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春湊浪話

土肥經平
(大田南畝原撰、早川純三郎編『三十輻』第一 卷之八 國書刊行會 1917.4.25
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三十輻 卷之八

春湊浪話目録

卷下


  志水冠者    烏帽子に手綱    犢鼻褌并手綱    薦葺    靑葉笛  
  小枝笛    源三位賴政卿墓    菖蒲前       七日に歸るを忌  
  正一位の神位    かりの子    歌がるた貝覆       本非茶    伽羅  
  徒然草    高師直が艷書を兼好草す    腰當    伊部陶器    水溜鳶口  
  庭の石立    曾我十郞同五郞    樹に(*原文「樹國」)箭を射て殘す  
  笠朝臣金村    源爲朝の子孫    菊のきせ綿    殘菊の宴   
凡廿八條



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春湊浪話跋

去年の冬の夜、老のね覺のすさみ、ふりし年月に見し國史・家の日記・古物語のたぐひの古ごと、彼是まじへかふがへ(*考へ)、往古のものの名のいぶかるをおもひなぞへ、今の諺にふりぬることの殘れるを忍ぶたぐひ、おもひ出るまゝうづみ火のもとに燈をかゝげ、反古のうら・ふところ紙のはしに書つゞけ、夜かれなければ其數まさり、いそがぬ老のことせもくれはて(*ママ)、時わかぬ草の庵もけふあらたまのとしむかへ、空のけしきものどかに、文机の硯の冰も打解めれば、墨おしすり筆を試むついで、ね覺にかきすさみしものども取て、一ツ二ツしるしはじめて、又三ツ四ツ日ごとにかきもて(*原文「かきても」)行ば、やう/\庭の櫻も紐とくころに、うつり梢の鶯の花にぬふてふ笠(*「鶯の笠に縫ふてふ梅花折りてかざさむ老隠るとや」〔『古今集』源常〕)にならひ、三帖のとぢぶみとなしぬ。紳の家々には禮儀のならひ、大和歌の道、つきせぬ世々に傳へ學びたまふふるき敎のありとばかりは傳へ承れど、いかでいやしきたゞ人の學びしるべきことは(*ママ)。ましてあまざかるひなの住居にとしへしあたりには、都の手ぶりだてして、こちたき今案どもみだりに書加ふる事多かるべし。しかはあれども、老のもう/\たる(*耄耄たる)うへ、古へを好む一ッのくせさへそひて、かゝるざれたること草をかき集る類ひ、是のみにもあらず。世に又あるならひなれば、つみゆるさるが(*原文「か」)例にもかずまへられぬべしとや。あくればかゝるはつ霞、春の湊にむかひそめし朝より、ふでを染てけふまであかずものぞみしかたなれば、その水村の名をとりて、春湊浪話とよぶことしかり。
安永四つのとし(*1775年)如月中の十日(*中旬)
吉備のみちのくちの國(*備前国)宇治郷(*御野郡大安寺村の枝村正野田村桃山〔岡山市大安寺東町〕の竹裡館)の散人
土肥經平 誌

(下巻<了>)

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