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■■ Japan On the Globe(480)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

             Common Sense: 心を磨くトイレ掃除
    
                 問題校の建て直し、暴走族の更正、地域の犯罪
                防止にトイレ掃除が大きな成果を上げている。
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■1.「トイレにも心がある」■

     トイレ掃除を通じて教育を立て直す活動が広まっている。以
    下は大分県の小学校5年生、足立弥佳さんの作文の一部である。

         10月28日火曜日。5年生のそうじ場所「トイレ」を
        今よりさらにきれいにするため、イエローハット(JOG注:
        自動車用品販売会社。社長の鍵山秀三郎氏が「掃除道」の
        提唱者)の方と一緒にそうじをすることになった。イエロ
        ーハットの人や先生は、「トイレにも心がある」という。
        だが私は「そんなことあるものか」と思った。・・・

         担当の便器に着いた。足には、もうオシッコやちょっと
        のウンチがついていた。ヤスリでゴシゴシこするが、プー
        ルそうじとは違い、なかなかあかが取れない。だからもう
        ヤケクソにゴシゴシやっていたが、ちっとも取れなかった。

         しかし、先生やイエローハットの方がいっていた「トイ
        レの心」を思い出し、「きれいになるように」と思いなが
        らこすると、「ツルッ」まるで本当に私の心が伝わったよ
        うだった。そして本当にトイレの心がわかったように思っ
        た。私は本当にビックリした。

         トイレのそうじ時間は2時間もあったのに、30分で終
        わったような感じがした。しかもトイレもピッカピカになっ
        ていた。プールそうじのときのうれしさとちがい、一人に
        つき一つの便器だったから、「これは私がそうじした便器
        だぞ!」といううれしさだった。はっきりいって、あんな
        にきれいになるなんてまったく思っていなかった。短時間
        で何年ものよごれを取った喜びは、人には表しきれないほ
        どのものだった。

         トイレから出てみんなに会うと、みんな「私(僕)はやっ
        たぞー!」という顔をしており、かがやいていた。私のそ
        うじを始める前の心は、とってもボロボロで汚かった。そ
        れはそうじをする前のトイレに似ていた。

         だが、トイレのそうじをすると私の心もみがけたような
        気がした。先生やイエローハットの人たちがいっていたか
        らとはちがう。これは本当に自分が思ったことだ。「トイ
        レには心がある。そしてその心は人の思っていることがわ
        かり、そうじをしている人と同じような心のかがやき方を
        する」このことに初めて気づいた。[1,p185]

■2.汚いトイレになかでご飯を食べる生徒たち■

     トイレ掃除で問題校を劇的に改善した例もある。以下は広島
    県立安西(やすにし)高校に教頭として赴任した山廣(やまひ
    ろ)康子先生のレポートである。

         私が教頭として赴任してきた平成13年4月当初の安西
        高校は、地元警察の協力を得なければとても手がつけられ
        ない危ない問題校でした。・・・

         校内には至るところゴミが散乱し、ところかまわず平気
        でゴミを捨てていました。トイレのなかも想像を絶する汚
        さでした。驚いたことは、その汚いトイレになかで、ご飯
        を食べる、ジュースを飲む、という行為を生徒が平気でやっ
        ていたということです。初めて見たときは、本当に信じら
        れない光景でした。[1,p150]

     集団リンチ事件なども起こり、毎日警察に電話をしない日は
    なかった。広島北警察署に呼ばれて学校の現状を報告していた
    時のこと、ちょうど同席していた「広島掃除に学ぶ会」の井辻
    会長が「お手伝いをさせてください」と申し出た。そして、そ
    の年の12月に予定されていた「掃除に学ぶ会」の会場を安西
    高校にする事となった。

     しかし、生徒が掃除に参加してくれるかどうか、山廣先生は
    不安でならなかった。問題行動のあった生徒の顔を見かけるた
    びに「おいでね」「参加しようね」と声をかけた。それでも安
    心できずに、開催日が近づくと、夜な夜な生徒宅に電話勧誘ま
    でした。前日には「誰も来てくれないのでは」と悶々として眠
    れなかった。

■3.「変わったね」■

         ところが、当日の早朝、「先生、おはよう。イケメン隊
        登場だよ」と生徒たちがやってきてくれたときには、天に
        も昇る嬉しさでした。

         当日の参加者は約280名にものぼり、大成功でした。
        参加した生徒は、最初は「ウァー」「キャー」といいなが
        らも、トイレ掃除にどんどん熱中していきました。掃除終
        了後、生徒たちは清々しい笑顔を満面に浮かべていました。

     こうしたトイレ掃除を半年に一度ほどのペースで続けた。

         掃除を続けてきた結果、校内が急速にきれいになってい
        きました。並行して、校風がガラリと変革していきました。
        もう、生徒が警察のお世話になることもなくなりました。
        服装の乱れも見かけなくなり、問題行動も激減してきまし
        た。近くの団地の人や県教育委員会、そして、いろんな関
        係機関の方から「変わったね」といわれるまでになりまし
        た。・・・

     その年には、7年ぶりに体育祭を復活できた。

         とくに感動したのは、チームワークのとれたマスゲーム
        でした。問題行動を起こしていたあの生徒たちがあれだけ
        やれる----そう思うと、涙が止まりませんでした。

■4.「マジでトイレを掃除するのかよ?」■

    「広島掃除に学ぶ会」では、広島県警と協力して、トイレ掃除
    によって暴走族を更正させるという活動を展開している。その
    始まりは平成11年11月18日。県警の少年対策本部や教育
    委員会、市民有志など103名の関係者が、暴走族22人を連
    れて、広島市内の新天地公園に集まった。[1,p188]

         参加した暴走族は、金髪、茶髪、ピアスといったファッ
        ションの少年少女ばかりです。それを見て、参加した大人
        たちも硬くなっており、緊張のあまりただ突っ立っている
        人たちも目立ちました。

         少年少女を引率してきた警察署員の方々も、説得して集
        めるのにたいへんな苦労をされたようです。彼ら一人ひと
        りの自宅に車で迎えに行って、参加させた警察署員もおら
        れました。なかには、やっと連れてきたにもかかわらず、
        「だましやがった!」と逃げ出した少年もいました。

         また、「ウッソー、聞いてないよ!」と警察官に文句を
        言い出す少年。「マジでトイレを掃除するのかよ?」「長
        靴履くのダサいよー」と座ったまま動こうとしない少女。
        ・・・
        
■5.「暴走族が素手で便器を洗っている」■

         このような雰囲気のなかで、いよいよトイレ掃除が始ま
        りました。もしもの事態を考えて、警察署員の方々と私た
        ちが少年少女をサンドイッチ状態にしてのトイレ掃除です。
        初めは反抗的だった少年少女も、いざ始まってしまうと、
        見る見るうちに順応し、一心不乱に便器と向き合うように
        なりました。

         少女のなかには、感動して、「便器に手をつっこんでい
        るところを写真に撮ってや」とか、「私の便器のほうがき
        れいになっているよ」と素直に心を開いてくれる子もいま
        した。

     なかには、最後まで抵抗して、途中で逃げ帰った少年も数人
    はいたようだ。しかし、掃除が終わったあと、少年少女の中か
    らはこんな感想が出た。

         最初は抵抗があったが、やりだしたら夢中になった。楽
        しかった。今後も参加したい。こうした掃除をする大人が
        いることに驚いた。

     こんな光景に、近隣の人たちも驚いた。スーパーの店長は
    「いつも店内をウロウロしていた、他のお客が怖がっていたあ
    の少年が、トイレを素手で掃除している」。トイレ掃除をきっ
    かけに心を入れ替え、暴走族を抜け出す青少年も現れていった。

■6.「新宿から東京を変えよう」■

     この頃の広島市は暴走族の無法ぶりで全国的にも有名になっ
    ていたが、それまでの検挙至上主義から転換し、町ぐるみのト
    イレ掃除によって、暴走族青少年の更正に今までにない手応え
    を得た。

     この取り組みを率先推進した広島県警本部長の竹花豊氏は、
    その実績を買われて、平成15年7月に東京都の治安担当副知
    事として招聘された。竹花副知事は犯罪の多発する新宿を安全、
    安心な町にして「新宿から東京を変えよう」と町ぐるみの掃除
    に取り組んだ。

     月に一度の早朝掃除で、「日本を美しくする会」の人たちと
    ともに、植え込みに投げ捨てられた空き缶、ホームレスの使い
    捨てた段ボール、道路にへばりついたガム、電柱に貼り付けら
    れた広告用チラシ、酔っぱらいの小便跡などをきれいにしていっ
    た。

     約1年も掃除を続け、街がきれいになるに従って、犯罪件数
    も減っていった。平成15年に比べて、翌年の犯罪件数は50
    %以上も減少した。客層も変わってきている、と地元の商店街
    の人は語っている。

■7.トイレ掃除の5つの効用■

     なぜトイレ掃除がこうした効果を持つのか、について、各地
    で展開されている「掃除に学ぶ会」では、次の5点が紹介され
    ている。

     第1は、トイレ掃除を続けていると、例外なく謙虚な人にな
    るということ。そして謙虚に物事や他人に向き合うことができ
    るようになる。

     第2に、気づく人になる。普段何気なく使っているトイレも、
    掃除をしてみれば、こんなに汚れていたのか、と気づく。その
    気づきが人に向かえば、思いやりの心につながる。

     第3は、感動の心を育む。身の回りのありふれたトイレ掃除
    でも、ひたすら取り組むと、こんなに綺麗になった、という感
    動が生まれる。また、その姿が見ている人の感動を呼ぶ。

     第4に、感謝の心が芽生える。自分でトイレ掃除をして見れ
    ば、普段使っているトイレや教室なども、誰かが掃除をしてく
    れたから、と気づき、小さな事にも感謝できる感受性豊かな人
    間になれる。

     第5に、心を磨く。掃除に一心に取り組んでいると、雑念が
    消え、素直な心になる。

     神道や仏教でも、掃除が修行の基本として教えられるのは、
    掃除が人の精神に及ぼす影響が昔から認められているためであ
    ろう。同時に掃き清められた神社や仏閣が、参拝する人の心を
    清める。

     日本統治時代の台湾でも清潔な国づくりが効果を上げた[a]。
    現代の企業経営でも、整理・整頓・清潔・清掃・作法・躾の6
    つの「S」が基本とされている[b]。

■8.中国の凄まじく汚れたトイレで■

     トイレ掃除は海外にも展開されている。台湾でイエローハッ
    トを経営している大財閥の叙重仁社長が、自ら率先して300
    人以上の人々とともにトイレ掃除をする姿は、台湾中の新聞や
    テレビのトップニュースとなった。ブラジルでも日系人たちの
    トイレ掃除が全国的なニュースとなった。

     鍵山氏は、中国にもトイレ掃除を教えに行った。中国のトイ
    レの汚れ方は凄まじい。自分さえ良ければいい、という人が多
    いために、用を足した後、水を流さない。次に入った人も、ど
    うして前の人の残したものを自分が流さなければならないのだ、
    と、そのままその上に用足しをする。かくして、水洗トイレな
    のに山盛りの糞尿が残る。

     鍵山氏が、中国の大学構内で学生たちと掃除した時も、こう
    いう状態だった。さて、こういう状況はどうするのか、と学生
    たちが固唾を飲んで見守っている中、鍵山氏は素手で山盛りの
    糞尿を便器の穴に押し込み、水を流した。

     そして、静かに振り返って「さあ、あなたはここをきれいに
    してください」と一人一人に便器を割り当てていった。ここま
    で率先垂範されると、学生たちも後には引けず、トイレ掃除に
    取り組み始めた。

■9.「日本をゴミ一つない国にしたい」■

     トイレ掃除の実習が終わった後、学生を前に鍵山氏は講演を
    行った。質疑の時間に、一人の学生がこんな質問をした。

         私は大きなことをやるために大学へ来て勉強しています。
        掃除のような誰にも顧みられない小さなことにこだわって
        いては、大きなことができないのではないでしょうか。

     そこで鍵山氏が「あなたは、大勢の人が見ている前で、道に
    落ちている一本のタバコの吸い殻を拾うことができますか」と
    尋ねると「拾えません」。「あなたはずいぶん立派な体格をし
    ていますね。手を見せてください。こんなに立派な手があって
    どうして拾えないのですか」とさらに聞くと、学生は「恥ずか
    しいから、とてもできません」

         私は、毎朝、自分の会社の周辺と道路を掃除しています。
        バス停にはいつも5、6人、多い時には10人もの人がバ
        スを待っています。その目の前で、ゴミ拾いをすることは、
        なんとなく気恥ずかしいものです。ましてや、その人たち
        の足元に落ちている吸い殻を拾うのには、そうとう抵抗が
        あります。

         しかし、人間というのは、そうした抵抗を超えていくこ
        とで心が鍛えられ、より成長できるものだと思います。で
        すから、吸い殻を一日に少しずつでも拾って歩けば、その
        たびに大きな勇気が得られることになります。

         私は、この吸い殻や空き缶などをただ拾うことだけが目
        的ではなく、日本をゴミ一つない国にしたいと思っていま
        す。これを小さなことだと思いますか?

     学生は即座に「大きいことだと思います」と明快に答えた。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(361) 麗しの島の幸福な日々
    もしもタイムマシンで元に戻れるなら、もう一度日本時代に
   戻りたいです。 
b. JOG(398) 日本電産・永守重信の新「日本的経営」
   「雇用創出こそ企業の最大の社会的貢献である」 

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 鍵山秀三郎『掃除道』★★★、PHP研究所、H17 

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「心を磨くトイレ掃除」に寄せられたおたより

                                             はるきさんより
     東京在住の2児の父親です。「心を磨くトイレ掃除」を興味
    深く読ませて頂きました。

     ふつうトイレ掃除というと精神論的な道徳の教材として考え
    ますが、読んでいる内に、これは随分ロジカルな教材ではない
    かと思うようになりました。トイレというのは、「公と私がせ
    めぎ合う究極の場所」なんですね! そこに手を突っ込んで清
    めさせるということは、利己心を捨てさせることであると。あ
    るいは、手で掃除することによって、良い意味で「公を私の物
    とする」、そんな作用が生まれるのではないでしょうか。

                                           筑紫晴彦さんより
     今日の記事、掃除することが「心を磨く」ことであることは、
    わたしも常日頃から痛感しています。

     まさに日常生活において汚い部分とみなされているトイレも
    さることながら、わたしが思うに、身近な環境も自己も共に綺
    麗にすることが、鍵山さんが中国の大学生に仰っているように、
    大は「日本をゴミ一つない」快適な環境の国土にするというこ
    とに通じるのだという気概は、わたしたちひとりひとりが共有
    すべきものです。

     なお、今回の記事で取り上げられた、トイレ掃除により広島
    県の暴走族が更生したという事実は、わたし自身以前、同県東
    部の福山市にて低学力の中学生の教育に携わり、その道徳心や
    向上心の低さに悪戦苦闘にしていた頃を思い起こさせます。

     そしてまた、普段歩く佐世保市の街中の汚さをみるにつけ、
    人間の心は今なお貧しく、世事にかまけて「洗心」の機会を失っ
    ているのだなあ、と感慨を新たにした次第です。

■ 編集長・伊勢雅臣より

    「洗心」とは良い言葉ですね。日本人の古来からの智慧がこもっ
    た言葉でしょう。

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