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■■ Japan On the Globe(533)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

        Common Sense: 裁判員制度 
                        〜 国民不在で「司法の民主化」!?
                    国民が知らないうちに「司法の民主化」を
                   進めようとするその非民主主義的アプローチ。
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■1.某大学のディベート・クラブにて■

    司会 本日のディベートは、裁判員制度の是非をめぐって行い
          ます。賛成派は法学部4年のA君。反対派は経済学部3
          年のB君です。それでは、まずこの制度の目的は何か、
          という点から、A君、お願いします。

    A  裁判員制度の目的は、2つあります。第一に司法におけ
          る民主主義の確立です。プロの裁判官が「お上」として
          司法を行うのではなく、市民が裁判に参加してこそ民主
          主義社会だと言えます。同時に市民も裁判に参加するこ
          とによって、法や司法に関する意識が向上します。

           第二は実社会を経験している一般市民の参加によって、
          社会経験の乏しいプロ裁判官の判断を補い、より公正、
          客観的な裁判を実現しようとするものです。

■2.「司法の民主主義」?■

    司会 それではB君。反論をお願いします。

    B  まず第一の「司法の民主主義」についてですが、裁判に
          直接市民を参加させる事が「司法の民主主義」と言うな
          ら、立法においても一般市民は市議会などに直接出向い
          て、法律作りに参加していないわけですから、「立法の
          民主主義」も無いことになります。

          「立法」という高度に専門的な業務は一般市民ではでき
          ないから、それを専門の議員にさせ、その議員を市民が
          選挙で選ぶというのが、間接民主主義の考え方でしょう。
          同様に「司法」という高度に専門的な業務は一般市民に
          はできないから、専門家の裁判官に任せ、その裁判官を
          市民が選ぶというのが、司法の間接民主主義と言えるの
          ではないでしょうか?

    A  しかし、議会の議員は我々が選挙で選びますが、裁判官
          を選ぶ選挙はありません。司法においては、間接民主主
          義すらないのです。

    B  いえ、現行憲法においては、衆議院選挙の時に最高裁判
          所の裁判官を、国民審査にかけて信任を問います。「司
          法」における間接民主主義は、こういう形で実現してい
          ると言えます。

           地方裁判所や高等裁判所でおかしな裁判が頻発すると
          すれば、それらは最終的に最高裁判所で問われるわけで
          すから、最高裁の裁判官を信任投票にかけることで、司
          法全体の信任を国民に問うことができるわけです。

■3.「直接民主主義でないとダメ」?■

    A  しかし、最高裁判所の裁判官が誰か、どんなことをして
          いるのか、なんて、我々一般市民はみんな知らないじゃ
          ないですか。それに今まで国民審査で否認された裁判官
          は一人もいません。この制度は形骸化しています。

    B  我々が最高裁判所の裁判官に名前を知らない、しかも今
          まで一人も否認された裁判官がいない、というのは、一
          般市民が問題視するようなひどい裁判官がいなかった、
          ということなのかも知れません。

           いずれにせよ、それは現在の間接的な司法民主主義が
          機能しているかどうか、どこをどう改善するか、という
          別の問題であり、そういう問題を論ぜずに、一気に市民
          が裁判に参加するという直接的な形でなければ、「司法
          民主主義」でない、というあなたの主張は論理的に飛躍
          しています。

■4.非民主主義的裁判が実際に起こっているのか?■

    B  そもそも「司法の民主主義」と言いますが、現行の間接
          民主主義的な制度で、市民が直接チェックすべきひどい
          裁判が、実際に起こっているのでしょうか?
    
    A  起こっています。たとえば、一度、死刑が確定した事件
          が再審された結果、無罪判決となる、というようなメチャ
          クチャなケースが何度も起きています。こんな裁判では
          無実の人が死刑になっていた所なのですよ。これも第2
          の理由で述べたように、社会の常識を知らないプロの裁
          判官のみが判決を下すという非民主的な制度のためです。
          一般の市民が健全な社会常識を持って判決に加わってい
          たら、こんな事にはならないでしょう。

    B  それは戦後間もなく、昭和20年代から30年代にかけ
          て起きた4つの冤罪事件、すなわち財田川事件、免田事
          件、松山事件、島田事件の事ですね。もう半世紀も前の
          事件です。

           これらはいずれも、死刑判決後に新しい証拠が出てき
          たので再審が開始され、そしてその証拠に基づいて無罪
          判決が下されたのでした。判決がひっくり返ったのは、
          新しい事実が出てきたからです。一般市民が判決に加わっ
          ていたとしても、同じ結果になった可能性も十分ありま
          す。

           確かに半世紀も前の事件で、当時の事実検証の方法や
          取り調べのやり方にはいろいろ問題があったでしょう。
          それならそれをまず明らかにすべきで、それをせずに市
          民参加ですべて解決する、というような主張は論理が飛
          躍しています。
    
■5.社会常識のない裁判官?■

    A  しかし、現実に今の裁判官は我々一般市民のような社会
          経験を持っていません。たとえば、『裁判員制度』[1]
          の著者・丸田隆・関西学院大学法科大学院教授は、こう
          述べています。

             日本の裁判所の裁判官は、同じような高額所得者の
            両親の子たちで、同じような進学高校で勉強し、同じ
            ような司法試験受験予備校に通い、同じような大学出
            身で、同じ研修所で同じような研修を受けて、ほかの
            職業を体験することもなく、同じような思考様式を持っ
            た仲間と、たいてい一生涯、法廷で暮らす。[1,p41]

           こういう人たちが十分な社会常識に立脚した裁判がで
          きるとは、とうてい期待できないでしょう。

    B  なんだか、19世紀の共産党員がブルジョワ階級を非難
          しているような口調ですねえ。それなら「裁判官」の所
          を「医者」に置き換えて見てください。だから手術に一
          般市民も参加させろと、主張するのですか?

           そもそも一般社会人と言っても、裁判員制度の対象と
          なる強盗殺人事件などを身近に経験している人はまずい
          ないでしょう。裁判官はそのキャリアを通じて、重大な
          事件を何度も経て、そこでの事実認定のやり方、量刑の
          判断などの専門的経験を積み重ねているのです。

■6.「君はこの場合には、被告人を終身刑にするのかね」■

    B   この丸田教授が量刑判断の難しさを自ら告白していま
          すね。教授は米国のマサチューセッツ州で、父親が12
          歳の娘と7歳の息子を性的に虐待した事件を傍聴しまし
          た。被害者の娘は「父はいま悪いことをしたと反省して
          います。どうか、父を刑務所に送らないで」と涙を流し
          て訴えました。裁判官から後で、量刑をどうすべきか、
          と聞かれた著者は、その光景に動揺していたこともあっ
          て、「被害者の意思を尊重して寛大な量刑にすべきでしょ
          う」と答えた。

           すると裁判官は、2年前に同様の事件で被害者の娘が
          「この人は父親の仮面をかぶった悪魔です。どうか彼を
          刑務所に閉じこめて一生出てこられないようにして」と、
          父親につばを吐きかけた例を話して、「君はこの場合に
          は、被告人を終身刑にするのかね」と言った。著者は反
          論できなかった、と書いています。[1,p159]

           このように量刑の判断は「法科大学院教授」でも難し
          い専門的業務なのです。

           確かに、一般社会の常識とは食い違ったおかしな判決
          も散見されます[a]。この点で、一般市民の参加で、そ
          れにブレーキをかけるやり方もありうるでしょう。逆に
          アメリカの陪審員制度でもおかしな判決が時々出ます。
          [b] 

           判決の質を上げるには、現在、どのような誤審がどれ
          ほど発生していて、どういう方法でその問題が防げるの
          か、もっと実証的な検討が必要です。

■6.裁判員の「苦役」■

    B  裁判員制度は、目的だけでなく、その実施方法において
          も大きな問題があると思います。最大の問題は、裁判員
          に選ばれた人たちの負担や心情を考慮することなく、ま
          るで「徴兵制」のように強制的にこの役目を課している
          ことです。

           ひとたび裁判員に選ばれると、平均公判回数5.8回、
          すなわち1〜2週間は、仕事を離れて裁判所通いをしな
          ければなりません。時間だけの問題ではなく、凄惨な殺
          人現場の写真を見せられたり、時には見ず知らずの人を
          死刑台に送る、という経験をしなければなりません。さ
          らには、有罪判決を受けた被告から逆恨みされて、復讐
          されるという危険もあります。

           職業裁判官が高給を受け取っているのも、プロとして
          こういう「苦役」に耐えているという面もあるわけです。
          それを一日1万円程度の報酬で、多くの素人が同じ「苦
          役」に耐えなければなりません。平成18年12月の読
          売新聞による世論調査[3]では、裁判員として裁判に参
          加したくない、という人が75%もいます。それも当然
          でしょう。

           憲法第18条には、「何人も・・・犯罪に因る処罰の
          場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない」
          とありますが、裁判員制度はこの条項に違反している恐
          れがあります。

           さらに第19条には、「思想及び良心の自由は、これ
          を侵してはならない」とありますが、「自分は信条とし
          て人を裁きたくない」「人を死刑台に送りたくない」と
          いう人にも無理矢理、裁判員を命ずる点も、違憲の疑い
          があります。

■7.罰則・罰金に支えられた制度■

    B   裁判員制度を考えた人たちは、当然、こういう事態を
          予想していたのでしょう。国民が裁判員の「苦役」から
          逃れるのを防ぐために、あらかじめ実に様々な罰則や罰
          金を設けているのです。

           裁判員に選ばれた人が正当な理由なく公判期日に「出
          頭」しないと10万円以下の過料が科されます。単に
          「仕事が忙しい」とか「疲れたから休みたい」などとい
          う理由で、「出頭」しないことは許されないのです。

           また裁判員候補者は、裁判所からの質問票に答え、面
          接を受けて選ばれるのですが、その際にも「仕事が忙し
          いから」とか、「人を裁くのはいやだ」「自信がない」
          などという理由で拒否できません。そこで「家族の介護
          で行けない」などと虚偽の記載や陳述をすると、なんと
          50万円以下の罰金となります。

           罰則罰金は裁判が終わった後もついて回ります。裁判
          員であった人が、判決の際の評議の秘密を漏らすと、
          「6カ月以内の懲役又は50万円以下の罰金」です。お
          ちおち友人に裁判員の体験話もできません。

           こんなにガチガチに罰則・罰金で縛って裁判所に市民
          を送り込む制度が「民主的」と言えるのでしょうか。
          
■8.「働きすぎる日本人にとってはいいこと」■

    B  さきほどの丸田教授はこんな事を言っています。

             365日間で一日も休まず豆腐をつくることも立派
            だが、家族の重要なメンバーが裁判員に選ばれたので、
            それを機会に店を3,4日締めるということも、働き
            すぎる日本人にとってはいいことではないだろうか。
            [1,p175]

           大学院教授などという結構な身分で、夏休みをずっと
          遊んでいても給料を貰える人には、町の豆腐屋さんのや
          りくりの苦労などは分からないようですね。

           こういう実社会の常識を欠いた人たちが、「司法の民
          主化」のためには裁判員制度が必要だと机上の空論で主
          張し、それに従わないだろう国民は罰則・罰金で脅して
          まで、法廷に引っ張り出す。

           私は、こういう点に、どこか真の民主主義とはほど遠
          い、いかがわしさを感じるのです。まるで北朝鮮が「民
          主主義」人民共和国と自称しているような。

■9.国民がよく知らないうちに、、、■

    B   さきほどの読売新聞の世論調査では、「裁判員制度の
          仕組みについて、十分な情報が提供されていると思いま
          すか」という問いに、「そうは思わない」「どちらかと
          いえばそうは思わない」人が84%にも上ります。また
          「裁判員制度を知らない」「裁判員制度という名称は知っ
          ている」が70%近くと、大半の人がその具体的内容を
          知らない状態です。

           これほど国民生活に大きな影響を与える「裁判員制度」
          を、国民がよく知らないうちに密室的議論をして、さっ
          さと導入してしまう、というのは民主国家としておかし
          いのではないでしょうか。

           Aさんが冒頭で述べたように、裁判への国民の参加は
          やり方によっては、法や司法に関する国民意識の向上に
          効果がありうると思います。

           そのためにはどんな制度が良いのか、主権者としての
          国民自身が判断できるよう、もっとオープンな議論が国
          民の前に展開される必要があると思います。

    司会 なんだかB君の独壇場になってしまいました。A君、もっ
          としっかり賛成派としての主張ができないと、民主的な
          討論になりませんよ。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(420) 裁判官がおかしい
    反省もしない殺人犯たちに同情し、被害者遺族を無視するお
   かしな裁判官たち。
b. JOG(139) ジュラシック・パーク・アメリカ
    法は牙、裁判は爪。無法の訴訟ジャングル・アメリカの「肉
   食恐竜」弁護士が日本を襲う。

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 丸田隆『裁判員制度』★、平凡社新書、H16
2. 西野喜一『裁判員制度の正体』★★、講談社現代新書、H19
3. Yomiuri Online「裁判員制度」  2006年12月調査(面接方式)

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「裁判員制度 〜 国民不在で『司法の民主化』!?」に
  寄せられたおたより

                                       ベンジャミンさんより

     私は以前から裁判員制度に賛成する立場を取っています。理
    由は「一裁判官の思想・信条・経験だけで判決が決められるの
    は我慢がならん。」と思っているからです。はっきり言って
    「考え方が左翼的な」裁判官の信条で、判決が捻じ曲げられた
    と思える事件(例、山形県新庄市のいじめ圧殺事件など)が起
    こっていても、我々一般市民が何もできないことに非常に憤り
    を感じていました。

     以前、弁護士の女性が「痴漢の裁判を傍聴した時に、被告が
    『魅力的な女性だったのでついつい痴漢をしてしまった。』と
    述べた時に、男性の検察、弁護士、裁判官とも納得したように
    頷いていたのを見て、これじゃあ女性が被害になる事件はなく
    ならないと憤慨して司法を志した」と語っている話を読んだこ
    とがあります。性別、職業、経験などでいろんな立場の人間が
    裁判長に意見を述べることができ、裁判に反映できるような方
    式をまずやってみることが大切だと思います。

                                                Kazさんより

    「裁判員制度」の話を読みながら、数年前の「在日外国人参政
    権」のことを思い出しました。

     どちらも、外国や反日勢力が日本を武力侵略することなく、
    実質支配を行うという観点からは、実に有効手段であるという
    ことが共通しております。

     立法権奪取目的の「参政権」と司法権奪取目的の「裁判員制
    度」。日本を外部から支配するという目的ためには極めて、有
    効な手段であると思います。ということは、我が国(日本)にとっ
    ては、極めて危険なことであるということです。

     相変わらず世間(日本以外の世界)は、物騒でありますので、
    日本の指導者層は適切に処置を誤らないことが肝要です。

     また、その指導者層(政治家)を選挙で選ぶ国民一人ひとりの
    良識が必要です。やはり、古人曰く、「一灯照隅、万灯照国」
    ということでしょう。

■ 編集長・伊勢雅臣より

     Kazさんの言うとおり、国民一人ひとりが、自分たちの問題
    として考えていくことが、健全な政治の実現には不可欠だと思
    います。 

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