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■■ Japan On the Globe(424)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

               The Globe Now: 改造される日本

                    その歴然たる従属ぶりは、「恒常化された
                   内政干渉」とでも表現するほかはない。
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■1.華やかな「タダオ・アンドー現象」の陰で■

     1999年6月、北京の人民大会堂で、国際建築家連盟(UIA)
    の世界大会が開催された。

         タダオ・アンドー現象は中国でも凄まじいものがあった。
        いまや日本が誇る世界的建築家、安藤忠雄氏の北京での講
        演会には中国の若者たちが会場に殺到した。私の左隣に座っ
        た北京の清華大学建築学科の学生は中国で出版された安藤
        氏の作品集を見せてくれたし、右隣のポーランド人の女子
        学生は、私が日本人だと知るとアンドーへの憧れを興奮気
        味に語りかけてきた。[1,p14]

     建築学を学んでいた関岡英之氏は、この華やかな表舞台の陰
    で、ある国際協定が静かに採択されたのを知る。世界各国の建
    築家の資格制度を国際的に統一するルールである。

     国際的な統一ルールとは言いながら、その中身はほとんどア
    メリカの制度の焼き直しだった。たとえば、大学の教育年限は
    5年制で、それも民間の第三者機関などから、その教育内容の
    認定を受けなければならない。そんな大学も認定機関も日本に
    はない。

     これは何を意味するか。中国側で建築家の資格制度の国際的
    な統一ルールづくりをアメリカ側と一緒に担当した張欽楠氏は
    こう発言している。

         日本の建築家が中国で業務を行う際、日本の建築士資格
        は中国では通用しない。改めて中国の建築師資格を取得す
        る必要がある。[1,p26]

     中国はすでにアメリカの制度に準じた資格制度を作ってきて
    おり、両国の制度はグローバル・スタンダードになった。その
    結果、日本の建築家だけが、中国市場から除け者にされるので
    ある。

■2.米中結託の思惑■

     この大会の直後、アメリカのサービス産業連合のディーン・
    オハラ会長は、アメリカ連邦下院議会で、北京での建築家資格
    制度のグローバル化について、「アメリカの国益にとって重要
    な勝利である」と証言している。

     3ヶ月後にシアトルでのWTO(世界貿易機関)閣僚会議が
    予定されており、それに備えてこの議会ではアメリカがサービ
    ス貿易分野でどのような交渉をすべきか、議論していた。オハ
    ラ会長は、そこでこの意見を表明したのである。

     中国は過去、13年間もWTO加盟を希望してアメリカ政府
    と交渉をしてきた。アメリカはWTO加盟を餌に、中国にアメ
    リカの建築家資格制度を受け入れさせた上で、それをグローバ
    ル・スタンダードとして、中国の建築市場参入を得たのである。

     日本の建設省(現・国土交通省)が、「建設設計資格制度調
    査会」を設置して、検討を始めたのは、この北京大会から1年
    以上も経った後であった。

■3.建築基準法改訂への疑問■

     アメリカが「グローバル・スタンダード」の美名のもとに他
    国のルールを都合の良いように変えて、国益を追求するという
    手法は、実は日本相手の交渉を通じて習得したものだった。

     関岡氏がこれを発見したきっかけは、阪神大震災の3年後、
    平成10(1998)年に建築基準法が半世紀ぶりに改正された時だっ
    た。建築学科の大学院生として、修士論文のネタを探していた
    関岡氏は、やはり大震災の被害の大きさが、建築基準の見直し
    につながったのだな、と考えて、これをテーマに研究に取り組
    んだ。しかし、建築基準法改正を検討してきた建築審議会の答
    申書を読んでみると、どうも様子がおかしい。

     たとえば、従来の建築基準法では工法、材料、寸法などの
    「仕様規定」を制定していたのを、改正後は、建築物が耐震、
    耐火など一定の性能を満たせば様々な材料、設備、構造方法を
    採用できるという「性能規定」に変更された。

     そして、新しい性能規定は、「国民の生命、健康、安全、財
    産の保護のために必要最低限のものとする」と書かれている箇
    所で、関岡氏は目を疑った。阪神大震災の悲惨な悲劇を繰り返
    さないためには、基準の強化こそ必要であるのに、「最低限」
    とはどうした事か。建築基準法の改定には、もっと別の背景が
    あるのではないか、と関岡氏は疑いだした。

■4.大震災の反省よりも建設市場開放が目的■

     そこで建築審議会の答申書をもう一度、よく読んでみると、
    改正が必要となった背景として、阪神大震災の教訓とは別に
    「海外の基準・規格との整合性等を図ること」「我が国の建設
    市場の国際化を踏まえ、国際調和に配慮した規制体系とするこ
    と」が必要である、と書かれている事に気がついた。

     もし、阪神大震災の悲劇を繰り返さない事が改正の目的なら、
    海外の基準や国際規格との整合性などは二次的な問題のはずで
    ある。

     従来の日本の「仕様規定」は、大工さん達の匠(たくみ)の
    技に支えられた高度で精妙な木造建築の伝統工法を前提にして
    いるため、アメリカの釘を機械的にガンガン打ちつけるだけの
    ツー・バイ・フォー工法などは、受け入れられないものとなっ
    ていた。

     これを「性能規定」に変えてしまうことは、外国の工法や建
    材がどっと日本に入ってくる道を開くことである。また地震の
    多い日本の建築基準は、海外の規格よりも厳しくなっている。
    それを「海外の基準・規格との整合性等」を図れば、日本の基
    準を緩和する、というに等しい。

     この改正は、大震災とは何の関係もないばかりか、むしろそ
    れに逆行して、日本の建築市場を解放する事を目的としている
    のではないか。

■5.「アメリカの介入を許すようなメカニズム?」■

     どうしてこのような事が行われているのか。関岡氏は調べて
    いくうちに、その答えがアメリカの公文書に堂々と記録されて
    いるのを見つけた。

     アメリカ通商代表部が作成した『外国貿易障壁報告書』2000
    年版には、日本の建築基準法の改正がアメリカ政府の要求に応
    じてなされたものであると、はっきり書かれている。そして通
    商代表部は、この改正法が「アメリカの木材供給業者のビジネ
    ス・チャンス拡大につながった」と、自画自賛しているのであ
    る。

     建築基準法の改正以外でも、賃貸住宅市場の整備を目的とす
    る「定期借家権制度」の導入や、中古住宅市場の活性化を目的
    とする「住宅性能表示制度」の導入なども、アメリカ政府の要
    求によって実現したものであると、堂々と公言されている。

     日本国内では、建築基準法の改正や住宅性能表示制度の導入
    は、大震災の反省や、手抜き工事による欠陥住宅の社会問題化
    などがきっかけになって、日本政府内で導入が決定されたもの
    と理解されている。

     これらの法改正や制度改革は、日本の消費者のためどころか、
    日本の住宅産業の為ですらなく、アメリカの木材輸出業者の利
    益のために、アメリカ政府が日本政府に外圧を与えて実現させ
    たもののようだ。関岡氏は考えた。

         どうしてこのような奇怪なことが起きているのだろうか。
        日本の法改正や制度改革の決定プロセスには、アメリカの
        介入を許すようなメカニズムが存在しているのかもしれな
        い。そしてどうやらわたしたち一般の国民は、そのことを
        きちんと知らされているわけではないらしい。建築基準法
        の改正を提言した答申書を隅から隅まで読んでみても、ア
        メリカ政府が介在していることなどもちろんひとことも書
        かれていない。法改正のニュースを伝えた新聞報道でもいっ
        さい触れられていない。当のアメリカ政府自身が公式文書
        でそのことを堂々と公表しているというのに。[1,p50]

■6.阪神大震災の6年前から出されていたアメリカの要求■

     実は、アメリカ政府の要求は、阪神大震災の6年も前から出
    されていたのである。1989年5月、アメリカは悪名高い通商法
    スーパー301条を日本に対して発動した。これは不公正な貿
    易慣行・障壁を持つ(とアメリカ政府が判断する)国に対し,
    アメリカ通商代表部が交渉しても改められない場合には報復措
    置をとるという法律である。

     この時に標的とされた3品目が、スーパーコンピュータ、人
    工衛星、そして木材すなわち建築材料だった。木材についてア
    メリカは、日本の建築基準法や製品規格などがアメリカ製木材
    の輸入を妨害していると非難した。この時、日本政府は、建築
    基準法は度重なる災害の教訓から、日本の周密な国土の状況に
    即して定められているのだから、緩和する意思はないと抵抗し
    たが、アメリカは一方的な制裁をほのめかせて、圧力をかけ続
    けた。

     その結果、1990年に、ついに日本政府は折れて、「建築基準
    は原則として性能規定とすることが好ましい」という書簡を、
    村田駐米大使の名前で、アメリカ通商代表部に出している。

     建築基準法改正は、阪神大震災の5年前に日米で合意してい
    たのである。その合意に従って、阪神大震災後のどさくさに乗
    じて、建築審議会の答申書が作られ、建築基準法が改正された
    というわけである。
    
■7.「叫ぶのはやめて、ルールを変えよう」■

     アメリカは1970年代のニクソン政権の頃から、対日貿易赤字
    の原因は日本側にあると非難してきた。そして繊維、自動車、
    半導体、牛肉、オレンジなど、次々と個別分野をターゲットに、
    二国間交渉を通じて圧力をかけ続けた。

     その過程でアメリカは日本の「閉鎖的」な市場や、民間の
    「不公正」な取引慣行に目を向け、ついには欧米とは異質な日
    本独特の価値観や思考・行動様式そのものを問題視する「日本
    異質論」が台頭するまでになった。

     1987年の対日貿易戦略基礎理論編集委員会によってまとめら
    れた「菊と刀〜貿易戦争編」というレポートでは、「外圧によっ
    て日本の思考・行動様式そのものを変形あるいは破壊すること
    が、日米双方のためであり、日本がアメリカと同じルールを覚
    えるまでそれを続けるほかはない」と断定している。

     このレポートの著者の一人と推測されているジェームズ・ファ
    ローズは『日本封じ込め』という著書の中で、「叫ぶのはやめ
    て、ルールを変えよう」という有名なセリフを吐いた。日本に
    対して、経済制裁を振り回して、あからさまな市場開放を叫ぶ
    のではなく、静かに日本の市場や規制などのルールを変えさせ
    ていこう、という方向転換である。

■8.日本の「改革」はアメリカの要求を忠実に反映■

     1989年からはブッシュ大統領(現在のブッシュ大統領の父親)
    の提案で「日米構造協議」が始まった。この名称自体が、その
    内容を目隠しする苦心の訳であり、英語では「Structural
    Impediments Initiative」と言う。日本の「構造障壁」を取り
    除くためのアメリカの「イニシアティブ(発議)」という意味
    である。

     ここでアメリカは「系列」や「談合」などという日本独自の
    商習慣が外国企業を差別する「障壁」であるとして撤廃を要求
    したり、日本の「不合理」な流通システムに関して規制緩和を
    求めたりした。

     1993年7月のクリントン大統領と宮沢首相の会談では、双方
    から『年次改革要望書』が毎年、出される事が決まった。「双
    方から」というのはあくまで形式で、実質はアメリカ側から、
    農業、自動車、建築材料など個別分野での市場参入問題や、市
    場構造的問題の是正を日本に迫るための要望リストである。

     この『要望書』には、5つの優先分野が指定されており、通
    信、金融、医療機器・医薬品、エネルギーと並んで、住宅分野
    があった。しかし、住宅分野は2001年以降の『要望書』からは
    姿を消した。建築基準法改正、住宅性能表示、定期借家権制度
    と建築分野の一連の規制改革が2000年までに完了して、アメリ
    カの要求はすべて実現された、という訳である。

     アメリカの通商代表部は、毎年秋に『年次改革要望書』を日
    本に送りつけ、要求がきちんと実行されているかの進捗報告が、
    毎年3月に連邦議会に提出される『外国貿易障壁報告書』の中
    でなされる。日本政府は、毎年、「目標管理」をされているの
    である。

         過去十年間、日本で進められてきた「改革」のかなりの
        部分が、日本政府への米国政府の『年次改革要望書』の要
        求を忠実に反映したものだ。今年国会で成立した新会社法
        しかり、改正独禁法しかり。そして郵政民営化法もまたし
        かりである。その歴然たる従属ぶりは、「恒常化された内
        政干渉」とでも表現するほかはない、主権国家として尋常
        ならざるものだ。[2]

■9.「恒常化された内政干渉」の歴史■

     アメリカの「恒常化された内政干渉」は、今に始まった事で
    はない。幕末に黒船を送り込み、武力恫喝の下に、国際貿易と
    いうグローバル・スタンダードを押しつけた時から始まってい
    る。[c]

     日本が必死の努力で国際貿易でも成功を収めると、アメリカ
    は経済のブロック化を進め、一方では中国に対する「門戸開放」
    を叫んで日本を追いつめた[d]。そして大東亜戦争に勝利する
    と、今度は日本の「軍国主義」を変えるべく、憲法を変えさせ、
    「民主主義」を押しつけた。

     戦後、日本が高度成長を果たした所で、今回述べた『改革要
    望書』で「ルールを変えさせる」。スタイルは隠微となったが、
    「恒常化された内政干渉」はこの150年間続いてきたのであ
    る。「国際貿易」「門戸開放」「民主主義」「グローバル
    ・スタンダード」などとその時々の大義名分を掲げながら、そ
    の陰で自国の国益を冷徹に追求するのが、アメリカの外交スタ
    イルであると言って良い。

     それを「内政干渉」と怒ってみても始まらないのは、中国の
    より露骨な国益追求外交と同じ事である。国際社会とは、各国
    の国益追求と他国への内政干渉とが渦巻いている場である。そ
    れを十分に認識しながら、その中でいかに日本の国益を追求し
    ていくか、そこに知恵を絞っていかなければならない。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(084) 気がつけば不沈空母
    国民の知らないうちに、国内の米軍基地は、米国国際戦略の
   拠点となっている。
b. JOG(078) 戦略なきマネー敗戦
    日本のバブルはアメリカの貿易赤字補填・ドル防衛から起き
   た。
c. JOG(149) 黒船と白旗
    ペリーの黒船から手渡された白旗は、弱肉強食の近代世界シ
   ステムへの屈服を要求していた。
d. JOG(219) アメリカの反省
    日本の本当の罪は、西洋文明の教えを守らなかったことでは
   なく、よく守ったことなのだ。

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
   (まぐまぐ版では、httpのあとに「:」を補ってください)

1. 関岡英之『拒否できない日本』★★、文春新書、
2. 関岡英之『奪われる日本』★★、「文藝春秋」、H17.12
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「改造される日本」に寄せられたおたより

                                           「隆幸」さんより
     私は戸建住宅建築・リフォームの仕事に従事してますが、前
    号の「建築基準法改訂への疑問」「アメリカの介入を許すよう
    なメカニズム?」「叫ぶのはやめて、ルールを変えよう」は
    “心ある者の的を得た警告”として、賛同します。ヨーロッパ
    もF1レースにおいては日本の技術が優位に立つと平気でルール
    を変更したくらいですから。

     反面、この業界は日本国内において最も国際競争力に劣る
    (政官に保護されてきた)無能の集団と化してる点は反省をせ
    ざるを得ません。

                                           「菅生」さんより
     私は建築ではなく土木分野で生きているものです.建造物を
    作成するということでは同じですが,その土木も仕様規定から
    性能規定に変更いたしました.しかしこれは我々,技術者から
    すると画期的です.仕様規定では技術革新にルールが追いつい
    ていないからです.

     今回,外圧がきっかけであるにせよ,仕様規定から性能規定
    になることで技術者冥利に尽きる状況が生まれることでしょう.
    自分達で考えて,災害に強い構造物を作るべきです.

     単なる私の思い込みですが,日本人技術者には滅私奉公の考
    え方が根付いているような気がします.少なくとも私の周りで
    働いている人間は妥協はなく,公共事業が完工し共用された時
    に喜んでくれる利用者の皆様を想像しながら個々に与えられた
    役割をこなしています.

     お金ではなくやりがいとか,名誉とか,倫理観とか自分にウ
    ソをつかないとか,そういう者を持っているのが日本人技術者
    であると考えております.

     故に,そういう技術者でばかりであれば性能規定は素晴らし
    い,と思ったのですが…,残念ながら現実には違う部分もある
    のでしょう.姉歯氏に端を発したような問題があることを前提
    としてシステムを作っていく必要があるのでしょう.
    
■ 編集長・伊勢雅臣より

     アメリカからの外圧とは関係なく、もっと早く性能規定にし
    て、日本人技術者の志を大いに生かしていれば、強い建築業界
    が生まれていたでしょう。また、姉歯氏のような事件を防ぐシ
    ステムを作るのも、日本国民の知恵の問題です。

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