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深養父集 −増補−

参考: 谷山茂、他編『私家集編T 歌集』(新編国歌大観3 角川書店 1985.5.16
清原深養父の作と伝えられる歌を集めたもの(65首)。異本補遺と勅撰集補遺を加えた(66-87)。
※ 各歌収載歌集名を付記する際、和歌辞典・国歌大観等の索引の他に以下のHPを参照した。
「詠歌年代順による平安朝新編私家集」(重田仁美氏)の注記
 http://member.nifty.ne.jp/sigeta/kareki.html
「千人万首」〔『やまとうた』のうち。〕(水垣久氏)の注記
 http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin.html

ただし、未確認の歌集名には◇を付けた。
※ 歌番号に * を付した歌(9首)は他の作者名を記し、 - の歌(10首)は「よみ人しらず」とする。
(後者のうち、古今和歌六帖で「深養父」とする歌が2首ある。)(*入力者注)

 四季  離別・物名  恋・雑
 【以下は付加部分】  異本補遺  勅撰集他補遺
 補足1(後撰集より)  補足2(百人一首一夕話より)  補足3(中古歌仙三十六人伝より)  補足4(扶桑隠逸伝より)

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01
春のはじめ
春日野に けふもみ雪の 降りしくは 雲井に春の まだ(*原文「また」)やこざらん

〔新続古今集5、四句・結句「雲ぢに春やまだこざるらん」、詞書「題しらず」/万代和歌集73も新続古今集と同様/夫木和歌抄95も同様〕
02
はる、ゆきのふる日
かきくもり 冬におくれて ふる雪の 春ともみえて(*「花ともみえて」か。) けふもくらしつ

〔◇二類本1〕
03-
山ざくらをみて
春霞 なにかくすらむ 桜花 ちるまをだにも みるべきものを

〔◇二類本2/古今集79【よみ人しらず】、詞書「山の桜を見てよめる」/古今和歌六帖4202〕
04
三月つごもりがたに、山がはより、花のながれて行くを見て
花ちれる 水のまにまに とめくれば 山には春も なくなりにけり

〔◇二類本3/古今集129/古今和歌六帖70、二句「みちのまにまに」・結句「残らざりけり」〕
05
から桃(*唐桃・桃)といふだいを(*物名)
あふからも 物は先こそ かなしけれ わかれんことを かねて思へば

〔◇二類本4/古今集429、二句「ものはなほこそ」、題「からもものはな」/古今和歌六帖4274、二句「物はなほこそ」〕
06
題しらず
さきにけり けふは山べの 桜花 かすみたたずは いそぎ見てまし

〔◇二類本5/新続古今集120/雲葉和歌集(藤原基家)103〕
07
だいしらず
桜ちる 所はうみに なりななむ 春の名残の 立ちとまるべく
08
 
うちはへて 春はさばかり のどけきを 花の心や なにいそぐらむ

〔◇二類本6/後撰集92〕
09*
 
白妙の いもが衣に 梅のはな 色をも香をも わきぞかねつる

〔◇躬恒一類本136(*躬恒集の一系統と思われるが未詳。)/◇躬恒二類本47/◇躬恒三類本35/拾遺集17【つらゆき】、詞書「ももぞのにすみ侍りける前斎院屏風に」/古今和歌六帖3327、四句「かにもいろにも」/新撰朗詠集85〕
10
 
深山出でて いくよかきつる 時鳥 夜ぶかくなけば 聞く人もなし
11
月のあかかりける夜
夏の夜は まだよひながら 明けぬるを 雲のいづこに 月やどるらん

〔◇二類本7/古今集166、詞書「月のおもしろかりける夜、あかつきがたによめる」/新撰和歌(紀貫之)159、四句・結句「くものいづくに月かくるらん」/古今和歌六帖289/新撰朗詠集145、四句・結句「雲のいづくに月残るらむ」/後六々撰(藤原範兼)、初句「夏の夜の」、四句「雲のいづくに」〕
12
 
いく世(*原文「いく夜」)へて 後かわすれん 散りぬべき 野べの秋萩 みがく(*原文「みかく」。磨く=飾り立てる・光彩を加える。)月よを

〔◇二類本8/後撰集317、初句「いく世へて」/古今和歌六帖3649、結句「みだるべきよを」/和歌一字抄(藤原清輔)1048、題「萩越瑩」/袋草紙(藤原清輔)703/古来風体抄(藤原俊成)314、結句「みつる夜の月」〕
13
 
あきの海に うつれる月を 立かへり(*原文「立帰り」) 浪はあらへど 色もかはらず

〔後撰集322/古今和歌六帖310、四句・結句「浪にあらへど色はかはらず」〕
14
 
消えかへり 物思ふあきの 心こそ 涙の川の もみぢ(*原文「いすち」)なりけれ

〔◇二類本9/後撰集332、三句「衣こそ」・結句「紅葉なりけれ」〕
15
神なび山をまうできて、立田河をわたるとて、紅葉のながれけるを見て
神なびの 山を過行く 秋なれば たつた川にぞ ぬさはたむくる

〔◇二類本10/◇三類本4/古今集300〕
16
 
花薄 かぜになびきて 乱るるは むすびおきてし 露やとくらん

〔◇二類本11/続古今集342/古今和歌六帖3707/雲葉和歌集424〕
17
 
みなそこに くきなき花ぞ 散りまがふ 雲のあなたに 春やきぬらむ (*19と同工異曲の歌。雪が川に降るさまか。)

〔◇二類本13〕
18
雪のふるを見て
冬ながら 春のとなりの 近ければ 中がきよりぞ 花は散りける

〔◇二類本14/古今集1021、詞書「あす春たたむとしける日、隣の家のかたより、風の雪を吹き越しけるを見て、その隣へよみてつかはしける」/古今和歌六帖1349/題林愚抄10081、詞書「…風の雪をふきとしけるをみて…」/◇明題和歌全集12025〕
19
 
冬ながら 空より花の 散りくるは 雲のあなたは 春にや有るらん

〔◇二類本15/古今集330、詞書「ゆきのふりけるをよみける」/古今和歌六帖730/題林愚抄5724/◇明題和歌全集6715〕
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20
あひしりて侍りける人の、あづまへまかりけるをおくりて
雲井にも かよふ心の おくれねば わかると人に 見ゆばかりなり

〔◇三類本12/古今集378/古今和歌六帖2373、二句「ふかきこころの」/後六々撰、二句「深き心の」、結句「みゆるばかりぞ」〕
21
かはなぐさ(*川菜草=カワモズク)といふだいを(*物名)
むば玉の 夢になにかは なぐさまむ うつつにだにも あかぬ心を

〔◇二類本17/古今集449、結句「あかぬ心は」/古今和歌六帖2047、三句「なぐさめん」〕
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22
むしのごと 声にたてては なかねども 涙のみこそ 下にながるれ

〔◇二類本18/古今集581/古今和歌六帖2658〕
23
 
人を思ふ 心は雁に あらねども 雲井にのみも(*うわの空で) なきわたるかな

〔◇二類本19/古今集585〕
24
 
今ははや 恋ひしなましを あひみんと たのめしことぞ (*唯一の頼み・生き甲斐)なりける

〔◇二類本20/古今集613/古今和歌六帖1994〕
25
 
恋ひしなば たがなはたたじ(*〔あなた以外の〕誰の名の現れないことがあろうか。) 世中の つねなき物と いひはなすとも(*言ひは做すとも)

〔◇三類本8/古今集603/後六々撰〕
26
 
みつしほの ながれひるま(*「干る間」と「昼間」との掛詞) あひがたみ みるめ(*「海松布」と「見る目」との掛詞)の浦に よる(*「寄る」と「夜」との掛詞)をこそまて

〔◇二類本21/古今集665/古今和歌六帖1866、二句「ながれひるまも」〕
27
 
心をぞ わりなき物と 思ひぬる 見るものからや 恋しかるべき

〔◇二類本22/古今集685/古今和歌六帖2715、三句「おもひぬれ」・四句「みるものかくや」/後六々撰〕
28
 
うれしくは わするる事も 有りなまし つらきぞ長き 形見なりける

〔◇三類本9/新古今集1403/古今和歌六帖2191〕
29
 
うらみても しほのひるまに なぐさめつ 袂に波の よる(*「ひるま」と対にする。26と同工の歌。)いかにせん

〔◇二類本23/◇三類本10/続後撰集839、二句「しほのひるまは」、詞書「女につかはしける」/秋風和歌集(藤原光俊)830、初句・二句「わびつつも塩のひるまは」〕
30
 
恋しとは たが名づけける 事ならん しぬとぞただに いふべかりける

〔◇三類本11/古今集698、二句「たが名づけけむ」/古今和歌六帖2005、二句・三句「たがなづけけんことのはぞ」〕
31
題しらず
光なき (*「くら谷」か。)には春の よそなれば さきてとく散る 物思ひもなし

〔◇二類本24/古今集967、二句「谷には春も」、詞書「時なりける人の、にはかに時なくなりてなげくを見て、みづからの、なげきもなくよろこびもなきことを思ひてよめる」/古今和歌六帖1012、初句・二句「ひかりまつたにには春も」/新撰和歌291、二句「たにには春も」〕
32-
七月七日、ものいひやりける人の、きかざりけるに、いひやる
わびぬれば つねはゆゆしき 織女も うらやまれぬる 物にぞ有りける

〔拾遺集773【よみ人しらず】、三句「たなばたも」、詞書無し/古今和歌六帖135、三句「七夕も」〕
33
 
いづくにか こよひの月の くもるべき をぐらの山も なをや(*原文「なほや」)かふらん

〔新古今集405【大江千里】、結句「名をやかふらん」/古今和歌六帖331、初句「いづこにか」、四句・結句「をぐらの山は名をやかふらん」〕
34
 
うつせみの むなしきからに なるまでも 忘れんと思ふ われならなくに

〔◇二類本25/後撰集896、詞書「女のうらみおこせて侍りければ、つかはしける」/古今和歌六帖3977、三句「なるまでに」〕
35*
 
浪にのみ ひたれる松の ふか緑 いくしほ(*幾入。「入(しほ)」は布を染料に漬ける回数の単位。)とかは いふべかるらん

〔伊勢集71【伊勢】、初句「うみにのみ」、結句「しるべかりける」、詞書「まつのすゑうみにいりたる所」/◇伊勢集二類本73/◇伊勢集三類本503/拾遺集457【伊勢】、初句・二句「海にのみひちたる松の」、結句「しるべかるらん」、詞書「五条の内侍のかみの賀の屏風に、松のうみにひたりたる所を」/拾遺抄雑下516【伊勢】、初句・二句「うみにのみひたれる松の」、結句「しるべかるらむ」、詞書「五条の尚侍の賀の屏風のゑに、松のうみにひちたるかたあるところに」/◇六帖5〕
36
 
滝つせ(*=たぎつ瀬) 結びかけたる 白糸の(*「撚る」を導く序詞。) よるしもなどか 逢ふといふらん
37
 
昔みし 春はむかしの 春ながら 我が身ひとつの あらずも有るかな

〔◇二類本26/新古今集1450〕 (*「月やあらぬ春やむかしの春ならぬわが身一つはもとの身にして」〔在原業平〕の類想歌)
38
 
涙河 もくづおほくや ながれ出づる せぜうちはらふ 人しなければ

〔◇二類本27/◇三類本7/万代和歌集(藤原光俊=真観)2683、二・三句「もくづおほくぞなりにける」〕
39
 
思ひける 人をぞともに おもはまし(*思ったらよかったのに。) まさしやむくひ なかりけりやは

〔◇二類本28/古今集1042、初句「思ひけむ」・四句「まさしやむくい」、作者「一本、ふかやぶ」/古今和歌六帖2134、初句「おもひけん」・四句「まさしやむくひ」〕
40
 
憂身には 煙なれども(*原文「煙なれとも」) きえなくに 空にかくるる 事のはかなさ

〔◇二類本16〕
41
 
恨みつつ ぬるよの袖の かわかぬは 枕のかたに しほやみつらん

〔◇三類本6/新古今集1377、四句「枕のしたに」〕
42
 
とりかへて 下にこがるる なげき(*「嘆き」と「木(薪)」とを掛ける。)をば 我がみをつみて しる人のなき
43
 
ともすれば 立たなんとする あま雲の 空とも(*はるかに遠く)人の おもほゆるかな

〔◇二類本29〕
44
 
おのれたき おのれけぶたき 思ひかな こやわれからの あまのたくも火(*焚藻火)
45*
 
恋しくは かげをみてだに なぐさめよ われうちとけて しのびがほなり

〔後撰集909【一条】、二句「影をだに見て」、四句・結句「わがうちとけてしのぶかほなり」、詞書「一条がもとに、いとなんこひしきといひにやりたりければ、おにのかた(*絵)をかきてやるとて」−伊勢との贈答歌(909・910)〕
46*
 
色ならば うつるばかりも そめてまし 思ふ心を しる人のなき

〔貫之集621/◇貫之三類本21/後撰集631【つらゆき】、結句「えやは見せける」、詞書「いひかはしける女のもとより、なほざりにいふにこそあんめれといへりければ」/拾遺集623【貫之】、結句「しる人のなき」、詞書「題しらず」/古今和歌六帖2659【つらゆき】、結句「しる人のなさ」〕
47*
 
思ひやる 心にたぐふ みなりせば ひとひにちたび 君は見てまし

〔後撰集678【大江千古】〕
48
 
心にも あらぬ別は 有りやせん 誰もしるよの 命ならねば

〔続古今集1462、詞書「無常の歌とて」〕
49*
 
東路の さのの舟橋(*上野国佐野の舟の橋。「かく」の序詞。) かけてのみ 思ひわたるを(*ずっと思いを懸けてきたのを) しる人のなき

〔後撰集619【源ひとしの朝臣】、結句「しる人のなさ」、詞書「人のもとにつかはしける」〕
50-
 
川とみて わたらぬ中に ながるるは いはで物思ふ なみだなりけり

〔後撰集636【よみ人しらず】、詞書「おなじ所にて見かはしながら、えあはざりける女に」〕
51-
 
いはで思ふ こともありそ(*「有り」と「荒磯」との掛詞) はま風に 立つ白浪の(*「夜」に係る序詞) よるぞわびしき

〔後撰集689【よみ人しらず】、二句「心ありその」、詞書「ひとを思ひかけて心地もあらず(*思いを抑えがたく)や有りけん、物もいはずして日くるればおきもあがらずとききて、この思ひかけたる女のもとより、などかくすきずきしくはといひて侍りければ」〕
52-
 
今ぞしる あかぬ別の あかつきは 君をこひぢ(*「恋ひ」と「泥(こひぢ)」とを掛ける。) ぬるる物とは

〔後撰集567【作者名なし】、詞書「をとこのはじめて女のもとにまかりてあしたに、雨のふるにかへりてつかはしける」−女の返し「よそにふる雨とこそきけおぼつかな何をか人のこひぢといふらん」(568)〕
53*
 
人はいさ 我はなき名の をしければ 昔も今も しらずとをいはむ

〔古今集630【もとかた】(在原元方)/後撰集634【おほつぶね】/新撰和歌282/古今和歌六帖3071【もとかた】〕
54-
 
おもはむと 誰がよ(*「よ」は間投助詞か。)たのめし ことの葉は 忘草とぞ いまはなりぬる

〔後撰集921【よみ人しらず】、二句「我をたのめし」・結句「今はなるらし」〕
55-
 
ひとりのみ おもへばくるし よぶこ鳥(*時鳥) 声になきつつ 君にきかせん

〔後撰集690【よみ人しらず】、二句「こふればくるし」・四句「こゑになきいでて」、詞書「心かけて侍りけれど、いひつかん方もなくつれなきさまの見えければつかはしける」〕
56*
 
逢ふことの よよ(*「夜」と「節」との掛詞)をへだつる 呉竹の ふしの数なる 恋もするかな

〔後撰集673【藤原清正】、四句「ふしのかずなき」(臥すことの少ない)〕
57-
 
まだしらぬ 思ひにもゆる 我がみかな さるは涙の かはの中にて

〔拾遺集962【よみ人しらず】〕
58
 
なにかよに くるしき物と 人とはば あはぬ恋とぞ いふべかりける

〔玉葉集1288、詞書「恋歌とて」/万代和歌集1764〕
59-
 
恋すれば くるしき物と しらすべく 人を我がみに しばしなさばや

〔拾遺集753【よみ人しらず】、初句「恋するは」〕
60-
 
いかで猶 しばし忘れん 命だに あらば逢ふ世の ありもこそすれ(*ひょっとしてあるかもしれないので)

〔拾遺集646【よみ人しらず】、初句「いかにして」〕
61*
 
むねはふじ 袖は清見が 関なれや 煙も波も たたぬ日ぞなき

〔金葉集(三奏本)397【平祐挙】、詞書「女のがりつかはしける」/詞花集213【平祐挙】/玄々集(能因)90【祐挙(*略)駿河守】〕
62
 
袖はぬれ むねはこがるる 我がみかな こひはひ水(*火と水) なれるなるべし
63
 
煙立つ 思ひ(*「思ひ」に「火」を掛ける。)ならねど 人しれず わびてはふじの (*「嶺」と「音」との掛詞)をのみぞなく

〔新古今集1009〕
64
 
峰はもえ ふもとはにごる ふじ河の 我も憂世を 住み(*「澄み」と「住み」とを掛ける。)ぞわづらふ

〔夫木和歌抄11156、二句「ふもとはこほる」、詞書「定文家歌合」〕
65
 
足引の 山のあなたを 見てしかな(*見たいものだ。) よのうき時の かくれがにせむ

〔参考:新撰和歌(紀貫之)345【作者記載なし】、二句・三句「山のあなたにいへもがな」〕


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(異本補遺)

※ 新編国歌大観解題より。「伝貫之筆部類名家集切」(12首)が「三類本」か。
新編国歌大観解題によれば、他の伝本は「伝行成筆枡色紙」(29首)の系統。

66
 
はつかりの ねをのみぞきく をぐらやま きりたちはるる ときしなければ

〔◇三類本1/新古今集496、初句「なくかりの」〕
67
 
かはぎりの ふもとをこめて たちぬれば そらにぞあきの やまはみえける

〔◇三類本 深養父集2/寛平御時中宮歌合17/拾遺集202/古今和歌六帖649/金玉集28/和漢朗詠集343〕
68
紅葉
あきぎりは たたずもあらなん あしひきの やまのにしきは むらながらみむ

〔◇三類本3/古今和歌六帖4095、三句以下「さほ山のははそのもみぢよそながらみん」—これは別歌か。〕
69
 
さよふけて くもゐはるかに なくかりの こゑきくよしも かぜのはげしき

〔◇二類本12/◇三類本5〕
70
 
おほぞらに くきすき花ぞ ちりまがふ くものあなたに はるやきぬらん (*17を参照。)


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(勅撰集他補遺)

※ 以下の資料による。
沼波守 編「新修作者部類」(校註国歌大系23 国民図書株式会社 1930.12.20)
有吉保・他 編「勅撰作者部類」(『和歌文学大辞典』 明治書院 1962.11.15)

※ 古今和歌六帖は新編国歌大観で調べた。
※ 85番の歌は、前出「詠歌年代順による平安朝新編私家集」「千人万首」による。

71
わかなをよめる
おしなべて いざ春ののに まじりなん わかなつみくる 人もあふやと

〔続千載集34/万代和歌集60、「題しらず」/雲葉和歌集24/◇明題和歌全集408〕
72
春雨を
春雨や なべてそむらん 嶺とほき 山のみどりも 色ふかくみゆ

〔続後拾遺集62/万代和歌集159、三句「きしとほき」/◇明題和歌全集937〕
73
題しらず
この川は わたる瀬もなし 紅葉ばの 流れてふかき 色にみえつつ

〔新千載集624/古今和歌六帖1742、結句「色をみすれば」〕
74
 
草ふかく さびしからむと 住む宿の 在明の月に 誰をまたまし

〔新拾遺集437/雲葉和歌集614、「題不知」〕
75
題しらず
年をへて ちりのみつもる 涙かな とこうちはらふ 人しなければ

〔新拾遺集966〕
76
 
物おもへば いもねられぬを あやしくも 忘るる事を 夢にみるかな

〔新拾遺集1321/古今和歌六帖2049—2047作者に「ふかやぶある本」とあり、三種続いている。前出21「むばたまの…」(2047)、「よのなかはねてもさめてもゆめならばわすれぬさへをわするとやせん」(2048)—最後の歌も深養父作か。〕
77
題しらず
春霞 たなびきわたる まきもく(*巻向・纏向) ひばらの山の 色のことなる

〔新後拾遺集34〕
78
 
秋の月 常にかくてる 物ならば やみになるよは まじらざらまし(*交じらないのだろうが。)

〔古今和歌六帖309〕
79
 
秋のよの 月の光は あかけれど 人の心の うちはてらさず

〔古今和歌六帖311〕
80
 
しらなみに あきのこのはの うかべるを あまのながせる 舟かとぞ思ふ

〔古今和歌六帖1825〕
81
 
ときはなる まつのしらべに ひくことは (*緒)ごとにきみを ちとせとぞなる

〔古今和歌六帖2256〕
82
 
まさりては 我ぞもえける 夏虫の 火にかかるとて などもどきけん

〔古今和歌六帖3983〕
83
 
ふすからに まつぞわびしき 時鳥 なくひとこゑに あくるよなれば

〔古今和歌六帖4444〕
84
藤花
あまつそら てりみくもりみ ゆくつきの ふぢのはなとは(*淵の端などは、の意か。物名歌。) さやけかるらん

〔宇多院歌合22〕
85
 
初雁の 声きこゆなり 葉月たち 朝のはらの(*原文「朝のきりの」) 薄霧の間に

〔六華和歌集(由阿−詞林采葉抄の著者)815/秘藏抄(撰者未詳)65、三句・四句「はつき立つ朝の原の」、題「八月 はつき」—歌に月名を詠み込んだもの〕
86
 
こひしくは あしたのはらを いでてみん 又あさがほの 花はさくやと

〔夫木和歌抄4574、「題不知」〕
87
 
あさ日山 かすみのたにに 冬ごもり わがもの思ひの はるるよもなし

〔夫木和歌抄9124、「題しらず」 → 参考:同9123「あさか山かすみのたににかげくもりわがものおもひははるるよもなし」(題しらず 読人不知)〕


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(補足1) 後撰集より
A
夏夜、深養父が琴ひくを聞きて
藤原兼輔朝臣
短か夜の ふけゆくまゝに 高砂の 峰の松風 吹くかとぞ聞く

〔後撰集167〕
B
おなじ心を
つらゆき
葦引の 山下水は ゆきかよひ 琴の音にさへ ながるべら也

〔後撰集168〕

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(補足2) 百人一首一夕話より
※ 塚本哲三 校訂『百人一首一夕話 全』(有朋堂文庫 1927.3.20)

清原深養父

清原の姓は、舍人親王の子孫、其外ゥ皇子の末にも賜れり。姓氏録に、清原眞人まうと敏達天皇の御孫、百済おほきみの後なりともあり。深養父は、作者部類に、筑前介海雄うみをの孫、豐前介房則の子とあり。又一説に從五位下内匠允藏人所の雜色とも云り。
夏の夜はまだ宵ながら明ぬるを
くものいづこにつきわたるらむ
古今集夏部に、月のおもしろかりける夜、曉方によめるとあり。歌の意は、夏の夜はさてもみじかきものなり、まだ宵の間ぞと思ひしに、其宵ながらに夜が明たれば、空を行く月は西に入はてずして、雲のいづかたに宿りてあるらんといふ事なり。

清原深養父の話

山城に小野の里といふ所二つ有り。宇治郡の小野の里と、愛宕郡おたぎのこほりの小野の里と二箇所也。愛宕の小野は叡山横川の麓の高野たかのといふ所なり。此所は昔惟喬の御子の御ぐしおろして住せ給ひし所にて、源氏物語に、浮舟のかくれ住しと書けるもこゝなり。此小野の里に深養父の建立せられし補陀洛寺ふだらくじといふ寺あるよし、源平盛衰記に見えたり。又井蛙抄(*頓阿)には、此寺に深養父の住れたる由かけり。此寺の跡は江文えぶみ明神の社と、靜原しづはらとの間に在て、ところ\〃/に礎あるところともいひ、又靜原村より半里ばかりの山のふもとに、古き樫木の一株ある所なりともいへり。

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(補足3) 中古歌仙三十六人伝より
※ 中原師光「中古歌仙三十六人傳」(羣書類從 第5輯〔系譜部・傳部・官職部〕・卷第65
 續群書類從完成會 1930.11.20、訂正三版 1960.2.20)

清原深羪父

※ 羪=■(羊+良:よう:養と同字:大漢和50027)
先祖不見。延喜八年(*908年)正月十二日任2内匠大允1延長元年(*923年)六月廿二日任2内藏大允1八年(*930年)十一月廿一日叙2從五位下1。〔御即位(*朱雀天皇)叙位。諸司勞廿年。〕(*割注)

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(補足4) 扶桑隠逸伝より
※ 元政「扶桑隱逸傳」(清水龍山校閲、音馬實藏校譯『國譯扶桑隱逸傳 全』
 霞谷叢書 第二篇 平樂寺書店 1930.10.13)

清原■(三水+{穴/ォの頭}:しん::大漢和18005)養父

深養父は、清原氏。豐前介房則が子なり。和歌を善くし、能く琴を鼓す。一夕琴を彈ず。夜け韻高し。松風の如く、かん(石偏+間:::大漢和24479)水に似たり。兼輔貫之皆感嘆して詠歌す。深養父仕へて朝散大夫となり、少府丞せうふじように任ず。後に精舍を北山の窮邃きうすゐに構ふ。謂ゆる普陀落寺なり。深養父嘗て時を得る者の、俄に路を失うて悲歎するを見て、おもうて言はく、「我は喜びもなくうれへもなし。」と。因て和歌を作りてこゝろを示す。古今集に見えたり。

賛に曰く、(*元政深養父舊隱きういんを訪ふ。靜原しづはらの邃溪。民村を去ること半里許にして、一の翠微にいたる。古栢こはく(*檜)しゆあり。大さ殆ど十、森々として雲の如し。村翁ゆびさして曰く、「是補陀樂寺の遺址なり。」(*と。)溪水■(三水+令:れい::大漢和17306)々として、一鳥鳴かず。幽邃孤絶、顧ふに生を寄せつべし。因て彼光なき溪の歌(*31の歌を参照。)を詠じて、情に感ずることあり。


※ 他に、「源平盛衰記」、頓阿「井蛙抄」、尊円親王門葉記」、洞院公賢拾芥抄」等にも深養父関連記事があるという。

(*深養父集−増補版− <了>)


 四季  離別・物名  恋・雑
 【以下は付加部分】  異本補遺  勅撰集他補遺
 補足1(後撰集より)  補足2(百人一首一夕話より)  補足3(中古歌仙三十六人伝より)  補足4(扶桑隠逸伝より)

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