パラサイト関の翻訳ミステリ・アワー

■このコーナーは、ページ制作者(ストラングル・成田)の後輩にして、
ヤキのまわったミステリ・ファン、関氏(東京在住)のメールを基に
構成したものです。苦情等は、本人に転送いたします。
色違いは、成田氏のチャチャ入れ。

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1998年8月

8/29
土曜出勤

「鮎川哲也読本」芦辺拓・有栖川有栖・二階堂黎人編 (原書房)
読み所満載(?)風ではあるが、満足したのはロング・インタビュー「本格推理五十年」と、単行本未収録作品くらい。
「占魚亭夜話」は「霧笛」(角川文庫「死が二人を別つまで」所集ゆえ既読のはず)の原形中編。ミステリ好きが集うバーの集会で鮎川哲也が新作のプロットを語り、犯人当てをさせる趣向。海上の豪華客船上での連続殺人もの。三つの事件各々に犯人の手掛かりがあり、フーダニット物の教科書的作品。デブが三人登場するが、これもミソ。
「ポロさん」は投稿デビュー作の掌編だが、O・ヘンリー風の味わい深い作品。
各人が寄せるエッセイも、読むに堪えないセミプロ作家のものが多く、知り得ぬエピソードもまた少ない。しかし、津村秀介のエッセイで、鮎川哲也が「北海道の札幌郊外へ転居」していたことがあったという新事実には、唯一驚いた。

  「ポロさん」には、去りゆくものへの慈しみの視線が感じられ作家の原点みたいなものがよくわかる「満州」が架空の帝国であっただけにラストは余計悲しい
  「札幌近郊」は、確か「本格推理」シリーズの中にも、記述があったはず。でも、そうなると鮎哲賞受賞のときの鎌倉めぐりと矛盾すると思うのだが。

北村薫の「短編の世界」も、俺の大好きな中期倒叙モノに関しての言及が少なく不満。
オマージュ的なパロディ(?)が三本載っているが、無視した。
全長編レヴューで、今は手元に無い懐かしの角川文庫版の表紙を見ていると、各作品の思い出が甦る。思えば、殆どの作品は二、三時間で一気読みしていた頃で、集中して読んだ分常に読後の満足感が強かったなあ。

一応の体裁(入門書としても)は整っているのだが、俺ほどのファンには食い足りない一冊だった。60点。
しかし、久々にノスタルジックになったあるよ(HMM10月号のクリスティー映像リストも、当時を思い起こさせたし)。


8/26&28
HMM10月号特集■アガサ・クリスティーと埋もれた逸品

「ミダスの仮面」G.K.チェスタートン
ブラウン神父の幻の最後の短編。囚人脱獄と金融詐欺師追跡の話しを昔話に引っ掛けて、逆説また逆説で落して行く久々の物語。例によってスルドイ神父の人間観察が、エンディングの台詞にまで効いているのだが如何せん小じんまりとし過ぎ。森英俊氏の解説でも「最晩年の作品だけあって、プロット的にはやや破綻が見られなくもない」とある通り。しかし、ここは17年振り(個人的に)の神父との再会に素直に喜ぼう。★1/2

 炉辺の犯罪が、債権と契約書の犯罪に取って代わられるときブラウン神父の嘆きも、また深い。本編のギクシャク感は、ブラウン神父メソッドが時代を超えられないという部分にあると思うのだが、これもまた、時代の産物として貴重と思う。

「マン島の黄金」アガサ・クリスティー
実在のマン島観光用の宝捜し小説で、「あとがき」解説は次号掲載。しかし、文中に掲載の地図とか図は実際のマン島の地理が判らないとチンプンカンプン。恋人達の陽気な宝捜しも日本の読者は参加出来ない。★

 9/7発売のハードカヴァーに「あとがき」も載るんなら、なんだかなあ。

「電波の心を持つ男」スチュアート・タウン(クレイトン・ロースン)
読心術師ミスター・ミステリのシリーズ。いずれもトリックを弄した手品師なのだが、ライバル読心術師が指摘した死体殺害の嫌疑を晴らすべく、真相究明に乗り出すミステリ氏。伏線のある堂々たるパズラーで、芸人世界の裏舞台にマッチしている。★★

 こういうパルプ本格物って、もっと読んでみたい。

「フリート街の剃刀」ジョン・ディクスン・カー
ラジオ・ドラマ。英国に憧れ、英国人妻を娶った米国青年が初めて訪れたロンドンで、彼そっくりの剃刀殺人鬼を捕まえるべく単身乗り込んだ床屋で、逆に不可能状況下で殺された殺人鬼の加害者と目されてしまう。床屋ならではのオチだが、発覚のプロセスが安直。★1/2

「落ちた偶像」ロナルド・ノックス神父&元ロンドン警視庁警視コーニッシュ
ノックスの問題編を本物の警視が推理する。ノックスの問題編は、快調。独裁国家の総統が予告通りに自室の準密室状況の中で射殺され、墜落される。5人の容疑者に心理テストを仕掛けて嘘発見器の変わりに将軍が被疑者の手を握り、その動揺を量るという珍奇な趣向。解決編では、犯人の指摘というより可能性について論じるのみで快刀乱麻な解決とは言えない。でも、伏線が少し乏しいよな。あとは創造性がないと面白いものは無理だ。「樹の如きもの歩く」を想起させる。★1/2

 問題編が設定、文章なんとも面白い。さすが「陸橋」「密室の行者」「動機」のノックス。当時の最高水準は、やっぱり抜けてます。解決は、別解があるような気がするんだが。

「疑わざる者」クレイトン・ロースン
MWA文士劇。ヒロインをカー夫人のクラリスが演じているが、これがぶっとびの一編。当時流行のサスペンス劇の痛烈なパロディであると共に、場当たり的で破天荒な展開はミステリ研当たりの創作劇ノリ。この唐突なオチを見よ。★★★

 一行ごとに笑えます。ロースンには、スプーフの才能もあったんだな。部長刑事役を密室系の小巨匠ジョセフ・カミングスが演じているも、可笑しい。


8/24&25

: HMM10月号魅惑のラインナップ

うはうは。只今HMM10月号を札幌より2日早く購入してまいりました。一足先にそのラインナップをご紹介しましょう。
何といっても、G.K.チェスタートンの「ミダスの仮面」だ。森英俊氏の解説によると、「村の吸血鬼」後の新シリーズの第二作となる予定だった遺稿とのこと。今日すぐに読んでやる!
他にはA.クリスティーの9月刊行予定の短編集から表題作「マン島の黄金」やら、カーのラジオドラマ「フリート街の剃刀」、クレイトン・ロースンは二編(別名義の「電波の心を持つ男」とMWA文士劇「疑わざる者」)、R.ノックス「落ちた偶像」ときたもんだ。
今月の「ポケミスと私」は霞流一。「わらう後家」をネタにした一席で笑わせる。
しかも、来月号もすごい!ポケミス発刊45周年記念として、ポケミス総力特集だぁ。

 ぐやじい。ショージ君のごとく、ぐやじい。この文明の進んだ世の中で、なんで北海道は2日遅れなのか。CDだって、ファミコンソフトだって普通全国一斉発売でしょうが。ま、それだけ、楽しみが持続するってことで。と、ポジティブシンキング(死語)で、自らを納得させてみる残暑なり。



二人の書評の狭間で

ビデオになった映画の「ビーン」を見たが、激しく失望。長谷邦夫が描いた天才バカボンといえば、察しが付くか。真面目に取組むローワン・アトキンスンが哀れ。芸の記録メディアとしての映画が、その文法故に本来の持ち味を完璧に殺した一例。リアルタイムで(昔ならいざ知らず)このような事例に遭遇することになろうとは。

「完璧な絵画」 レジナルド・ヒル 早川HPB 1664
衆人の中での殺戮シーンという意表を突くオープニングから、その二日前に遡り物語は冒頭のゼロアワーへ向けて進行して行く。舞台となる平和な田舎村での巡査失踪の謎を悠々と300ページ掛けて語りながら、事件らしい事件も他に起らず、それでいてウィールド(ホモ)部長刑事、パスコー警部の捜査は飽きさせない。そしていよいよ全員集合して惨劇当日になるのだが、「まさにお伽の国ですね」的な大きな仕掛けで幕を閉じる。あっぱれ大反則ととるか、素直に絶賛するかは読み手の判断が分かれる所。

しかし、すごい話であるな。今はじわじわと来る読後の余韻に身を委ねている。「面喰った」というのが正直な所。こういう構成で冒頭と結末、両方で意表を突くとしたらこうなる訳か。うーむ。
HMM9月号の二人の有識者のコメントを引きたい。
都筑道夫(「読ホリディ」)は「こんどの『完璧な絵画』は、おもしろかった」として、「とにかく、読む資格を要求される作品だが、苦労をしても、読むだけの価値はある。レジナルド・ヒルのこれまでの作品を、よくおぼえていないので、これまででいちばん、よく出来ているのではないか、という気さえした」と締めている。どんでん返しについても、詳細に触れられないことを「紹介者泣かせ」としながら、評価している。
新保博久も「(前作に比べ)異色という点では今回のほうが上回る趣向があり、明かせなくてもどかしいが、ダルジール・シリーズというに限らずポケミス四十五年史においても非常に異色な一冊と言えよう。将来、話の種にしたい人は、ぜひ読んでおくべきだ」と最上級の誉めよう。

個人的にはレギュラー陣のファース的部分が少ない所(特にダルジールの登場シーン)、やや不満だがいつにも況してエキセントリックな村人達の行動が、それを補って面白い。全員がビーン(TVの方の)の村である。失踪した巡査がその失踪前に塀の上を全裸で勃起して歩いていた、という目撃談が必然的に説明される下りも、楽しい。

間違いなく、今年のベストテンには入るぞ。今一番ホットなシリーズだ。
さて、いよいよイアン・ランキンに入るのだ。


8/19(火)

HMM9月号(2)

特集の残り2本を。

「買い手責任」ジョーン・ヘス
この人は「ど田舎警察のミズ署長はNY帰りのべっぴんサ。」(集英社文庫)の作者なのですね。バツイチヒロインが購入した家は、詐欺同然の欠陥問題だらけ。前住者の与太郎までが夜な夜な徘徊して、ヒロインの怒りも頂点に・・・。ラストのブラックなオチでこの作者の意地悪さが際立ちます。俺好み。
「第二級殺人」ジョイス・キャロル・オーツ
母親殺しの嫌疑を掛けられた13才の男の子と、その母親のかつてのクラスメートだった敏腕女弁護士とを章毎に交互に語り手とさせ、徐々にテンションを高めて行きます。解説にあるように、平凡なリーガルサスペンスと見せて最後で一気呵成に犯人の心情が吐露される下りは、流行り(?)の文体で突然迫力が出ます。

以上、特集の4本とも「復讐」がテーマなので、誰が誰に復讐するのかという興味でも読むことが出来ます。O・ペンズラーのこのアンソロジーは全訳して、出版しても良いのでは?と思わせますね。今月のマイベストは「買い手責任」。

しかし、来月号はすごい。黄金時代作家これだけの新訳ラインナップはHMM510号の歴史の中でも画期的では!どうした、早川書房。つぶれる前の大放出か!

 森英俊氏が作品セレクトに当たられたようで、もうHMMM(森英俊ミステリ・マガジンという感じ。年2回くらいHMMMとしていただきたい。ブラウン神父の未訳が最も楽しみ。


8/17  暑くて死にそうです

地獄の様な暑さが東京にも戻って来ました。
「謎のギャラリー 特別室」北村薫編(マガジンハウス)
本編でも俎上に挙げている入手難の好短編アンソロジー。各短編の印象を3つ星満点で併記。

遊びの時間は終わらない■都井邦彦 ☆☆
筒井康隆も共感しそうなシチュエーション。途中は絶好調だが、ラストがやや失速か?
俄あれ■里見惇 ☆☆☆
酔いしびれる短編。本編であれだけ紹介されていながら、実作もここまで堪能出来るのか。
猫の話■梅崎春雄 ☆☆
哀しい。路上に貼り付いた死骸の変貌が手に取るように判る。いい知れぬ孤独。
なにもないねこ■別役実 ☆
これは「裸のたかし君」ですね。しかしそれだけ。
チャイナ・ファンタジー■南伸坊 ☆
強いて言えば最後の「寒い日」かなあ。漫画を同列に見るのはなあ。
ねずみ狩り■ヘンリー・カットナー ☆☆
この枚数の中で良く閉所恐怖の味を出しているあるよ。個人的にはロバート・ショーの歪む顔を思い浮かべて読んだ。
煙の環■クレイグ・ライス ☆☆☆
恐いよ。読後しばらく経った頃が一番恐い。下手すればXファイルだよ。
ナツメグの味■ジョン・コリア ☆☆
一種のおたく恐怖。こういう一遍を見落とさないのは目敏いね。展開も巧いなあ。
やさしいお願い■樹下太郎 ☆☆☆
葉書の投函だけでも罰なのに、ラストの一文で「怒れる母心」が爆発だ。母子ものには俺も弱いぞ。
歌の作り方■坂田寛夫 ☆☆☆
「恋する小学生」(C)成田)。主人公の心の移ろいはまさに27年前の俺だ。あるあるあるある、こういうこと。
獅子の爪■フランソワ・コッペ ☆☆
このさりげない描写(暗示)が有効ですね。浪の飛沫は俺の所にも飛んで来なかったが、泣かせるぅ(殿山泰治風)。
エリナーの肖像■マージャリー・アラン ☆
肖像の中の少女に思い入れ出来ないと、印象が低いね。最後のメッセージの出所が甘い。

 「なにもないねこ」以外、ほぼ評価が似通っていて驚く。「ねこ」は、「なんにもないねこ」が悼まれるからいいんだよ。でも、このアンソロジー、大きくいえば「謎」がテーマかも知れないけど、つまるところオールジャンルで北村薫が好きな話を集めたもの。こんなアンソロジー今まであったかな。山田詠美だって「せつない話」でまとめているわけだし。

HMM9月号(1)

昨日、J・フォスター主演「コンタクト」(R・ゼメキス監督)見たら、ワームホ
ール移動装置の発射台を北海道に建設して相変わらず怪しい日本人がお辞儀をしつつ登場していました。場所は根室辺りでした。2時間30分、疲れたぁ。

ミステリマガジン 9月号評(1)*一部イアン・ランキンは既報。
特集/復讐したい相手はいますか?
*この4編はO・ペンズラーの今年編のアンソロジー Muder forRevengeからの採録。
「あやつり人形の復讐」エリック・ラストベーダー
この人は「ザ・ニンジャ」の作者なのですね。夫の永年に渡る精神的拘束への復讐を企てた妻の倒叙仕立て風サスペンス。「ひとを呪わば穴二つ」。パターンですが、馬鹿を見た妻の末路は気の毒過ぎです。
「フロントマン」ディヴィッド・マレル
この人は「ランボー(一人だけの軍隊)」の作者なのですね。お呼びが掛からなくなった老脚本家がひと泡吹かそうと、脚本家志望の若者(こいつが実は馬鹿者)と組んで策略を講じるのですが。「何とかに軒下を盗られる」。ハリウッド内幕ものはそれだけで映画好きにはたまりません。トム・ハンクス主演の某映画を想起させます。これも、ラストがやや失速?
*残り二編は次のメールで。

「命をひとくち」サラ・パレツキー
我が娘を過食症に仕立て挙げる母親の妄執が恐い。「何がジェーンに起こったか?」。この現代のベティ・デイヴィスのジェラシック・パークぶりは快調なのに、このオチは必然かなあ。
「消えたグランダームの謎」コートニー・ライト
パレツキーの旦那で物理学教授とかの、世界史エピソード風読み物。余技というには義理にもつまらないぞ。



8/4(火)&5(水)

「謎のギャラリー」北村 薫(マガジンハウス)
このお薦め上手の集大成本は、気持ちよくスイスイ読めた上に縦横無尽な引き合いぶりに圧倒される。「ケンチとすみれ」までも俎上にあげながら(TVというのも確かに宝庫だ)、−この部分、実は台詞をそのまま覚えています。そういう記憶というのは、要するに宝物ですから、勿体なくて人には教えられません。
北村薫の引き出しの豊かさと、人柄が良く滲み出た文章です。
さわりの紹介のみであるが入手難であるだけに「得したなあ」と思った作品に「白水翁」「高棹」の中国もの、ソログーブ「かくれんぼ」、「TheGivingTree」などがあります。
嗚呼、しかし結局仝書の「特別編」も買ってしまいました。巻頭の都井邦彦「遊びの時間は終わらない」はモッくん主演でマニアック映画として評判を読んだ原作で、ビデオが品川図書館にもありました。

    私は、これビデオで、見たことであるよ。ちょっと他人に教えたくなるような映画。
 


クレイグ・ライス「煙の環」は本編で「恐いというよりは異様極まる」と評されたショート・ショート。どっかで読んだ覚えがある。マローン出演のパーティ・ジョーク風アイデアものだが、読後数秒してじんわりと意味が広がります。他の収録作も楽しみだぞ。

予告−「黒と青」刊行記念;イアン・ランキン全作書評
といっても、HMMに3作短編が掲載されているだけです。実は前二作も初出時に読んでおり、一読忘れ難い印象を持っておりました。HMM9月号書評のおまけにこの前二作も掲載します。


イアン・ランキン全短編書評

「動いているハーバート」Herbet in Motion ’96 --ミステリマガジン 97年12月号
CWAのショート・ストーリー・ダガー賞(最優秀短編賞)受賞作。
初出:CWAアンソロジー”Perfectly Criminal”(1996) 書き下ろし。ノン・シリーズ。
名画の贋作でひと儲けしていた美術館職員が、大統領に贋作を貸し出したことで窮地に追い込まれ「バレたら自殺するしかない」と覚悟しつつも、招待されたパーティで絵の作者の友人と当の贋作の前で対峙するはめになる。
タイトルは問題の絵の画題。エンディングは「ここにも悪い奴がいる」的オチだが、何より題材にしている贋作への深い突っ込みが並みの犯罪モノとは一線を画している。ラスト一行が生きて来るのもそのため。

「フランクであること」Being Franch ’92 --ミステリマガジン
98年6月号
初出:”A Good Hanging and Other
Stories”(1992)所集。リーバス警部シリーズ。
名物ルンペンのフランクが公園のベンチで立ち聞きした怪しげな男二人の会話はテロ計画?を思わせるものだった。リーバス警部にご注進申し上げた処、取り合ってくれない。そんなリーバス警部が帰宅すると、当の男二人が突然訪れて来た。
ふと耳にした会話から謎が生まれる(なぜエヴァンズに・・)的パターン。男二人の意外な正体、ユーモラスな展開、エンディングのセリフの切れ味と三拍子揃った読後感。短い短編の中に惜しみなく秀逸な警句をブチ込む贅沢さ。

ミステリマガジン 9月号書評(1) 最新号より

「ディーン家の呪」The Dean Corse ’92
初出:”A Good Hanging and Other
Stories”(1992)所集。リーバス警部シリーズ。
風変わりな老准将が越して来て早々に車に爆弾を仕掛けられ、運悪くそれを盗んだ泥棒が事故死してしまう。老准将を狙った犯罪として、その身辺及び過去を洗おうとするリーバス警部の前にロンドンテロ対策本部や陸軍が立ちはだかる。
E.D.ホック風の堂々たる本格短編。一応、意外な犯人(真相)が準備されており、ハメットの「デイン家の呪」を冒頭とエンディングで小道具として使用している。前作のフランク同様、エキセントリックな人物とリーバスの掛け合いが良い。

<最新インタビュー>「エルロイから多くのことを学びました」
人造人間めいた強持ての顔で俺と同い年だが、バックボーンもしっかりしているし自分の位置づけも明確。エルロイ、J.リー・バーグ、ブロック路線と言いながら、各短編に見られる本格マインドは英国伝統路線もしっかり自家薬籠中に収めている。
これは「黒と青」を読む前の予感だが、何となく宮部みゆき(歳も同じ)的な雰囲気がするがどうか。

 イアン・ランキンインタビューは、なんだかロッキン・オンのインタビューでも読んでるみたいだったな。イギリスの辺境スコットランドで、「チャイナタウン」や「ワイルドパンチ」みたいな映画を観て育ち、読んできたのも、アメリカのミステリというこの作家には、日本の同世代もメンタリティの上で、相当、共感できるのではと密かに期待。新作のタイトルはキュアーで、その次はジョイ・ディヴィジョンというのも、ロック好きなら、わかるはず。(俺、ストーンズ駄目だけど)