1998年9月7日、岐阜県人事委員会に対して2通の書類を提出しました。
 その1つは『人証調べ申出書(2)』です。埋蔵文化財の発掘調査における調査担当者がどのような役割と責任を担うものか、石部正志先生(元宇都宮大学教授、現奈良県五條市立五條文化博物館長・奈良県立橿原考古学研究所指導研究員)に証言をお願いしたいというものです。不服申立人の申請する証人としては5人目となります。
 もう1つは、『準備書面(8)』です。これは、「公務員を外部団体に派遣するに当たっては、その派遣が適切であるかどうか、その目的を具体的に審査する必要がある」とした、今年4月24日に出された最高裁判決を受けての書面です。この判決の趣旨によると、申立人をセンターへ派遣した理由、並びに解職した理由はなぜであるのかが、具体的に審理されなければならないことを主張するものです。追加提出した石部先生の証人調べも、この解明に重要であることはいうまでもありません。
 審理を途中で打ち切ることなく県人事委員会において十分な審理がつくされることを、強く望んでいます。第3回の公開口頭審理は、今後の審理の行方を左右する、とても重要な審理です。どうか、1人でも多くの方が審理を見守って下さい。

             不服申立人  篠 田 通 弘
             処分者    岐阜県教育委員会

 上記当事者間の貴委員会平成9年(不)第1号事件に付いて、下記の通り陳述する。

                     平成10年9月7日
                         不服申立人代理人弁護士
                                水 谷 博 昭

   岐阜県人事委員会 御中

                       記

1、不服申立人は、平成5年4月1日に岐阜県教育委員会文化課事務職員に任命され、地方公務員法第35条に基づき制定されている岐阜県条例である職務に専念する義務の特例に関する規則第2条第8号または第9号により、職務専念義務を免除されて、岐阜県と岐阜県文化財保護センター間の職員派遣協定に基づいて、県職員の身分を保有したまま、同センターに派遣されていた派遣職員である。ところで、地方公務員が任命権者から職務専念義務の免除を得て、他の団体業務に従事することについて、任命権者が職務専念義務免除を発令するか否かは、裁量権の行使であって、裁量権の範囲を逸脱し、またその濫用があった場合でない限り、違法とはならないとする考え方が従来有力であった。ところが、この問題について、平成10年4月24日の最高裁第二小法廷判決は、職務専念義務免除が地方公務員法第30条35条の趣旨に反する場合は、当該職務専念義務の免除は違法になるので、職務専念義務の免除の効力が問題になる場合は、当該職専免が行われた事情の詳細、例えば、派遣の目的・派遣先の性格及び具体的な事業内容・派遣職員が従事する職務の内容のほか、派遣期間・派遣人数等、諸般の事情を総合考慮し、同目的と派遣先の業務内容や職務との関連性を審理し、派遣の公益上の必要性に照らして、上記地公法上の趣旨に反しないか否かを検討しなければならないと判示するに至った。
 即ち、上記最高裁判決によれば、地方公務員の職務専念義務を免除して、関連の外部団体に職員を派遣する場合は、それが地方行政の公益に十分かなうものであるか、有効な行政目的に十分沿うものであるか否かを十分審理して実行しなければならなず、これらの要件に欠ける場合は、当該職務専念義務の免除が違法性を帯びるというのである。従って、この判例の趣旨をさらに普遍していくと、ひとたび地方公務員の職務専念義務を免除して外部団体に出向派遣した場合、当該職員の出向を解いて帰任させるためには、一定の合理的な行政目的がなければならず(例えば、派遣目的を達したとか、他のより高度な必要性が生じた等)、そのような合理性ないし行政目的適合性なしに任命権者の恣意によって、派遣を解くことは違法であるという結論に到達せざるを得ない。そうすると、当該職員が当該派遣の解除と帰任命令の効力を争う場合は、任命権者側は当該職員を引き続き派遣先に留めて、そこでの職務に従事させることと、派遣を解いて帰任させ、新たな職務に従事させたことの比較衡量を行い、後者がより行政目的に沿うものであることを主張立証しなければならないということになる。
2、処分者は、不服申立人に対する本件処分について、答弁書中の「処分者の主張」の中で「派遣職員は、あくまで県職員であるが故に、任命権者である処分者が毎年行っている定期人事異動の対象とすることは当然であって、申立人もその例外ではあり得ない。処分者は、平成9年度定期人事異動に当たり、本県教育の振興を期し、教育水準の維持向上を図るため、人事異動方針及び人事異動実施要項を定め、公正かつ適正を旨として、申立人を含む4236名に及ぶ公立学校職員の人事異動を行った」と述べているが、この主張では、本件派遣を解いて、不服申立人を揖斐郡池田小学校教諭に転出させたことの適法処分性を主張したことには全くならない。
 処分者としては、本件手続き中で
(1) 不服申立人を文化財保護センターに派遣した行政目的は何か。
(2) 本件処分直前に於いて、同行政目的はどの程度達成されていたか。
(3) 本件処分直前に、不服申立人が従事していた寺屋敷遺跡の整理と報告書作成業務が、不服申立人の派遣を解いて、他の派遣職員に担当させることによって、どのような影響が出るか、出ないか。
(4) もし、多少なりとも影響が出るとすれば、その行政目的達成の面から見たマイナス評価と、不服申立人を池田小学校教諭に補すること行政目的上のプラス評価の比較衡量。
を各々主張立証すべきである。
3、不服申立人は、上記最高裁判例がいう基準に照らせば、不服申立人が申請している人証は、いずれも上記2の争点の解明に不可欠であると思料するので、貴委員会に於かれては、その採否を慎重にされるよう希望する次第である。
                         (最高裁判決文の全文は省略)