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■■ Japan On the Globe(558)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

              国柄探訪: 老舗企業の技術革新
    
                        情報技術やバイオテクノロジー分野で
                       活躍する日本の元気な老舗企業。
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■1.「老舗企業大国」日本■

     我が国は、世界で群を抜く「老舗企業大国」である。創業百
    年を超える老舗企業が、個人商店や小企業を含めると、10万
    社以上あると推定されている。その中には飛鳥時代、西暦578
    年に設立された創業1400年の建築会社「金剛組」だとか、創業
    1300年になろうかという北陸の旅館、1200年以上の京都の和菓
    子屋など、千年以上の老舗企業も少なくない。

     ヨーロッパには200年以上の会社のみ入会を許される「エノ
    キアン協会」があるが、最古のメンバーは1369年に設立された
    イタリアの金細工メーカーである。しかし、これよりも古い会
    社や店が、我が国には百社近くもある。

     お隣の韓国には俗に「三代続く店はない」と言われており、
    せいぜい創業80年ほどの会社がいくつかあるに過ぎない。中
    国でも「世界最大の漢方薬メーカー」北京同仁堂が創業340
    年ほど、あとは中国茶、書道用具など百年以上の老舗が何軒か
    ある程度である。

     さらに興味深いのは、百年以上の老舗企業10万社のうち、
    4万5千社ほどが製造業であり、その中には伝統的な工芸品分
    野ばかりでなく、携帯電話やコンピュータなどの情報技術分野
    や、バイオテクノロジーなど先端技術分野で活躍している企業
    も少なくないことだ。

■2.髪の毛の1/8の細さの金の極細線■

     そんな企業の一つが東京の田中貴金属工業である。明治18
    (1885)年に東京の日本橋で両替商「田中商店」として出発した。
    明治22(1889)年には、白金の工業製品としての国産化に成功。
    以来、貴金属の売買と加工を二本柱としてやってきた。

     現在の代表製品の一つが、金の極細線。最も細いもので直径
    0.01ミリ、髪の毛の1/8ほどの細さのものが作られてい
    る。たとえば携帯電話でバイブレーションするものは、大きさ
    4ミリほどの超小型モーターが使われているが、そのブラシに
    極細線が使われている。そのほか、ウォークマンや車のミラー
    を動かす超小型モーターにも、適用されている。

     金は錆びないし、熱や薬品にも強く、導電性も高い。さらに
    薄く長く伸ばせる。1グラムの純金を、太さ0.05ミリの線
    にすると、3千メートルにもなる。そうした貴金属の特長を、
    長年磨いてきた加工技術で引き出しているのである。今や世界
    中で使われる金の極細線の大半は、田中貴金属が供給している。

     同社ではさらに、プラチナでガン細胞の成長を抑えるとか、
    銀にカドミウムを加えて接点としての性能をあげる、など、貴
    金属の新しい特性を引き出す革新的な研究開発を続けている。

     同社の技術開発部門長の本郷茂人(まさひと)氏はこう語る。

         貴金属のほうから、そういう特性を世に出してくれ、出
        してくれって言っているようにな気がするんですよ。われ
        われが特性を探し出すんじゃなくてね。世の中に出してく
        れ、出してくれと言っているものを出してやるように努力
        するのが、われわれの仕事じゃないかと思うんです。
        [1,p46]

■3.金箔は人の心を読む■
    
     携帯電話の中で、折り曲げ可能なフレキシブル・プリント基
    板配線用の銅箔では、日本国内のライバル1社と合わせて世界
    シェアの9割を占めるのが、京都の「福田金属箔粉工業」であ
    る。

     設立は元禄13(1700)年、赤穂浪士の討ち入りの2年前に、
    京都・室町で金銀箔粉の商いを始めた時に遡る。創業300年
    以上となる老舗である。以来、錫箔、アルミ箔、銅粉、アルミ
    粉など、箔粉技術一筋にやってきた。

     金箔の技術は仏教とともに渡来した。寺院や仏像、仏具の装
    飾に、金箔が広く使われていた。当時の製法は金の粒を狸の毛
    皮に挟んで、槌(つち)で叩いて伸ばしていく。極細線と同様、
    髪の毛の1/8ほどの薄さに引き延ばす。比率で言えば、10
    円玉の大きさの金を畳2畳ほどに広げる勘定になる。

     伝統的な職人の間では、次のように言われている。

         金箔は人の心を読む。機嫌の悪いときには言うことを聞
        かない。時には嘲笑(あざわら)ったりする。金箔は生き
        ているから。

     福田金属も、こういう職人気質を受け継いで、世界最高品質
    の銅箔を作り続けているのだろう。
    
■4.「お米の持つ力を近代の日本人は引き出してこなかった」■

     香川県の勇心酒造株式会社は、安政元(1854)年創業で、すで
    に150年以上の歴史を持つ。現在の当主・徳山孝氏は5代目
    である。

     徳山氏が30歳の若さで、勇心酒造を継いだ時、清酒業界は
    すでに斜陽で、老舗の造り酒屋が次々と倒れていった。東大大
    学院で酵母を研究した徳山氏はコメと醸造・発酵技術を結びつ
    けて付加価値の高い商品を作ろうと考えた。

         お米の場合、清酒や味噌、醤油、酢、みりん、あるいは
        焼酎、甘酒といった非常に優れた醸造・発酵・抽出の技術
        があるんですけれども、明治以降、新しい用途開発がまっ
        たくと言っていいほどなされていなかった。つまり、近代
        に入ってから、お米の持つ力を日本人は引き出してこなかっ
        た。・・・

         近代科学が行き詰まっているいまだからこそ、米作りの
        ような農業と醸造・発酵の技術とをもう一度リンクさせ、
        付加価値の高いものを作ろうと、お米の研究に取りかかっ
        たのです。[1,p90]

     先祖伝来の土地を切り売りしながら、毎年1億円以上を研究
    開発に注ぎ込んだ。むかし米が湿布薬に使われていたという古
    文書の記述をヒントに、ようやく昭和63(1988)年にライスパ
    ワーエキス入りの入浴剤を開発して売り出したところ、たちま
    ち年間3百万本のヒット商品に成長した。

■5.自然に『生かされている』■

     しかし、ある大手製薬会社が詐欺同然のやり口で徳山氏の開
    発した製法を知り、同様の製品を売り出したため、売上げは激
    減、倒産一歩手前まで行った。そこに通産省が産業基盤整備基
    金を通じて3億6千万円を融資してくれ、また地元の通販社長
    が「おカネ、困っとるんやろ」と1億円をぽんと貸してくれた。

     それを元手に徳山氏は商品開発を続け、平成14(2002)にア
    トピー性皮膚炎に効く『アトピスマイル』を売り出した。それ
    までに使われていたステロイド剤の副作用がまったくないので、
    アトピー性皮膚炎の子どもを持つ母親からは「救世主」並の人
    気を集め、口コミだけで1年で12万本売れた。

     さらに化粧品会社コーセーから、皮膚の水分保持能力を改善
    する『モイスチュア スキンリペア』を売り出すと、年間百万
    本を超す大ヒット商品となった。

     遺伝子組み換えなどで自然界にない生物を作りだす西洋型の
    バイオテクノロジーに対して、日本古来の発酵技術の組み合わ
    せによって、安全な新製品を開発するのが、日本型バイオテク
    ノロジーだと徳山氏は言う。

         西洋のヒューマニズムを『人道主義』と訳してきたのは、
        とんでもない誤訳やと思うんです。ある学者が言うてまし
        たが、あれは『人間中心主義』と訳すべきなんです。つま
        り、何事も人間を中心に『生きていく』という発想。だか
        ら、人間と自然との乖離(かいり)がますます大きくなっ
        てきた。環境問題ひとつ解決できない。こういう人間中心
        主義は、もう行き詰まってきたんやないかと思うわけです。

         一方、東洋には自然に『生かされている』という思想が
        あります。私なんか、多くの微生物に助けてもらってきた
        わけで、まさに『生かされている』と思います。[1,p98]
    
■6.日本古来の木ロウ技術がコピー機に取り入れられた■

    「株式会社セラリカNODA」というと、いかにも現代企業の
    ようだが、創業は天保3(1832)年で、すでに180年近い歴史
    を持つ。福岡で木ロウの製造と販売を営んできた。

     木ロウはウルシ科のハゼの木などの実に含まれる脂肪分を抽
    出して作られ、ロウソクや鬢付け油に使われた。近代に入って
    からは男性整髪料ポマードの原料としても使われてきた。しか
    し、昭和40年代半ばにヘアトニックなどの新しい整髪料が登
    場すると、家業は危機に瀕した。

     ちょうどその頃、先代社長が急逝し、広島大学で情報行動科
    学を学んだ息子の野田泰三氏が、急遽、会社を担うことになっ
    た。

     野田氏が、木ロウの新しい用途はないかと考えていた時に、
    ひらめいたのが、自分が学んだ情報分野の知識から、コピー機
    のトナーに使えないか、というアイデアだった。木ロウは熱に
    溶けやすく、しかもその後すぐに固まる。この特長を生かせば、
    印字しやすく、かつ擦れにくいトナーができるはずだ。

     おりしもコピー機業界はアメリカのゼロックス社の独壇場を
    崩すべく、まったく新しいトナーを作り出そうという気運が高
    まっていた。野田さんは、飛び込みでキャノンやリコーに売り
    込みをかけ、その主張が実験で裏付けられるや、トナーの添加
    剤として次々に採用されていった。

     こうして日本古来の木ロウ技術が、情報産業の最先端に取り
    入れられたのである。
    
■7.「生かす発想」へ■

     ロウは昆虫からも採れる。カイガラムシは樹液を吸ってしま
    う害虫だが、真っ白な「雪ロウ」を分泌する。この雪ロウは光
    沢があり、化学的にもきわめて安定しているため、防湿剤や潤
    滑剤、カラーインクの原料として、有望な可能性を秘めている。

     野田氏は、中国側と共同して、カイガラムシが好むモチの木
    を、内陸部の雲南省と四川省の山間部に50万本植え付けた。
    これをカイガラムシに食べさせ、雪ロウをどんどん分泌させる。
    これを現地の農民が採取し、日本で製品化して販売する。

     中国での環境保全と農民の貧困救済を同時に追求できる。野
    田氏は語る。

         人間は地球の王様みたいになりましたが、昆虫のほうは
        およそ180万種もの多様な生物種として存在している。
        それなのに、人間が「益虫」とみなして利用してきたのは、
        ミツバチとカイコくらいなもので、あとのほとんどは「害
        虫」と邪魔者扱いしてきました。農薬とか殺虫剤でどんど
        ん殺してきたわけですね。こういった人間からの価値付け
        だけで、邪魔者を排除する発想が、開発のために自然を破
        壊する行為にもつながっているんですね。[1,p112]

     いままでの「殺す発想」から「生かす発想」に転換する必要
    がある、と野田氏は説く。
    
■8.老舗企業の共通性■

     以上、日本の老舗企業が現代社会で逞しく生き抜いている例
    をいくつか紹介したが、そこには、ある共通性が見てとれる。

     第一に、それぞれの企業は、箔粉技術や醸造・発酵技術など、
    伝統技術を現代社会の必要とする新しい製品に生かしている、
    という点。時代が進むにつれて、消費者の生活様式も変わり、
    技術も進むので、必要とするものも変わっていく。ロウソクな
    どといった旧来の商品だけにしがみついていたら、これらの企
    業は時代の波を乗り越えられなかっただろう。「伝統は革新の
    連続」という言葉があるが、その革新を続けてきた企業が、老
    舗として今も続いている。

     第二に、革新といっても、自分の本業の技術からは離れてい
    ない点である。神戸市灘区の創業200年の造り酒屋が、カラ
    オケやサラ金経営に乗り出して倒産したという例がある。本業
    を通じて、独自の技術を営々と蓄積してきたところに老舗の強
    みがあるのであって、そこを離れては、新参企業と変わらない。

     第三は、「金箔は生きている」「自然に生かされている」
    「生かす発想」などの言葉に見られるように、大自然の「生き
    とし生けるもの」の中で、その不思議な力を引き出し、それを
    革新的な製品開発につなげている点である。これはわが国の伝
    統的な自然観に基づいた発想であるとともに、西洋的な科学技
    術の「人間中心主義」の弱点・短所を補う、きわめて合理的
    ・総合的なアプローチなのである。

     大学で西洋的科学技術しか学んでこなかった研究者・技術者
    が欧米企業と同様な研究開発アプローチをとったのでは、同じ
    土俵で戦うだけで、独自の強みが出ない。老舗企業にはわが国
    の伝統的自然観が残っており、それが独自の技術革新をもたら
    したのであろう。
    
■9.老舗職人大国・日本■

     アジアの億万長者ベスト100のうち、半分強が華僑を含む
    中国系企業であるという。その中で100年以上続いている企
    業は一社もない。創業者1代か2代で築いた「成り上がり企業」
    ばかりである。

     これに比べると、企業規模では比較にならないほど小さいが、
    百年以上の老舗企業が10万社以上もあるわが国とは、実に対
    照的である。

    『千年、働いてきました』[1]の著者・野村進氏は、「商人の
    アジア」と「職人のアジア」という興味深い概念を提唱してい
    る。「商人」だからこそ、創業者の才覚一つで億万長者になれ
    るような急成長ができるのだろう。しかし、そこには事業を支
    える独自技術がないので、創業者が代替わりしてしまえば、あっ
    という間に没落もする。

     それに対して、「職人」は技術を磨くのに何代もかかり、急
    に富豪になったりはしないが、その技術を生かせば、時代の変
    遷を乗り越えて、事業を営んでいけるのである。

     これらの老舗企業が示している経営の智慧を国家全体で生か
    していけば、わが国は老舗職人大国として末永く幸福にやって
    いくことができるであろう。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(307) 伝統技術が未来を開く 
    数千年に渡って蓄えられてきた日本の伝統技術が、最先端の
   現代技術に生かされ、明日を開きつつある。
b. JOG(330) ハイテクを生み出す産霊(ムスヒ)の力
    多くの日本企業がいまだに守り神を祀っている理由は? 

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 野村進『千年、働いてきました―老舗企業大国ニッポン』★★★、
   角川書店、H18

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「老舗企業の技術革新」に寄せられたおたより

                                              Keikoさんより
                              「イタリアからボンジョルノ!」                             
                                    
     今回のような話を伺うと、ほっとするとともに将来への希望
    が持てます。

     農耕民族で、何年も先のことを考え環境を守ってきたことや、
    資源の少ない島国で、あるものを最大限有効に利用し、そのた
    めの技術を代々磨いてきたこと、野にも山にも、それぞれの神
    々の存在を感じ、自然の畏怖を肌で感じて生きてきた日本人。

     しっかりと大地に根をはやして生きてきたのがわれわれ日本
    人なのですね。

                                               KHさんより
     私は、中小製造業の主として製造面を指導をしております。
    中小製造業では、事業継承も重大な問題であり、息子への経営
    者教育を頼まれたりもします。現在、大変儲かっている企業の
    3代目の教育が9月から始まります。

     日本の製造業はこうあるべきであり、そのためには何をしな
    ければならないかについてのテーマに使わせていただこうと思
    います。

     福田金属箔粉工業も、現役時取引がありましたので懐かしく
    思いました。
 
■ 編集長・伊勢雅臣より

     国家も企業も、永く続けるには、後継者教育が必要ですね。
 

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