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向上訓練の研究

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イン・バスケット法

◆内容
 未決箱(イン・バスケット)に入っている数十通の書類を管理者が処理するとき、「どのような基準」と「どのような判断」で処理して、既決箱(アウト・バスケット)に入れたかを分析してみると、管理者自身の思考パターンと能力、決断力、パーソナリティなどの総合力が、そうした処理をさせたことがわかります。

これを、小集団討議を通して分析・討議することによって、管理者としての気づき、能力開発上の必要点を明かにしながら、自己革新プログラムの策定・実践することを目的とした技法です。

◆技法の背景とその特色
 イン・バスケット法は未決箱に入っている多量の決定を伴う書類(案件)などを、研修員にたいして、一定時間内に処理させる訓練技法で、シュミレーション技法の一つです。
日本ではあまり普及している技法とは言えませんが、管理職の登用診断などを目的としたヒューマンアセスメントでは、適正評価技法の一つとしてよく用いられています。

 この技法は、管理職やその要員を対象として用いられることが多く、研修員を現場に近い状況に置いておき、時間の制限、間違い電話などで心理的なプレッシャーを加えることにより、切迫感を加えます。その上で現場で管理職者に求められる意志決定能力、問題分析能力を養うことを目的としているものです。

 実施の要領の概要は、

  1. まずインストラクターが技法の狙い、特徴、実施手順について説明し、研修員の心を落ち着かせます。
  2. 研修員が、どのような状況のもとで与えられた案件を処理しなければならないか、について書類によって具体的に設定します。
  3. 案件を書類で配布します。同時に案件の処理は全体との関連で対策を実施し、その内容は、記録用資に記録するように説明します。
  4. 質問に応答したあと、まず自分一人だけで案件を処理するよう指示します。
  5. 現場の状況に合わせて、いくつかのプレッシャー(時間制限、病人出現、緊急幹部会、上役からの電話などを加えます)
  6. 小グループ討議に入り、四〜五名で個別研究の結果を相互に発表しあい、討議してグループとしての意見を纏めます。
  7. 全体会議での発表に備えて、案件の処理順位、措置、対策案、部下への指示、他部門への根回し、上司への上申に関するポイントの整理などを行います。
  8. 全体討議では各グループが順次意見を発表し、処理の内容や順位、何故そのように考えたかなどについて討議します。
  9. 全体討議終了後、インストラクターは、討議内容、処理内容、考え方などについて評価し、コメントを加えます。
なお、グループは3グループ、メンバーは15名が技法訓練の最適人数になります。


◆活用事例
効果を上げるための留意点
 まず、この技法を使って効果を上げるために必要なことは、どうやって現場に近い状況を作り、狙いを実現するような具体的な案件を準備するかということです。
筆者の体験では、一般的な着想からでは、受講者が強いインパクトの中で取り組むほどの状況設定、案件を作るのは非常に至難です。自分の実務上の体験、現にその職務にあるものの体験を取材して、構成することをおすすめしたいと思います。

取材に当たって必要なことは、提供者の本音の部分も聞き出すことです。この場合に留意することは、教材提供者及びその所属課員が明確に分かってしまうようなことのないように配慮する必要があります。

自社の案件を自社の物差しで処理
 実施の過程を重視したいのは、意志決定力、決断力も大切ですが、その前に、状況判断や分析力を持たせることに力点を置くことか肝要です。
 事例研究技法による研修で感ずるのは、状況判断や原因分析の浅さです。受講者は原因の探求に十分なエネルギーを費やさずに、ただちに(というより安易に)平凡な結論に達しがちになります。

 インバスケット法では短時間に意志決定する必要に迫られますが、これとて基本的には変わりません。どの案件が緊急重大なのか、どの案件は反対に結論を出して良いのか、長期的なものか、その場限りのものかの差があるだけです。ただし、これらの判断の物差しは、常識的に判断できる案件もありますが、その企業や組織のもつ伝統・風土・経営基本方針に根ざしていると考えるべきものがあります。そのため、自社の案件を纏め、自社の物差しで処理することでなければ訓練になりません。

自己啓発のキッカケづくりに有効
 私は、この訓練は、自己啓発のキッカケづくりに役立つと考えています。従って受講対象者は現役の管理者よりも管理職要員に適用する法が効果的であると考えます。とくに上司にたいする補佐役のあり方に気づかせることにより、本当の意味で仕事の出来る部下を育てる技法であるといえます。

最後にインストラクターが受講者を評価する着眼点を示したスコア・ガイド(表1)及び案件をどんな順序でどんな考えでどう処理行動を起こしたかをレポートするアクション・レポートを提示しておきます。(図1)


    表1 スコア・ガイド
    判 定 項 目 着  眼  点
    生 産 性時間内に案件をどの程度処理したか。
    計 画 力計画的・組織的に処理したか。
    分 析 力他の案件との関連を洞察したり、問題の本質や原因までも究明したか。
    判 断 力論理的に結論へと到達したか。
    決 断 力解決を先に延ばさないで、的確な時期に判断したか。
    要点把握力文書・メモ類から要点を正しく把握したか。
    創 造 力新しい視点から発想を展開したか。
    文章表現力自分の考えを正しく文章で表現できたか。
    感 受 性相手の求めていることを敏感に感じ取って、それに反応したか。
    部下育成・活用部下に参加の機会を与えたり、育成する意識はあったか。
    ストレス耐性圧迫が加わっても、仕事を遂行できるだけの心の安定性があったか。

     
     
    図1  アクション・レポート
    アクション・レポート
    グループ
    番 号
          氏名     






             
             
     行 動 メ モ 
         
       
       
     
    指示(部下宛)・上申(上司宛)・連絡(他部局宛)メモ
         
       
       
     
    備 忘 (自分宛) メ モ
         
       
      
     

注:「下図、NEXTで次ページへ続く」


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