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 Common Sense:ナチス、ソ連、中国 〜 全体主義国家の共通性
    
                        「全体主義国家は五輪開催後10年前後
                        で崩壊する」!?
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■1.「全体主義国家は五輪開催後10年前後で崩壊する」■

    「全体主義国家がオリンピックを開催すると、10年前後で崩
    壊する」という「法則」があるという。1936年にベルリン・オ
    リンピックを開催したナチス・ドイツは1945年に第2次大戦の
    敗北により消滅した。1980年にモスクワ・オリンピックを開催
    したソ連は1991年に崩壊している。この「法則」が正しいなら、
    今年2008年に北京オリンピックを開催する中華人民共和国は、
    2018年前後には消滅するだろう、、、。

     これはあながち政治的ジョークとばかり言いきれない。全体
    主義国家とは、国内を警察力や洗脳教育・思想統制で締め付け
    て統治している国のことだが、オリンピックを開けるほどに国
    民が豊かになると、国民は自由を欲して政府の統制への不満が
    高まる。一方、国際社会においては警戒を招き、緊張が強まる。
    こうした内外の圧力が昂じて、全体主義国家が崩壊する。そん
    な法則があっても、おかしくない。

     ウィーン生まれの経済学者フリードリッヒ・フォン・ハイエ
    クは、ナチスと相容れずにロンドンに逃れ、第2次大戦の最中
    に『隷従への道』を出版して、社会主義、国家社会主義(ナチ
    ス)を含めた全体主義への警鐘を鳴らした人物である。

     当時の英国内では社会主義的思潮が根強く、またソ連は同盟
    国であったので、社会主義をナチスと同一視するハイエクの主
    張は強い反発を引き起こした。

     戦後、イギリスは社会主義政権のもとで長期的な経済停滞に
    陥るが、そこからハイエクの唱える自由主義思想の方向に転換
    して、祖国を救い出したのがマーガレット・サッチャーだった。
    そして同じく自由主義を信奉する米国レーガン大統領と力を合
    わせて、ソ連を崩壊させた。

     ハイエクの思想は、全体主義国家の本質を解明したものであ
    り、それは現代における最大の全体主義国家・中国の本質を理
    解する上でも参考になる。今回は渡部昇一氏の『自由をいかに
    守るか ハイエクを読み直す』[1]をテキストとして考えてみ
    たい。

■2.社会主義から生まれた国家社会主義■

     ヒトラーは社会主義者を追い払って、ナチス政権を誕生させ
    た。追い払われた社会主義者たちはイギリスに逃れて、社会主
    義的思潮を広めた。

     こうした経緯から、社会主義とナチスは相対立するものだ、
    と考えられていたが、ハイエクは、ナチスは社会主義が発展し
    たものだ、と言う。ナチスとはドイツ語でNational
    -sozialistische(英語ではNational Socialist、国家
    社会主義)の略称であるから、社会主義から国家社会主義が生
    まれた、と言えば、両者の関係は見えやすい。

     実際にハイエクは、ドイツやイタリアの指導者たちの多くが、
    始めは社会主義者として出発し、最後はファシストやナチスに
    なった、と明かしている。

     これは日本でも同様で、昭和初期に日本では共産主義者を逮
    捕して、説教して転向させた。この中には高級官僚になる者が
    大勢いて、支那事変の頃には企画院などの国家中枢に食い込ん
    でいった。この連中が、支那事変から大東亜戦争中に、次々と
    ナチスに見習った全体主義的立法を推し進めた。[a]

■3.「ザリガニとサワガニ」■
    
     社会主義と国家社会主義との関係を、渡部氏は「ザリガニと
    サワガニ」という比喩で述べている。

     ザリガニとサワガニは同じ甲殻類だが、一緒に飼っていると、
    ザリガニがサワガニを食べてしまう。

         ザリガニは縦に動くから一国社会主義でナチスやファシ
        スト、サワガニは横に動くから国際連携の共産主義、二種
        類の社会主義者が喧嘩すると必ずナチスが勝つ。実際、ド
        イツでもヒトラーが勝ち、イタリアではムッソリーニが勝
        ちました。

         ロシアではまだファシストがいないうちに革命が起こっ
        たので共産主義が生き残ったのですが、ドイツというザリ
        ガニと喧嘩しているうちに負け始め、サワガニでは駄目だ
        ということでザリガニに変身しました。ドイツとの戦争を
        祖国防衛戦争に位置づけたのは、ソ連の共産主義が国家社
        会主義になったということです。[1,p61]

     サワガニとザリガニという比喩は、中国においてもよく当て
    はまる。中国共産党ははじめはソ連の指導のもとで、サワガニ
    として出発したが、そのうちに仲違いして、両方ともザリガニ
    に進化して対立するようになった。
    
■4.経済統制は必然的に思想統制に進む■

     国際共産主義という「サワガニ」も、国家社会主義という
    「ザリガニ」も、同じ全体主義という「甲殻類」に属する。全
    体主義の本質を、ハイエクは自由主義と対比して、次のように
    述べている。

     自由主義は、交通ルールを設定して、そのルールに従ってい
    る限りは、どこに行こうと個人の自由だとする。それに対して、
    全体主義では個々の車に「どこに行け」と命令する。

     家庭のような小さな集団なら、家長が家族の一人一人に個別
    に命令してやっていくことができる。村単位でも、村長が指導
    者として村民を指図しながら引っ張っていくことができよう。
    しかし、国家という大きな単位ではどうか。

     戦時とか、とか、経済恐慌などという非常時においては、政
    府が国政と国家経済において、全国民に一つの方向に行くよう
    命じて、危機を乗り切ることが効率的である。

     しかし、ある程度、豊かな国家においては、無数の国民がそ
    れぞれ「遊びに行きたい」とか、「買い物に行きたい」などと
    個人的欲求を持つ。こうした状況で、社会全体を政府があれこ
    れ個別命令してうまく運営していく事は不可能だ、というのが、
    ハイエクの考えである。

     実際に、ソ連にしろ、中国にしろ、計画経済を試みた全体主
    義国家は、みな失敗に終わっている。また同様に戦後のイギリ
    スも労働党政権下で社会主義政策がとられたが、それが長期的
    な英国経済の低迷をもたらした。

     全体主義国家での計画経済はかならず失敗する。その失敗を
    隠して、独裁政権を維持しようとすると、かならず報道統制、
    言論統制などという手段で、国民の目から真実を隠さなければ
    ならなくなる。

     経済統制はかならず思想統制に進む、というのが、ハイエ
    クの主張である。
    
■5.「社会主義的市場経済」!?■

     無理な経済統制を続けて崩壊したのがソ連であったが、計画
    経済を捨てて、中国は「社会主義市場経済」という「独創的」
    な活路を見いだした。果たして自由市場経済と社会主義的統制
    が両立しうるのか?

     ここで、自由主義とは、「交通ルールを設定して、個々の車
    の行き先はそれぞれに自由にさせる」こと、というハイエクの
    比喩に戻って考えてみよう。

     ここでの交通ルールとは万人に共通に適用されるべきもので
    あり、独裁者が恣意的に適用して良いものではない。「速度制
    限60キロ」と言うルールに対しては、一般国民も共産党員も
    等しく従う、というのが大前提である。

     しかし、独裁体制において、スピード違反を取り締まるべき
    警察も、また違反者を処罰する裁判所も、党幹部が統制してい
    るとしたら、どうなるか。

     党幹部は速度制限など気にせずに、好きなだけスピードを出
    すことができる。一方、一般国民は速度制限を守らなければ、
    逮捕され処罰される。そこには公正な競争はあり得ない。

     党幹部が経営する企業が、好きなだけ銀行から融資を得て、
    不良債権の山を築く。最低賃金など無視して労働者を酷使する。
    環境規制など無視して公害を撒き散らす。これは強者のみが自
    由に振る舞える弱肉強食のジャングル社会である。

     自由市場経済とは、自由競争の前提として公正な法の支配を
    基盤とするものであり、独裁政権下で強者が何でもやり放題の
    ジャングル経済とは本質的に異なるものである。
    
■6.「絶対的権力は絶対的に腐敗する」■

     そんな腐敗は一部の現象であって、独裁政権でも公正な法の
    支配・適用が行われて、自由市場経済が成り立つ、と考える人
    もいるだろう。

     これに対する反論として、「絶対的権力は絶対的に腐敗する」
    という19世紀英国の自由主義思想家アクトン卿の言葉がある。
    ソ連や中国の共産党幹部の「労働貴族」ぶりを見てみれば、こ
    の法則の正しさは歴史的に実証されていると言える。

     全体主義社会が必然的に腐敗するのは、政府が国家目的を決
    め、「目的は手段を正当化する」という論理から、好き勝手が
    できるからである。「人民を幸福にする」という目的のために
    は、「金持ちから財産を奪ったり、対抗勢力を武力で打倒する」
    という手段も正当化される。

     自由主義社会における法律や道徳の基盤は、どのような高尚
    な目的のためでも、「やってはいけない事はやってはいけない」
    と手段の善悪を問う所にある。貧乏人に小判を配ろうと金持ち
    の家に泥棒に入るネズミ小僧は、法治社会では犯罪者である。

    「目的は手段を正当化する」という考え方は、個人の倫理観、
    道徳感情を麻痺させる。その結果、ナチスがユダヤ人を抹殺し
    ようとしたり、ソ連で収容所列島が作られたり、中国で知識階
    級を追放したり、という人権無視の暴走政策が取られるように
    なる。

     その一方で、国民一人一人が持つ宗教心や道徳心は政府の批
    判につながりかねないので、徹底的に弾圧する。ソ連ではキリ
    スト教が、中国では儒教が弾圧された。

    「何が正しいか」を決めるのは政府であって、各個人はそれに
    従うだけである。逆に言えば、政府がすることはすべて正しい
    ことになる。だから全体主義国家は必然的に腐敗する。

■7.国民の不満を封じるためのメディア・コントロール■

     こうした腐敗により、平等を目指していたはずの全体主義国
    家では、かえって貧富の差が激しくなる。ソ連においても、
    「上位人口の11〜12%が、国民全体の所得の約50%を得
    ている」という推定があった。これは当時の米国の上位10%
    が国民所得の約35%を得ていた状況よりもひどい。

     中国における貧富格差も同様にすさまじい。1998年の時点で
    上位10%の人口が総収入の38.4%を占めていた(何清漣
    『中国現代化の落とし穴』草思社)という。

     10億円クラスの超高級住宅に住み、1億円以上もする超高
    級車を乗り回す大富豪がいるかと思うと、年収百ドル以下の農
    民が9千万人もいる[b]。

     我々は皆が貧乏であれば我慢できるが、自分が貧しいのに豊
    かな人がいると、妬みの情を抱く。まして共産党幹部が特権を
    使って金持ちになったのであれば、なおさらである。

    「政府への不満を誘発しかねないことは、すべて、国民の目か
    ら遠ざけられるだろう」とハイエクは言ったが、これを渡部昇
    一氏は次のように解説している。

         全体主義というのは、思想やイデオロギーの闘争だけで
        なく、事実そのものをねじ曲げなければならない体制だと
        いうことです。

         したがって、知識を伝える学校教育、新聞や映画などの
        メディアは、人々が統制する側を信頼するように仕向ける
        ためにだけ使われるようになり、疑いや躊躇を生む可能性
        のある情報は発表されないようにコントロールされるとハ
        イエクはいいます。[1,p246]。

     中国が最新の情報技術を用いた史上最大級のメディア・コン
    トロール体制を敷いていることは、[c,d]で紹介した。
    
■8.史上最大・最強の全体主義国家■

     学校教育やマスコミ報道を通じて、全体主義政府は「国有思
    想」を国民に吹き込む。それは理想追求、あるいは敵への憎し
    み、という熱烈な感情を国民に植え付け、それによって国民の
    不満をそらしながら、特定の方向に動員するのである。

     理想追求としては、ナチスの「アーリア人種による世界支配」、
    ソ連の「国際共産化」、中国の「大中華民族の再興」がある。

     敵への憎しみを煽るという面では、ナチスのユダヤ人排斥、
    ソ連の西側資本主義との対決、そして昨今の中国では「反日」
    を利用している。
    
     こうして全体主義国家では、善悪も真実も理想も、そして憎
    しみさえもが政府のコントロールされる。国民はそれに盲目的
    に従うロボットになるしかない。まさに「隷従への道」である。

     自由主義国家においては、国民一人一人が何を善悪と考える
    かという「良心の自由」、何が真実かを追究する「学問の自由」
    「報道の自由」を持ち、自分の頭で考え、法の枠内で自分の良
    心と欲求に従って行動する。

     そういう生き方を理想とするのが自由主義であり、国民をロ
    ボットとして隷従させる全体主義とは、この点で本質的に対立
    する。

     現代の中国は、ナチスやソ連に比べても、人口規模、軍事力、
    経済力、政治外交力、メディア・コントロール技術の各面にお
    いてはるかに強力である、と言える。

     この史上最大・最強の全体主義政府が、国内の農民階級を抑
    圧し、チベットやウィグルなどの異民族を武力支配し、そして
    台湾をミサイルで脅かしている。そして、そのような国がわが
    国に隣接しているのである。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(263) 尾崎秀實 〜 日中和平を妨げたソ連の魔手
    日本と蒋介石政権が日中戦争で共倒れになれば、ソ・中・日
   の「赤い東亜共同体」が実現する! 
b. JOG(505) 断裂する中国社会
    1億円の超高級車を乗り回す「新富人」と年収100ドル以
   下の貧農9千万人と。 
c. JOG(438) 情報鎖国で戦う記者たち
   〜 中国のメディア・コントロール(上)
    全世界で不当に監禁・投獄されている記者のおよそ三分の一
   は中国政府によるもの。
d. JOG(439)  「天網恢々、疎にして漏らさず」 
   〜 中国のメディア・コントロール(下)
    中国政府は世界で最大かつ最先端の ネット統制システムを構
   築した。 

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 渡部昇一『自由をいかに守るか−ハイエクを読み直す』★★★、
   PHP新書、H19

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「ナチス、ソ連、中国 〜 全体主義国家の共通性」
  に寄せられたおたより

                                             Yutakaさんより
     所謂社会主義を標榜している国々では例外なく、共産党など
    の政権党が権力を独占しています。民主主義国家では常識の三
    権の分立は実体として存在せず、国民の諸権利も国家権力に対
    立しない場合に限りある程度許されていると云うのが現状です。

     なぜ本来国民を各種の搾取と圧政から解放することを目的と
    したはずの社会主義国が例外なく一党独裁の強権国家になって
    しまうのでしょうか?

     旧ソ連や中国など社会主義体制になった国がたまたま後進国
    であったためにこのような結果になったのであって、社会主義
    の理想自体は正しいと未だに主張する人も少なくありません。

     確かに理念としての社会主義には傾聴するべき点があります。
    しかしながら、社会主義が完全な制度であり、従ってその主義
    を推し進める主体である共産党などの政党は誤りを犯さないと
    云う政権党の無謬性を主張するところに全ての原因があるよう
    に思われます。

     戦中の非国民と云う言葉が一切の反論を圧殺したように、ま
    た最近の環境問題に見れらるように、環境を守るためには何で
    も許されると云う発想が環境テロを生んだように絶対的に正し
    いと信じると人間はとんでもない愚行に走ります。

     民主主義は多くの欠点を抱えており、完全な制度ではありま
    せん。しかし制度そのものに対する批判を許すと云う点で人間
    が考え得る最も優れた制度ではないでしょうか?

     中国がオリンピック後にどうなるかは世界が重大な関心を持っ
    て見守っています。順調に経済発展を続けて世界のスーパーパ
    ワーの仲間入りをするのか、それともバブルがはじけて大混乱
    に陥るのか。いずれの結果となっても隣国である日本としては
    重大な影響を受けます。政治に携わる人々には是非真剣に考え
    てほしい問題です。

■ 編集長・伊勢雅臣より

     統治者が自分の犯した間違いを見つめる所から、より良い政
    治が志向できるのですね。

 

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