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「役」 …… 戦争のこと。一部、「外国・辺境地での戦争」と限定された説明がなされる事もあります。
しかし、国内・畿内での戦でも用いられるので、そういった限定な意味合いは無いでしょう。
ふるく、国境を守る役目の防人として徴用される「兵役」もあったのですが、この「兵役」は
都の警備をする衛士も含まれます。辺境地とは限らないのです。
中学高校で習う「〜の役」を思い浮かべてみると
「前九年の役」
1051〜1062 年
陸奥の豪族安倍頼時が反乱を起こし源頼義・義家らが平定。
「後三年の役」
1083〜1087 年
出羽の豪族清原氏の内紛にに始まり源頼義らが平定。
「文永の役」
1274 年
第1次の元寇。元が壱岐・対馬等、九州北部を攻める。
「弘安の役」
1281 年
第2次の元寇。元が壱岐・対馬等、九州北部を攻める。
「文禄の役」
1592〜1596 年
豊臣秀吉の命により朝鮮へ出兵。
「慶長の役」
1597〜1598 年
豊臣秀吉の命により朝鮮へ再出兵。
「大坂の役」
1614・1615 年
豊臣氏が大坂城に立て籠もり徳川氏が攻めた。
「征台の役」
1874 年
琉球漁民が台湾原住民に殺害された事から日本軍が出兵。
なるほど確かに外国や辺境地での戦が多いです。
「大坂の役」は教科書によっては「大坂の陣」と表記され、「大坂の役」と書かれていないものもあります。
それ故、「役」=「外国・辺境地での戦争」と言った誤解が生まれてしまうのかもしれません。
そもそも「役」とは?
『広辞苑』(第三版)によると
えき【役】
@ 人民に労働を課すること。 「―務」「服―」「兵―」「苦―」
A 労力を使うこと。勤め。やく。 「使―」「雑―」
B (人民を挑発するからいう)戦争。 「前九年の―」「戦―」
と、あります。
古来、夫役(
ぶやく
)・徭役(
ようえき
) 等、人が国に徴用される場合に「役」という文字を使いました。
その様々な「役」中でも兵役・戦役に関する意味合いが強く残り、戦そのものを「役」と表現するようになったのかもしれません。
また、戦争の名前は正式には戦争の当事者同士がそれぞれ決めます。
(勝者が敗者側に勝者側の命名を強いられる場合もある)
ですが、過去に起こった戦争においては後世の歴史家あるいは政治家役人が決定する事があります。
つまり戦争当時の名称とは関係なく、命名時の都合でつけられる場合もあります。
今回、教科書に添って説明いたしましたが、それも教科書出版社が文部省検定の意思に合致する名称をつけただけにすぎません。
(教科書によって名称が異なる場合があるのもその為です。)
ただ、教科書に沿って皆が歴史を学ぶため、「前九年の役」は「前九年の役」、「大東亜戦争」は「太平洋戦争」と
今日の教科書に掲載された名称が正式な名称として皆の記憶に残されたのです。
日本に軍隊が存在すた時代、軍部によって過去の戦争の名も決められました。
これは陸海軍・陸海軍省のみで通用するものなのでしょうが、戦争の専門家の命名の重さが
当時の人々の中で正式な名称として皆の記憶に残されたのかもしれません。
今日、「桶狭間の戦い」「関が原の戦い」と読んでいる戦も、以前は「桶狭間の役」「関が原の役」と呼んででいました。
他にも「小牧長久手の役」「姉川の役」「小田原の役」「中国の役」「九州の役」「西南の役」など。
また「日清戦争」「日露戦争」もその終戦後に全国に建立された慰霊碑・忠魂碑には「明治二十七八年の役」
「明治三十七八年の役」と刻まれています。
現代の教科書に記される「〜の戦い」と「〜戦争」は、かつては「〜役」と称されていた事が解ります。
つまり「〜の戦い」=「〜戦争」=「〜役」であると言える訳です。
以上の点で 一部ネット上で見られる「役とは外国・辺境地での戦争」と限定された説明する記事は誤りであると捉えています。
参考比較
『広辞苑』(第六版)
えき【役】
@ 人民に労働を課すること。またその労働。 「―に服す」
A (人民を挑発するからいう)戦争。 「前九年の―」
『日本語大辞典』
エキ【役】
@ つとめ。しごと。力仕事にかりたてる。労働させる。 「雑役・使役・服役・兵役」「役畜・役務」
A えだち。ひとにつかわれる者。 「役丁・役夫」
B 戦争。「戦役」 「西南の―」
『大字源』
ヤク・エキ【役】(以下、用例省略)
@ 国境の守備。また軍役。
A 事件。特に、いくさ。戦争。
B えだち。政府が税として課する労働義務。また、一般に仕事。
C つとめ。職務。
D つかう。
E する。なす。
F めしつかい。こもの。弟子。
G つらなり。行列。
ここに用いた「桶狭間の戦い」「大坂夏の陣」等の用語は
『新課程日本史B用語集』 全国歴史教育研究会:編 山川出版社:刊
(1997年1月25日 第1版第9刷発行) により選択いたしました。
教科書の出版社によって若干、用いる表現が異なります。
他の参考・参照書籍
『広辞苑 第三版』 新村 出:編 岩波書店:刊 (1983年12月)
『広辞苑 第六版』 新村 出:編 岩波書店:刊 (2008年1月)
『日本語大辞典』 梅棹忠夫・金田一春彦・阪倉篤義・日野原重明:監修 講談社:刊 (1989年11月)
『大字源』 尾崎雄二郎・都留春雄・西岡弘・山田勝美・山田俊雄:監修 角川書店:刊 (1992年2月)
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