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-----Japan On the Globe(223) 国際派日本人養成講座---------- _/_/ _/ Common Sense: 国際連合、3つの幻想 _/_/ _/ _/_/_/ 第2次大戦の戦勝国が作った国連を徳川幕府 _/ _/_/ に例えれば、わが国は旧敵国の外様大名。 -----H14.01.13----36,101 Copies----378,799 Homepage View---- ■1.隠された「国連」の生い立ち■ 国際連合は、英語で The United Nations と言う。ちなみに 第二次大戦中、日独伊の枢軸国と戦った「連合国」も、The United Nations である。中国語では「連合国」も「国連」も 「聯合國」である。なぜか? 答えは簡単、「国連」は「連合国」という軍事同盟から生ま れたからである。日本語で「国際連合」と「連合国」とにわざ わざ訳しわけていることは、国連の生い立ちを隠していること になる。 わが国では「国連」を世界連邦をめざし恒久平和をもたらす という理想的なイメージで捉える向きが多いが、それは国連の 生い立ちを知らないことから生まれた幻想である。 ■2.「国連」は「連合国」の軍事同盟関係を発展させたもの■ 幻想の正体を明かす前に、まず国連の生い立ちを見ておこう。 1945(昭和20)年4月25日、第2次大戦末期に「国際連合 (と言うより、連合国)憲章」作成のためのサンフランシスコ 会議が開催された。参加招請状を出したのは、連合国の中心と して戦った米ソ英中4カ国であった。 参加招請状の送付先選定には、「1945年3月1日までに枢軸 国に宣戦布告をした国」という条件がつけられていた。結果と して総計50カ国が参加したが、会議に参加したいがために、 あわてて枢軸国に対して宣戦布告した国も少なくない。この条 件からスイスのような中立国や、スペインのような非交戦国は 排除された。ちなみにドイツ国防軍が無条件降伏をしたのはこ の後の5月7日であるから、この時点では日独が枢軸国として 戦っていた。 サンフランシスコ会議の参加国の合意により、国連憲章の最 終案が成立したのが6月26日。日本はまだ戦っていた。過半 数の参加国が批准書をアメリカに提出して、国際憲章が発効し たのが10月24日。日本は9月2日に降伏文書に署名してい る。 したがって、「国連」は第2次大戦末期に「連合国」の軍事 同盟関係を国際機関として発展させたものというのが、その生 い立ちである。そして大戦中の連合国 The United Nationsと いう名称がそのまま使われた。 わが国でも、当初は「連合国」という呼称をそのまま使って いたが、政府の事務方の段階で「国際連合」という仮称が浮上 してきて、だんだん大勢を占めていったようだ。それは、「連 合国」という敵陣営が、そのまま戦後の国際機関となるという 冷厳な事実に対する国民の「違和感」を緩和させるための政治 的表現であったようだ。しかし、この「真実」を覆い隠した政 治的表現が後に国連に対する幻想を生むことになる。 ■3.幻想その1「平等主義」■ 国連はすべての国に平等に開かれた国際機関である、という 認識が根強いが、決してそうではない。「連合国」という軍事 同盟から発展した、と言う素性がいまだに尾を引いている。 国連は、米英仏中ソの5大国を中心とする「連合国」が、枢 軸国の日独を牽制することを目的として作られたので、5大国 には特権を与え、枢軸国に対しては差別的な扱いをしている。 まず5大国は国連の中心的役割を担う安全保障理事会の常任 理事国であり、その決定について拒否権を持つ。5大国の1カ 国でも反対したら、安全保障理事会は何事も決定できないので ある。 逆に枢軸国に対しては国連憲章の「敵国条項」と呼ばれる第 53条と第107条とがある。後者だけを見ておくと、 第107条 この憲章のいかなる規定も、第2次世界戦争 中にこの憲章の署名国の敵であった国(JOG注:日独)に 関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦 争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は排 除するものではない。 第2条4項には、「すべての加盟国は・・・武力による威嚇 又は武力の行使を・・・慎まなければならない」とあるが、た とえば北朝鮮が第2次大戦中の賠償請求と称して、日本に核ミ サイルで威嚇をしても、この107条がある限り、国連憲章違 反にならないのである。 ■4.国連は徳川幕府、日独は外様■ この5大国と旧敵国との差別待遇は、国連を関ヶ原の戦いの 後で東軍中心に出来上がった幕府に例えるとよく分かる。5大 国は東軍として戦った徳川家や譜代大名であり、日独は西軍と して負けた薩長のような外様大名なのだ。幕府とは徳川家のも とに譜代大名を結集して、再び外様大名が反旗をひるがえさな いよう押さえつける機構であるから、譜代を優遇し、外様を冷 遇するのは当然なのである。 この構造は、国連憲章と同時期に作成された日本国憲法を見 てみるといっそう鮮明になる。国連憲章第2条の 三 すべての加盟国は、その国際的紛争を平和的手段によ って国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように 解決しなければならない。 四 すべての加盟国は、・・・武力による威嚇又は武力の 行使を・・・慎まなければならない という一節と、日本国憲法第9条1項の、 ・・・国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武 力による行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久 に放棄する は、ワンセットとして捉えられる。どちらも米国が作ったの であるから当然であるが。国連憲章は連合国どうしは平和にや っていこうと誓い合ったものであり、敵国・日本を再び平和を 破らないよう憲法で縛ったという構造になっている。 ■5.幻想その2「平和主義」■ 国連はすべての争いを話し合いで解決しようとする国際機関 であると思いこんでいる人が多い。確かに平和の創造が国連の 目的ではある。しかし、それは日本国内にあるような話し合い ですべてを解決しようという空想的平和主義ではない。「連合 国」という軍事同盟から生まれただけに、「国際の平和及び安 全の維持又は回復に必要な空軍、海軍、陸軍の行動をとること ができる。」(第42条)と、武力行使を含んだものだ。 国連発足当初は、独自の国連軍を持つことも想定されていた。 1945年10月に国連が正式に発足すると、5大国の参謀総長な どから構成される「軍事参謀委員会」が設置され、独自の交戦 権を持つ国連軍の創設が検討されたが、具体化できなかった。 すでに始まっていた米ソ冷戦下では、両方を含めた国連軍など 実現不可能な理想だったのであろう。 朝鮮戦争では、北朝鮮を侵略者と認定して、すでに戦闘を始 めていた米軍を事後的に国連軍として認定した。しかしこれは、 ソ連が中華民国の代表する国連をボイコットしていたので、安 全保障理事会も欠席中で、拒否権を行使しなかった、という偶 然の賜物である。 軍事力行使の部分的な成功例としては「平和維持活動(PK O)」があげられる。これはすでに停戦を合意している当事者 の間で、平和を維持するために加盟国の兵力を利用することで あり、地味ながらも、国連の中立的立場を活用したアプローチ であると言える。[a,b] 国連軍にしろ、PKOにしろ、平和の創造・維持には武力が 不可欠だという国際常識に則っており、「何でも話し合いで解 決すべき」というような日本国内の空想的理想を実現するのが 国連だと考えるのは、国連にとっても迷惑な幻想である。 ■6.幻想その3「世界連邦政府指向」■ 国際社会がいずれ世界政府のもとに一つにまとまるべきだと する考えがある。その理想自体には一理あるものの、現在の国 連が来るべき世界政府の萌芽であると考えるのは、これまた、 まったくの幻想である。 国連を世界政府にしようとすれば、各国から国家主権を取り 上げなければならない。国家主権のうち、各国が独自の軍隊を 持つ自衛権は最重要なものである。軍隊の一部を供出しようと する国連軍構想すら失敗した事から見ても、国家主権をわずか でも国連に移譲しようという国はない。 逆に、国連憲章は各国の個別的自衛権と集団的自衛権を認め ている。この集団的自衛権とは、NATOや日米安保条約のよ うに一部の国家グループでの同盟関係の存在を認めたものだ。 国連は、主権国家の存在を前提として、あくまでその間の調停 を目的とした機関なのである。 この点で、EU(欧州連合)は国連とは異なり、かつ国連と は関係なく、一つの共通政府を目指している。今回、通貨を統 合したことは、通貨発行権という国家主権の一部を加盟国が移 譲したことを意味する。やがて徴税権、自衛権と移譲が進めば、 ヨーロッパ合衆国という一つの政府にまとまる可能性がある。 それにしても、これはヨーロッパの国々がより大きな一つの国 にまとまろうということであり、国際社会が主権国家の集まり であるというフレームワークを変えるものではない。 国連が世界政府を目指しているという幻想の一因となってい るのが「国連事務総長」という訳語であろう。来るべき世界連 邦の「長」というような誤解を与える。英語では Secretary General となっており、これは通常「事務局長」と訳される。 国連憲章第15条でも「事務総長は国連機構の行政職員の長で ある」と定義され、その役割は国連職員を使って理事会や総会 での決定を実行し、結果を報告することである。職務内容を見 てもやはり事務局長に過ぎない。 「総長」というと、大学の総長のように、いかにも絶大な権限 を持っているかのような誤解を与えるが、実態は大学における 事務局長と同じである。意図的かどうかは分からないが、「連 合国」と「国連」を訳し分けた事も含め、日本人に過大な国連 幻想を抱かせる曲訳が目につく。 ■7.わが国の置かれた不合理な立場■ 「国連中心主義」は、わが国外交の原則となっている。上述の 3つの幻想から、国民世論も何となくそれを支持するムードが 根強い。国連分担金でも気前よく大枚を支払っている。 2000年のわが国の分担金は全体の20.573%に達しており、こ れはアメリカを除く4大国の合計13.669%をはるかに超えてい る。中露に至っては、それぞれ1.077%、0.955%と日本の20分 の1ほどでしかない。1%程度しか負担していない国が安全保 障理事会で何でも自分の気に入らない案は即座につぶせる拒否 権を持ちながら、20%を支払っているわが国が「旧敵国」と いう不名誉な差別待遇に甘んじているわけである。 そしてその理由は半世紀前の戦争でわが国が敗戦国となり、 中露は戦勝国だった(厳密には戦勝国だった中華民国、および、 ソビエト連邦の特権を引き継いだ後継国)という事に過ぎない。 国連の中でわが国の置かれている立場は、まことに不合理、不 名誉、不正義としか言いようがない。 敵国条項については、わが国は事務方レベルでは何度も削除 要求をしており、また国連でもこの条項はすでに過去のもとと 見なされているが、わが国の削除要求はまともに相手にされて いない。大多数の日本国民が国連幻想を信じ込んで、わが国の 置かれている不合理な立場を知らないのでは、事務方レベルの 修正要求もおざなりなものにならざるをえないだろう。 また国連の側でも憲章を一部でも修正しようとすれば、パン ドラの箱のように、各国から他にも様々な修正要求が出されて 手がつけられなくなる、というのが真相のようだ。パンドラの 箱は開けられず、わが国に対する不合理・不名誉・不正義を包 み込んだまま、化石となりつつある。 ■8.何のための常任理事国入りか?■ 日本政府は常任理事国を目指しているが、それに対して米国 の元国防長官ワインバーガーは次のような痛烈な批判をしたと 伝えられている。 日本における「常任理事国」推進派は、目的指向ではなく て、見栄っ張りの「ステイタス志向」に過ぎず、他方、消 極派は憲法至上主義により国際社会における応分の責務の 履行を拒否している。いずれも国際社会にとっては迷惑千 万としかいいようがない。なぜ日本は「敵国条項」などに 象徴される時代錯誤の国連を痛烈に批判して「常任理事 国」入りなど拒否することにより、国連の抜本的改革を主 張しないのか。[1,p200] 常任理事国入りに関する世論調査では67%が「賛成」「ど ちらかと言えば賛成」と答えている。その主な理由は「非核保 有国で平和主義を理念としている日本が加わることが世界の平 和に役立つ」「日本は経済大国になったのだから,世界の平和 の構築のために積極的に参画していくべきだ」である。しかし 世界平和に対してどのような貢献をするのか、明確な戦略もシ ナリオも主張せずに、ただ「常任理事国になりたい」では、 「ステイタス志向」と批判されても仕方がない。 また反対11%の主な理由は「常任理事国になれば、国連の 軍事活動に積極的に参加しなければならなくなる」と、こちら はまさに「国際社会における応分の責務の履行を拒否」する一 国平和主義である。[3] 国連に対する勝手な幻想を抱いたまま、常任理事国の席につ いて、求められるまま大金だけ払わされているというのでは、 わが国の国益を損なうだけでなく、国際社会にとっても「迷惑 千万」である。国連をどう改革し、その中でわが国がどういう 役割を果たすのか、わが国としての責任ある主張が求められて いる。 (文責:伊勢雅臣) ■リンク■ a. JOG(076) PKO常識のある人、ない人 b. JOG(220) 自衛隊PKO〜世界の称賛、朝日の懸念 ■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け) 1. 色摩力男、「国際連合という神話」★★★、PHP新書、H13 2. 外岡秀俊、「国連新時代」★、ちくま新書、H6 3. 内閣総理大臣官房広報室、「外交に関する世論調査」 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ■「国際連合、3つの幻想」について 国連の話は興味深かったです。私もなんとなく、世界を平和 に保とうとしている組織かなあというぐらいの甘い認識しかあ りませんでした。そこで日本がどのような扱いを受けているの かを知った上で、きっちりと自国の考えを伝えることのできる、 腰の入った、腹のすわった外交のできる国であって欲しいと思 います。 (鈴木京子さん) 実は私は目がまったく見えません。よく最近の日本人は自己 中心的な人が多いと言われますが、それはこの国の一国平和主 義というきわめて自己中心的な政治・教育思想が原因なのでは ないでしょうか。 すこし話がそれますが、よく私は外を歩いていて自転車にぶ つけられる事があるのですが、白い杖を持っているにも関わら ず、その私に対して何も謝らずに走り去ったり、中には「気を つけろ」と怒鳴りつけていく者もいます。これは自分さえスム ーズに走れれば、歩行者にもどうでもいいというまったく身勝 手な自分中心主義の考え方ですよね。 同じように日本という国自体も自分たちさえ戦争に巻き込ま れなければいい、お金をばらまいていればそれでいいという、 まったく自分勝手な論理がまかりとおっているような気がしま す。そんな事だから、戦う=悪などといった考えになり、それ が日本の弱腰な外交姿勢にもつながっているように思います。 この国はとっても危ない所にいるように思います。 (Hattoriさん) ■ 編集長・伊勢雅臣より 国連でも「お金をばらまいていればそれで良い」では、真の 貢献はできませんね。 ============================================================ mag2:26757 pubzine:4361 melma!:1976 kapu:1662 macky!:1345© 平成14年 [伊勢雅臣]. 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