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日本諸家人物誌 

南山道人〔池永豹〕 纂述
(皆川淇園 校閲『日本諸家人物誌』上・下 利渉堂 梓
 寛政庚申(*1800(寛政12))新刻
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諸家人物誌 下

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○歌學國學

木下長嘯子
本姓は木下、名は勝俊。若狹掾(*原文「椽」)に任ず。遯れて東山に隱れ、自ら長嘯子と号す。或は天哉翁の号あり。國初の頃、文運未だ開けず、學者書籍の乏しきに苦しむ時に、多く書を貯へたるによりて、惺窩先生も屡此人に書を借られしこと文集等に見えたり。好んで和歌を咏じ、和文に巧なり。
著述
 擧白集
松永貞コ
本姓は松永、はじめの名は勝熊、後に貞コと更む。國學を幽齋細川に學ぶ。逍遙軒・長頭丸・明心居士(*原文「{尸/立}士」)・花笑翁等の号あり。晩年に俳諧を唱へて鳴る。
著述
 貞徳家集  戴恩記  慰草
 百人一首抄
北村季吟
江州北村の人。名は季吟、拾穗軒と号す。或は呂庵と稱す。和學を貞コに受く。平安玉津嶌社の廟祝なり。後に台命に仍て東都に移り、歌學所となりて法印に叙せられ、再昌院と号す。
著述
 八代集抄  萬葉拾穗抄  伊勢物語拾穗抄
 百人一首拾穗抄  源氏物語湖月抄  枕草帋春曙抄
 朗詠和歌集註  増補題林抄
男湖春
季吟の嫡男なり。花果院と号す。よく職を紹て歌學所となる。湖春の男湖元あり。みな職を世々して家學をまもれり。
二男正立
季吟の二男なり。新玉津嶌に住す。
季吟の門下に山岡元隣あり。京師の人。徒然草銕槌を著す。○谷口元淡、字は大雅。郡山の人。百人一首拾穗抄補註・徂來學則問荅を著す。○大村可全、伊豆則常抔(*原文「丿(左払い)+卞」)あり。
長好
本姓は望月氏、名は兼友、長好と号す。後に長孝と更む。其先信濃の人。和歌を貞コに學ぶ。晩年京師嵐山の東廣澤池の邊りに隱れて、自ら室を小狹野屋と号す。卒する年六十四。平生の咏草廣澤輯藻・桂雲集類題あり。
長雅
姓氏を詳にせず。和歌を長孝に學ぶ。京師の人なり。
長伯
本姓は有賀氏。以敬齋と号す。京師の人。業を長雅に受く。
著述
 初學和歌式  和歌八重垣  Mのまさご
 和歌分類  秋の寐覺  歌林雜木
長因
長伯の男なり。克く箕裘を繼て、天明中に没す。
僧宣阿
名は堯真、宣阿と稱(*原文「禰」)す。或は梅月堂と号す。周防岩國の人。京師に住す。
著述
 三玉桃事抄  草庵集・蒙求諺解
河瀬菅雄
名は菅雄、醉露堂と号す。京師の人。
著述
 和歌まさな草  和歌道しるべ  百人一首玉葛
 類葉抄  和歌拾題抄  春風抄
一時軒惟冲
姓は岡西、名は惟冲。浪花の人。一時軒は号なり。和歌及び俳諧をよくす。書もまたこれを善す。
著述
 枕草帋旁註  徒然草直解  砂金草帋
 續無名抄  和歌秘密抄
富士谷千右衞門
名は成章、字仲逹。京師の人。皆川伯泰の弟なり。
著述
 かざし抄  あゆひ抄
松井幸
京師の人。幸髣゙題を著し、三玉集類題・六家類題等を撰す。○伯水堂梅風、東都の人。部類現葉集を撰む。○僧西順、京師の人。夫木拔書・二十一代集要を撰す。○山本春正、京師の人。古今類句を著す。○小野好純、播州の人。和歌根元記を著す。○此余佐川田喜六、○僧似雲、○戸田茂睡等の數人、國風の作家の名ある人、枚擧すべからず。あながち操觚の士といへるにもあらざれば、こゝに省畧す。詳なるを知んと欲せば、新撰書畫一覽和歌の部を看るべし。
松下見林
名は見林。浪華人。西峯と号す。醫術を見宜翁に學び、兼て國學を發明す。
著述
 神代巻評閲  公事根元集釈  前王廟陵記
 異稱日本傳  國朝佳節録  善隣國寳記
白井宗因
浪華の人。字は某。つねに白雲散人と号す。醫を以て業とす。旁ら和學を發明す。
著述
 神代巻私説  中臣祓白雲抄  神社啓蒙
 職原句解
黒川道祐
名は玄逸、字は道祐、梅林と号す。藝府の儒醫なり。後に洛に隱る。
著述
 雍州府志  本朝醫考
吉川惟足
字号を詳らかにせず。神道の學を唱えて、旁ら和歌をよくす。
著述
 日本學則
梨木祐之
姓は梨木、名は祐之。三位と稱す。下賀茂社の神職。神道を山嵜に學ぶ。神代巻日本紀・日本逸史・大八洲記等を定して蔵刻す。
玉木葦齋
字号詳ならず。共に山嵜の門人。著述玉籤集あり。
谷川士C
姓は谷川、名は士C、字は某。伊勢洞津の人。神學を玄逹に學ぶ。
著述
 日本紀通證  和訓栞
長流
和州宇田の人。姓は小嵜氏、名は具平、俗稱は彦六。浪花に隱居して、和歌を嗜み、萬葉の古風を慕ふ。平生の咏草なづけて晩萃集とす。
著述
 累塵藻水草  續歌林良材  枕詞燭明抄
 萬葉名寄
僧契仲
名は冲、諱は空心、契仲は号なり。俗姓は下川氏。攝州尼嵜の人。幼にして奇才あり。出家して野山に登りて、法を學び、のちに生玉曼陀羅院及び泉州久井の里、攝の池田川側、今里妙法寺等に住す。晩年退隱して東津圓珠庵に錫をとゞむ。旁ら國學に委く、古語を發明す。水戸義公の教を奉じて、万葉代匠記廿巻を著す。よつて
公頻りに師のコを慕ひて招きたまひしかども應ぜず。元禄(*原文「録」)年間圓寂す。年六十二。
著述
 五部書説辨  厚顔抄  勢語臆斷
 百人一首改觀抄  源註拾遺  勝地吐懷編
 類字名所集  名所補翼抄  和字正濫抄
 河社雜記  雜々記  萬葉代匠記
 萬葉惣釋  古今餘材抄  和字正濫要畧
 新勅撰難註
安藤爲明
姓は安藤、はじめの名は為章、後に為明と更む。通稱は新助、年山と号す。
水府義公に仕へて、屡契仲の許ゑ(*ママ)使命を蒙るによつて、國學を契仲に學ぶ。
著述
 年山打聞  紫女七論
〔契仲門人〕 (*頭書)
今井似閑
一に見午と号す。京師の人。六波羅の東に隱居す。國學を契仲に學び、萬葉緯を著す。死に臨んで、蔵する所の書を加茂の神庫に收む。みな契仲の正の本なり。其書目左のごとし。
 代匠記  万葉緯  万葉集註抄
 万葉類聚  万葉集時代難事  万葉書入 疑填字本
 体源抄  伯母集  蒙求和歌
 古今餘材抄  類葉抄  古今和歌六帖
 古今秘抄  勢語臆斷  古今傳授抄
 古今集序註  古今六帖拾遺  古今和歌集両度聞書
 古今打聞 一冊  古今和歌集目録  古今童蒙抄
 古今和歌集序註  新古今釋教部  水鏡
 經國集  雜新勅撰集  海人加類裳
 つるの本  奈良の葉  轉寐(*原文穴冠)洗草子
 同名歌枕寄抄  無外題  御琵琶合
 物あらそひ  長能集  戀立前内大臣集
 定頼集  賀陽院亭歌合  後葉和歌集
 十八番歌合  今撰和歌集 C輔  林葉集
 住吉社歌合  拾遺抄  後拾遺抄
 三奥抄 或三秘  惠慶集  隣女和歌集
 和泉式部家集  登蓮集  遠薫集
 三十六人歌合  戀十五首歌合  五十四番詩歌合
 俊頼家集  てには  新撰和歌集
 日本記竟宴和歌  西行上人談抄  柿本人麿勘文
 通憲入道書目録  古詠  頼實集
 橘吾仲朝臣集  後撰集 為家作聞書註  愚聞雜記
 千種  後撰集正儀  雜記
 無名抄  新撰髓腦  和歌秘々
 和歌九品  八代集秀歌  毎月抄
 金玉集  海人手子良集  三體和歌
 堀川院艶書合  馬内侍集  相模集
 康資王母集  殷富門院大輔集  後堀川院民部卿典侍集
 上謌合  謌合  八幡若宮撰歌合
 五十番歌合  三井寺新羅社歌合  實方中将集
 大納言經信卿集  元良親王集  基俊集
 亭子院有心無心歌合  寛平御時歌合  寛平御時后宮歌合
 弘徽殿女御十番歌合  備中守仲實朝臣女子根合
 賀茂別雷社歌合  康保三年より以上八ヶ度歌合
 家驪ィ自歌合  遠所御抄  土御門院百首合
 卿相侍臣歌合  辨乳母集  月卿雲客妬歌合
 七玉集  卿相侍臣歌合  日吉七社歌合
 待賢門院堀川集  左大臣明集  御堂關白集
 安法師家集  權大納言典侍集  C慎公集
 大后宮大貳  為頼朝臣集  親髀W
 千頴集  家經朝臣集  菅原相女集
 大中臣頼基集  九條殿師輔公集  入道大納言資賢集
 顯輔集  四條大納言髢[集  師光集
 本院侍従(*原文「徒」)集  伊勢大輔集  知家入道自歌合
 敏行朝臣集  式子内親王集  うつほ
 万代和歌集  勝地吐懷編  増かゞみ
 大鏡  色葉和難抄  榮花物語
 同考  松浦物語  古事談
 北山抄  扶桑畧記  兵範記
 類聚雜要  厚顔抄  西宮記
 九代實録  十訓抄  類聚三代格
 日本書記  鼇頭舊事記  貞觀儀式
 續教訓抄  直指南  百練抄
 政事要略  無題詩  續古事談
 古事記  皇字沙汰文  國史神祇集
 南方記傳  皇太神宮年中行事
 文華秀麗集  日本國現報善惡靈異記
 皇年代畧記  阿波羅波命記  即位灌頂由來
 江談抄  楊名問答  日本紀音義
 郢曲撰要  日本私記  本朝續文粹
 撰塵抄  和訓類林  江吏部集
 狹衣  年中行事秘抄  鳳笙全譜
 和字正濫要畧  凌雲集  定家装(*原文「{将/衣}」。以下同じ。)束抄
 催馬樂  神宮雜記  作文大體
 菅家遺戒  古文孝経  内裏式
 續神皇正統紀  神祇宮年中行事  都氏文集
 造殿儀式  神名鏡  熊野道間道記
 郢曲  長寛勘文  卜部龜卜之次第
 内侍所御神樂式  讃岐典侍日記  大江千里集
 瓊玉和歌集  豊受宮御装束御神樂式目
 皇太神宮御装束  多賀宮御装束御神樂式目
 伊勢両神宮末社記  春日肆所御神寳御装束
 春日社遷宮記
右に載する攸、みな契仲の旁註又は校正せし正本にして、今なを現に神庫に蔵むるところの書目なれば、契仲の校本そ此外に出もの稀なり。好事の人この目によつて契仲の校本を索めば、大なる差ひなかるまじ(*ママ)と云。
海保若冲
岑柏と号す。浪華の人なり。同じく國學を契仲に學び、倭訓類林を著す。
因にいふ、倭訓類林を和訓集覧と題して浪華書肆某氏に蔵刻の催しありと雖も、いまだ果さず。余寫本一部を収む。甚だ簡便の書なり。
野田忠肅
攝津今津の農豪なり。長流・契仲に随て古學を學び、万葉類句を撰す。
壺井鶴翁
名は義知、俗称は安左衞門、鶴翁と号す。浪華の人なり。職原に委しく、國學も發明する處多し。
著述
 建武年中行司頭書  枕草帋將(*ママ)束抄  装束要領
 昔傳拾葉  源氏男女装束抄  紫式部日記傍註
 職原辨疑  職原抄解 二十巻  職原抄解 十巻
 装束圖式
〔寉翁門人〕 (*頭書)
速水房常
名は房常。京師の人。業を寉翁に受く。
著述
 職原須知  智譜拙記  年号便覽
多田兵部
名は義俊、一に南嶺子と号す。又は秋齋と稱す。浪花の人。業を壺井寉翁に受けて、才學の聞あり。
著述
 秋齋闌黶@ すなわ草帋 世に南嶺遺藁と云。
 南嶺子  職原聞書  遊和草
 遊和草續篇  神明憑(*原文「{(冫+廿+了)/大}」)談  宮川日記
 故實秘要  鳥追歌注
荷田春満
本姓は荷田宿祢にして、氏は羽倉齋宮と称す。其先城州愛宕山の人、移て洛南稲荷社の祠官となる。日本記・万葉集は家學を傳へて大に發明する攸あり。或は契仲の病褥に至りて國學をうけたりと云り。
著述
 萬葉解  伊勢物語童子問
荷田在満
東之進と号す。よく家學をまもりて古雅を好む。實に春満の姪なり。
著述
 大甞會具釋  同便蒙  國歌八論

在満の男御風、名は東蔵。東都に出て國學を教授す。
加茂眞淵
本姓は加茂縣主、一に岡部衞士と称す。小字は三四。遠州M松の人。業を春満に受け、東都に徃て大に古學を唱ふ。國意考を著して儒佛をなじる。其國學におけるや、大に功ありといひつべし。
著述
 万葉考 今梓に行はるゝは一の巻のみなり。  別記
 冠辞考  祝詞解  伊勢物語古意
 百人一首ういまなび  語意考  國意考
 万葉新採百首解  三部仮名抄言釋
〔真淵門人〕 (*頭書)
藤原宇万伎
本姓は加藤、稱は大助、或は静舎と称す。東都の人。業を真淵に受く。近来浪華の某氏、此人の咏を纂(*原文「糸」を「水」に作る。)めてしづやの家集と題して、真淵のあがたゐの家集とゝもに合刻す。
楫取魚彦
本姓は稲生、稱は茂右衞門。下總楫取の人なり。古雅を真淵に學んで、古言梯を著す。旁ら画を好んで、常に梅花を画く。同門に○倭文女(*油谷倭文子。鵜殿余野子・土岐筑波子と共に県門三才女の称あり。)あり。國學を真淵に學んで、和歌を咏ず。家集文布あり。
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○書畫家

北村雪山
姓は北村、名は三立。肥後隈本の人。雪山と号す。書法を明僧某に學んで、東都に游び、大に書名を聞ゆ。嘗て本に仕ふといへども、放蕩不覊の性なれば、やがて禄を辞して自適を以てこととす。老年嵜陽に住す。元禄年中に没す。
細井知慎
姓は細井、名は知慎、字は公謹、俗稱は次郎太夫、号は廣澤、或は思貽菴・蕉林庵の号あり。遠州懸川驛の産なり。東都に遊んで書法を雪山に學び、若冠にして柳澤に仕ふ。後致仕して東都青山に隱る。享保中に没る。享年七十八なり。
著述
 紫微字様  觀鵞百譚  撥鐙神詮
 篆體異同歌  奇文不載酒  字林長歌
〔廣沢門人〕 (*頭書)
關源内
名は思恭、字は子肅、俗稱源内、鳳岡と号す。東都人。書を廣澤に學ぶ。篆書唐詩選、並に漢隷字源を正す。
三井親和
字は孺卿、龍湖と号す。信州の人。東都に住す。ともに廣澤の門人なり。
平淳信
消日居と号す。字明義。共に同門人。
烏石
姓は源、名は辰、字は君岳、後に姓を葛、名を辰と更む。東武の人。居を古川にとす(*ママ)。その地に烏き石あるによつて烏石を以て号とす。少して酒徒に混じて飲を縦にし、遊蕩家をなさず。業を南郭に受け、書を廣澤に學び、後に一家をなして名價一時に高し。金石韻府・七才詩集・唐詩聯選正續・書譜・中書揩决等をして上木す。筆するところの諸墨帖數本、今目を省す。
蒙所
姓は新興、自ら脩めて興とす。名は光鍾、字は中連、俗称文治、積小舘と号す。肥前蓮池の人。長じて本に仕へ、浪華に住す。一家の書法以て一時に鳴る。
著述
 積小舘書則  草書國牘
新興周平
氏は牧、名は世儀、夏岳と号す。其外、○泉必東、○興大蔵等あり。いまこゝに畧す。
僧佚山
字は點隱、常足道人と号す。初めの名は森修來と号す。大坂の人。書を夏岳に學び、後一家をなし、趙寉光が説文長箋によつてよく篆文を画す。
著述
 古篆論語  補闕千字文  補闕篆體異同歌
僧獨立
はじめは戴笠、字は曼公といふ。明人なり。歸化して僧となり、獨立と号す。書法を玄岱に授く。又醫技に長ぜり。
陶齋
本姓は趙、名は養、字は仲、陶齋と号す。一に息心居士と稱す。又はC暉閣の号あり。C人趙氏の胤にして、崎陽に在るの日、深見玄岱の家にあり。よつて歸俗のはじめ或は深見を以名のる。晩年泉州界の府に來りて枸杞園に住す。まことに近時の善書の一人なり。天明中没す。
池永道雲
姓は池永、名は春、通称道雲、一峯と号す。東都の賈人なり。篆刻を以て聞ゆ。
著述
 篆髄 篆體異同歌に合刻す。  一刀万篆
高芙蓉
本姓は近藤、自ら脩して高とす。名は孟彪、字は孺皮、俗稱はエ記。甲州の産なり。作印篆刻を以て京師に聞ふ(*ママ)。晩年東武に没す。其刻古今私印記あり。
雪溪
本姓は山口氏、梅庵と号す。牧溪・雪舟を追慕して自ら雪溪と号す。京師の人。花卉・人物を描く、みな奇想に出づ。固り画法もこれ一家をなす。門人望月玉蟾、名は玄。京師の人。これまた一時の名品なり。
彭百川
彭城氏、名は真淵、蓬洲と号す。或は八仙と稱す。勢州の人。京師に寓す。一家の画法を以て鳴る。且つ書画の鑒定をなすに、其論甚だ画Iせり。及び俳諧ごとき瑣事といへどもみなその妙を盡せり。著述元明画人考あり。
大雅堂
名は無名、字は貸成、九霞と号す。或は九霞山樵の字を省して霞樵と称す。通名は池野秋平と号す。京師の人。はじめ画を祇南海及び柳里恭に學ぶ。のちに倪雲林・伊孚九に倣て山水・人物を画く。書は自ら古法帖によつて學び、書画ともに一家をなす。行状みな口碑に傳ふればこゝに贅せず。○妻玉瀾、はじめ名は町、祇園の茶店百合子が女なり。其行ひ夫に配して、また書画をよくす。
柳里恭
本姓は柳澤、名は公美、字里恭、淇園と号す。通名權大夫、或は玉桂の号あり。郡山の世臣たり。性質豪邁にして拘らず、甚だ客を喜むの癖あり。花卉・人物を画く。設色の法、尤妙を盡くす。書及び百家の技術、みな微に入らずと云ことなし。著述鏡あり。
呉俊明
本姓は五十嵐氏。自ら脩めて呉とす。名は俊明、字は方コ、或は孤峯、穆翁の号あり。越後州新潟(*原文「瀉」)の人。幼時父の命を以丹を學び、遂に鉛にいたる。法眼位に叙す。
熊斐
姓は熊、名は斐、字は淇瞻、小字は彦之進と稱し、後に甚左衞門と更む。江は号なり。西肥長嵜の人。家世々舌官を職とす。少して画を渡邉某に學ぶ。時に清人沈南蘋、長嵜の府内に來る。熊斐舌官の末にありて見ゆることを得たり。就て繪事を問に、沈詮その奇才あるを愛してことごとく画法を授く。これより能画の名四方に普し。卒する年六十一歳。
宋紫石
本姓は楠本、名は雪溪、字は君赫。はじめ画を熊斐に學ぶ。後に清人宋紫岩に画法を聞て大に覺悟する處あり。遂に宋氏を冐し、名を紫石と更め、東都に歸りて画を以て業とす。その画帖梓に行はるゝもの、画藪・画譜抔(*原文「ホ」)あり。
建凌(*原文「{冫+麦}」。以下同じ。)
名は凌岱、字は孟喬、寒葉齋と号す。或は綾足と称す。奥州の人。京師及び東都に寓す。画を熊斐に學んでまた一家をなす。國學を真淵に聞て、共に古風を唱ふ。
 建氏画苑  寒葉齋画譜  孟喬雜画
 漢画指南
古風及び片歌を唱ふ(*ママ)ときの著撰は、
 詞草小苑  俳諧明題集  とはし草
 二夜問答  道のはじめ  本朝水滸傳
 西山物語  歌文要語  はしがきぶり
宮奇
姓は宮、名は奇、字は子常、圃と号す。俗称は常之進。尾州の人。京師に寓す。業を蘭嵎に受て名高し。旁ら好んで竹を画くに、高尚の氣象をのづから風韻あるによつて、画を求る人甚だ多し。時の人中渠・藤直・李溪富(*「四竹は浅井図南・御園意済〔中渠〕・山科宗安〔李溪〕・宮圃等なり。 」〔近世畸人伝〕)と併せて平安の四竹と目す。晩年自ら小技に名あることを慙て、誓画をなさず。卒する年五十八歳。
謝長庚
姓は与謝、名は長庚、字は春星、三果と号し、蕪村と号す。近時の能画なり。京師に住す。旁ら俳諧を唱ふに、夜半亭を以て行る。
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○補遺

西川忠英
姓西川、名は忠英、字は如見、求林齋と号す。嵜陽の人。少して天文の學を好み、皓首にいたりて廢せず。享保中、東都に徴せられて、嵜陽譯官に命ぜらる。卒する年七十七歳。
著述
 四十二國人物圖説  虞書暦象俗解  天文義論
 日本水土考  天文和歌注  町人
 長嵜夜話草  水土解辨  華夷通商考
 萬物怪異辨断
男正休
名は正休、通名は忠次郎。克く家學を繼て、家書を訂正す。嘗て天経或問を訓点し、忠英の著せし天學名目抄を附して梓に授く。
中根元圭
姓は中根、名璋、字は元圭、字を以て行る。通名は文右衞門。京師の産なり。暦算の學を以て聞ゆ。
著述
 三正俗解  授時暦俗解  律原發揮
 皇和通暦  七乗巾演式  暦算啓蒙
 算法不作集  津聾暦
男彦脩
名は下、字は彦脩、通名安、之烝と号す。
著述
 勘者御伽草帋  竿頭算法
元圭(*原文「{大/土}」)の女某、また才女にして克く天學を知れりと。其名を詳にせず。
天野信景
名は信景、通称治部。尾州の人。享保中に没す。年七十二。著述鹽尻之記百巻あり。詩纂に天野景信の詩一首を収む。恐らくは此人ならん。
井澤長秀
姓は井澤、名は長秀、蟠龍子と号す。通称七郎左衞門。肥後隈本の人。博洽の聞ありて、本に仕ふ。
著述
 俗説辨  難字訓  漢字和訓
 菊池軍記  武士訓  明君家訓
 天瓊矛記  女訓みさご草  大和女訓
金蘭齋
字号を詳にせず。京師に講説す。老荘の學を崇み、生涯無為を以て境とす。著述老子國字解あり。
山鹿甚五左衞門
名は素行、字は某。東都の人。はじめ北条房州に仕へ、後致仕して兵學を唱ふ。故あつて律を犯し、淺野に幽せらる。著述、世にいふ山鹿流十八部の書といへるあり。その目左のごとし。
 兵法神武雄備集  武教要録  手鏡要録
 備教要録  山鹿語類  兵法或問
 武教全書  聖教要録  自得奥儀
 治平要録  武事記  武ヘ餘録
 百結字類  謫居童問  七書諺解
 古今戰畧考  武類全書  中朝事實
 神道書
馬塲信武
姓は馬塲、名は信武、字某。京師の人なり。易術をよび兵学を以て彰る。
著述
 五経圖解  梅花心易掌中指南
 斷易指南  易啓蒙圖説  周易指掌大成
 看命一掌金和解
寺嶌良安
姓は寺嶌、名は良安、字は某。浪華の人。
著述
 三才諸神本紀  濟世寳  和漢三才圖會
神田白龍子
姓は神田なり。白龍子と号す。東武神田の人。名稱を詳にせず。兵學を以て聞ふ(*ママ)(*入力者依拠本に「名は勝久。」と朱書あり。)
著述
 七書俚諺抄  武家名數  諸家名數
 (*入力者依拠本に「新刄銘盡  武家童子訓」と朱書追記あり。)
新井白蛾
姓は新井、名は祐登、字は謙吉、号は白蛾、古易舘を以通称とす。東都の産なり。少して淺見齋に學ぶ。壮年に及んで自ら嘆じて曰、言行に苦しんで身を風塵の中に驅れんやと。ついに百家の書を讀んで、儒名を去つて居らず。葢し易を讀ておかず。一旦(*原文「一且」)醒悟するところありて一家言をのべ、易術を以て四方に聞ふ。老来また大に程朱を尊信すと云り。寛政中に賀に筮仕し、不日にして没す。七十餘歳。
著述
 古易断内外篇  古易断時言  時言外篇
 易學類篇  易學小筌  古易一家言
 古易焔`  梅花心易評注  聖學自在
 周易牙D  古易通  牛馬問
 煙(*原文「{火偏+(/土)}」)霞綺談  闇の曙  唐詩兒訓
石田勘平
姓は石田、名は勘平、字号を詳にせず。心法の學を以て愚俗を教化し、都鄙問答・齊(*原文「齋」)家論を著す。門人に手嶋某(*手島堵庵)あり。共に京師の人なり。

(*日本諸家人物誌<了>)

(*奥書に)
日本ゥ家人物志|慶長以來の儒医和學書画の諸家の名称・行實・著撰の書にて、つまびらかにしるす。 一冊
同 續篇|右にもれたるをしるし、世の一助とす。 一冊
漢土ゥ家人物志|東漢以來の儒医書画名高人の行状・著述・法帖抔(*原文「ホ」)委しるす。 三冊
寛政十二年庚申(*1800年)正月改刻
書林 江戸石甼二丁目 西村源六
大坂新齋橋博勞甼 柏原屋嘉兵衛


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