療無くして帝崩ず。
稱德天皇、（聖武御女、母光明皇后不比等女也、初孝謙天皇、後號稱德、又號高野姫、）道鏡之陰猶不足ニ被思召テ、以暑預作陰形、令用之給之間、折籠云々、仍腫塞及大事之時、小手尼〔百濟國醫師、其手如嬰兒手〕奉見云、帝病可癒、手ニ塗油欲取之、爰右中辨百川（宇合二男、式部卿參議、淳和外祖、拾子贈皇太后宮父、贈太政大臣正二（一イ）位、）靈狐也ト云テ、拔劔切尼肩云々、仍無療帝崩、
（＊以下は註記か。） 此の女帝は、大炊天皇（＊淳仁天皇）の御宇天平寶字六年壬寅（＊七六二）、簪を落し佛道に入り、法諱を法基尼と稱す。春秋四十五。同七年九月、道鏡法師を以て少僧都と爲す。元河内國の人、俗姓弓削氏なり。法相宗西大寺義淵僧正の門流なり。常に禁掖に侍し、甚だ寵愛せらる。如意輪法驗○〔然イ〕德と云々。同八年甲辰十月九日、大炊天皇を淡路國に移し、國内の官・調庸等其の用ふる所に任すと云々。即日重祚稱德天皇と爲る。同九年正月一日即位。卌八。同七日改めて天平神護元年と爲す。同十一月癸酉日大嘗會、美濃・越前之を供奉す。神護景雲二年正月、道鏡を以て法皇と爲す。西宮前殿に居る。大臣以下百寮拜賀す。
同四年八月四日、天皇西宮前殿に於て崩ず。五十三。同七日、之を山陵大和國添下郡に葬る。
續日本紀に云く、光仁天皇の御宇同廿一日、皇太子令に云く、如聞（きくならく）道鏡竊かに舐粳の心（＊未詳）を挾み、日たること久し（＊「日久しと爲す」か）。陵土未だ乾かざるに、奸謀發覺す。是れ則ち神祇護する所、社稷祐くる攸なり。今先聖の厚恩を顧るに法に依りて刑に入るゝを得ず。故に遣〔造紀〕（＊続日本紀には「造」に作る。）下野國藥師寺別當に任じて發遣せしめ、宜しく之を知らしむべし。正四位下坂上苅田麻呂を以て道鏡法師が奸計を告げしむるなり。同日大納言從二位弓削宿禰淨人を土佐國に配流せしむ。是れ道鏡の舍弟なり。【寶龜三年四月、下野國に於て道鏡卒去の由、之を言上す。】
此女帝者、大炊天皇御宇天平寶字六年壬寅、落簪入佛道、法諱稱法基尼、春秋四十五、同七年九月、以道鏡法師爲少僧都、元河内國人、俗姓弓削氏也、法相宗西大寺義淵僧正門流也、常侍禁掖、甚被寵愛、如意輪法驗○（然イ）德云々、同八年甲辰十月九日、移大炊天皇於淡路國、國内官調庸等任其所用云々、即日重祚爲稱德天皇、同九年正月一日即位、卌八、同七日改爲天平神護元年、同十一月癸酉日大嘗會、美濃越前供奉之、神護景雲二年正月、以道鏡爲法皇、居西宮前殿、大臣以下百寮拜賀、
同四年八月四日、天皇於西宮前殿崩、五十三、同七日葬之、山陵大和國添下郡、
續日本紀云、光仁天皇御宇同廿一日、皇太子令云、如聞道鏡竊挾舐粳之心、爲日久矣、陵土未乾、奸謀發覺、是則神祇所護、社稷攸祐、今顧先聖厚恩不得依法入刑、故任遣（造紀）下野國藥師寺別當發遣、宜知之、以正四位下坂上苅田麻呂令告道鏡法師奸計也、同日大納言從二位弓削宿禰淨人配流土佐國、是道鏡之舍弟也、〔寶龜三年四月、於下野國道鏡卒去之由、言上之、〕

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〔二〕 淳和天皇御宇天長二年乙巳（＊八二五）、丹後國餘佐郡の人水江浦島子、此の年松〔舟イ〕船に乘りて故郷に致〔到イ〕る。爰に閭邑浪に沒し、物皆〔共イ〕昔日に○〔似イ〕ず。山川相遷り、人居淵と成る。時に浦島子四方に走り、三族を訪ぬ。敢て知る者無し。但だ一老嫗有り。浦島子問ひて云く、汝は何郷の人なりや、亦吾が根元を知るやと。老嫗答へて云く、吾は此の郷に生まる。而して百有〔ナシイ〕七年敢て君が事を知らず。唯だ吾が祖父の口傳に云く、昔水江（＊この後に脱文があるか。『國史叢書』本では、「浦島子、釣を好んで海に遊び、永く還らず。其の後幾百年なるを知らずと云々。」とある。）浦島子此の語を聞き、即ち神女の處より還らんと欲すと雖も、敢て然する無し。時に神女を慕ひ、彼の與へし所の玉匣を開く。紫雲出でて匣より起ち上り、西を指して飛び去る〔了イ〕と云々。但し（＊「蓋し」か。）島子郷を辭するの後、三百年を經て故郷に還る。其の容顔幼童の如しと云々。
淳和天皇御宇天長二年乙巳、丹後國餘佐郡人水江浦島子、此年乘松（舟イ）船致（到イ）故郷、爰閭邑浪沒、物皆（共イ）不○（似イ）昔日、山川相遷、人居成淵、于時浦島子走四方、訪三族、無敢知者、但有一老嫗、浦島子問云、汝何郷人乎、亦知吾根元哉、老嫗答云、吾生此郷、而百有（ナシイ）七年不知敢君事、唯吾祖父口傳云、昔水江《浦島子、好釣遊海、永不還、其後不知幾百年云々、》浦島子聞此語、即雖欲還神女處、敢無然、于時慕神女、開彼所與之玉匣、紫雲出從匣起上、指西飛去（了イ）云々、但島子辭郷之後、經三百年還故郷、其容顔如幼童云々、

　　一　王道后宮 　　二　臣節 　　三　僧行 　　四　勇士 　　五　神社仏寺事 　　六　亭宅、諸道
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