[トップページ][平成19年一覧][The Globe Now][222.01319 中国:外交][238 ロシア][253.079 アメリカ:現代]
■■ Japan On the Globe(515)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■ The Globe Now: 石油で読み解く覇権争い 北野幸伯著『中国・ロシア同盟が アメリカを滅ぼす日』を読む ■転送歓迎■ H19.09.23 ■ 34,790 Copies ■ 2,633,398 Views■ ■1.アメリカは民主主義のために戦っているのか?■ ブッシュ大統領は二言目には「民主化」「民主主義」と言う が、それが「インチキなみせかけ」であることを、「一瞬にし て証明しましょう」と北野幸伯氏は新著『中国・ロシア同盟 がアメリカを滅ぼす日』で語る。[1,p74] もしアメリカが民主主義のために戦っているなら、「独 裁者」と仲良くしてはいけないことになりますね。 実際、アメリカはアフガンを攻め、イラクを攻め、今は イランを敵視していますから、「そのとおり!」ではあり ます。 まるごと、そうでしょうか? サウジアラビア、アゼルバイジャン、カザフスタン、ト ルクメニスタン。 思いつくままザッとあげましたが、この4国の特徴はな んでしょう? そう、イスラム教の独裁国家であること。・・・ これらの国々はイスラムで独裁なのに、アメリカとそこ そこいい関係を築いているのです。 ■2.アメリカにとって「石油は民主主義よりも大事」■ アメリカと仲良くしているこれら4つのイスラム教独裁国家 には共通点がある、と北野氏は指摘する。[1,p75] そう、石油か天然ガス、あるいは両方がたっぷりある。 そうなのです。これらの国々はイスラム教で独裁ですが、 石油・ガスがたっぷりあり、アメリカに反抗していない。 だから、アメリカは独裁者を保護しているのです。 一言で言えば、アメリカにとって、「石油は民主主義よ りも大事」ということ。 アメリカの石油需要量は増え続ける。2000年の日量約2千万 バレルが、2030年には2580万バレルに達する。世界需要も大幅 に伸びるが、その中でのアメリカの消費シェアは2000年の26 %から2030年でも23%と、世界一の石油消費大国の地位は揺 るがない。 アメリカは石油生産大国でもあり、2000年の国内生産量は 日量1000万バレルと、世界の原油生産の8分の1を占める。し かし、国内の確認埋蔵量は約300億バレルで、11年後には 枯渇してしまう。輸入に頼らざるを得ない。 世界の推定石油埋蔵量も2千億バレルから9千億バレルまで とバラツキがあるが、2040年から2060年までには石油が枯渇す る、というのが、多くの専門家の意見である。 枯渇していく世界の石油供給の中で、いかに自国の生存と繁 栄をかけて、石油を確保するか。国際社会では激しい石油争奪 戦が繰り広げられており、その中でアメリカが本音では「石油 は民主主義よりも大事」と考えるのは、当然なのである。 ■3.「アメリカ政府は躊躇なく武力を行使する」■ その石油をどこから調達するか。埋蔵量で見ると、1位サウ ジアラビア、2635億バレル、2位イラク1125億バレル、以下、 アラブ首長国連合、クウェート、イランと続くが、バーレーン、 オマールなどを含め、中東の9カ国で全世界の65%を占める。 当然、中東石油への依存度は高まっていく。1999年の中東石 油は世界需要の27%をカバーしていたが、2020年には39% となる。 アメリカが中東の重要性を認識したのは、73〜74年のオイル ショックだった。1973年に第4次中東戦争が勃発すると、アラ ブ諸国はイスラエルの肩を持つアメリカへの原油輸出停止と他 諸国への輸出制限を行った。このオイルショックが世界経済に 大打撃を与えた。 1975年、国務長官キッシンジャーは「(産油国の行動が)な んらかの形で先進工業世界の首を絞める事態が起これば、アメ リカ政府は躊躇なく武力を行使する」と断言した。 1979年、イランの親米的な国王がイスラム原理主義勢力に追 放される革命が起こり、世界は第2次オイルショックに直面し た。カーター大統領は「ペルシャ湾の支配権を握ろうとする外 部勢力の試みは、いかなるものであれ、アメリカ合衆国の死活 的国益に対する攻撃と見なされ、必要ならば武力行使を含むあ らゆる手段によって排除される」と警告した。 1980〜88年のイラン・イラク戦争では、アメリカはサダム・ フセインを支援したが、そのフセインがクウェートに侵攻する と、アメリカを中心とする多国籍軍が湾岸戦争に踏み切った。 敗戦後、フセインは国連の許可を得て、石油輸出を再開した が、相手はロシア、中国、フランスだった。国連常任理事国に 石油利権を与えて、アメリカの攻撃をかわそうとしたのである。 しかし、アメリカは3国の抵抗を押し切って、第2次湾岸戦争 を始め、この利権を取り戻した。 こうして見ると、アメリカは中東石油の利権を脅かす存在に は、武力行使をためらわない、というのが、石油ショック以来 の確固たる国策となっている事が分かる。 ■4.イランと北朝鮮■ イラクのフセイン政権が打倒されて、いまや中東産油大国で アメリカの支配が及んでいないのは、イランだけとなった。そ のイランの核開発問題に関して、ブッシュ大統領は武力行使も ありうることを示唆している。 しかし、ここでも核問題は表向きの理由のようだ。2005年に ラムズフェルド国防長官(当時)は、「現時点では(核兵器を) 保有していないことは、イラン側の公式声明から極めて明らか だ」と語っている。 北朝鮮はNPT(核拡散防止条約)から脱退して、核実験に 踏み切ったのに対し、イランはNPTとIAEA(国際原子力 機関)の中での平和的な核技術開発を主張している。それなの に、ブッシュ大統領は「北朝鮮を攻撃する意思はない」と明確 な意思表示をする一方、イランに対しては「どんな選択肢も決 して除外しない(武力攻撃もありえる)」と語っている。 これほどあからさまな二重基準もないだろう。核兵器問題は 表向きの理由に過ぎず、本当の狙いはイランの石油にあるので ある。 ■5.中国とイランの接近■ 石油を巡ってアメリカとの覇権争いを演じているのが、中国 である。中国の石油消費量は、1999年の日量430万バレルか ら2030年には1500万バレルまで、3.5倍に増加すると予 測されている。世界の石油需要において、アメリカの23%に 続き、第2位の13%を占める。 自国の経済成長のためにも石油が必要であり、また枯渇して いく石油資源を囲い込むことで、アメリカの覇権に横やりをい れることができる。 そこで、中国は中東産油国に着々と接近している。まずはア メリカに睨まれているイラン。04年10月、イラン西部にある 確認埋蔵量300億バレルの巨大油田ヤダバランを中国のシノ ペックが開発するという覚え書きを交わした。 また06年1月、チャイナ・オイルフィールドがカスピ海の海 底油田採掘工事に関する契約を締結。駐イラン中国大使は、契 約締結後の式典で「中国とイランは世界の主要国から偏見を受 けている被害者で、両国の協力関係を強化すべきだ」と発言し た。「世界の主要国」とは、もちろんアメリカのことである。 中国のイランからの石油輸入量は激増し、サウジからの輸入を 抜いてトップとなった。 ■6.親米産油国にも接近する中国■ 中国の触手は、親米産油国にも伸びている。クウェートの 投資を得て、広東省広州市にクウェート産原油を精製する工場 を建設する計画が進んでいる。 またサウジアラビアのアブドラ国王と、胡錦涛国家主席は相 互訪問し、石油・天然ガス・鉱物分野の協力強化に関する議定 書に調印した。 2004年、胡錦涛主席がカイロを訪問した際に、第一回の「中 国・アラブ国家協力フォーラム」が開催され、翌2005年にはア ラブ22カ国の代表を北京に招いて、第2回を開催した。その 場で2008年までに、初の「中国・アラブ石油協力会議」を開く ことに合意した。 こうした中国の暗躍を、アメリカは苦々しい思いで見ている に違いない。 ■7.カスピ海に手を伸ばすアメリカ■ 石油確保のために、中東の次に重視されているのが、カスピ 海沿岸の地域である。米エネルギー省は2000年6月に、この地 域の埋蔵量は2350億バレルに達する可能性がある、と発表して いる。これは世界の埋蔵量の20%に相当する。 特にカスピ海西岸のアゼルバイジャンは旧ソ連時代から石油 の一大供給地だった。ソ連が崩壊して、1991年にアゼルバイジャ ンが独立すると、アメリカが目をつけた。 しかし問題は、どうやって石油を運び出すかである。すぐ北 はロシア領土であり、そこを通るパイプラインは、ロシアの管 轄下に入ってしまう。1996年、クリントン大統領は、アゼルバ イジャンのゲイダル・アリエフ大統領に電話をした。西の隣国 グルジアを経由し、トルコから地中海に抜けるパイプラインを 建設して、世界市場に供給する、という提案である。アリエフ は即座に同意した。 グルジアも1991年に旧ソ連から独立し、親米路線をとってき た国である。ロシアはパイプライン建設を阻止しようと、グル ジアに圧力をかける。グルジア内で独立を目指して中央政府と 対立する地方政府を支援し、紛争を煽った。またグルジアへの ガスや電力の供給を制限して、経済に大打撃を与えた。 ロシアの圧力でグルジアがぐらついてきた処に、2003年11 月、議会選挙が実施され、与党が勝った。そこにアメリカが支 援するNPO(非営利団体)が、出口調査では野党が勝ってい たと発表。これを口実に親米派の野党勢力が大々的なデモを展 開し、国会議事堂を占拠。ついには、政権を奪取した。 アゼルバイジャンからグルジア経由でトルコに抜けるパイプ ラインは2006年6月から稼働を始め、ロシアに大打撃を与えて いる。 この地域は、ロシアにとって裏庭のようなものである。しか もかつては自分の領土だった。そこの石油をアメリカに奪われ て、プーチン大統領は激怒した。 ■8.反米同盟、上海協力機構■ 2001年6月、上海協力機構が創設された。加盟国は、中国、 ロシア、それに中央アジア4カ国(カザフスタン、ウズベキス タン、キルギス、タジキスタン)。 中国から見れば、ロシアは武器輸入の90%を占める貿易相 手であり、なおかつ石油の供給源でもある。ロシアにとっても、 アメリカはソ連崩壊後、IMF指導を通じた「経済改革」で大 混乱させられた敵であり[a]、その敵の敵・中国は味方である。 そして中央アジアには巨大な石油資源があり、しかもここは 中ロの間に位置する、防衛上きわめて重要な地域である。 中、ロ、中央アジア諸国の結びつきは地政学的に見ても、当 然のシナリオなのである。 しかし、アメリカはこの動きを座視してはいない。キルギス では、05年3月「チューリップ革命」が起きた。グルジアと同 様、アメリカが暗躍して親米勢力に政権を取らせたのである。 ウズベキスタンでも、その2カ月後に革命未遂が起きたが、も うアメリカの手口は明らかになっていた。ウズベキスタン政府 は、親米勢力を武力鎮圧した。 旧ソ連諸国の独裁者たちは、はっきりと理解したのである。 アメリカとつきあっていると、いつ「民主革命」を起こされる かわからない。ロシアや中国は同じ独裁国家で話もしやすい。 05年7月、上海協力機構の準加盟国として、イラン、インド、 パキスタンが承認された。中東で唯一、アメリカに従わない国 イランを準加盟国とする、ということは、中ロがイランをアメ リカから守る、というメッセージであろう。これまで3回戦争 をしているインドとパキスタンが仲良く入っていることは、中 ロ同盟の影響力の強さを示している。 中ロを枢軸として、ユーラシア大陸の内陸部は反米同盟で固 まりつつあるのである。 ■9.石油争奪戦を超越するには■ こうした石油を巡る覇権争いの中で、我が国はどう振る舞う べきか。北野氏は、いくつかのシナリオを提示しているが、そ れは著書を見ていただきたい。 我が国のとるべき短期戦略について、私見を述べれば、米国 の覇権のもとで供給される中東石油に依存している以上、米国 の政策がいかに自国本位のものであれ、それに協力していくこ とは我が国の国益にも適う。 しかし日米同盟は、米軍のアジアからインド洋への展開に不 可欠であり、この点でアメリカは日本を同盟国として尊重せざ るをえない[b]。したがってアメリカの戦略に盲従する属国で はなく、主体的に物言う同盟国となりうるし、またそうなるべ きなのである。 それでも中期的には、世界の石油供給がいずれ枯渇してしま う以上、石油はますます高価になり、その争奪戦はますます激 しくなっていくであろう。その争いから身を守るためにも、早 く代替エネルギーを開発し、石油依存から脱却すべきである。 それが真の平和、安定、繁栄への道である。[C] (文責:伊勢雅臣) ■リンク■ a. JOG(382) 覇権をめぐる列強の野望 北野幸伯『ボロボロになった覇権国家(アメリカ)』を読む。 b. JOG(084) 気がつけば不沈空母 国民の知らないうちに、国内の米軍基地は、米国国際戦略の 拠点となっている。 c. JOG(513) 石油で負けた大東亜戦争 日本は石油供給をストップされて敗北したが、 現在でもその リスクはさらに深刻化している。 ■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け) →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。 1. 北野幸伯『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』★★★ 草思社、H19© 平成19年 [伊勢雅臣]. All rights reserved.