■このコーナーは、ページ制作者(ストラングル・成田)の後輩にして、
ヤキのまわったミステリ・ファン、関氏(東京在住)のメールを基に
構成したものです。苦情等は、本人に転送いたします。
色違いは、成田氏のチャチャ入れ。
11/27
レンデルの短編集
成田さんのご指摘を確認すべく、光文社文庫「女を脅した男」(英米短編ミステリー名人選集@)の11編の収録作品を「世界ミステリ作家辞典」でチェックしたら、5編が角川文庫に収録、1編が扶桑社文庫のアンソロジーに収録されておりました。つまり、残りの5編のみがEQ誌掲載後初の単行本収録となります。
しかしまあ、系統的なセレクションであることを考慮すればこういうダブリ企画もある意味歓迎では?因みに小職前述の角川の短編集3冊とも未読なので、殆ど白紙の状態で読めます。
この半新刊は書評にも登場しないでしょうから、追ってレポートしますね。
さて、調査結果のご報告をば。巻末解説にちゃんと他社の既訳状況も網羅してくれれば良いのに、扶桑社文庫のみの記述という片手落ちです。
「女ともだち」{父の日」「時計は苛む」-->以上、『レンデル傑作集3/女ともだち』(角川文庫)所収
「女を脅した男」-->『レンデル傑作集2/熱病の木』(角川文庫)所収
「カーテンが降りて」-->『レンデル傑作集1/カーテンが降りて』(角川文庫)所収
「追いつめられて」-->『現代ミステリーの収穫/ケラーの療法』(扶桑社文庫)所収
ポケミスにB・プロンジーニが初登場しましたねえ。今年はこれも含めてヒル「幻の森」、P.D.ジェイムズ「正義(上・下)」、カー「悪魔のひじの家」を読了する予定。その為に出張予定が目白押しです。
HMMの連載「ポップ一二八O」が3回目で完結(EQのスタウトは未だ)。こちらも本誌共々レポートせねば。
しかし、EQ誌の書評は今月号もひどい!九割が粗筋紹介でラスト一〜二行で毒にもならないコメントをしているのみ。昔はこうじゃなかった筈だがなあ。
レンデル調査ありがとうございました。しょうがないので(嘘)、小職も、その短編集買いました。
ポケミスのプロンジーニ、気になりますね。ネオ・ハードボイルドの旗手といわれたのも今は昔、実は密室物が大好きでヘンテコなミステリをいっぱい書いてるオヤジという「馬脚」をあらわしてるので、ちょっと楽しみ。新生ポケミスの本気度も試されるところ。
それにしても、「読了するため、出張予定が目白押し」とは、一体・・。本読むため、出張をアレンジできる立場なのだろうか(謎)。
EQのチェックリストはなあ。11月号の郷原宏のランキン「黒と青」評で「二段組530ページの長さを感じさせない」っていうコメントしかなかったっていうのは、既に書いたけど、同じ号のレヴューで、この人、
ケラーマンの「慈悲のこころ」・・「作者の熱い作家魂が上下千百ページという厚さを感じさせない」
ラドラム「陰謀の黙示録」・・・・・「とにかくこれだけの大冊を読ませてしまう作者の力量には、だだただ感服のほかはありません。」
って、さすがに詩人だけあって、語彙が豊富なことである。
1月号の評だって、ミステリ・マガジンで絶賛され、法月綸太郎がベストミステリに選び、うちのサイ君だって誉めていた(笑)アイルズ「神の狩人」評が
「シリアル・キラー物をハイテク情報小説の味付けで読ませるなんて、アイルズ先生もやるものです」というわけのわからないコメントをつけて、星三つ。評価は色々あるにしろ、なんで星三つなのか全然わからない。そのうち、書評家「紋切型事典」でもやろうかな。
イアン・ランキン読む!
「黒と青」 イアン・ランキン(HPB)
いやあ、遂にこのぶ厚本をやっつけました。ポケミスで530ページは過去最長とのこと、まとめて読む時間の確保に苦労しただけで殆ど一気に読みました。スコットランドを舞台にしたジョン・リーバス警部シリーズの第八作にしてCWAゴールド・ダガー受賞作。
リーバス警部ものの短編はHMMで既訳二編があり、トリッキーな捻りのある好編でした(EQ1月号の予告では次号にイアン・ランキンが掲載される!)。
北海石油採掘のワーカー殺害事件、迷宮入りになっている連続強姦殺人鬼バイブル・ジョン(実在のモデル)を彷彿とさせる模倣犯ジョニー・バイブルの事件を、冤罪を訴えて獄中で自殺したスペイヴンの誤認逮捕容疑で警察の内部調査を受けるリーバス警部が同時並行でこなして行く物語。酒と煙草にだらしがないリーバスが途中から内部調査の監視役としてペアを組むかつての相棒ジョン(現在禁酒中)との係わりの中で禁酒禁煙を実行する。事件が膠着して行く過程で、この禁酒禁煙のイライラが際立つ効果を上げている。
警察小説、という枠組みに止まらないワンマン刑事のリーバスの行動はハードボイルド・マインドも含まれたユニークな工夫だ。
三つの事件が微妙に関連しあい、パズルの如くそれぞれの謎を解明するヒントを補填し合う。
トリッキーさは無いが、バイブル・ジョンが自分の模倣犯を独自に追跡し、警察と競争で犯人を割り出して行くのだが、その本人の独白でリーバス警部と面識のある
人物であることが途中で明かされ、どの作中人物がバイブル・ジョンかというサスペンスも生じる。
エジンバラ、アバティーンとスコットランドを駆け回り、スケールの大きさとガッチリした骨太な構成でグイグイ読んだ。
異国の地を舞台にした警察小説ということで、HMM10月号の新保博久教授の書評中「ゴーリキー・パーク」の名前が出てくるが、偶然自分もあのソヴィエトを舞台にした作品を想い出した。しかしである。教授の「『ゴーリキー・パーク』と同様の冗漫さを私は感じた」「中盤がどうも長過ぎる」には首肯しかねるのだ。しかも「『ゴーリキー・パーク』の毛皮が石油に替わったという印象」と来ては、教授の好みに偏した意見とは言え、かなり偏見が色濃い。少なくとも俺の好みでは、長さは感じられなかった。
「本の雑誌」10月号の三橋暁書評でも評価★★★★としながら、「しかし五百ページは、ちょっと長すぎるという印象も残った」とある。あれれ、どうも書評家の皆さんにはこの厚みは不評のようだな。
同氏は前述のバイブル・ジョンの正体探しと当人の模倣犯探しを「芸のない再生産を繰り返しているサイコスリラーを尻目にかけるようなアイデアもあって、まずは噂どおりの面白さ」と評価している。当方も同感。
どれだけこの物語世界に同調出来るかで評価の度合いが違うようだが、リーバス警部の強烈な個性は凡百のハードボイルド探偵よりよっぽどインパクトある。今年の主演男優賞もの。読み応えに満足、リーバスに納得で80点。
森英俊氏ご推薦の二冊の内、リンゼイ・デイヴィスには乗れなかったけど、こちらは乗れたのだ。
「読む!」の「!」がなんとも、うれしそう。書き手の喜びが伝わってきます。「いよいよ、イアン・ランキンに入るのだ」と書いてたのが8月末だもんな。こっちが読むのは、正月休みになりそうだ。
11/18
読みました。
「猿来たりなば」 エリザベス・フェラーズ(創元推理文庫)
いやあ。全っ然期待していなかったので、ビックリ。実にスマートでシャープな本格パズラーだ。42年作の本編は森氏解説の「黄金時代へのオマージュでありパスティーシュ」という側面も併せ持つが、とにかく作品自体が絶賛に値する堂々たる本格作品なのだ。
探偵役のトビー・ダイクとジョージのコンビが、ホームズ・ワトスンの逆転漫才で笑わせ、チンパンジー殺害の影に隠された犯罪を一同を会して「さて」と解明する。伏線ばしばし、感激びしびし。そう、「七匹の黒猫の冒険」「呪縛の家」「黒猫亭事件」「妖魔の森の家」などの名作を彷彿とさせるトリックの華麗なコンビネーション。特にラストのもう一段オチは正に「妖魔の森の家」の衝撃再び!
これだけの骨格を余裕のユーモアで味付けする辺り、この作者ただ者ではありませんな。
今回再認識したのは、クラシックも現代の訳文で出版すれば充分新作としても楽しめるということ。ハリウッドのリメイクを観るかの如き。現代のジル・マゴーンと時代を超えて双璧を為すマニア泣かせのシリーズだ、座布団百枚!
これは次回訳出予定の「めくるめくドンデン返しの連続の」 Death in Botanist'sBayも非常に楽しみ。
興奮でカッカしています。今年最高得点の80点、いや85点だあ。
「いまわの際に言うべき一大事はなし。」 山田風太郎(角川春樹事務所)
慣れもあるのか、今回のインタビュー集は「あと千回の晩飯」くらいに楽しめたのだ。おいらくのボケ老人、最終回でビールを所望する所は不覚にもグッと来た。太田元知事もいれば、こういう75才もいるのだな。無性にちくま文庫の明治ものをまとめ買いしたくなる。どこかに暫く出張して、風太郎三昧と行きたいものだ。作りは安直だが、風太郎翁の息吹を感じて65点。いや、採点不要か。
HMM12月号−最後の村上編集長
ミステリマガジン 12月号
■特集/泥棒バーニイとローレンス・ブロック
「泥棒は煙のにおいをかぎわける」 リン・ウッド・ブロック&ローレンス・ブロック
作家が夫婦で共作するアンソロジー用に書き下ろされたもので、HPBで新作発売前のバーニイもの。愛書家には涎髄ものの超豪華な書庫を持つ大富豪にR・スタウトの「毒蛇」初版(盗品)を売りに来たバーニイだが、件の大富豪が密室の書庫の中で死体で発見される。バーニイが富豪夫人とベッドインしている間の殺人。殺害トリック、意外な犯人とも伏線はありライトな仕上がりだが許せる出来栄え。因みにここで使われる殺害トリックネタはおれの業務取扱品に関係する。ラスト、バーニイらしい駆け引きにはシリーズの特徴が良く出ていて、ニヤリ。★★
「言えないわけ」 ローレンス・ブロック
本誌9月号の特集で四編を採録したO・ペンズラー編の復讐モノアンソロジー"Muder
for Revenge"からの一編。いやあ、背筋が寒くなるほどゾクゾクした。仝アンソロジー、中々の粒揃いであったが本編はその白眉ではないか。妹をレイプ・惨殺した男と、被害者の兄。死刑判決を受けて拘留された犯人は獄中から、その兄宛てに反省を装った救いを求める手紙を書き続ける。最初は無視していた兄も年月と共に変化して行き、やがて二人の間で文通が始まり、奇妙な友情らしきものが芽生える。そして、兄の援護で男が出所した時、最高潮に達した二人の葛藤があっ、と言うカタストロフィーを創出するのだ。
獄中での異常な妄執や、レイプ場面を克明に再現する「出せなかった最初の手紙」の迫力が凄い。一見全てを水に流したかに見えた被害者の兄の心の移ろいもまた物悲しく、圧倒・興奮させられた。HMM初期の傑作「息子の質問」(でしたっけ?)に匹敵するラストの禁断の味わいが良い。★★★で、ここ近年のマイ・ベスト。
−いやあ、先月号掲載のMWA受賞作「ケラーの責任」も今月号の書評で「秀逸なアイデア作品」と誉められており、同短編集「殺し屋」も気になる所だ。濃いぞ、最近のブロックは。
<著者近況>「まだまだ休めそうにないローレンス・ブロック」を読むと、マット・スカダーものにバーニイものにと新作も精力的で、還暦を迎えたと聞いても、未だ若いぞと思う。沖縄の太田元知事は73才だ。
■クリスマス・ストーリー集
「プディングの真価」 ピーター・ラヴゼイ
横暴極まりない極悪亭主と虐げられ耐える妻、まるで渦中の松方弘樹夫妻のクリスマスの一日を気弱な息子の視点を織り交ぜて描く。
戦争未亡人の義姉を愛人同然に、家族の前で不埒に振る舞う食事の最中でプディングに仕込まれた幸運の六ペンス硬貨が跳んだ災厄を引き起こす。心優しい祖母の全てを知った上でのこの仕掛け。救われる嫁と息子の明るい未来を示唆するエンディング。芸達者ラヴゼイの小粋なクリスマス・ストーリーは、訳者注記の人名アナグラムで二重のオチを味わえる。★1/2
「これもまたニューヨークのクリスマス物語」 スタンリイ・コーエン
協会派遣の冴えない無職のアル中治療男がサンタの扮装で街頭募金をしているN.Yのクリスマス。ちょろまかした寄付金で禁断のウイスキーに手を出すシーンは、酒飲みには応えられません。暴漢に襲われ、極寒のN.Yに置き去られる件のサンタ。彼と別れて娘の元に去ろうとしている夫婦同然のマーフィーの心配。一攫千金を夢見てクリスマスの夜に置き引きをする冴えない青年ニッキー。貧乏でつましいこれらの人々の一夜の人生模様。しかしラスト、ちょろまかした金で買った香水でああも容易く女心が変わるものかな。クリスマスとは言え、イージー、イージー。★
「アガサ・クリスティー中途半端〜若竹七海とご主人のデボン底抜け珍道中〜」
夫婦趣味が揃っていて、ダブルインカムでお金もあってようございますね。しかし、記憶力減退著しい当方など同じ旅行をしても全然トレース出来そうもないなあ。以前、出張でボストンに行った時もスペンサーのガイドブック持っていったけど、大して興奮しなかったし。
「ホップ一二八O」(第2回)も取り敢えずパス。嗚呼、しかし村上編集長の「自分の思う出版の理想を貫くために」あえて職を辞す、の後記にはビックリ。10月号の豪華クラシック作家のラインナップに「蝋燭の消える前の・・・」云々したが、本当になってしまった。横溝正史が雑誌「探偵小説」最後の編集で大盤振る舞いしたのにも似ているなあ。編集長のこの二年間のHMMは、歴代の中でも決して見劣りしないラインナップでした。最後の今月号でも、「言えないわけ」のような傑作を載せてくれて素晴らしい。
11/9
もろもろ
いやあ、山田風太郎面白いじゃないですか。前作「コレデオシマイ。」にはやや立腹した憶えがありますが、今回は不思議と納得しました。あと、少しで読了します。
「六枚のとんかつ」は小生も当時ここまで真面目に非難しなくても・・・と、思ったものです。クイズと言えばクイズですけど、「くくっ」と笑うところもあって当然でしょう。何かあのバッシングには組織的な悪意を感じます。
笑ってすませばそれでよかったような気がするけどね。清涼院流水のあとで緊張してるところに、脱力したってのは、あったかもしれないけど。
アメリカはカリフォルニアに行ってまいりました。往復の飛行機で映画を三本観ました。「ゴジラ」「釣りバカ日誌9」「トゥルーマンズ・ショー」ですが、最後の映画は封切り前の作品で得をしました。ジム・キャリー主演でピーター・ウィアー監督。傑作でした。
驚くほどうまいラーメン屋も増えており、日本化が進んでおりました。滞在中は足の指を痛めて、あまり各所を廻れませんでした。
積読本が増える中、目が離せないのが光文社文庫のルース・レンデルに始まるEQ訳載の短編集シリーズ。クラーク・ハワードは絶対に買いです。では。
ルース・レンデルのって、角川から出てる短編集とダブッてないのかな。
11/8
今月は海外出張やら、専門誌の原稿執筆やらで報告出来る本が少ないのだ。ミステリ以外のお手軽本もコメントす。
「ひとりで歩く女」 ヘレン・マクロイ(創元推理文庫)
帯に“超絶技巧”などと謳われては、心ときめかぬミステリファンはいなかろう。ニューヨーク行の豪華客船内で起こる蛇を使った殺人が何者かに命を狙われているヒロインの手記で語られる。やがて乗り合わせた南アの警部ウリサールらにより、事情聴取が行われ舞台はニューヨークへ。執拗に迫る謎の魔手から逃れるヒロインは、その恐怖を再び克明な手記にする。・・・・やがて、大団円で明らかになるこの不可解な一連の事件の真相とは?!
客船上の殺人は、何故蛇に殺されたかなどギミックの使い方がうまく、「ナイルに死す」を彷彿とさせる。手記に登場する謎の妻への手紙トリックなど、とにかく小道具の処理が充実でメイン・トリック(判るよね)を巧みに装飾するから、良いのだ。巧みなヴァリエーションと絶妙な組み合わせ。帯の惹句ほどのサプライズはなかったけど、曲者どもに取り巻かれるヒロインの右往左往ぶりが途中大いに楽しめた。50年代パズラーとして、堂々たる佳作だよ。70点。
「アデスタを吹く冷たい風」 トマス・フラナガン(HPB)
駆けつけた復刻フェアで八重洲ブックセンターでは品切れだった。慌てて、川崎にて購入。表題作は既読の筈だが、絶妙な風景描写がポー「盗まれた手紙」風の最も意外な隠し場所を巧みに隠蔽する。「獅子のたてがみ」はテナント少佐の巧いトリックが冴え、タイトルに暗喩されるネタの真相もピカ一。「良心の問題」も入れ墨を用いた入れ替えトリックが巧いのも勿論だが、このシリーズ共通の職業軍人としての悩ましさが深い味わいを与えている。「国のしきたり」は一見不可能な厳重監視下での密輸劇を暴く話。テナントの最後の科白は痛快にして、シニカル。以下はノン・シリーズで「もし君が陪審員なら」は現代でもすげえ鮮烈なラストで、名作「オッターモール氏の手」を想起させる。「うまくいったようだわね」は亭主を殺した妖艶40マダムと事後従犯に乗せられそうな60弁護士のやりとりを描き、コーネル・ウールリッチのお株を取る巧さ。最後の歴史もの(15世紀のイタリアが舞台)「玉を懐いて罪あり」は密室からの犯人消失をストーリー巧みに裁判トリックに転換し、しかもこれが山田風太郎ばりのユニークさ(昔の俺なら狂喜の身体障害ネタ!)。ははあ。テナント少佐シリー
ズも、常に意表を突くトリックプラス軍人の悲哀を描く辺りは言えば「妖異金瓶梅」。成田さんがフラナガンを推すのは、この辺ですね。違うとは言わせませんよ。とにかく納得の七編で、80点。
アデスタ=妖異金瓶梅?そら、考えたことなかったなあ。このテナント少佐物の一編が大学時代の政治学の教科書(高畠通敏)の枕に使われていて、世の中には面白い学者がいるもんだなと思ったことである。「玉〜」は凄いよね。ロバート・エイデイも、かつて読んだ中で、もっとも巧妙で、もっとも恐ろしいミステリの一つといっている。
「新・馬場派プロレス党宣言」 栃内良(小学館文庫)
著者の馬場もの二本の選別合体本。チープな文体、過剰な情熱という所は竹内某の「大映テレビの研究」を思わせる。とまれ、朴訥な真の馬場の姿を描ききっている。著者は己を語ることで、馬場を語るスタイルであるために、小樽の見世物小屋や11月に舞う雪虫の話など同世代の北海道人にはたまらないエピソードも幾つかある。
2冊とも単行本で読んだ。特に、猪木全盛時代に出た「馬場派〜」には、心慰められたことである。
「笑うふたり」 高田文夫(文芸春秋)
東京のお笑い、伊東四郎、イッセー尾形、萩本欽一、三木のり平、小朝、談志、谷啓、青島知事との対談。都庁の知事室に「ひとつ山越しゃほんだらだったほーいほい」という額が恭しく飾ってある話にはウケた。
「新宿熱風どかどか団」 椎名誠(朝日新聞社)
一連の自伝的シリーズの最新作。「哀愁の〜」から読んでいるので、つい読んでしまうのだ。しかし、本の雑誌も順調になり著者も有名に成り始めたこの頃のエピソードは過去の本との重複も多く、イマイチであった。
ミステリマガジン 11月号
ポケミス発刊45周年記念特集
<記念エッセイ>がんばれポケミス
13人の書評家らのエッセイだが、呆れるほど印象深いものが無い。日色ともえなど、「私とポケミス」書かせたら日本一なのに。
他に海外作家からのメッセージ(いつものや)、記念復刊ラインナップ、年表/ポケミスの歩んだ45年など、どれも今ひとつだなあ。
■特集/98年MWA最優秀短編賞
「ケラーの責任」 ローレンス・ブロック
受賞作。ユニークな職業哲学(しばしば本編中でも言及される)を持つ殺し屋ケラーのシリーズ。ダラスの大富豪を殺しにパーティに紛れ込んだケラーは、その孫息子を助けたことからターゲットの富豪と親交を持ち、前述の風変わりな職業意識故に大いに悩む。やがて判明する意外な依頼人の正体、「アッ、そう来るか」という意外な(ケラーとしては、当然の?)ラスト。渋い一編である。★★
*今日、書店で二見文庫の「殺し屋」を見る。ケラーものを集めた短編集である。
「殺し屋」。うまい、うますぎる。クイーンズ・クォーラムに入ってもおかしくない、名短編集と思います。
「猫を殺すいろいろの方法」 サイモン・ブレット
九つの生命を持つ、猫に引っ掛けて九章から成る主婦作家のあの手この手の猫殺し。リリアン・J・ブラウン当りをおちょっくったような猫への執拗な脅迫観念に苛まれる主婦の末路を描き、最後の章のオマケも効いている。★1/2
「ミリアムを探せ」 スチュアート・M・カミンスキー
「システムをつき崩した男」 〃
先日「ハワード・ヒューズ事件」を読んだ作者の私立探偵ルー・フォネスカものを二編一挙掲載。失踪した妻・ミリアムの捜索を依頼された前編は、失踪の真相に新味がある。善人が悪人に、悪人が善人に容易にスイッチされる展開がユニーク。★1/2
しかし、それに続く後編があまりに凡作だ。市参事会の投票で評決の鍵を握る議員が監禁され、投票までに救出するストーリーなのだが、「おいおい」という間に事が運び、一件落着する。★なしでも良いような凡庸な出来だが、1/2とするか。
クリスティーの「マン島の黄金・解決編」はやはりというか、当り前だよなの推理不能の真相。
ジム・トンプソンの「ポップ一二八○」は、EQのスタウト同様に回数の判らない長編分載。「内なる殺人者」の著者とのことだが、果たして面白いのか、2〜3ヶ月は見して様子を見よう。
うーむ、今月は読みでが無かったのう。さっき、「いまわの際に言うべき一大事はなし。」を購入。
イアン・ランキンは尚読了ならずだが、展開良し。途中までは快調です。
EQ 11月号(*)三つ★満点
■ベストセラーの秘密
「フレデリック・フォーサイス」 リチャード・ジョゼフ
記者出身のこの作者が冴えないエージェントに当たりながら、殆ど苦労なく「ジャッカルの日」をわずか1ヶ月で書き上げ、その後も9回もベストセラーを書き飛ばし大成功する話は、呆れるばかりでくやしいちゅーの。今は豪邸で悠々自適な日々を送られているそうですが、こういう人を何と言えば良いのでしょうね。
■発掘:未訳中編−最後のメグレ
「死の脅迫状」 ジョルジュ・シムノン
雑誌掲載後単行本未収録だったもの。殺人の予告状を受け取った男の身辺護衛にパリ南部の風光明媚な別荘地へ訪れる列車内の描写から、思わず引き込まれる。別荘に集まる当主の家族が一癖もふた癖もありで、メグレならずとも皮肉めいた独白がこぼれようというもの。昼食後、殺人の予告時間まで全員が一同に集められる何とも気まずい雰囲気の中で、遂に当主が突然苦しみ出す。・・・と、如何にも異様な途中の雰囲気と異常な家族たち(露出狂気味の娘エリアーヌが良い)の描写は、すこぶる楽しめたが結末はいささかおざなり。何となく未完成の作品を読まされた感じ。★1/2
■バイマンスリー・ベスト6+精選アメリカ短編
「どこまで行くのか」 ローレンス・ブロック
レストランでの男女の会話だけであるが、夫を懲らしめる依頼をする妻と謎の請負人との話は洒落たオチへと結ばれる。うまいっちゅーの。ミステリ界のニール・サイモンである。★★
「ものぐさ保安官の大捕物」 リチャード・フォレスト
親族ばかり皆同姓の田舎町で、保安官にさせられた一族のぐうたらな問題児が、殺人事件を解決することに。ちょっとドーヴァーっぽい、このものぐさ主人公が意外にも(?)鋭い推理を働かせるのだが・・・。ちょいと人を食ったオチだが、「ふふんっ。」と言った所か。★1/2
「そこに山があるから」 ピーター・ラブゼイ
四十年ぶりに大学時代の友達から電話がかかり、久しぶりに登山をすることになった初老の大学教授。もう一人の友人を加えたこの奇妙な登山には、ある目的が・・・。回想形式で始まるので、この大学教授が人格者ゆえに殺人者となった、と冒頭で語られる。読み終わると、奇妙に納得する出来栄え。ラブゼイもこういう短編、うまいよなあ。★★
「ドロシーが帰ってくると」 ミニョン・F・バラード
ヒロインの幼少時に憧れの叔母ドロシーが失踪して、三十年後の現在。警察から浮浪者となったドロシーと名乗る女の発見を報せる連絡が入る。失踪の謎を知るドロシーの姉エヴリン伯母と、道具小屋に秘められた解明のヒント。読後、伯母の優しさが誌面いっぱいに溢れて来て、断固としたヒロインの科白も真に一家の愛の結束を浮き立たせる。嗚呼、「花のサンフランシスコ」再びの好編なり。★★
「グロリアの赤いコート」 エドワード・D・ホック
懐かしや怪盗ニック・シリーズ。恋人のグロリアとの馴れ初め編。65年のニューヨークを舞台に、今回盗まれるのは表題通り、グロリアの赤いコート。著名な音楽プロデューサーの殺人に関連して、グロリアは何故誰が赤いコートを欲しがったのかを推理する。グロリアの部屋に強盗に入ったニックと鉢合わせた二人が停電の中で過ごす何気ないシーンに、伏線が張られる。コートのトリックはチェスタトン風で、単なる馴れ初めエピソードではない堂々たる本格マインドに溢れた一編。今年の作品だが、老いを知らぬのかE・D・ホック!★★1/2で、最も俺好みの作品。
「悩める母親の依頼」 ビル・プロンジーニ
懐かしや名無しの探偵シリーズ。27才の息子が暴漢に襲われ、大怪我をしたのを心配した母親の依頼を断りきれずに引き受けるオプ。住まいを訪ねると、本人と派手な女が応対して何故か事故の真相を明かさない。友人知人を廻る内に、不可解な状況が少しずつ解明され・・・。息子ブライアンの正体が判明し、悲しい結末がオプを襲う。デパルマ監督の某作品や能條純一の劇画にも同様のテーマがあったっけ。しかし、巧妙な展開に案外見過ごしがちでは。ラスト、お人好しのオプの依頼人
を思い遣るハートが救い。★1/2
「リトル・ピンクス」 デイモン・ラニアン
コーラス・ガールの華を女王の様に崇拝する小男リトル・ピンクス。この頭の足りない貧相なウエイターは、事故で半身不随になった女王に初めて奴隷的な接触を許される。車椅子の我侭女王と、冴えない小男の歪な組み合わせ。どこか「ボクシング・ヘレナ」や「芋虫」を連想させるこのグロテスクな二人、最後の最後まで悲惨な話だ。おえ。★★
■エラリー・クイーンの国際事件簿E
「浮気娘の奇妙な病」【チェコスロバキア編】 エラリー・クイーン
おいおい、前作に続いて今回もまともだよ。不可能状況の中で、この浮気娘は如何にしてラジウムを摂取させられたか?ちゃんと犯人の正体とトリックの伏線もあるよう。ほっ。★1/2
■シリーズ・オブ・ミステリーズ
「空白の時間」 ピーター・ゴドフリー
森氏セレクトの警部の甥を持つロルフ・ル・ルーの不可能モノの一編。精神病院で起きた婦長の殺人事件。容疑者は全て○○○○。
しかし、犯人の巧緻に長けた計画は巧みな時間アリバイを用いたもの。だが真相は意外にもわずかなミスから瓦解し、患者の何気ない一言で明らかとなる。★1/2
■ゲスト中編
「成仏しろ」 風間一輝
最初は読み飛ばしてやろうかな、と思ったが舞台が仙台で俄然ぐぐぐいっ、と引き込まれてしまった。殺し屋烏堂のシリーズ番外編らしい。米軍の不良脱走兵三人に命を狙われる拳銃の密売人のボディ・ガードを引き受ける烏堂。仙台で、米兵を計画的に迎え撃つスリルと気丈な中国人女子大生・今日子らとの逃避行は、ユーモアを交えて飽きさせない。くくっと読んじゃった。★1/2
<その他>
レックス・スタウトの長編連載(2回目)「Xと呼ばれる男」は、今月も見。田中博(だれ?)の新連載評論「本格探偵小説」−シジフォスに朝はまた来る−は、今後の具体的な作品評を待とう。
バイマンスリーのセレクト、充実なり。マイベストはE・D・ホック。
EQ11月号は手つかずゆえ、我輩のコメントはなし。ホックとゴドフリーから読もうっと。