■このコーナーは、ページ制作者(ストラングル・成田)の後輩にして、
ヤキのまわったミステリ・ファン、関氏(米国サンノゼ在住)のメールを基に
構成したものです。苦情等は、本人に転送いたします。
色違いは、成田氏のチャチャ入れ。
3/30 恩知らずの秘書へ
メールコーナーを見て、びっくり!社長秘書にサイン入りの「匣の中の失楽」を譲ったのは俺じゃねえか!この、恩知らず!売ったか、麻雀のカタで取られたかは忘れたが、あれは俺!
それを成田さんまで「あひ!そうだっけ」とは。集団呆け老人か。
「不埒王」のことを見て、懐かしさのあまり込み上げる物が(嘔吐ではない)。成田さん引用の内容に書いた俺までゲラゲラ笑ってしまった。完っ璧に忘れてる。すごいね俺(笑)。あの頃は迸るモノがあったよなあ。結婚で新居に越す時に、全部原版を棄てたけど、気が付かなかったなあ。
しかし、皆四拾も間近でこんな家族にも見せられないようなものを、押入れから探し出したり、深夜に一人で悦に入ったり、すごいですね。マーヴ・湊さん、発掘ありがとうございます。作者の関です。 16年も保存ありがとうございます。
読み始めた「細工は流々」、ジョージが益々良い味で嬉しい。遡っての翻訳だけど、こなれて来て訳文も調子が乗っている感じ。創元は例え潰れても、残り二作を必ず訳すように(あと、ジル・マゴーンもな)。
最近、無意味に忙しくて困っています。思えばこちらに来てかれこれ6ヶ月。ここ、サンノゼでは桜も散り、名も知れぬブルーの花が咲き乱れ雨季の終わりを告げております。先日、パロアルトの劇場でヒッチコック全作特集の内、「見知らぬ乗客」「救命艇」を見てきました。二本立てで一人$6!レトロな造りの劇場は何か「ニュー・シネマ・パラダイス」を彷彿とさせ、上映開始前にステージ前にせり上がり式のパイプ・オルガンの演奏あり、締めくくりは「ヒッチコック劇場」のテーマで場内やんやの拍手。開巻時とエンディング、劇中ヒッチコックの特別出演のシーンではまた拍手と、ステージ・マナーの違いを見せ付けられました。大画面で見る往年の名作は殊の外、発色も綺麗で科白なぞ良く判らなくとも充分堪能出来ました。次回は地元サンフランシスコを舞台にした「めまい」を見に行く予定です。
集団呆け老人関係 おっしゃるとおり。記憶にないもんなあ。俺はいいけど、秘書業務には支障が出ているんじゃないすかね。「musitaro君、得意先の社長のアポはとれたかね」「あんただれ」ってな具合。
ヒッチコック関係 おお情景が眼に浮かぶ。そんな場に居合わせてみたいもんだ。
3/29 アマリロで読書
3/22〜24日まで、テキサスのアマリロに行ってまいりました。そう、ここはテリー・ファンクのホーム・タウンにして、ディック・マードックなどを配したプロレスの町だったのです。
初日の二軒目に寄った「KABUKI」という日本食レストランのオーナー(在30年の日本人)は嘗て地元で興行もやったことのある人で、ディック・マードックとも友達だったとか。「良い奴だったよ、頭悪いけど」と4年前に急逝したディックの事を涙ながらに語ってくれました。
テリーは現在この地で牧場を経営しており、地元のCMにも出ていて未だに有名人。翌日会ったベンダーの副社長(名前がチャーリー・ブラウン!)が今度は「俺はテリーの友達」と息巻き、人口十九万人の地方都市は静かに熱くプロレスに包まれた町でした。
「屍島」 霞流一(ハルキ文庫)奇跡鑑定士にて吟遊詩人の天倉真喜郎シリーズ第二弾。前作「赤き死の炎馬」より一年半ぶりの新作!俺が今世界で一番気に入っている名探偵がこの天倉真喜郎とE・フェラーズのジョージ(トビーの相棒)だ。今回も移動の飛行機の中で何度声に出して笑わされたことか。堪りません!今回のテーマが名作「獄門島」をベースにしたゲル・ショッカーも真っ青の動物奇想天外もので、異様な五人のアーティスト達が抱腹絶倒である。木の幹から鹿の首が生えていた、という冒頭の不可能興味のみややネタが弱いものの、メインの三つの事件については相変わらずのトリッキーぶりで、全くあなどれない。俺は第一の「百舌の速贄」は件の「獄門島」釣鐘トリック、第二の片手片足の夏子は考庵先生、第三の絶対アリバイを擁した悠々壮大なトリックは和尚のそれへのオマージュと思うがどうか。特に今回は水無瀬川の雄大なトリックにまいった!いったい、これだけ笑わせて、キチンと本格でサゲる作品が他にあろうか。早く次が読みたい。★★★★
これを読んだ後、アマリロのホテルで鹿の角が生えたウサギ、ジャッカロープの絵葉書を見る。何かの因縁か。合成ではなく、本物のようなのだ。帰りの飛行機の中で「ジョーシキ・クイズ」の第一問が「エドガー・アラン・ポーの『大鴉』の有名な最後の台詞は?」というもの。何と、この「Never
More」の正解率は90%という。アメリカ人、やるじゃないか!目くるめくような旅の終わりに今、エリザベス・フェラーズの「細工は流々」を読んでいます。
ディック・マードックの消息が聞けるとは!テリーはまだ現役で米国インディーズとかでもやっているようですね。
「屍島」は、このレベルで次々と出れば、出色のシリーズとなると思いました。
3/21 クイーンはどうですか?
ようやくクイーンのThe Tragedy of Errorsを入手出来たようで。是非ご堪能頂きたい。
しかし、ババアの顔のアップの表紙は如何ですか?クリスティの「マン島の黄金」ですら翻訳したんだから、早川で翻訳しませんかね。HMM既訳の掲載短編とカップリングしてくれればせめて文庫で出す価値はあると思いますが。
最近、めったやたらと忙しくなり、本も読めません。来週にテキサスのアマリロという所に出張するので、その時に読みます。現在、スタンフォード大学の近くの映画館でヒッチコックの全作上映をやっており、この土日には俺の好きな「救命艇」がかかるので、見に行く予定です。来週火曜日はサンノゼ・アリーナにマライア・キャリーのコンサートに行きます。管理職試験、無事飛び級合格しました。
これで4月から課長職になります。 うーむ、今日は調子が今イチでどうにも駄目あるよ。しかし、何ですね。「ミスコン」?凄いですね。よくまた土日上京参加なぞ、奥さんも寛大ですね。成田さんの最近の活躍振りには驚かされっ放しです。社長秘書も頑張れよ!
クイーンは、まだロバート・エィデイのエッセイを読んだだけ。やはり、洋書は精神的余裕がなくては
。ひひーん。
アマリロといえば、ザ・ファンクスに、スタン・ハンセンじゃないですか。そういえば、この前、取り壊しになった中島スポーツセンターに代わる「北エール」で、生ハンセンを観てきました。関係ないか。
マライア・キャリーはどうでもいいけど、ヒッチコック全作上映というのは、心底うらやましいっす。
しかし、飛び級で課長とは、めでたい。社長秘書も頑張れよ!
3/15 その後の事ども
HMM4月号を見ると、森氏の<ミステリ洋書通販>でやっとこさクイーンのThe
Tragedy of Errorsの日本語でのコメントに触れる事が出来ました。まさに完成していたら「晩年を代表する傑作」になっていたでしょうに。
ここは一つホック当たりが名乗りを挙げると面白いかも。「青の殺人」とは、アレですよね。くー、悔しい。
さて、同4月号から冒頭のコロンボの原点となった、と言う「ロビーにいた男」(リチャード・レヴィンソン&ウイリアム・リンク)のみ拾い読みしました。おお、馴染みのサンフランシスコが舞台で、作中登場のグラント通りやマーケット通りなど、今ではススキノ界隈の様に良くわかる俺さ。しかも、駄目押しにネヴァダのリノまで(先週行ったばっか!)出てくるとは。そうそう、ここは結婚式もスピード婚で、カジノにもその日結婚したウエディングドレス姿のカップルがいました。
作品のほうは、本格モノではなくてどこか奇妙なツイストの警察モノ。
いろいろ、新連載が始まりましたが、新保教授と笠井氏の同時連載とは・・・。何かが起こりそうな雰囲気ですね。しかし、新保教授の冒頭の一節は意図的なアンフェアだあ。これって、良いの?「予期せぬ死」を読み始める。ありゃりゃ、やはり会話文がどうもぎくしゃくで、こりゃ原文が悪いのか。とにかく連載と並行で読み上げる。これでガーマジの評価が決まるね。
The Tragedy of Errors入手は既報のとおり。ふっふっふ。たった32pじゃん。これは読むぞ、翻訳前に。新保教授のエッセイの冒頭を読んで、1月号を繰って・・。本当だとすれば、これはないっしょ。未読の方は、1月号に遡らないことを強くお勧めします。
3/8 ヘンリ・ガ−マジ
ネバダ州はリノに出張で言って参りました。
The small biggest town in the worldというコピーで有名なべガスに並ぶカジノ・タウンです。宿泊したホテルにも当然カジノがあり、手慰みに25セントをスロットにほうり込んだ所、いきなり40倍の大当たり殺人事件!
しかしこれが最初で最後の大当たりで(絵に描いたようなビギナーズ・ラック)後は転落の詩集。だって、ブラック・ジャックもルーレットもディーラーが強過ぎるっての。
被害を最小に抑える事で何とか大事には至らなかった俺だが、腕に憶えの有る勘違いギャンブル野郎(どこかの社長秘書とか)はどつぼに嵌るのだろうな。カジノで驚いたのはミニスカートのウェイトレスの年齢相の高さ!だって、アンジェラ・ランズベリー(ジェシカおばさんね)みたいのが、ゴテゴテの厚化粧でいっぱいいるんだもの。最初はてっきり洒落かと思った(熟女パブとか)。マジなのさ。
勘定を計算違いされた上にチップまで要求されちった。翌朝もカジノの前を通ったら、朝からいるわいるわ憑かれたギャンブラーどもが。その中に蒼い顔をした荻島真一似の社長秘書を見た気がしたが、ネバダ砂漠の幻か。
『二巻の殺人』エリザベス・デイリイ(HPB 191)98.10再刊
ビブリオ探偵ヘンリー・ガーマジのシリーズ第三作(全16作)。以前成田さんの「新刊レビュー」で取り上げられていたので、チェックしようとしたら、アクセス不能!メンテに問題ありですぜ。
1941年の作で当時のニューヨークの上流階級を舞台に、バイロン詩集の第二巻を手に百年前に失踪した女家庭教師が忽然とその本を手にして戻って来た、という冒頭の謎は確かに魅力的だったが。とにかく訳文が終始ギクシャクで、読み辛いこと村崎敏郎。語調もコロコロ変わり、登場人物がパラノイアックに写る。それを差し引いても、このマイルド過ぎるストーリーは「軽本格」の悪い見本のようで、夜陰に乗じての犯人監視やら、ご都合主義的な共謀やら、読んでて全然読書の興奮が沸いて来ないのだ。ボールガード老の毒殺トリックに使われた小道具当てに、随分と筆を割くくせにこじんまりとした真相だし、百年ぶりに現れた女の正体も安直だしで、ギミックの方もがっくり。何より肝心のバイロン詩集の扱いがおざなりで、後年のビブリオ・ミステリには及びも着かぬレベルの低さ。事件そこのけで関係者の娘にうつつを抜かすガーマジの魅力も今一つ。久々に大いに不満な一冊で★★。
現在ミステリマガジンに連載中のデビュー作「予期せぬ死」が果してどうであろうか。正当な訳文での読み応えに期待しよう。
くー、カジノで豪遊とは、お前は花村萬月か。で、どこぞの社長秘書をいじる、いじる。
「二巻の殺人」は、なんだかもったりした話でしたなあ。メンテ問題。ありり。そのうち、直しときますけん。
2/22 男子の本買い
2/13〜19まで日本に出張してました。管理職試験の面接の為と、それにくっつけての所用(実は本買いが個人的にはメイン)で東京にいました。
サンノゼ空港からの便がセミコン・コリア(半導体業界のビッグ・イベント)と例の合同結婚式の為に全然取れずに、前日にサンフランシスコから飛び、着いたその夕刻に本社入りというハードなもの。
カーの二冊、「悪魔を呼び起こせ」、霞流一、ポケミスなどを購入。八重洲ブックセンターで全部揃うかと思いきや、国書刊行会ものは全然駄目で、遂に川崎の有隣堂まで行って購入す。しかもこれだけ廻ってもL・デイヴィスの「錆色のビーナス」は遂に入手出来ず!「迷路」も買いました。
これでしばらくは飢えにも耐えて凌げるというもの。来月のリノ出張で堪能するかな。アメリカで買うと往復航空券が500ドルです。これに味をしめて今後もちょくちょく日本に本買いツア−を企画しようっと。滞在していた芝パークホテルの和朝食は2,200円也。お大尽気分で味わいましたが、さすがに翌日は気が引けて近所の吉野家で「納豆定食」370円を食べました。
お久しぶり。東京に戻っていたんですか。どや、日本は、ええやろ(なぜか、関西弁)。
それにしても、往復航空券が500ドルとは。札幌・東京の正規料金より安いのでは。
ちょくちょく本買いに戻ってきなはれ。
2/3 追悼・乾信一郎
朝日新聞(衛星版)で同氏の訃報を知る。享年93歳。HMMのエッセイで親しみ、訳書が俺の好みに合っていたことから(ポーター、クリスティなど)個人的に贔屓にしていました。横溝世代の数少ない生き残りだっただけに、いよいよひとつの時代の終焉を実感しました。
それに比べれば山風も都筑道夫もまだまだ若い。
EQMMの入手が途切れ、やや意気消沈しております。かといって全て郵送で取り寄せるのも何だし。まあ、ホックとクラーク以外余り真面目に読んでいなかったし、と愚痴ばかりですが本屋に復活さえすればまたレポートします。
「兄の殺人者」D.M.ディヴァイン (現代教養文庫)94.1初刊
遅れ馳せながらの初読(笑)。1961年のデビュー作にて、コンテスト審査員のクリスティも絶賛したと言う曰く付きの作品。事務所で兄の死体を発見した弟のぼく(サイモン)が、兄に着せられた不名誉を晴らし真犯人を見つけるべく、警察を向こうに廻して捜査を開始する。
一見平凡なシチュエーションにも見えるが、別居中の妻との葛藤に悩みつつ、兄嫁、嘗てのガール・フレンド、ちょっと気になる事務所の秘書などに振り回されての捜査は飽きさせない。他にもどうにもいけ好かない共同経営者らなど多彩な登場人物に翻弄されて行く内にサイモンと警察はほぼ同時に「意外な犯人」に思い至る。
この英国のアマチュア作家の作風、ジル・マゴーンにも通じる所謂「玄人好み」とでも言うんでしょうか。トリック自体も非常にオーソドックス(アリバイトリックはいささかクラシックとすら言える)で、教科書のような感じだけど、改めてこういうネタで勝負されると派手さが無くとも妙に納得してしまうのです。絶賛!とまでは行きませんが「納得」の一冊です。しかし、この教科書的メイン・トリックは最近富みに見なくなりましたが、使い方によってはまだまだイケますよ。★★★1/2
乾信一郎。HMMの猫エッセイが懐かしいです。
ディヴァインっていうと、ロジャー・ウォーターズ映画のあの太ったおじさんが思い浮かんでしまう(笑)。読んだ中では(「こわされた少年」未読)、よくできたミステリ特有のなんともいえないうねりがあって「兄の殺人者」が一番好きかな。
1/31 クックを読む
「夏草の記憶」トマス・H・クック(文春文庫)
遂に読み終えました。噂に違わぬ傑作で、今の心境では「夏草の記憶」>「死の記憶」>「緋色の記憶」です。
原題「ブレークハート・ヒル(心臓破りの丘)」にあるこの山の中で三十年以上前に起きた悲惨な事件を回想する、一人称語りのスタイルは前二作と一緒だが、夫々に感じた物足りなさ(「緋色の記憶」=不倫(姦淫)というテーマの力なさ、「死の記憶」=ラストの謎解きのオマケ的処理)が全く払拭されていて、少女の身に起こった惨劇というテーマといい、衝撃的なエンディングの伏線ミステリとして超絶技巧の限りを尽くした構成といい、感服の一言。
1962年のチョクトーという田舎町を舞台に、そこに転校してきたケリー・トロイに初恋する主人公ベン・ウェイドの語りで三十年後の現在と当時の回想を(またも)巧みに描き分け、過去と現在の登場人物達を同列に描写して二重構造的厚みを持たせる巧さ。
恋する高校生の日常と心理を丹念に描き、読者はベンと共にケリーに恋をし、やがて果てしない敗北を味わう。そう、これは宮本輝「青が散る」を超える一大失恋小説でもあるのだ。失恋間際の無様な往生際の悪さ、報われない一縷の望み。
♪冷たくされて いつかは 見返すつもりだった・・・というフレーズが思わず脳裏を過る。「失恋」は重い。三十年後の現在も尚真犯人不明(というか誰もが逮捕されたゴロツキのライルが真犯人と言う事に疑いを持っている)のこの事件をケリーとの出遭いから、順序立てて回想して行くベン。そして回想の終盤で遂に明かされるひと言こそ帯の惹句にある「ふともらしたたったひと言が 私の、みんなの 人生を変えてしまった」この事件のキーワードであり、衝撃的なサプライズでもあった。
ところが本作が傑作なのは、さらにこの後。ラスト5ページで明かされる驚異のエンディングこそ、全編に渡って仕掛けられた雄大なトリックと読み返して膝に震えが来るほどの複線の技巧により、この小説が完璧に計算されたミステリであることを思い知らされるのだ。
嗚呼,今回のこの伏線の嵐と絶妙のテクニックは何と言えば良いのだろう。全ての記述が全く違う意味に全面反転する爽快なまでの逆モーションは、ぱらぱらと読み返すほどに驚きが増大する。そして改めて読者はより重い悲劇を味わい、三十年前の事件が文字通り未だ終わっていなかったことを悟るのだ。「死の記憶」にあった精神を感化させる揺り戻しのような衝撃ではないが、思い切りの技巧でミステリ心を満足させてくれた分で(本当は甲乙付け難いが)本書を上位に取る。★★★★1/2
絶賛すね。これは3部作読まなくては。
1/30 出版社HP
創元社と早川のホームページを見て、創元の方が昨年10月以降全然更新されていないのに驚きました。如何なる事情か存じませぬが悲しい気持ちになりました。
その更新遅れの「近刊案内」の中で紹介されていた『ランプリエールの辞書』の中に十八世紀の実在した盲目判事ジョン・フィールディングが盲導犬ならぬ盲導少年を連れて登場、とあるのはポケミスの『グッド・ホープ邸の殺人』『グラブ街の殺人』(ブルース・アレグザンダー)の主人公とジェレミーのことではありませんか!紹介文見ると同書は中々面白そうで、往年の俺好みのイカモノ系の作品です。
すわ、早川もかと確認したらこちらは充実の内容で、以前開設当初に見た時より格段に良くなっています。例えば現在注文できる在庫の有無確認可能な検索リスト(HMMなど雑誌のバックナンバーも)では「ははあ、今入手出来るカーター・ブラウンはこの五冊か」と書影付きでチェックできますし、早HMM3月号の内容から2月刊行予定の本まで判るとは。フィリップ・マクドナルドの「迷路」がHMM掲載以来始めてポケミス新刊で2月に出るのを成田さんは知ってましたか?
また予告は出ていたものの『二巻の殺人』のエリザベス・デイリイの訳載「予期せぬ死」が三回分載というのも、知ってましたか?その他、「編集長ロンドン日記」として本誌2月号特集の取材舞台裏が豊富な写真入で楽しめたり、「女流作家フェア」の店頭パンフレットが
HP上で見れたりと感動しています。一方、本誌の方ではディック・フランシスの女房共作疑惑やシムノンの息子の衝撃的な死など読み物も面白い。俺ってもともと創元より早川派だし、その勢いがHPにも出た感じでした。
出版社に限らず、小規模な組織のHP運営というのは、大変だよね。外注とか、体制を組んできちんとやらない限り、特定の人間に負担がかかってしまうし。今までの仕事が減るわけでもない。出版芸術社のHPもどうなってしまったことか。
創元がどういう事情で停まっているかわかりませんが、頑張っていただきたい。
早川は、開設当時2、3回行ったきりだったけど、なるほど充実してきましたね。「迷路」は、朗報だけど、HMM3月号の近刊予告にないのはなぜ。早く「魔の淵」を本にしていただきたい。
今月号からは、デイリイの「予期せぬ夜」(ヘンリイ・ガーマジ物!)の連載が始まるなど、「クラシック番外地」の汚名返上に向けた侵攻がはじまるようで、期待したい。
早川のHPで検索をかけたら、カーの「墓場貸します」と「時計の中の骸骨」は、現役本みたいでした。
1/26 カー問答2000
再読を終えたカーの本をネタに、あれこれ。
「読者よ欺かるるなかれ」カーター・ディクスン (HPB409)
1939年の作で、HM卿ものとしては第九作に当たる(「五つの箱の死」と「かくして殺人へ」の間)。
カー名義では「緑のカプセルの謎」「テニスコートの謎」を発表している年で、ノッている時期の作であろう。登場人物を極端に抑えて二人の被害者が出た後は四人になり、内一人は事件の記録者として再三読者への警告を発するサーンダーズ医師であり、事実上三人の中から「意外な犯人」を創り出すアクロバットで、おおこれはジル・マゴーンではないか。読心術者による予言死の形で相次いで怪死を遂げるコンスタンブル夫妻の死因不明の謎。特に夫人の場合は鍵の掛かった寝室の前にサーンダーズが見張りをしている状況での密室殺人風。
最後の未遂も含めて全て同じトリックだが、密室風の謎は「密室ではなかった」オチなのがご愛嬌。本作の主眼は限られた容疑者の中で創出された「それでも意外な犯人」であろう。これまでも散々出尽くした探偵、記述者などの嫌疑外に置かれた登場人物が犯人と言う、盲点を突くパターンのヴァリエーションである。
前年の「五つの〜」もこのパターンを狙い、しかし外してしまった作だが、これは大成功ではないか。二箇所ほど犯人隠匿の上で卑怯な記述があるが、ここは素直に拍手だ。★★★★
(コマネチ!のポーズを取り)
「ドハティ!」
「な、何だね、君は」
「どうも食欲をそそりますね」
「け、警察を呼ぶよ」
「あなたがカーの事に詳しいと聞いて来たのです。さあ、夜っぴいてカー談義と洒落込みましょう」
「ふう、驚いたよ。しかしまあカーの話しとなれば帰す訳にも行くまい。まあ、座り給え」「先ずはあなたのカー原体験から伺いましょうか」
「うむ。そうだね。高校三年の時にハヤカワミステリ文庫で出た『ユダの窓』が最初だったかな」
「ハーレム・スカーレム!」
「いちいちうるさいねえ。ええい、もう話す気がしなくなった。終電がある内に帰り給え」
「どうも食欲をそそりますね」
「な、何をする!」
−真面目に2000年におけるカー談義を書こうと思いましたが、筆の勢いで止まらなくなり収拾不能になりました。
いきなり終電がきてどうする。郷ひろみのなんとか2000みたいなショボさ。
(俺もアンドリアノフ!のポーズをとり)
「マクシム・ジョコボウスキー!」
1/24 風太郎をまた
また未読本のレポートです。
「天使の復讐」山田風太郎(集英社文庫)97.2
総ページ数210ページ足らずの極薄本で、昭和23〜37年の六篇を収録。解説は前回レビューの「赤い蝋人形」と同じ細谷正充。
「狂風図」
長野に疎開している大学生たちの敗戦前夜の一途な心の葛藤。何か「新撰組」的ノリの主人公たちが、宿の娘を巡りよもやの敗戦の報に熱情的に右往左往する。すれ違いの誤解、純な若者の真実、良いではないですか。恋する娘こそ祖国だというノリは、後のつかこうへい的で、明治世代とのギャップに苛立つ当時の学生の姿(それは正に風太郎自身でしょう)といい、スピリッツは実に現代風。ミステリ的趣向もさり気ないが手抜きでは無い。★★★
「天使の復讐」
表題作だが、山風独白の様に似つかわしくない素直な作品。「大地が凶器」的な大向うを狙ったのか(?)、タイトルに掛けたこの趣向をどう受けるかだけど、俺はちょっと。★★
「色魔」
前後不覚に泥酔した朧気な記憶の中の殺人。酒飲み(特に過去に同様の経験を持つ者)には身につまされる。肉感的看護婦、高潔な女医。適度なエロティックさの中に大胆な錯覚トリックを駆使した作だが、オチは予想がつくぞ。★★1/2
「鬼さんこちら」
突然の妻の失踪と言う出だしは鮎川哲也の短編「塗りつぶされたページ」を連想させたが、この亭主はちゃっかり肉感的な重役令嬢に誘惑されて直ぐに妻のことを忘れてしまう。この二人の前に執拗に現れては死体検分を迫る稲垣刑事のストーカーばりの執拗さがコワイ。徐々にエスカレートする狂気じみた行為に独特の恐怖が粘りつくよう。解説にもあるが、さり気ない書き方のトリックも、手抜きでは無くて良い。★★★
「飛ばない風船」
これはまたビックリの鮎川ばりの本格倒叙だ。但し、「風船殺人」のトリックのどこか奇妙な味はまさしく山風か。このオチは古典的倒叙のパターンですね。新味は無いが、好感は持てます。★★1/2
「知らない顔」
自分そっくりの使命手配犯の存在に、危険な妄想に憑かれる主人公。平凡なサラリーマンのレイプ願望と、日記によるトリックと、すれ違い夫婦の騙し合いが虚々実々の中に語られる。筒井康隆の中間小説的ノリで、前半の戸惑う主人公がすごく良い味だ。ラストのある種残酷なオチは正に山風ですね。★★★1/2
という訳で、俺のマイベストは「知らない顔」ですね。それにしても如何にブームとはいえ、こういう作品集まで出るのだから、成田さんは果報者です。
って出たのは3年前なんですけど。だんだん母屋をとられそうになってきた(笑)
「飛ばない風船」は、初読時に、このネタは、風太郎だったのかと驚いた記憶あり。本来の芸風じゃないかもしれないが、結構好きです。
1/21 追悼・桜井一
本日、社内便でやっとHMM2月号と本の雑誌1月号を入手す。
風間一輝があの桜井一とは知らず、その訃報にビックリ!追悼文にもあるようにケンリックらのイメージって全部桜井一のイラストの印象だものなあ。それにしても惜しまれる若さでの死。合掌。「響きと怒り」は北海道の読者、二人の寄稿がアツイ。また都筑道夫のエッセイに出てくるバーンズ・アンド・ノーブルという本屋は全米チェーンの大型店舗で、ここサンノゼ近郊にも二軒あり俺の馴染みの店。何故か手元に残っていたブロックの短編集から拾い読み。
「頭痛と悪夢」ローレンス・ブロック<英米短編ミステリー選集C>光文社文庫
99.5刊収録13篇の内、「クリスマスほどにも暗く」「ケラーの責任」「泥棒は煙のにおいをかぎつける」「言えないわけ」「どこまで行くか」の5編は過去当コーナーでレビュー済み。「ダヴィデを探して」もEQで既読だし、「夜明けの光の中に」もHMM85年
10月号で既読。実に半分がこの俺ですら読んでいたもので、買ってから気がつき大いに臍をかんだものです(と以前記述済み)。
「慈悲深い死の天使」
マット・スカダー・シリーズ。エイズ末期患者のホスピスに出入りする謎の女見舞い客。彼女が見舞った患者は必ずその後に死んでいる。殺人の疑惑を調査すべく、スカダーはこの女と対峙する。星新一の「殺し屋ですのよ」を想起させるが、あそこまで捻っていない。ストレートに末期患者に対する周囲の人々の心やさしさが伝わってくる。★★★
「マロリイ・クイーンの死」ヘイグ&ハリソン(ネロ・ウルフのパロディ)・シリーズ。
「マロリイ・ミステリ・マガジン」なる雑誌(!)出版社の女社長メイヴィスを取り巻く彼女に恨み骨髄の実在ミステリ界のパロディ化された登場人物たち。主人公を含めたこの徹底的なお遊びは「殺人幻想曲」の現代版か。件の雑誌のパーティ会場でメイヴィスが殺されるのだが、同時に二挺の拳銃による弾丸と二種類の毒と二箇所の刺し傷と鈍器による殴打というこれまたシッチャカメッチャカな殺され方で、ヘイグの推理は「自殺」だという。真相も人を食っており、すこぶる上質でご機嫌なパロディである。★★★★
「ケラーの治療法」殺し屋ケラー・シリーズ。精神科医の治療を受けるケラーが医師の誘導で巧みに彼の前妻殺しを仄めかされる。治療の合間にもケラーの間然とした仕事振りが描かれ、この疲れた殺し屋のさまよう心が医師の前妻が殺されるに及んで大胆な決着を選択させる。実に巧いのお。大人の読み物として実に読ませる。★★★1/2
「エイレングラフの確認」悪徳弁護士・エイレングラフのシリーズ。両親殺しのデイルの弁護で彼に接見するエイレングラフは、奇妙な供述書を書かせる事で巧みに彼を無実へと誘導して行く。読者もデイル同様にこの魔術に幻惑され、ラストで示される真実にはたと覚醒し、この悪徳弁護士の手腕に驚愕する。★★★1/2
「フロント・グラスの虫のように」
長距離トラックの運転手ウォルドロンは、自分が漏らした一言がきっかけで気に入らない乗用車を片っ端から血祭りにあげていると思しきドライバーを探し出す。生真面目なこのウォルドロンが次第に長距離トラック運転手のフォークロアに染まって行く様が、リアルで怖い。モーテルでの過ごし方の描写、俺自身の出張を連想させてこちらもリアルである。夜明けのフリーウェイのラスト、圧巻です。★★★1/2
「頭痛と悪夢」冴えない予知占い師のシルヴィアが本領を発揮して、失踪した少女の行方と犯人を突き止めたことから俄然評判となる。ところが皮肉なもので売れ出すとこの手の予知能力には陰りが・・・。「古畑任三郎」の石黒賢のエピソードと同工異曲で、オチは読めたがラストの無限に続くであろう頭痛と悪夢の恐怖はチト怖い。★★1/2
ここには才人ブロックの五人のシリーズ・キャラクターが勢ぞろいで(「泥棒は〜」が言わずも知れたバーニイ・ローデンバーもの)、ホックとはまた違った味わいがある。省略した作品も夫々傑作で、特に「言えないわけ」はHMMで満点を付けた作品です。
桜井一=風間一輝、知らなかった?HMM読み始めたときから、ニック・ヴェルウェット物とイラストになじんでしただけに残念です。小説の方は読んでないんだけど。
1/20 番外・アメリカの食事情
山猫美女の正体の変わりに、食事情を今回はレポートしましょう。昨日サンフランシスコ(以下SFO)のチャイナタウンに行きました。
SFOには八万人以上の中国人が住んでおり、このチャイナタウンの規模は恐らく全米最大では。
細君の友達の台湾人女性の言う事には「SFOのチャイナタウンなら、どこで食べても皆すごいおいしい」とのことだったので(事実、前回も道に迷って違う区画で食べた中華がすげえうまかった!)、ガイド本でピックアップして「ブッシュ元大統領もお忍びで何度も堪能」という店に行ってみた。
お世辞にもゴージャスな店ではなく、順番を守らない共産圏のルール無視の連中にムカツキつつ、席について飲茶コースを頼むと、ワゴンに乗って次から次へとうまそうな料理が出てくる。
ウエィトレスの半分は中国語のみで、手振りと漢字でオーダーするが、どれも絶品のうまさでしかも超安い!日本の感覚の半値八掛けです。このチャイナタウンはその一帯完璧に中国で、アメリカにいてお手軽に中国にトリップできます。さすがに多国籍の町SFOは異国料理充実しているし、シーフードもうまいので(ガーリックとバターソースの茹でソフトシェルクラブも絶品)外食を堪能できます。
サンノゼ界隈はシリコン・バレーの関係で半導体関連の従事者の影響で日本人以外では中国(もっともこいつらはどこにでもいるが)、韓国そして最近はインド人が多く、中華スーパーや韓国スーパーも多く見うけられます。土曜日にこの韓国スーパーにチャレンジした所、すげえうまいキムチを入手してホクホクしました。
因みに日系スーパー(ヤオハン、ニジヤ他)に行けば「西山ラーメン」の冷蔵生麺も購入でき、月に一、二度は食べています。数件有るラーメン屋は皆東京系の麺なので(SFOの紀伊国屋横には「さっぽろ」というラーメン屋がるが)、狸小路の「糸末」を愛する俺には物足りないのです。「吉野家」は近所に三軒あり、並で
$2.96、肉は大盛りです。「リンガーハット」(長崎ちゃんぽんのチェーン)でもカレーを始め学生が好みそうなメニューはほぼ一揃いあります。
山美女は、食べ物の話さえ聞いていたら満足の人なので大喜びでしょう。
中華とか「アメリカもおいしい」なんだ。
しかし、西山ラーメンまで売っているとは!札幌でラーメン屋に入るときは、ここの麺を使っているところは、だいたい間違いないです。)皆さま。「吉野家」「リンガーハット」か。それじゃあ、なに不自由ない日本暮らしだな。
1/16 週末の事ども
Y村メール、ありがとうございました。早速返事をしておきました。
ところで以前にも書いた「山美女・猫美女」とは何者かそろそろ教えて下さい。
そろそろEQMMの2月号が出ている筈と、いつもの本屋に行くも先月号のみで見当たらず、「2・3合併号ならん」と独り合点してしていた所、インターネットで検索したらちゃんと出ているではないですか。ぐわあ。どうした?!あまりの売れ行きの悪さに遂に見放されたか。
ジョン・ブリーンの「陪審席」をチェックするも、クイーンの新刊評はなしでした。紀伊国屋書店で「ボーン・コレクター」を入手。$30.4なり。今月はこれと「夏草の記憶」をジックリ攻めるのだ。
「山美女・猫美女」
山好きの美女で現在留萌在住、猫美女は猫好きの美女研究者です。(このHPに出てくる女性は、みんな美女ということになっています)二人とも、最近インターネットにはまっています。いずれも、サイ君の友人で、いつも遊んでもらってます。ということは、いつぞやの三美女とは、あわわ。
山美女は、ミステリの話はいいから、食い物の話などアメリカ生活情報を読みたいとリクエストされていますが、そんなわけにはいかん(よな)。
1/8 凍てついた笑い
愕然とした。
女房相手にもギャグが冴えず、「五点(百点満点で)!」などと冷たく評価され、これでは外人をジョークで笑わせるなど夢のまた夢だ。ここの所、公私に渡り全く不調で、昇格論文さえ中々思うに任せて書けぬ始末。
その点、二次会をキャンセルして夜の古本屋で脚立に登り、ぼろぼろと本をこぼしながら、カーを買い占める成田さんが「あの泥棒」ではないが羨ましいっす。
しかし、冷静に考えると人の蔵書整理に付け込んだ火事場泥棒ですね。おいしい所だけ買い占めておいて盗人猛々しい。飲みより古本なんていよいよ病的ですよ。
カーの話しを聞き、むずむずして何故か手元にあった「読者よ欺かるるなかれ」を再読始める。全然忘れていて(ネタもおぼろ)すげえ新鮮!初読のようだ。論文書きで疲れていた頭が一気に蘇る。では。また論文書きに戻ります。
くかあ。細君のチェックもいよいよ厳しく、お笑いスタ誕の赤塚不二雄化か(ちがう)。
「病気」は、いいけど「病的」は、ちょっと困るかも(笑)。山美女も、二次会蹴って古本屋行くなんて、今までの人生を否定するものだ、といっていたらしいが、うーむ。
論文頑張って下さい。
1/6 未読本三昧
また未読本のリポートです。これは東京にいた頃、会社(新橋)の裏に出来たサラリーマン相手の古本屋で購入したものです。成田さんの嫌いな(笑)小林信彦です。
「パパは神様じゃない」 小林信彦(ちくま文庫)初刊73.12→文庫91.12
ミステリマガジンに連載されたもので、以前は角川文庫で出ていたが勝手に「真面目な育児書」と思って敬遠していた。内容はユーモア・スケッチを目指して、脱線エッセイになったもの。現在のコラムシリーズの70年版で、基本線は変わっていない。娘の成長記録は徐々に付け足しになり、回を追う毎に身辺雑記がメインとなる。当時の著者の年齢が丁度今の俺と同じで、そこが興味深い。72年といえば、小学六年生だったが、こんなに暗い世相だったかと当惑する。
しかし、見事に育児とは関係無い本であった。 2000年五日目にして4冊も読んだが、明日から昇格論文を二本も書かねばならず、これで一休み。
これは、角川文庫で読んでるよん。四戦全勝(笑)。昔は、好きだったんだけどとかいって、「人生は51から」も単行本買って読んでおります。年齢の話は、結構驚き。でも、著者の時代認識は、72年以降もずっと変わっていないんじゃないかと思う。それも、ずうっと「東京オリンピック」以降下りっぱなしなんだから。
昇格論文、大変ですね。でも、今の時代だと代筆も簡単かも。ネット代筆屋というのは、まだ出ていないんでしょうか。
1/5 朝霧未だ濃ゆ
引き続き、未読本から。
「朝霧」 北村薫(東京創元社)1998.4
<円紫さんと私>シリーズの第五冊で今の所の最新作(ですよね?)。成田さんのサッパリ更新されなくなった「新刊レビュー」の98年5月に登場している。確かに出始めの「空飛ぶ馬」「夜の蝉」の連作短編集は所謂『日常ミステリ』の新機軸にして、その技巧に酔いしれたものであるが、期待の初長編「秋の花」からミステリマインドが希薄になり、「六の宮の姫君」に至っては文学史ミステリ(?)となって主人公の「私」にも鼻が突き出し、この社会人編の五冊目も(「連作スタイルに戻ったか」)と買ったはいいが積読だったもの。
「山眠る」卒業を目前に控えた「私」が本の校正にまつわる謎(本ネタの前菜)と、校長先生が町の本屋で大量に買い込むエロ本の謎を円紫に相談する。俳句を主テーマに据え、様々な俳句に纏わるお喋りやら薀蓄から件の俳句好きの校長へと結びついて行く。昨今の東京都下とは思えぬ冬の日の雪の描写に故郷北海道を思わず連想。繊細で丁寧なこの描写の積み重ねが、現実的な校長の悩みをラスト優しく包むシーンは圧巻で、俳句の薀蓄が活きて「山眠る」の一語がグンと効いてくる。おお、やはり良いぞ。真相をさり気ない暗示で抑えるツボも、落語名人の語りの芸の域か。★★★★
「走り来るもの」ストックトンの「女か虎か」を受けて、女編集者の記した一編のリドル・ストーリーの結末を円紫が解く。落語ネタや源氏物語を散りばめて、このリドル・ストーリーのたった一つの解答を導き出す構成が巧い。後年の「謎のギャラリー」ではないが、作者お気に入りの実在作品を巧みに羅列して、ひとつの謎を紡ぎ出す手法は鮮やか。盲点を突いた解答にも、名人の「さげ」に感服するかの如き満足感。★★★
「朝霧」表題作にして一番のヴォリュームなのだが、一番期待外れ。成田さんのHPネタにもなった<屈辱>ゲームのエピソードなど、おいしいエサを振り撒きながら、肝心の祖父の日記に出てくる漢字三十一字の暗号が「覆面作家の夢の家」のダイイング・メッセージと同工異曲の趣向で(目の前に有る身近なネタが解明の鍵)それより底が浅く、感銘も薄いのが致命的。主テーマに据えられた忠臣蔵と落語の薀蓄も前二作ほどに昇華されていないようで、がっくりした。★★
成田さんは<私>のリアリティの無さを嘆いていたが、俺は本作ではそんな事はない、と思いましたね。しかしこのシリーズが今後も彼女の成長物語として書き続けていかれるなら、徐々にリアリティを欠如して行くでしょうね。そうなるとつらい。本書も冒頭の「山眠る」は白眉としても、その後が尻すぼまりで残念です。
「鼻が突き出し」ではなく、「鼻につきだし」ではないでしょか。でも、想像するとおかしいので、このままにしておこう。
>サッパリ更新されなくなった「新刊レビュー」
これは、もうwhat's newのなかでやることにしたので。
><私>のリアリティ
単純に「こんな女いねえよ」というだけで、リアリティの無さを嘆いていたわけでは、ありません。もともと、「私」は、本好き男のファンタジーみたいなところがあるし。(最初に「空飛ぶ馬」を読んだとき、作者は絶対男だと思ったもんね。)ただ、一挙に年をとらせたので、面倒なところをすっ飛ばしてずるいとは少し思いました。でも、「私」には、もうこのまま、澄んだところで年をとっていってもらいたいっす。
1/4 新春第一弾
2000年おめでとうございます。
新たな千年紀に相応しいかどうか(もっとも成田さんのHPでもいきなり多岐川恭だからいいか)何故か暮れから新年にかけて手持ちの未読本からランダムに選ばれた以下の二冊を。
「赤い蝋人形」(山田風太郎傑作大全12)廣済堂文庫 1997.3
言わずと知れた山田風太郎ゆえ粗筋は略(細谷正充の解説に詳しいし)。昭和
27〜38年の七編を収録。
「赤い蝋人形」
冒頭の「ところで私は低脳児ではない」には、笑った。しかし、この大船駅での電車火災事故を契機に少女小説家とその編集者を襲うミステリーは一人の少女スリをミッシング・リンクに、実に本格テイスト濃厚な骨太の一編である。「顔のない死体」と「一人二役」のさらにその背後に仕掛けられた旋律的なオチ!伏線バッチシの堂々たるその作風には只唸るのみ。戦後探偵小説の王道を行くが如き見本。この殺伐とした時代風景は黒澤明の「野良犬」にもシンクロする迫力。★★★★1/2
「賭博学体系」
タイトルは懐かしや筒井康隆「社怪学・心狸学」、山上たつひこ「喜劇・新思想体系」にも連なるオリジンでは?「未亡人荘」なるバーに集まった四人の「偶然と確率」論議がマダムと彼らを繋ぐ過去のプロバビリティの犯罪に触れた時に起こる皮肉な堂々巡り。★★★
「美女貸し家」
作者・山田風太郎主人公のこのユニークな誘拐トリックものは、忍法帖でもお馴染みのエロチックなシーンが最高で、艶笑談としてもすこぶる高尚。★★★
「とんずら」
戦争直後の混沌と都市に蔓延る売春婦の群れ。傷付けられた市井の小心者とその末路は、本人の欲望の赴くままの結果とは言え、哀れである。戦後十年を隔てての二度の「とんずら」は正にこの被害者の悲痛な叫びだ。加害者夫婦のぬけぬけとした態度もまた憎らしい程に冴え渡る。★★★1/2
「わが愛しの妻よ」
これはまいった!堪らない。つらい、つら過ぎる!冒頭の待合での暴行もさることながら、境内での蹂躙と高尾山の阿亭での狂気とエロスには圧倒される。つらいのは事件後の夫婦の閨房での狂おしいまでの狂態というモラルだけでは割り切れない人間の性の業。読んでて寒気がする程の迫力に突き動かされた。この救いの無い破滅的ラストこそ、山田風太郎の魅力というものか。★★★★1/2
「痴漢H君の話」それに続く本作は途中の戦果報告が抑制されていて不満。しかし、ラストの老女教師の変質行為が身を呈したものとだけでは計り知れぬ女のエロスを強烈に匂わせ、底知れぬ戦慄を憶える。★★★1/2
「ダニ図鑑」善良なる市民へのたかりの構図が、この平凡な男を閉塞状況に陥れる。「わが愛しの〜」の主人公もそうだが、世間に翻弄されるさまが何とも気の毒。光明を見出した筈の男を待つ結末もまた底知れぬ無限地獄を思わせる。★★★
−以上、女の肉体に翻弄され、いびつな世間に振り回される昭和三十年代のカオスとエロスの作品群が、新千年紀に読んでも尚古びていないのはさすがであるよ。成田さんは直ぐに全作レビューに取りかかり、新世紀に向けてこの偉大な作家の足跡を記録せねばいけません。
ところでこの偉大な老人の新世紀を語ったエッセイとかは出ないものかな。
「覆面作家の夢の家」 北村薫(角川書店) 1997.1
ご存知の「〜は二人いる」「〜の愛の歌」に続く第三弾で今の所の最新作(ですよね?)。「覆面作家と謎の写真」いやあ、しかし久々に読んだらこんな大甘な話しだったかな。随所でゾゾッ、としてしまった。考えられてはいるが見え見えのやり取りやシャン、としない駄洒落(これじゃ、田口俊樹言う所のオヤジギャグそのものだ)と言い、大いに困惑する。言葉は悪いが中年オカマの少女趣味みたいで、本気で「これは酷い」と思ったぞ。しかし、ディズニーランドの写真に写っていたアメリカにいて現在日本に居る筈の無い男の謎を鮮やかに解く手腕は、本格ネタにも使えるアイデアを日常レベルのミニ・ミステリとして贅沢に処理する心意気同様、侮りがたいものである。★★★
「覆面作家、目白を呼ぶ」こちらは軽口を程よく抑えた筆致で、存分に作品に酔える。マルハナバチの薀蓄がやがて鮮やかな伏線となり、福島の山中での自動車転落事故を装ったプロバビリティの犯罪を暴く。ここではその日常ドップリの動機が良い。こういう新聞の読者欄辺りに転がっていそうな、それでいて意外な使われ方ってのは実践の効果としてクリスティの「鏡は横にひび割れて」の動機を連想してしまう。トリックだけでは平均作だが、このユニークな動機によりグッと評価が上がると言うもの。★★★1/2
「覆面作家の夢の家」ドールハウスに託された死者無きダイイング・メッセージ(風プロポーズ)の謎。和歌を擬えたか如きそのパズルはしかし五十男と四十女の静かな恋の信条の発露であった。専門知識によるパズルではなく、ぐっと身近なネタで落とす所は流石に技巧のツボを抑えている。嗚呼、そして知らなかったがお嬢様と編集者・良介のラストはシリーズの終焉を物語っているのか。今回は大甘な台詞が連城三起彦の恋愛小説の如くに(作劇的伏線の巧みさ)キマッテいる。キンレンカのエピソードとラストのお嬢様の「ここ。・・・わたしの家に」には、マイッタ。★★★★
うーむ、結局尻上りに唸らされてしまったあるよ。文中でも触れたけどこのハニカミ者の実力者はどこか連城三起彦を想起させませんか。と言う訳で偶然1997年春に出版された二冊の未読本をまとめて読んだ2000年の正月でした。
本年もよろしく。しかし、なんですな。2000年問題、アメリカは、「勝利宣言」。さすが、20世紀、戦争ばっかりやってきた国である。真空首相がいったら、ポコられるよな。
>山田風太郎
褒められると嬉しいっす。廣済堂文庫の山風ミステリ編は、ミステリ好きには、どれも温古知新どす。「赤い蝋人形」「わが愛しの妻よ」どちらも、名編。
>「覆面作家の夢の家」
このシリーズ、文庫でいいやと思い、「夢の家」も去年出た文庫で読みました。表題作は、円紫さんものに近くなっているかも。