[トップページ] [平成10年下期一覧][The Globe Now][222.0131 中国:政治]
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_/_/   Japan On the Globe 国際派日本人養成講座(47)
_/_/            平成10年8月1日 発行部数:2,632
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_/_/         The Globe Now: 香港の将来
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_/_/           ■ 目 次 ■
_/_/    1.低迷する香港経済は、アジア不況の影響か?
_/_/    2.アジア経済を守るための通貨高維持?
_/_/    3.香港人による香港統治は?
_/_/    4.民主主義は維持できる?
_/_/    5.報道の自由は守られる?
_/_/    6.香港返還は「歴史の勝利」?
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■1.低迷する香港経済は、アジア不況の影響か?■

NO氏
     香港は、英国統治時代の繁栄はもはや、取り戻せない。その
    経済は、中国への返還後わずか一年では大きく低迷した。不動
    産価格は四割、株価は返還後の最高値からざっと半分近くにま
    で下落している。最新の失業率は4.2%とここ15年で最悪
    の水準にある。今年の第一・四半期の域内総生産(GDP)は
    13年ぶりにマイナス2%に落ち込んだ。これは英国流の自由
    市場経済を、中国流の「社会主義市場経済」などというまやか
    しの体制に持ち込んだ事に対する市場の不信任だ。

YES氏
     そんな事はない。香港の経済悪化は、アジア全体の不況が原
    因だ。インドネシア、タイ、韓国などは、もっとひどい状況に
    ある。

NO氏
     各国毎に事情が異なるが、金融センターである香港を、製造
    中心のこれらの国と比べても意味はない。比べるなら、同じく
    金融センターのシンガポールだ。シンガポールはインドネシア
    やタイの影響をもろに受けて減速しつつあるが、それでも98
    年第一・四半期は5.6%とプラスの成長率を維持している。 
    香港の落ち込みとは、比べものにならない。この差は、香港の
    将来に対する市場の不信任である。

■2.アジア経済を守るための通貨高維持?■

YES氏
     しかし、株安も、土地安も、対米ドルに対して7.8香港ド
    ルに固定したペッグ制を死守するために、無理な高金利を維持
    しているからだ。それもこれも、円安にもかかわらず、中国の
    元や香港ドルを切り下げては、アジア各国の切り下げ競争を誘
    発して、一層の経済混乱を招きかねないからだ。無責任な日本
    に替わって、香港と中国は自分を犠牲にして、アジア経済を支
    えているのだ。

NO氏
     ものは言い様だ。中国が94年に先行して33%元を切り下
    げたために、東南アジア諸国が輸出競争力を失った事が、今日
    のアジア経済混乱の遠因となったのだ。
    
     それに現在、香港と中国が無理に為替レートを維持している
    のは、自国の防衛のためだ。中国の発展は、外資の導入によっ
    てもたらされたものだし、香港には投機対象の株式や不動産が
    多い。通貨切り下げによって外資が逃げ出せば、打撃を受ける
    のは自分たちなのだ。
    
     このように通貨を維持しているのは、自分のためなのだ。そ
    れをさも日本が円安を放置しているのに、中国と香港がアジア
    のために通貨レートを維持しているなどと言うのは、政治宣伝
    に過ぎない。
    
■3.香港人による香港統治は?■

YES氏
     香港と中国を一緒に考えるのは、間違いだ。香港返還の条件
    として、「一国両制」が国際公約となった。それぞれは独立し
    た経済システムとして捉えなければならない。「港人治港」 
    (香港人による香港統治)という言葉もある。

NO氏
     確かに香港はまだ自由市場経済システムを維持しているが、
    それは中国の経済体制に奉仕する一機関とするためだ。香港特
    区の“憲法”である「香港基本法」の第109条は「特区政府
    は、香港の国際金融センターとしての地位を保持する」と規定
    している。つまり、香港は、香港自身のためにあるのではなく、
    祖国中国のための国際金融センターとして機能しなくてはなら
    ないのだ。[1]

     そもそも返還前の土地や株の高騰自体が、「平穏な移行」の
    確保のために、中国側が大量の資金導入で不動産や株式を中心
    に人為的につくったバブル経済なのだ。[2] 中国側の都合で、
    バブルを起こされ、今はまた中国が誘因となった東南アジア通
    貨危機で、深刻な経済危機の波を受け、また中国への外資導入
    を維持するために、無理な通貨高を維持させられる。香港の人
    民こそ、犠牲者だ。

■4.民主主義は維持できる?■

YES氏
     しかし、香港の民主主義は維持されている。デモも禁止され
    ていない。89年の天安門事件の再評価を求める民主派のデモ
    も許可されている。香港は中国のコントロール化にあるわけで
    はない。

NO氏
     確かにデモは禁止されていない。そんな事をしたら、世界中
    のマスコミに対して、中国政府の化けの皮が剥がされてしまう。 
    香港の自由が本当に守られるのか、世界中が注視している中で、
    宣伝上手の中国政府が、そんな愚かな手を使うわけがない。
    
YES氏
      立法会の自由選挙も行われたではないか。

NO氏
     自由選挙とは言っても、全60議席のうち、わずか20議席
    を住民投票で選んだだけだ。残りは親中国派が牛耳っている。 
    これから徐々に直接選挙枠を増やしていくと約束しているが、
    全60議席に及ぶのは、2007年まで待たねばならない。一
    応自由選挙をしていますよ、という「民主主義ごっこ」のポー
    ズに過ぎない。
    
     今回の選挙では、投票率は前回の三六%強を上回り、史上最
    高の五三%以上を記録した。選挙結果も中国側に批判的な民主
    党を中心とした民主派が直接選挙の二十議席のうち、十四議席
    を獲得し、圧勝した。中国政府の「民主主義ごっこ」がなけれ
    ば、香港には、民主派による政権ができていたはずだ。
    
     民主派は、2000年の次期選挙で全面直接選挙に移行し、
    行政長官選挙も住民投票で行うよう要求しているが、政府は応
    じない構えを見せている。[3]

■5.報道の自由は守られる?■

YES氏
     マスコミでも検閲はなく、報道の自由は守られている。

NO氏
     デモ規制と同じで、そんなあからさまな統制をするわけがな
    い。中国本土とは事情が違うのだ。たとえば今年5月に代表的
    なTV局の一つ亜洲電視(アジアテレビ)が、中国軍と関係の
    深い実業家に買収され、中国全国人民代表大会(全人代)の香
    港代表、黄保欣氏が、会長に就任した。他にも、中国で幅広く
    事業を展開する実業家の査済民氏が、星島日報などを発行する
    星島グループを買収しようとした。これは条件面で折り合わず、
    6月に断念しているが。

     相次ぐ親中派の攻勢に、香港記者協会の黎佩児(れいはい
    じ)主席は「親中派が経営権を握れば、中国のプロパガンダの
    道具としてメディアを利用する恐れがある」と危惧している。[4]

■6.香港返還は「歴史の勝利」?■

YES氏
     たとえ、経済が悪化しようと、民主主義が後退しようと、香
    港が159年ぶりに祖国に戻ったのは、植民地主義の終焉であ
    り、江沢民主席の言うとおり、「歴史の勝利」と言える。
    
NO氏
     それは香港の成り立ちを無視した建前論に過ぎない。イギリ
    スが香港島を獲得した1842年当時、香港島は外国に知られ
    る事もない辺境の土地で、人口も6,7千人ほどしかいなかっ
    た。それが現在は600万人を越す。一人あたりGNPも中国
    本土の600ドルに対して、実に40倍の2万4千ドルだ。

     こういう繁栄を築いたのは、中国からの避難民だ。特に国共
    内戦で、共産党が迫り、国民党が略奪する中で、1945年か
    ら、51年までの間に150万人が香港に脱出した。その後も、
    大躍進政策の失敗による農村の疲弊、文化大革命の混乱からの
    避難民が続いた。こういう人々がイギリスの徹底した自由放任
    主義のもとで、経済発展を実現したのだ。[5]

     香港大学による世論調査の結果では、英国の植民地統治の功
    罪という最も政治的に敏感な質問では、じつに66.6%が
    「功績の方が大きい」と回答した。英領統治が続いた場合の発
    展状況はどうかという問いには、45.2%が「その方がよか
    ったはずだ」と答えている。[6]

     香港の中国返還とは、かつての西ベルリンを東ドイツに返還
    するようなものだ。自由を求めて香港に脱出した人々は、一生
    懸命働いて繁栄を築いた揚げ句に、自由のない「祖国」に返還
    され、その経済的繁栄までも奪われようとしている。香港返還
    を、植民地主義の終焉、「歴史の勝利」だと主張する中国政府
    の陰に、こういう悲劇のある事を忘れてはならない。

[参考]
1. 毎日新聞、1998.07.01、東京朝刊、社説
2. 産経新聞、1998.07.02、東京朝刊、オピニオン
3. 毎日新聞、1998.07.01、東京朝刊、国際
4. 毎日新聞、1998.07.17、東京夕刊、総合
5. 華人ネットワークの時代、渡辺利夫、NHK人間大学テキスト、
  日本放送協会
6. 産経新聞、1998.07.01、東京朝刊、国際2面

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■JOG(9) 米中の人権論争
 中国が抱える火種は南のチベットだけではない。西のウイグル、
北のモンゴル、そして東の北朝鮮との国境沿いの朝鮮族と、全方位
で異民族の土地を占拠している。

■JOG(27) 社会主義市場経済に呻吟する民
 上海市崇明県では89年に135体もの老人変死体が発見され
ている。そのうち79体が自分の子供に扶養してもらえないことを
苦にした自殺であった。12億の民を抱える社会主義国家、中国の
老人福祉政策を考えさせられる深刻な問題だ。

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