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            『国家の品格』を生み出した家庭教育

                                                   伊勢雅臣
■転送歓迎■ No.1232 ■ H19.01.08 ■ 8,723 部■■■■■■■

     昨年の年間ベストセラー『国家の品格』を書いたお茶の水女
    子大学教授・藤原正彦氏が、自ら受けた家庭教育について語っ
    ているインタビュー記事がある。[1]

    「そもそも先生が受けられた教育はどのようなものだったので
    しょうか」という問いに藤原氏はこう答えている。

         私の父と母は全く意見が違うんですね。父は父の祖父、
        則ち私の曾祖父に育てられました。曾祖父は江戸の末期に
        生まれた武士、といっても足軽ですが、その曽租父から父
        は武士道の教育を受けた。その自分の受けた教育を父は私
        に教えてくれたんですね。例えば、弱いものがいじめられ
        ていたら身を挺してでも助けろ、見て見ぬ振りをしたらそ
        れは卑怯だと。それで私は、弱いものいじめの現場に遭遇
        したとき、身を躍らせていじめている奴と殴り合いの喧嘩
        をしました。そしてそれを家に帰って父に報告すると激賞
        してくれました。

         一方、母は、なに正義ぶってるの。そのうちに暴力少年
        の札付けられて、ろくな内申書もらえなくなるよと。女性
        として地に足のついた現実的な考えですよね。このように、
        私は父からは正義や理想、母からは現実主義という二つの
        価値観によって育てられました。したがって複眼的思考が
        できるようになったことは幸せでした。

         父の故郷の実家の二階には、切腹の間というのがあって、
        不名誉なことをしたらそこで切腹しなければならない。そ
        ういう環境でしたから私は父に徹底して卑怯とか名誉とか
        恥ということについて叩き込まれました。父から卑怯者と
        いわれたら、それはもう生きる価値がないということです
        からね。武士道というのは定義がありませんから、日常的
        に教えてもらった中で身についていくものなんですね。

         父がよく聞かせてくれた話ですが、父の家は上諏訪から
        三キロ半くらい山に入ったところにありましたが、あると
        きその上諏訪で火事があった。当時七歳だった父は山を降
        りてそれを見に行って、焼けぽっくいを拾って帰ってきた
        ら、曾祖父が激怒して、「直ちに返して来い」と。それで
        夜中に三キロ半歩いて返しにいった。そのとき曾祖父が父
        に言ったことは「焼け跡から何かを持ってくるというのは、
        最も恥ずべき行為だ。これを火事場泥棒というんだ。あら
        ゆる泥棒の中でも最も恥ずかしいんだ」と。地震などの震
        災地で略奪行為があるでしょう。人が困り果てているとき
        に、その弱みに付け込むというのは卑怯中の卑怯ですね。

     最後の火事場泥棒の部分からは、阪神大震災のときに暴動一
    つ起こらず、人々が助け合う姿が、海外の人々に感銘を与えた
    事を思い出す[b]。「武士道」の文化的遺伝子は我々の心中に
    まだ息づいているという事だろうか。

     最近のいじめや汚職の問題も、その文化的遺伝子を目覚めさ
    せて、「卑怯とか名誉とか恥」を感ずる心を育てる所から始め
    なければならないのだろう。

    「先生は大学で学生に新渡戸稲造の「武士道」を読ませてらっ
    しやるとか。反響はいかがですか」との質問にはこう答えられ
    ている。

         劇的に変わりますよ、学生の意識が。それまでの教育で、
        日本は侵略をした恥ずかしい国だとばかり教わって、日本
        人としての自信も誇りもない状態で入学してきた学生たち
        ですが、「武士道を読んで随分と変わっていくんですね。
        あるいは、戦没学徒の遺書を読ませたりすると、これまた
        劇的に変わります。それまでは、特攻隊員なんて天皇陛下
        万歳とわけもわからず叫んでいった気の毒な人たちだとあ
        る意味で馬鹿にしていたわけですよ。ところが、彼らは出
        撃前夜まで、ニーチェを読んだり、万葉集を読んだり、母
        親や兄弟姉妹、恋人にすばらしい手紙を遺書として残して
        いる。語彙も実に深く選択されて書かれている。それを現
        代の学生たちは知って馬鹿者は自分たちだったと気付くわ
        けです。圧倒的教養の落差、思いやりの深さの違いに愕然
        とするんです。ですから私は若い世代の教育ということに
        は希望を持ちたいと思っているのです。

    「国家の品格」を備えた「美しい国」を作る道は、わが先人が
    すでに切り開いてくれているのである。

■リンク■
a. JOG(430) 「品格ある国家」への道
    日本人が古来からの情緒を取り戻すのは、人類への責務であ
   る。 
b. JOG(020) 阪神大震災
    国民を守ったのは誰か? 
   
■参考■
1. 藤原正彦『武士道と国語教育 後編』、「日本の息吹」H18.3

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