[トップページ][平成17年一覧][Media Watch][070.15 事実と報道]

■■ Japan On the Globe(411)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

               Media Watch: 朝日の「ゆがみ」
                      〜 「ネコなで言葉」と「イヌの吠え言葉」
                        朝日新聞の度重なる不祥事の根底には、
                      「体質的・構造的問題」がある。
■■■■ H17.09.11 ■■ 33,337 Copies ■■ 1,761,378 Views■

■1.朝日の「体質的・構造的問題」とは■

     朝日新聞が揺れている。総選挙での新党結成をめぐって、長
    野支局の県政担当記者が田中・長野県知事に直接取材したかの
    ような虚偽報道をしていた事が発覚。この記者を懲戒解雇とし
    たが、箱島信一取締役相談役は記者会見の席上で「偶発的に起
    こったとは考えていない。組織に体質的、構造的な問題がある
    のではないか」と語った。[1]

        ・昨年8月には、取材相手とのやりとりを無断で録音し、
          別の取材先に渡した記者を退社処分。専務らを減給。
          
        ・本年1月 NHKの特集番組が政治的圧力で改変された
          と報道。NHKが否定し、双方が謝罪・訂正を要求した
          まま、膠着(こうちゃく)状態が続いている。[a]
          
        ・本年4月 週刊朝日のグラビア連載記事で消費者金融大
          手・武富士から5000万円を受領したことが判明、社
          長を報酬減額など6人処分。

     これだけ不祥事が続いたら、「組織に体質的、構造的な問題
    がある」と考えない方がおかしい。今回は、この「体質的・構
    造的問題」とは何か、を考えてみよう。

■2.Slanting (ゆがみ)■

     朝日の構造的問題にメスを入れるには、セマンティックス
    (意味論)という学問が有効である。たとえば、以下の二つの
    文章を比べてみよう。

         彼は数日はヒゲを剃っていないようで、顔や手には垢が
        ついていた。靴には穴があき、上着は小さすぎて、シミが
        目立った。

         彼の顔はヒゲがちょっと伸び、手入れされていなかった
        が、目は澄んでいた。上着が短く見えたのは姿勢がよく、
        長身だからだろう。靴に穴があいているのは、彼が細かな
        ことにこだわらない人物だという印象を与えた。

     二つの文章は同一の人物の記述であるが、まったく逆の印象
    を与える。セマンティクスの代表的研究者S・I・ハヤカワの
    『思考と行動における言語』の中に紹介されている「Slanting 
    (ゆがみ)」の事例である。

     前者の「ヒゲが伸びていた」とか「靴に穴があいていた」と
    いうのは、検証可能な事実の報告だが、後者の「目は澄んでい
    た」というのは、事実として検証不可能である。対象に対する
    主観をこめて、読者を誘導する一種の「ゆがみ」なのである。

■3.「ネコなで言葉」と「イヌの吠え言葉」■

     ハヤカワによれば、「ゆがみ」にはいくつかの種類がある。
    その一つは、対象への好意を込めた「ネコなで言葉」。もう一
    つは対象への反感をかき立てる「イヌの吠え言葉」である。

     たとえば、朝日新聞は「『千と千尋』の精神で 年の初めに
    考える」と題した社説で、こう述べた。

         この地球上にも、実は矛盾と悲哀に満ちた妖怪があちこ
        ちにはびこって、厄介者になっている。それらを力や憎悪
        だけで押さえ込むことはできない。それが「千と千尋」に
        込められた一つのメッセージだったのではないか。[2]

    「矛盾と悲哀に満ちた妖怪」とは、イラクや北朝鮮の事なので
    ある。それらが国際社会で「厄介者になっている」という。こ
    う書くと、いかにも同情すべき存在のように見える。「ネコな
    で言葉」による「ゆがみ」の好例である。

     同じ社説で米国についてはこう書く。

        「この世界から悪を取り除く」と高揚するブッシュ大統
        領の言葉は、米国の著名な宗教社会学者をして「奇妙にビ
        ンラディンと似ている。我々は敵と似てきているようだ」
        (ロバート・ベラー博士)と嘆かせている。[2]

     人口2億8千万人の大国での民主的選挙で選ばれた大統領を、
    911事件で数千人の罪もない民間人を虐殺したテロリストに
    なぞらえる。対象への反感をかき立てる「イヌの吠え言葉」で
    ある。

     ちなみに「著名な宗教社会学者」とは、さも米国の良心であ
    るかのように権威づけているが、これは「ネコなで言葉」で、
    「これほどの無抵抗平和主義者の主張をまじめに受け取る人は
    ほとんどいない」(サンフランシスコ・クロニクル紙)と評さ
    れ、米言論界ではほとんど無視されている人物である。

     朝日新聞は、こういう「ネコなで言葉」「イヌの吠え言葉」
    を駆使して、アメリカがイラクや北朝鮮を追いつめているとい
    う歪んだ世界観を読者に植えつけようとするのである。

■4.一般住民はなぜ「解放勢力」から逃げるのか?■

     ハヤカワの研究成果を援用して、朝日新聞など日本のマスコ
    ミの歪みを明らかにしたのは、国際的ジャーナリストとして著
    名な古森義久氏である。古森氏は毎日新聞のサイゴン、ワシン
    トン特派員を経て、産経新聞に移籍。ロンドン、ワシントン支
    局長、中国総局長などを歴任している。

     古森氏が最初に、日本のマスコミのゆがみに気がついたのは、
    昭和47(1972)年に、毎日新聞の特派員としてベトナム戦争を
    取材した時であった。「ベトナムの京都」とも呼ばれる古都ユ
    エが、北ベトナム軍の攻勢に陥落寸前だった。

         私がこのときのユエでみたのは住民たちのパニックだっ
        た。何十万というユエの老若男女が北からの共産軍の攻撃
        を恐れて、南へ南へと逃げているのだ。市内中心部はもう
        無人に近かった。

         私はこのときふしぎな疑問に襲われた。北ベトナム軍の
        進撃は「民族解放」であるはずなのに、一般住民はなぜそ
        れを恐れ、嫌い、解放の軍隊がくるのとは正反対の、つま
        り解放側にとっての敵の側に向かって逃げるのか、という
        疑問だった。[3,p18]

■5.「解放勢力」か、「コンサン(共産)」か■

     日本のマスコミは、ベトナム戦争中は「解放勢力」という言
    葉を使っていた。しかも、カギ括弧つきではなく、一般的な名
    詞として使っていたので、読者は自然に、アメリカに支配され
    ている南ベトナムを「解放」するためにゲリラとして立ち上がっ
    た、という見方をしてしまう。古森氏も現地を見るまではそう
    思いこんでいた。

     しかし、現地の人々はそんな呼称は使っていなかった。「コ
    ンサン(共産)」と呼んでいたのだ。古森氏がベトナム語を覚
    え、各階層の人々と直接接触すると、南ベトナムの多くの人々
    は「ゲエット(憎む)コンサン」という表現を口にする事に気
    づいた。「共産側を憎悪する」という意味である。「コンサン
    を殺す」という文字の入れ墨を腕にしている青年にも多数、出
    会った。

     なぜか、と聞くと「コンサンのテロで父が殺された」とか、
    「私の兄さんは、命令に従わなかったために、ある日突然殺さ
    れた」という実際の体験を話す人が多かった。

■6.悪質な書き換え ■

         ベトナム戦争の報道では日本のマスコミの大多数は長い
        期間、共産主義勢力をこうして「解放勢力」と呼び、ひい
        きをしていたのだ。アメリカやヨーロッパのマスコミはそ
        んなことはなかった。イタリアやフランスの共産党機関誌
        は除いて、一般の新聞などはみな「共産主義勢力」あるい
        は「北ベトナム軍」という呼称を使っていた。「南ベトナ
        ム解放戦線」という組織の名称を使う場合は、その旨を明
        示していた。[3,p64]

     世界中が、ベトナム戦争を共産主義勢力による武力革命と捉
    えていた時に、日本国民だけは、「解放勢力」による独立戦争、
    という歪められたレンズを通して見ていたのである。

         日本のマスコミではこうした偏向の用語を使うだけでは
        なく、さらに悪質な慣行があった。

         アメリカのAP通信ほか各メディア、イギリスのロイタ
        ー通信、あるいはフランスのAFP通信でに英文の表記は、
        いわゆる革命勢力を communist forces つまり共産主義部
        隊と呼ぶのが普通だった。・・・

         ところが外国通信社などの communist forces という表
        記を、日本の共同通信はあきらかに自分たちの判断で「解
        放勢力」という日本語に訳していたのだ。英語の共産主義
        者という語を日本語では解放者という表現に勝手に書きか
        えていたということである。・・・これはものすごく悪質
        な意図的操作だった。[3,p76]

     サイゴンが北ベトナム軍の手に落ちたときも、欧米のマスコ
    ミは「サイゴン陥落」という言葉を使ったが、日本では朝日新
    聞の本多勝一記者らが先頭を切って「サイゴン解放」と書いて
    いた。現地で事実を見ていた古森記者は「サイゴン陥落」と書
    いたが、本多記者は「歴史の流れを理解しない愚かな記者たち
    が『サイゴン解放』を『サイゴン陥落』などと呼んでいる」と
    批判した。

    「サイゴン解放」後、粗末な船で逃げ出した人々が、年間20
    万人ほどもいたと推定されている事実を見れば、どちらが「愚
    か」だったか、今は明白である。[b]

■7.「社会主義」か、「共産主義」か■

     同じような「ネコなで言葉」として「社会主義」がある。

         実際に日本ではいわゆる識者の多くが冷戦時代の東西両
        陣営の対立を「社会主義 vs. 資本主義」と呼んできた。
        これまたソ連自身の用語だった。その用語の背後には資本
        主義は資本家が労働者を搾取する悪しき体制という意味が
        こめられていた。・・・

         一方、アメリカや西欧では東西冷戦の両陣営の対立はあ
        くまで「共産主義 vs. 自由民主主義」と表現されてきた。
        日本は現実には自由民主主義陣営なのに、冷戦の本質を評
        するのに、東側の用語を使っていたのだ。そんな国は日本
        ぐらいのものだった。

         共産主義を社会主義と呼んでしまうと、共産主義独特の
        革命とか独裁という本質がイメージとして薄れ、一般によ
        り広くアピールしやすい効果を生むことになる。日本の左
        翼には明らかにそういう計算があったろう。[3,p220]

     古森氏は1990年のはじめに東ヨーロッパ諸国を歴訪した。

         ルーマニアでもブルガリアでも民主主義のうねりによっ
        て倒されたのは、共産主義の政治体制だった。現地の人た
        ちがはっきり「共産主義」という用語を使っていた。・・
        だれも社会主義の打倒などと叫んではいなかった。[3,p218]

         私が同じ冷戦の終盤の時期に東欧で見たのも、市民たち
        が共産主義を排除し、糾弾し、自由民主主義を求める切実
        な姿だった。市民たちがもっとも激しく排していたのは、
        共産主義体制の一党独裁や私有財産の否定という、まさに
        共産主義を他の社会主義と厳然と区分している特徴だった。

         ソフィア、ブカレスト、そしてプラハと、市民たちのそ
        うした姿に胸を打たれれば打たれるほど、共産主義の非人
        間的側面を言葉の詐術でぼやかしてしまうような日本の知
        的風土の矛盾を私は痛感したものだった。[3,p222]

■8.「イヌの吠え言葉」のオンパレード■

     こうした歪んだ報道は今も変わらない。先に引用した「千と
    千尋」の社説に戻ろう。

         日本にも、米国の熱狂を笑えぬ現実が頭をもたげている。

         拉致の被害者たちに寄せる同情や北朝鮮への怒りがあふ
        れたのは自然として、そうした感情をあおるばかりの報道
        が毎日繰り返される。雑誌には「北朝鮮の断末魔」「ガタ
        ガタ抜かすなら締め上げろ」などの見出しが躍る。・・・

         ひるがえって日本による植民地時代の蛮行を問う声は
        「拉致問題と相殺するな」の一言で封じ込めようとする。
        ・・・

         中国をことさら敵視したり、戦前の歴史を美化しようと
        したりの動きもみられる。深まる日本経済の停滞と歩調を
        合わせるように、不健康なナショナリズムが目につくのは
        偶然ではあるまい。[1]

    「米国の熱狂」「感情をあおるばかりの報道」「ガタガタ抜か
    すなら締め上げろ」「植民地時代の蛮行」「一言で封じ込めよ
    うとする」「中国をことさら敵視」「戦前の歴史を美化」と、
    事実や根拠も示されない「イヌの吠え言葉」のオンパレードで
    ある。

     きわめつけは最後の一文で、「不健康なナショナリズム」は
    「日本経済の停滞」から国民の目をそらすための手段だと暗示
    する。何の根拠も示さずに、ここまでの奇矯な主張をするに至っ
    ては、単なる「イヌの吠え言葉」を超えて「狂犬の吠え言葉」
    と言うべきか。

■9.朝日新聞の描く「異界」■

     この「ネコなで言葉」と「イヌの吠え言葉」の羅列からなる
    社説は、奇妙に千尋の迷い込んだ「異界」に似ている。千尋の
    両親が魔法で豚にされてしまったように、イラク・北朝鮮は
    「矛盾と悲哀に満ちた妖怪」となり、ブッシュ大統領はビンラ
    ディンばりの「悪魔」となる。北ベトナム軍が「解放勢力」に
    変身し、共産主義が「社会主義」に化けていた「異界」は今も
    健在なのだ。

     社説だから、自社の考えを述べるのは当然であるが、それは
    事実に基づき、論理的な思考過程を示した上での結論であるべ
    きだ。そうであってこそ、これは事実ではない、とか、この論
    理はおかしい、などという議論が成り立つ。

     朝日新聞には自らの主張をする前に、まず事実をきちんと検
    証し、そこから論理的に考えようとする報道の基本が欠如して
    いる。元日の社説を書くほどの幹部がこれでは、末端の若手社
    員が会ってもいない人とのインタビュー記事をでっちあげるく
    らいは、当然の結果なのである。これが朝日新聞の「体質的
    ・構造的問題」だろう。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(401) 北風と朝日
    ある朝日新聞記者が北朝鮮擁護のために でっちあげ記事を書
   いたという重大疑惑。
b. JOG(035) 報道と政治宣伝の見分け方
    本多勝一氏のように、せいぜいショーウインドウとしてしつ
   らえた「人道的キャンプ」を見る程度で、提灯持ちの政治宣伝
   を書くタイプ。 

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
   (まぐまぐ版では、httpのあとに「:」を補ってください)

1. 産経新聞、「朝日新聞・秋山社長謝罪 『説明責任に甘さ』 
   社内でも批判、やっと会見」、H17.09.08
2. 朝日新聞、「『千と千尋』の精神で 年の初めに考える(社説)」
   H15.01.01、東京朝刊、2頁
3. 古森義久『国の壊れる音を聴け 国際報道と日本のゆがみ』★★★、
   H16、扶桑社文庫
   
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「朝日の『ゆがみ』」に寄せられたおたより

                                           「tery」さんより
     朝日新聞の特質は、その時代の正義/善になろうとしている
    事に有ると思います。戦前は国粋主義を正義とし、戦後は共産
    主義を正義と仰いでいるだけで、組織体質は、戦前、戦後とも
    同ではないでしょうか。
 
     自らの正義を明らかにしようと、悪をつくり、より多くの善
    を語ろうと、偽りを語る。自らの旗を正義と信じているため、
    すべての手段が正しいと思い込んでしまっている妖怪は、そこ
    らじゅうにいるような!

                                         「三保子」さんより
     言葉という点に関連して思い当たることがあります。「天皇
    制」とか「従軍慰安婦」などという言葉はある政治的意図を含
    ませて左翼が造語したものだということです。(もしかすると
    朝日が使い出したのかもしれない。)

     元関西大学教授谷沢永一の著書に詳しくありますが、天皇と
    いう言葉はあっても天皇制という言葉は無いそうです。また従
    軍という言葉や慰安婦という言葉はあってもこの二つを結び合
    わせた言葉は本来存在しないのです。悪意をこめて作られたもっ
    ともらしい言葉によって私たちはうその概念を本当だと信じ込
    ませられているようです。

                                         「Yutaka」さんより
     朝日新聞の記事捏造は今にはじまったことではなく、ご承知
    のように終戦後の混乱期 には当時非合法化され地下にもぐっ
    ていた共産党幹部との架空のインタビュー記事を一面で報道し
    たこともあったように記憶しております。

     朝日新聞を初めとする左翼ジャーナリズムの特徴は誤った選
    民意識ではないでしょうか? 国民は愚昧であり、目覚めた進
    歩的な人間が正しい方向を指し示さない限り道を誤る と言う
    いわれの無い思い込みがあり、その結果目的が正しければ多少
    の(?)手段の誤りは 許されると言う論理で、記事の捏造、
    歪曲など平気でやるように思われます。

     いずれにせよ、記事の捏造はジャーナリズムに携わる人間に
    とっては許されないことで、本来なら朝日新聞は看板を下ろし
    て会社を解散してもおかしくないはずですが、相変わらず他 
    人を批判することには熱心でも、自ら責任を取るつもりはない
    ようですね。

■ 編集長・伊勢雅臣より

    「誤った選民意識」「目的が正しければ多少の(?)手段の誤
    りは許される」というのは、マルクス・レーニン主義政党にも
    よく見られる点ですね。 

     本編の[1]によれば、朝日新聞の販売部数は7月で、対前年
    同月比7万部強の減少とのことです。しかしこの「イタリアや
    フランスの共産党機関誌」なみの新聞が800万部以上も売れ
    ている現状では、日本の自由民主主義もまだまだ本物とは言え
    ません。

© 平成16年 [伊勢雅臣]. All rights reserved.