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________Japan On the Globe(249)  国際派日本人養成講座_______
          _/_/   
          _/     The Globe Now:北朝鮮軍、南侵す
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_/ _/_/_/         数十万人の難民を盾に、北朝鮮軍は南侵開始。
_/ _/_/          日本にも大量の難民が船で押し寄せた。
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■1.有事シミュレーションの効用■

     6月29日、北朝鮮の警備艇2隻と韓国海軍警備艦艇が銃撃
    戦となり、韓国側は高速警備艇1隻が沈没、20数名の死傷者
    を出し、北朝鮮側は1隻が炎上したが領海に戻った。
    
     その夜にサッカー・ワールドカップでトルコとの3位決定戦
    を控えて、盛り上がっていた韓国チームの躍進ムードに冷水を
    浴びせかけた。韓国は今も北朝鮮と休戦状態であり、戦争の終
    結処理としての平和条約はまだ締結されていない。その休火山
    がいつ噴火を再開してもおかしくない。
    
     国民の安全を守るためには、起こりうる戦争の危機を予測し
    てその芽をつみ、また戦争となった場合、その被害を最小に食
    い止めるための準備を怠らないこと、の2点が肝要である。そ
    のためには、どのような戦争が起こりうるか、というシミュレ
    ーションが必要だ。朝鮮半島に有事が発生した場合、それはど
    のような形をとり、わが国にどのような影響を及ぼすのだろう
    か。今回は作家・柘植久慶氏のシミュレーション小説「北朝鮮
    軍 ついに南進す!」[1]を参考に、考えてみよう。

■2.難民20万人の南下■

     日曜日午前0時。板門店の休戦会談場の北側に、子供や老人
    を含めた一般人の集団が、ゆっくりした歩調で進んできてる、
    という報告を韓国情報部・許煥南大佐は受け取った。集団脱出
    か、あるいは、武装難民か?
    
     北朝鮮の人口の40%、約1千万人が軍事境界線から歩いて
    数日以内の所に住んでいる。それだけの難民が押し寄せたら、
    韓国経済は破綻する。いや、2、30万人の武装難民が入って
    きただけでもソウルは占領され、国家転覆にもつながりかねな
    い。
    
     ソウル青瓦台の大統領官邸では、その対応について激論が続
    いた。大統領は太陽政策の一環として、難民受け入れに前向き
    だった。軍部や情報部は、武装難民乱入の危険があると反対し
    た。会議中、難民は20万人に達し、さらに増え続けている、
    との報告が入った。
    
     「北朝鮮の国家としての統制が崩壊した証拠だ!」「人道は
    すべてに優先する」として、大統領は20万人の受け入れに踏
    み切った。前日、ソウルの延世大学で、学生達が北朝鮮への経
    済援助を要求してバリケードを築き、鎮圧しようとする警察と
    の間で火炎瓶が飛び交う有様となっていた。ようやく鎮圧でき
    たものの、その失点を大統領は難民受け入れで取り返そうとし
    ていた。学生達の動きがソウルに潜入していた北鮮工作員たち
    の指示によるものとも気づかずに。

■3.南侵開始■

     日曜日午前3時。58万人の難民が軍事境界線を越えつつあ
    る所を、北朝鮮軍の車高の低いT−62戦車325両が約千台
    の後方支援トラックを率いて、地下トンネルから姿を現した。
    付近の韓国軍基地は、韓国軍の迷彩服を着てパラシュート降下
    した北朝鮮特殊部隊が急襲して、すべて潰していた。
    
     韓国軍の戦車隊が迎撃しようとすると、潜入していた工作員
    が、配置を無線で知らせたり、頭上に照明弾を打ち上げたりす
    る。時に迫撃砲や対戦車ロケット砲を撃ち込む。側面や背後か
    らの攻撃に混乱していると、韓国軍の装備で身を固めた北朝鮮
    特殊部隊が、後退してきた友軍を装って、韓国軍の中に紛れ込
    んでいく。韓国軍は持てる力を発揮できずに、ずるずると後退
    を続けざるを得なかった。
    
     同時に国境線近くにずらりと配置された長距離砲、ロケット
    砲が、ソウルに向けて間断のない砲撃を続けた。南に向かう戦
    車隊からは、前方の夜空が無数の花火に美しく照らされたよう
    に見えた。
    
     水原の在韓アメリカ軍司令部と烏山基地はロケット砲弾が5
    00発以上、落下し、基地としての機能を失った。同時に潜入
    工作員が迫撃砲で30発以上を滑走路と格納庫に撃ち込み、一
    時的にヘリコプター以外の発着が不可能となった。

■4.「戦争が始まったみたい!」■

     同時刻のソウル・鍾路区。千代田芳雄は寝入ったばかりのと
    ころを、妻の菊枝に叩き起こされた。千代田は日本商社の現地
    法人責任者だ。今晩も日本から来た顧客の接待で、遅くに帰宅
    した所だった。
    
     朦朧とした頭で目を覚ますと、二人の子供も妻の傍にいて、
    恐怖の色を浮かべている。マンション全体が揺れている。「ど
    うした。地震か?」と聞くと、「戦争が始まったみたい!」と
    長男が言った。
    
     千代田があわてて南に面した窓から見ると、ソウルの街のあ
    ちこちで火の手が上がっている。10カ所や20カ所ではない。
    ちょうどその時、ソウル名物の一つ、大韓生命63ビルの30
    階あたりに、直撃弾が命中し、もう一つ火の手が上がった。
    
    「もし、北から攻めてきたら、君はどうするのかね」と、千代
    田は韓国人の部下に聞いたことがあった。しかし、現大統領の
    太陽政策で、「北の脅威」などという言葉を口にする事自体が、
    頭がおかしいのでは、と思われるくらい、市民は安心しきって
    いた。千代田はそうした風潮に流されて、何の準備もしてこな
    かった自分にいまさらながら腹が立った。
    
    「リュックサックに食糧と水、それに大事な品物を入れるん
    だ」と大声で家族に指示した。望遠鏡で韓江を見ていくと、確
    認できただけで8つの橋が破壊されている。砲撃ではこんなに
    命中しない。恐らく潜入した工作員の仕業だ。とにかく、無事
    な橋を見つけて韓江の南側に逃げなければならない。

■5.「怖い、怖いわ!」■

     千代田が先頭に立ち、間に妻と娘をはさんで、息子がしんが
    りを務めて歩き始めた。道路はすでに大混乱であった。家財道
    具を積み込んだライトバンが、徒歩の人間が邪魔だとクラクシ
    ョンを鳴らし、徒歩の市民は自動車での非難は非常識だと車体
    を叩いている。
    
     上流の永東大橋はまだ大丈夫だという噂が流れ、そちらに向
    かう人の流れに乗った。砲弾がしきりに降り注ぎ、川面に落ち
    ると真白い水飛沫が高く噴き上がり、陸地に落ちると地響きを
    たてて土煙があがった。ソウル全市が停電していたが、あちこ
    ちで上がる火の手が明るく照らしていた。所々に死傷した韓国
    軍将兵が倒れている。群衆を誘導していた所を、北朝鮮の潜入
    工作員が倒したようだ。
    
     永東大橋が見えた。噂通り、まだ無事だった。「渡るぞ!」
    と千代田が声をかけた瞬間、もの凄い音をたてて砲弾が落ちて
    きて、橋の対岸近くの部分を、幅半分ほど吹き飛ばした。近く
    の人が吹き飛ばされて韓江に落ちる。怖じ気づいた先頭が立ち
    止まろうとするが、なおも渡ろうとする群衆に押されて、何人
    かが河に落ちていった。
    
    「怖い、怖いわ!」と娘の咲枝が甲高い悲鳴を上げた。「黙っ
    ていなさい。大丈夫だから。」と厳しい口調で妻が言う。周囲
    の人達が日本語に気がついて4人を見る。外国人、とりわけ日
    本人だということは、知られない方が安全だ。
    
     やがて橋の細くなった部分にさしかかった。中年の男性二人
    が自発的に交通整理をしている。軍隊経験者なのだろう。これ
    が日本だったら、いったい幾人、こんな人間がいるだろうか。
    千代田は感心して「コマツプ・スムニダ、カムサ・ハムニダ
    (ありがとう、感謝します)」と声をかけた。一人が千代田を
    日本人と見抜いて「当然のことです」と日本語で応えた。
    
     こうして千代田一家は韓江の南に避難できた。しかし、ソウ
    ルに住む日本人は約1万人、週末には観光客で2倍に膨れあが
    る。そのうち何人が無事、脱出できるのだろうか? 千代田は
    その晩に接待したばかりの日本からの顧客を思い浮かべた。

■6.難民の槍■

     潜入工作員の攻撃により韓国軍と米軍の基地は機能を失い、
    一時的に北朝鮮のミグー19、21が制空権を奪った。しかし、
    沖縄と三沢から駆けつけた米空軍のF15,F16の編隊が1
    85キロ先から敵機をレーダーで捕捉し、空対空ミサイルで攻
    撃をしかけると、ミグは一瞬のうちに全機撃墜された。
    
     ところが陸上戦では勝手が違った。北朝鮮軍は数十万人の難
    民の大集団をソウルに向かって南下させ、戦車隊はそれに混じ
    って走る。米軍のヘリコプターから見ると、軍事境界線からソ
    ウルに続く道路は延々10マイル以上にもわたって難民の行列
    でぎっしり覆われていた。
    
     その光景を双眼鏡で見ていたウィリアム・ハンター少佐は、
    部下に警告射撃をさせたが、怯んだ難民達を工作員が後から脅
    して前進させる。抵抗する者は射殺し、女子供を先頭に立てる。
    難民達は立ち止まっても殺されるだけだと観念して、のろのろ
    と前進を続ける。これだけの難民がソウルになだれ込めば、数
    百万の逃げ遅れた市民とともに、ソウルは北朝鮮に人質にとら
    れたも同然だ。
    
     大量の難民を南に送り込んで、北朝鮮の食糧危機を緩和し、
    数百万のソウル市民を人質にとって、韓国や日本、米国からの
    経済援助を強要する---これが北朝鮮の戦略なのか!
    
     少佐は500人の部下が弾を撃ち尽くしても、10万人くら
    いしか殺せないだろう、と計算した。しかも難民を大量虐殺し
    たとすれば、世界の非難が米軍に集中する。朝鮮戦争の時にも
    北朝鮮軍が成功させた戦術だった。その戦いを経験した少佐の
    祖父からは、そんな場合、「躊躇せず、攻撃しろ」と言い聞か
    されてきた。しかし、、、

■7.難民の船団■

     日曜日、午前10時。鳥取県美保湾沖合には、大小無数の船
    が現れた。大型の貨物船や客船から、小型の漁船まで、甲板ま
    で鈴なりの難民で埋まっている。何万人いるのか、見当もつか
    ない。海上保安庁の巡視船が、領海内に入れさせないよう、遠
    巻きに示威運動を続けている。そこから少し離れた地点で海上
    自衛隊の艦船が待機していた。
    
     巡視艇が拡声器を使って領海に近づかないよう朝鮮語で警告
    を発すると、癖のない日本語で「北朝鮮にいたら餓死してしま
    うので、逃げてきました。助けて下さい。」と女性の声が訴え
    た。日本で生まれて北朝鮮に戻った在日朝鮮人であろう。
    
     海岸では、100人あまりの集団が「在日同胞の帰国を認め
    ろ!」「難民を受け入れよ!」とシュプレヒコールを上げてい
    る。北朝鮮系や左翼の団体だろう。日本国内に潜入していた工
    作員の手が伸びているのかもしれない。テレビのワイドショー
    では、その光景を実況中継し、アナウンサー達はしきりに難民
    に同情し、受け入れを拒否する政府の姿勢を非人道的と非難し
    ている。「近隣諸国の苦しみを理解せねば」と野党の女性党首
    がしたり顔でコメントする。
    
     そのうち、沖合から女性の悲痛な声が聞こえてきた。病人や
    老人、子供に死者が出始めているという。いくつかの死体が海
    上に投棄された。死体が海岸に流れ着いたら、日本のマスコミ
    は政府非難の声を高めるだろう。
    
■8.彼らも被害者なんです。■

     月曜日午前10時。国会では、野党の女性党首が金切り声を
    あげて、政府の対応を非難していた。「自衛隊が難民に発砲し
    たんですよ。一体、どうなっているんですか?」
    
     難民を乗せた無数の船は、上陸を強行しようとした。巡視艇
    が近づいて、臨検(立ち入り検査)を要求した所、銃撃を受け
    て、たちまち3人の係官が重軽傷を負った。それを契機に、無
    数の船がどっと陸をめがけて押し寄せた。海上自衛隊の司令官
    が責任はすべて自分が負うつもりで、中央の最も大きな船に、
    ロケット砲を撃ち込んだ所、甲板に屈強な男たちが飛びだした。
    何と自衛隊の迷彩服を着ている。難民に紛れ込んだ工作員であ
    った。
    
     首相は、これだけの経緯を説明したが、野党党首は「憲法の
    精神からも専守防衛に徹するべきだ」と主張して譲らない。そ
    こにメモで報告があがってきた。兵庫県豊岡市にも難民の大船
    団が漂着しており、マスコミの同情の声に負けた兵庫県知事は、
    難民の仮上陸を認めた。大方の難民の上陸が終わった所で、特
    殊工作部隊が姿を現し、警察や消防団員を襲い、すでに50人
    以上の死傷者が出ているという。
    
     その内容を聞いた党首は「追いつめられたんです。彼らも被
    害者なんです。」とあくまで難民擁護の立場を変えない。こい
    つらは何を考えているんだ!、と首相は絶句した。

■9.月曜日、午後11時。ニューヨーク、国連本部。■

     北朝鮮は現状での停戦を主張し、リビア、イラクなどが賛成、
    ロシアと中国も条件付きで賛意を示した。アメリカは当然、拒
    否権を行使した。すでに米空軍は平壌中心部を空爆し、ほとん
    ど平地にしていた。また北朝鮮の核施設や、ミサイル基地もピ
    ンポイント爆撃で破壊し尽くしていた。
    
     しかし、問題は300万人もの市民が人質にとられていたソ
    ウルであった。20万人の北朝鮮軍兵士が市内に分散して駐屯
    してる。しかも重要拠点にはソウル市民を手錠でつないで、ピ
    ンポイント爆撃の盾にしている。これでは空爆もできない。
    
     砲爆撃なしに市街戦でソウルを奪回しようとすると、敵兵力
    の3倍、すなわち60万人の死傷者が予想された。市民の巻き
    添えも数十万規模に達するだろう。米軍は手も足も出ない状況
    に追い込まれていた。足下を見た北朝鮮政府は国連を通じて、
    300万人のソウル市民のための食料援助を要請してきた。
    
     しかも北朝鮮からの数十万単位の難民集団が、いくつもソウ
    ルに向かっていた。ソウルに流入する北朝鮮難民は最終的には
    1千万人に達するかもしれない。
    
     またソウルに留まっている日本人は5千人ほどと推定されて
    いた。北朝鮮政府は48時間以内に名簿を提出すると言って、
    日本政府に揺さぶりをかけてきた。アメリカ政府は日本政府に
    単独での交渉をしないよう、強く圧力をかけてきた。日本政府
    も手詰まりに陥った。
                                          (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(072) 温室の隣の飢餓地獄
     人口2300万人の北朝鮮で、すでに3百万人の国民が餓死、
    病死したと推定されている。
b. JOG(238) 有事シミュレーション〜北朝鮮兵士、敦賀半島に上陸す
     座礁した潜水艦から山奥に逃げ込んだ北朝鮮兵士11名は、有
    事法制の欠陥を浮き彫りにした。 

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
1. 柘植久慶、「北朝鮮軍 ついに南進す」★★★、PHP文庫、H11
   
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「北朝鮮軍、南侵す」について      sinsinさんより

     今回のシミュレーションは本当にリアリティがあって身につ
    まされる思いがしました。特に日本に大量の難民が押し寄せて
    きたらどうするのか、現時点では何の対策も考えられていない
    のではないでしょうか?

     今から10年ほど前に、中国に植林のボランティアで行ったこ
    とがあります。その時にNGOの日本沙漠緑化実践協会の遠山会
    長がおっしゃてた事が非常に印象に残っています。
    
    「このまま中国の砂漠化が進んで。大量の難民が日本海を越え
    て 押し寄せてくるような事になったら大変だ。だから私は日
    本の国益を守るためにも、中国を緑化しないといけないと考え
    ている」というような意味のことをおっしゃてました。やはり
    明治生まれの人の国家観というか、考え方には圧倒されました。

     横道にそれましたが、難民をどう受け入れるのか普段から考
    えておかないといざというときにあわてふためくことになると
    思います。ソマリアでの戦闘でも女性や子供を盾にとって、攻
    撃してくる敵に対してアメリカ兵もかなり動揺したように聞い
    ています。日本も大陸での戦争で便衣兵にかなり悩まされてい
    たことを考えるとゲリラに対する対応をきちっと決めておかな
    いといけないのではないでしょうか?

■ 編集長・伊勢雅臣より

     先日、秘書給与問題で辞任した社民党女性議員が、かつてテ
    レビ討論会で「朝鮮有事の際に、アメリカ人避難民を載せた船
    が北朝鮮軍に攻撃されたら、海上自衛隊は護ってはいけないの
    か?」と問われて、答えに窮した挙げ句に、「そんな仮定の質
    問には答えられない」と逃げたシーンを記憶しています。いざ
    という仮定の場合を想定して準備しておくことが、政治家の役
    割だと思うのですが、、、

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