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■■ Japan On the Globe(554)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

         The Globe Now: 米中石油冷戦と日本の国策
    
                      石油をがぶ飲みする中国が、アメリカの
                     石油覇権に挑戦している
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■1.石油をめぐる国益のぶつかり合いが激しくなる■

     ガソリン価格が高騰している。多くのガソリン・スタンドで
    は1リットル170円台を突破し、7月には史上初の180円
    台が見込まれている。

     国際的な原油価格の高騰と円安のダブルパンチによるものだ
    が、前者は中国・インドなど新興国の需要増と、石油増産余力
    の少ないこと、そしてこの需給ギャップを見込んだ投機資金流
    入が原因である。投機資金の流れは市場心理や規制などで変わ
    る可能性があるが、実態としての需給ギャップは構造的・長期
    的な問題である。

     原油高騰は、家電製品・包装容器等に多用されるプラスチッ
    ク類、衣類に用いられる化学繊維など広範囲の石油化学製品の
    価格高騰を招く。同時にガソリン価格の高騰は、輸送費・交通
    費の上昇に直結し、広範囲に物価を押し上げる。

     石油は各国経済の土台をなすだけに、石油をめぐる各国の国
    益のぶつかり合いは激しさを増すだろう。その象徴が、世界の
    石油支配を覇権の切り札にしてきたアメリカと、石油をがぶ飲
    みして経済発展を続けてきた中国の激突である。

■2.加速する石油消費量増加■

     米国エネルギー省の2005年2月3日付け発表によれば、世界
    の石油消費量は現在の一日8200万バレルから、2025年には1億
    2500万バレルへと、50%以上増える。

     多くの地質学者は、現在の技術では1日の石油産出量は1億
    バレルがせいぜいであり、1億2500万バレルを掘り出すには、
    新しい技術と膨大な資金が必要だと考えている。

     もちろん今後20年の間には、石油採掘技術も進むだろう。
    問題は、需要増大のスピードに供給拡大のスピードが追いつく
    かどうかである。

     石油消費量の増加ぶりは近年加速している。1977年に一日
    6千万バレルだった石油消費量が、7千万バレルに到達したの
    は1995年で18年かかっている。それが8千万バレルになった
    のは2003年で、8年しかかかっていない。さらに9千万バレル
    に達するには、4,5年しかかからない、と専門家は見ている。
    [1,p22]

     この加速する石油消費量の増加は、主にアメリカと中国によ
    るものである。

■3.石油をがぶ飲みする「世界の工場」■
    
     中国の石油消費は2004年時点で、日量670万バレル(世界シェ
    ア8.3%)と、米国に次ぐ世界第2位である。前年からの増
    加は約90万バレルと年率15%もの伸びで、同年の世界の消
    費量増加の36%を占めている。アメリカの増加量シェアは、
    20%で、二カ国で世界の増加量の6割近くを占めていること
    になる。[2]

     問題なのは、中国のエネルギー効率がきわめて悪いことだ。
    GDP(国内総生産)100万ドルを産出するのに、中国は
    1600バレルを必要としているが、これは米国の約2倍、日
    本の約4倍もの消費量である。しかもこのエネルギー効率は近
    年、それほど改善されていない。

     日本のエネルギー効率の高さは、石油ショック以来、現場の
    きめ細かな改善活動や省エネ設備の導入などで、営々と築き上
    げてきたもので、一朝一夕に中国がコピーできるものではない。

     中国はその人件費の安さから「世界の工場」として製造業を
    急速に発展させてきたが、それはエネルギーをがぶ飲みする、
    極めて効率の悪い「工場」なのである。エネルギー・コストが
    大幅上昇するにつれて、人件費の安さは相殺され、中国製造業
    の国際競争力は失われていくだろう。

     それでも中国は今後も石油に頼らざるを得ない。中国のエネ
    ルギー源の三分の2は石炭だが、煤煙を取り除く技術・設備の
    遅れから大気汚染は深刻な状況となっており、これ以上石炭に
    は頼れない。

     また安くて公害の少ない天然ガスは、ガス化装置、輸送パイ
    プライン、貯蔵施設などの整備がほとんどできておらず、天然
    ガスへの大規模な転換には、膨大な投資と時間がかかる。

     結局、中国は経済発展を続けるためには、高い石油のがぶ飲
    みを続けなければならないのである。
    
■4.中東への侵出■

     その中国は石油を求めて、世界各地でアメリカとの対決を始
    めている。イラン、クウェート、サウジアラビアへの接近につ
    いては [a]で述べたが、ここで少し補足しておこう。

     中国はイランから大量の石油を輸入している。その見返りに、
    イランに原子力発電を中心とした核技術の輸出をしている。核
    兵器やミサイルの技術も売っていると、CIAは疑っている。

     イランの核開発疑惑に対して、2004年に国連の安全保障理事
    会が現地査察を含めて干渉しようとした時には、中国は常任理
    事国の特権を利用してこれを妨害し、その代償としてイランと
    の大量の石油取引契約を結んでいる。

     中国は同時に世界最大の石油埋蔵量を誇るサウジアラビアに
    触手を伸ばしている。いつのまにかに国立石油企業サウジ・ア
    ラコムの株を20%取得し、共同でサウジアラビア国内で製油
    施設を作ることになったという。さらに天然資源開発のための
    共同事業を開始した。アメリカが同様な提案をした際には、サ
    ウジアラビアは色よい返事をしなかった。

     サウジアラビアは親米国であり、アメリカの聖域だと言われ
    ていたが、いまや中国寄りに傾きつつある。その原因は、中国
    による兵器の供給であると言われている。

     イランはイスラム原理主義者たちによる独裁体制であり、サ
    ウジアラビアも王家による独裁下にある。両国が、自由民主主
    義国家のアメリカよりも、共産党独裁国家の中国に親しみを感
    じるのは、体質的にごく自然なことなのである。

     アメリカの引き起こしたイラク戦争は失敗だったと言われて
    いるが、中東の石油産出国でアメリカの覇権下にあるのは、イ
    ラクとクウェートだけである。フセイン体制がまだ続いていた
    ら、中東全域が中国よりの独裁体制になっていたはずだ。
    
■5.「アメリカの裏庭」中南米へも■

     南米は「アメリカの裏庭」と言われてきた。アメリカがベネ
    ズエラから輸入する原油は、日量120万バレル、石油輸入総
    額の12.4%で、カナダ、サウジアラビアに次いで第3位と
    なっている。

     しかし、ベネズエラは世界最大の麻薬密輸国であり、麻薬マ
    フィアが政治も経済も取り仕切っている。アメリカの情報機関
    は、チャベス大統領自身も麻薬組織に関係していると考えてい
    る。アメリカは麻薬コネクションを野放しにしているチャベス
    大統領を許せないと考えている。

     ベネズエラ国内では、反大統領派が勢力を広げて内戦状態が
    長く続いているが、アメリカは反体制派を助け、軍事力で介入
    する姿勢をとり続けてきた。

     こうしたアメリカとベネズエラとの確執を見て、中国はすか
    さず間に入ってきた。2005年、中国の石油会社がベネズエラ国
    内で油田を開発し、製油施設を建設するという契約をチャベス
    大統領と結んだ。そこから一日12万バレルを中国に輸出する
    というのである。

     しかし中国のタンカーは大きすぎてパナマ運河を通れない。
    そこでコロンビアの太平洋側の港まで、石油パイプを敷設する
    契約をコロンビア政府と結んだ。

     同時に、中国はもともと共産主義者であるカストロ政権と契
    約し、キューバでの製油業に乗り出すことになった。また腐敗
    したエクアドル政府とも契約して、石油採掘を行うこととした。
    さらに民主主義勢力を弾圧しているペルー政府とも覚書を締結
    し、石油・天然ガス建設についての技術援助と資金提供を申し
    出ている。

     こうして見ると、中国は中南米の腐敗した政府を支援するこ
    とによって、石油を手に入れようとしているのである。
    
■6.スーダン独裁政府の陰のパトロン■

     中国が独裁国家に接近して石油を得ようとする動きは、アフ
    リカでも見られる。

     中国が輸入する石油の7%がスーダンから来ている。中国は
    積極的にスーダンでの油田開発に協力し、パイプライン建設に
    多大な資本投下を行っている。紅海に至る1400キロのパイ
    プライン建設では、この工事に投資しただけでなく、労働者を
    装った兵士を多数投入している。

     スーダンではこの20年間、内戦が続いており、大量虐殺も
    起こしている。そのスーダン政府に中国は武器を売り、それと
    引き換えに石油を輸入しているのである。

     2004年9月、国連の安全保障理事会はスーダン政府が凶悪な
    軍事勢力を支援することをやめない場合には経済制裁を行うと
    決議した。アメリカの議会関係者の情報によれば、中国はスー
    ダン政府などに対して、「(常任理事国としての)拒否権を使っ
    て、(経済制裁の)国連決議をつぶしてしまうから」と述べて、
    見返りに石油の提供を求めている、という。

     スーダン政府の国民虐殺は世界中から非難されているが、そ
    の陰のパトロンになっているのが中国なのである。欧米諸国を
    中心に、北京オリンピック・ボイコットの声が上がっているの
    は、このためである。
   
■7.中央アジアを「中国のエネルギー供給基地」とする戦略■

     中国は中央アジアでも暗躍している。カザフスタンとウズベ
    キスタンは石油資源、天然ガスに恵まれた地帯である。両国に
    はアフガニスタンなどから潜入したイスラム過激派アルカイダ
    が政府転覆を謀っていると言われ、そのため従来、両国はアメ
    リカのテロリストとの戦いに協力し、同時に石油や天然ガスを
    輸出する約束をしていたのだが、そこに中国が介入したのであ
    る。

     中国はカザフスタンとは戦略同盟協定を結び、中国への石油
    と天然ガスのパイプラインを作る構想を推し進めている。

     ウズベキスタンは、アフガニスタンへの攻撃用にアメリカの
    空軍基地を作らせることに同意していた。だが、2005年5月、
    ウズベキスタンのイスラム・カリモフ大統領が、民主選挙を求
    めて立ち上がった民衆数百人を虐殺した事から、アメリカとの
    関係がこじれていく。これはアメリカ側が親米的な民主政府を
    作ろうとする工作であった、と言われている。[a]

     アメリカはじめ世界各国はカリモフ大統領を非難し、国際的
    な調査を要求した。ところが中国は直ちにカリモフ大統領を支
    持し、民衆虐殺をテロリストに対する戦いとして、国際的な調
    査に反対する声明を発表した。その数日後、ウズベキスタンか
    ら中国に約6億ドルのエネルギーを提供するという条約が結ば
    れたのである。

     中央アジアからアメリカを追い出し、「中国へのエネルギー
    供給基地」とする戦略は着々と成功しつつある。
    
■8.米中石油冷戦が始まっている■

     こうして見ると、中国が中東、南米、アフリカ、中央アジア
    などの独裁政権に接近し、武器を与え、国連常任理事国として
    の庇護を提供して、見返りに石油を購入するという明確な戦略
    が見て取れる。それはアメリカの世界戦略へのあからさまな挑
    戦なのである。

     2005年7月21日、22日にわたって、アメリカの上下両院
    合同で、中国のエネルギー政策に関する公聴会が開かれた。中
    国のCNOOC(中国海洋石油公司)によるアメリカの石油企
    業ウノカル買収の動きが表面化し、米議会は、これを中国によ
    るアメリカのエネルギー戦略への挑戦と激怒して、この日の公
    聴会となったのである。

     この公聴会では、エネルギー専門家が上述のような事実を報
    告した。それらの意見をまとめると次のような結論となる。
    [1,p17]

        ・中国は、世界各地で石油を確保する努力を続けている。
          石油をめぐって世界のあらゆる地点でアメリカと対決を
          始めている。

        ・中国が海軍力をはじめ、核戦力を強化しているのは、将
          来起きている石油危機に備えてアメリカと対決しても石
          油を確保したいと考えているからである。

     石油を巡る米中の冷戦がすでに始まっているのである。

■9.「危機」を「好機」に変える国策■

     迫り来るエネルギー危機、および、それを前にした米中石油
    冷戦にわが国はいかに対応すべきか。日米同盟を基軸として、
    中国の膨張政策に歯止めをかける事が、当面の戦略であろう。

     さらに「危機」を「好機」に変え、国家の繁栄と独立、そし
    て世界の平和と安定を守るための国策がある。代替エネルギー
    の開発である。

     太陽光発電、燃料電池、電気自動車など、石油に依存しない
    エネルギー開発で日本は世界をリードしている。また日本近海
    に大量に存在する「燃える氷」メタン・ハイドレートは、現在
    の天然ガス消費量の百年分はあるとされる[b]。さらに海藻類
    や糞尿・下水道汚泥、食品廃棄物などをバイオガスとして再利
    用するリサイクル技術の開発も進んでいる[c]。

     こうした代替エネルギー利用のネックは石油対比のコスト高
    にあるが、技術進歩によるコスト低下と原油価格の急騰によっ
    て、急速に実用的な水準に近づいていくだろう。

     わが国が高価な石油に依存せず、地球環境にも優しい次世代
    エネルギー技術を確立できた時、効率の悪い高価な石油エネル
    ギーを使い、公害をまき散らしながら生産と消費を続けざるを
    得ない国々は、一挙に国際競争力を失ってしまう。

     米国の石油覇権、および中国が世界的に展開している原油開
    発投資は意味を失い、米中石油冷戦も雲散霧消してしまうだろ
    う。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(515) 石油で読み解く覇権争い
    北野幸伯著『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』を読む 
b. Wing(1337) 先端技術でエネルギー安全保障
c. Wing(1124) 世界を江戸化するバイオマス活用技術

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 日高義樹『米中石油戦争がはじまった』★★★、PHP研究所、
   H18
2. UFJ総合研究所
「中国ビジネスレポート No.31 世界第2位の石油消費国・中国の石油事情」

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「米中石油冷戦と日本の国策」に寄せられたおたより

                                                 大場さんより
     国際派日本人養成講座を毎回感動しながら拝読しております。

     具体例を示しつつ 日本人の素晴らしさを教えて戴き心より
    感謝しています。 日本人に生まれたことに誇りを持つができ
    ました。

     さて 6月29日付 「米中石油冷戦と日本の国策」を拝読い
    たしました。この中で サウジアラムコに関する記載が有りま
    すが、事実と異なると思いますので指摘したいと存じます。 
    小生は 現在も 商社に勤めアラムコ向けプラント商談を追いか
    けております事から アラムコ関連情報にも多く接しておりま
    す。下名の認識は以下の通りです。

     アラムコは国営石油の立場から 一切株式は発行しておらず、
    従而20%の株を取得することもありません。 又 アラムコでは 
    現在 サウジ国内で3件の製油所の新設案件が有りますが、 い
    ずれも  ConocoPhillips (米)、Total (仏)、 Dow
    Chemical (米) との Joint Venture で 中国資本は入っており
    ません (既設の製油所に中国資本が入っているということは
    ありません)。唯一 中国の SINOPEC 社とアラムコ社が 80% /
    20% の出資でサウジ国内で一部のガス田開発を実施しておる程
    度です(余り成功していない模様)。勿論、これも 将来のサウ
    ジにおける権益狙いであることは間違いないと思います。

■ 編集長・伊勢雅臣より

     ご指摘ありがとうございました。前号の「国立石油企業サウ
    ジ・アラコムの株を20%取得し、共同でサウジアラビア国内
    で製油施設を作ることになった」との文面は、上記の「中国の 
    SINOPEC 社とアラムコ社の共同出資」の間違いのようですね。
 

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