パラサイト関の翻訳ミステリ・アワー

■このコーナーは、ページ制作者(ストラングル・成田)の後輩にして、
ヤキのまわったミステリ・ファン、関氏(東京在住)のメールを基に
構成したものです。苦情等は、本人に転送いたします。
色違いは、成田氏のチャチャ入れ。

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1998年9月

9/28  新刊評

ぐやじい。俺も「金富士」に行きたかった。ところで、9/22に送った「EQ9月号」の(2)も更新して載せて下さいな。届いていなかったのか?単なるど忘れか。

 酒の飲み過ぎでアップど忘れ。失礼しました。ひとつ飛ぶが、9/22分もご覧下さい。

「シティ・オブ・エンジェル」を観ました(「ベルリン天使の詩」のリメイク)。ニコラス・ケージを含めた黒コートの天使達が海岸に佇む風景など、詩的なイメージも随所にあり、ジャック・フィニィのほのぼの物に通じる甘さが今様に演出された感じ。

「密偵ファルコ 白銀の誓い」 リンゼイ・デイヴィス(光文社文庫)
森氏肝入りの一本をようやっと読了。紀元一世紀のローマを舞台にしたハード・ボイルド。主人公の語り口は過剰さを取り除いた霞流一風で、読み出し好調。目くるめく展開もその後に期待大であったが、うーむ。確かに「冒険、活劇、ロマンス」を配した物語ではあるが・・・。設定を古代にした現代風時代ミステリなのだけど、それ以上の興奮がないのだ。
確かにこの舞台設定をして、非常に読み易く解読出来得る工夫は良いと思うが、ミステリ的趣向も欲しかったのだ。
着想は「必殺仕置人」の江戸時代劇の現代アウトロー風調理に近いのだが、こちらはカタルシスに欠けるのお。
解説に『シリーズ中もっともショッキングなシーンが』とあるが、まさかあのお上品な馬小屋での交合シーンのことではあるまいな。もしそうなら、ガックリだあ。
いずれにせよ、相当気合が入っていて第二作、三作の予告まで出ているが、ちと期待がでかすぎたか。
それと、訳題。やわな青春モノみたいだが、原題 The Silver Pigs=「銀の仔豚」で良いではないか!本文中にも何度も重要な小道具として「銀の仔豚」と表記されているのだからして。うーむ。森さん。60点。

「過剰さを取り除いた霞流一風」って誉め言葉かな。この本は後に廻そう。


9/27
HMM11月号購入

え?ぐやじい?また25日でHMMを購入しましたよ。

 今月号は、さほど(泣)

今回のポケミス復刊は全部で18冊。かなりのものが以前のベスト・セレクションとだぶりがあり、俺の見た目で(今回買おうと思っているのは)以下。
二巻の殺人 エリザベス・デイリイ
プレード街の殺人 ジョン・ロード(これは俺もリクエストした!)
ダーブレイの秘密 オースティン・フリーマン
雪だるまの殺人 ニコラス・ブレイク
金庫と老婆 パトリック・クェンティン
生まれながらの犠牲者 ヒラリイ・ウォー

 「雪だるまの殺人」は復刊前に読まねば。

今月の笠井潔は「前号の『隔離戦線』について」と題し、ついに身内にも牙をむいたぞ。

 おお。

あと、創元の新刊で「猿来たりなば」エリザベス・フェラーズ、「ひとりで歩く女」ヘレン・マクロイの二冊を購入。特に後者は帯に「超絶技巧の物語」とあり、是非すぐに読まねばという気にさせます。

 この2冊は即買いしました。

さあて、復刊ポケミスも札幌より早く買って来るか。

 どーせ、すぐ読めないんだし(泣) おお。



9/22  EQ9月号(2)

新連載のレックス・スタウトは、せめて次号まで待ってコメントします。

■ゲスト中編
「殺人者出帆」若竹七海
昭和三年の横浜が舞台。全裸殺人(男だよ)の手掛かりを求めて、欧州行き客船「箱根丸」上で展開される推理バトル。男を全裸にした謎は、87分署をフィーチャーした18年前のTV「裸の街」中のオリジナルエピソード「時の壁」のネタと同工異曲だが、工夫されている。少なくとも同時掲載の老匠の一人よがりな眼高手低品よりは、余程新進気鋭の昇り調子を感じる。★★

■シリーズ・オブ・ミステリーズ
「ひ弱な巨人」アーサー・ポージス
森氏(!)仲介のミドルビー教授シリーズ。90ポンド(40.8kg)のコンクリート塊で撲殺されたのは、ひ弱な16才の容疑者の母親。このとびきりヘビーな凶器を何度も振り下ろすことは、彼には不可能。ネタは氷の刃物的理科実験ものだが、こういう不可能興味のシチュエーションを演出する心意気や良し。★★

■傑作中編
「誤算」ジェフリー・スコット
風光明媚な避暑地に越してきた疲れた刑事が、ご近所の老嬢から何も盗まない泥棒について内密の調査を依頼される。気丈な老婦人の一人よがり振りが明らかになるにつれ、麗しき母娘の情愛にホロリ。ついでにサブストーリーの犯罪も暴かれ、ニヤリ。のどかな秋の午後、再放送で良いドラマを見た感じ。★★は、甘いかなあ。
「熱帯雨林燃ゆ」クラーク・ハワード
毎回ユニークな設定をするこの作者。今回はブラジルを舞台に山焼きのプロが現地のインディオらとの葛藤に悩みつつ、最後に溜飲を下げたつもりがホロ苦い結末に、しんみり。5月号訳載の「賭け」もそうだったが、ユニークな設定に置かれた主人公が短い紙数の中で実に生き生きと恋して悩んで、これまた良質の短編映画を堪能したが如き感じ。夜、ベッドに忍び込んで来るインディオの娘アプリが、大人の味で良いのだ。実にアメリカンな短編である。★★

後半、ちょっとホメホメおじさんに成り下がってしまったかな。と、反省しつつ成田さんの懐疑的なコメントを無視して、今号のマイベストは「アウェーでのプレイ」(フィル・ラヴゼイ)に決める。おっと、親父の新刊短編集も買ったきりまだ未読だ。ツンドクが増える中で、京極夏彦の新刊「塗仏の宴−宴の始末」も購入。いつ読むのだあ。
日本工業出版刊の専門紙「クリーン・テクノロジー」に20枚の原稿を執筆中。明日は休日返上でこれを完成せねば。ゆっくりした読書は週末まで無理か。



9/20
EQ9月号

■傑作ショート・ショート10+番外3
ショート・ショートは一発芸であるが、仕掛けも重要だ。単なるコントと名作として残るものの違いは、切れ味鋭いオチ(余韻深いオチもまた可)を導くプロセスが分かれ目となろう。
今回のEQ編集部のチョイスは、優に一冊の売り物が出来るレベルだ。但し、すれっからしの読者としては厳しくチェックするぞ。
(三つ★満点)。
「悪妻」フィリス・ディラー
米国喜劇女優の作とか。余技には見えぬ完成度だが、いつかどこかで読んだネタの変形に過ぎぬ。★1/2
「アウェーでのプレイ」フィル・ラヴゼイ
ピーター・ラヴゼイの息子の作。ケッ作!ショート・ショートの要素を全て凝縮した作品。タイトルにこめられたシニカル、ぬけぬけとした大胆なトリック。ダール「やさしい凶器」にも劣らぬ新規な発想。今回の断トツベストだぁ。★★★
「夜にうごめくもの」キャロル・ケイル
夜中にミミズを掘る偏執狂の夫の精神が壊れて行く話し。★1/2
「許容限界」ルース・レンデル
夫へ捧げる犯罪ネタ。プロバビリティを想起させるエンディングだが、少し軽いな。★
「カラスを収集する男」エドワード・D・ホック
ノン・シリーズものだが、鴉に纏わる連続盗難がこの場合必然的(ステロタイプの)オチへと終結する。★1/2
「野獣退治」ジェイ・マーフィー
妻の復讐ものだが、結末が恐いあるよ。後日談としての構成も効果を上げている。★★
「ランポールとXマス・パーティ」ジョン・モーティマー
ほのぼのとしたホレス・ランポールシリーズ。以前掲載されたXマスものほどは面白くない。★1/2
「プランタジネット」ジェフ・ブラウン
昨年創元で出た「最後の娘」を彷彿とさせる老いらくの狂気もの。この手の勘違いボケ老人は見るのもつらいな。★★
「きらめく鋏は鋭い痛みにも似て」E・J・ワグナー
哀しい。恐い。最後の夫のセリフが異常に効いている。タイトルは日本流に解釈すると”気違いに刃物”か。★★
「フィードバック」T・M・アダムズ
SFX映画ノリの一編。最新ハイテクシステムの部屋に閉じ込められた男の悲劇をシニカルに描く。★1/2
<ここから番外>
「アムステルダムの水夫」ギヨーム・アポリネール
1910年の作だから、古いのは否めないがフランス小噺になかったか、こんなの。★1/2
「呪われた家」エミール・ガボリオ
いかにも、うらぶれた居酒屋で語られていそうなこれまたフランス小噺。★
「カーニバルの殺し屋」ボアロー=ナルスジャック
新米ヒットマンのドキドキ初仕事もの。オチのセリフも痛烈で、なかなか。★★1/2

どうです。普通アンソロジーとか買っても、★〜★1/2位の作品しか期待出来ないのに、結構なレベルでしょ。

 まだ、全部読んでないけど、確かにレベルは高し。ラヴゼイは「やさしい凶器」を引き合いに出すほどのできかな。オチが読めてしまったし。夫と妻に捧げる犯罪ものでは、アメリカ的な荒野の孤独が生々しい「夜にうごめくもの」、語り口に工夫が凝らされている「野獣退治」が良かった。



【エラリー・クイーンの国際事件簿5】
「フォス警部最後の事件」エラリー・クイーン
どうしたことだ。ちゃんとオチがあるじゃないか!前四作に比べて、一番まとも。★1/2
【記念短編】
「豆畑に死す」リンゼイ・デイヴィス
これは光文社文庫での密偵ファルコシリーズ刊行記念短編。紀元前六世紀のギリシアでピタゴラスの殺人事件を推理する体力本位の男の話し。かの天才ピタゴラスを揶揄するトリックを絡ませて、意外なオチ(驚けない)を用意しているが所詮は短編の域を出ていないな。★1/2
*森英俊氏の作者インタビューは、この作家を知る入門としては適。読みかけのこのファルコシリーズは、快調な面白さ。
「パーディ氏の夢」ヴァルター・ハーマン
ドイツ産ショート・ショートB この狂気の夫は是非ローワン・アトキンスンにやらせたい。そんなお話。★★
【ゲスト中編】
「百物語」都筑道夫
ご存知なめくじ長屋もの。百物語の席での準密室状況から消失した女師匠が庭で首吊り死体で発見される、不可能犯罪。しかし、この人の評論やエッセイは大好きだけど、実作は本当に駄目だな。眼高手低(笑)。「退職刑事」もこの「なめくじ」も感心した試しがないのだ。趣向に工夫はあるが、面白くなきゃ結局な。本編も事後従犯やら、証言の落ちやらといった不可能状況の解答がつまらないのだ。★


森英俊氏の「世界ミステリ作家辞典」をひも解くと、今月号のクイーンの作品は同訳題で71年4月号のHMMに青田勝既訳があったのですね。早熟な成田さんはリアルタイムで手稲で読んでいたのでしょうか?時を経て実に27年ぶりに甦った訳だ。

 まだ、生まれる前ですので読んでるわけがありません(大嘘)。このクイーンのシリーズ、何を目的に書かれたのか、今ひとつ不明。

それにしても、森英俊の侵蝕ぶりはどうでしょう。今月号もさながら森英俊編集かと思える活躍。

<ベストセラーの秘密>
「ディック・フランシス」リチャード・ジョセフ
意外と不器用な人なのだということが判った。こんな創作方法で・・・、と一見心もとないがでもあれだけのものを毎年書くんだからな。成田さんはこの偉大な人の作品を一冊でも読んだことがあるのかな。

 また、俺につっこまないで。うちの本棚には、フランシスが結構並んでる。サイ君が好きなので。当方は、大昔に読んだ「興奮」のみ。フランシスに罪はないが、「男の誇り」などフランシスをめぐる言説が嫌い、っていうか。(重松清の「ドラえもん」評のパクリ)
 (最初に、「腐乱死す」、と変換されてビックリ。)

<続・欧米推理小説翻訳史>
「エラリイ・クイーン」長谷部親史
最終回ということで、御大の登場となった。ここで語られているエピソードは、大抵知っていることだが「紙魚殺人事件」の表紙写真などはビブリオマニアならずとも、興奮ものです。どうやら、「翻訳の世界」に連載した前編と併せて一冊の本になりそうだ。

残りは次回ね。ふう。



9/13
黒沢明追悼

偉大な監督の死を悼み(てな訳でもないが)、映画ミステリをば。
「ハワード・ヒューズ事件」ステュアート・カミンスキー (文春文庫)
実在の有名人を登場させる、ハリウッドが舞台のトビー・ピータースシリーズ邦訳4冊目。最近、文庫でリバイバルされ前作まで全て入手可になった。和田誠のイラストと詳細な訳註つき。
タイトルにもなっている今回の実在人物ゲストは、ハワード・ヒューズ。映画会社と飛行機会社のオーナーであり、「地獄の天使」の監督でもある。時代は開戦前夜。ヒューズ邸から、新型飛行機の設計図が盗難未遂、当夜のパーティ出席者の中から犯人を見つけて欲しいとの依頼を受けたピータース。如何にもの設定に美女が絡み、映画ネタでの味付けで仕上げている。
タッチは軽ハードボイルド。文字が大きく、イラスト満載ですぐ読める。際どい大人のジョークには切れのあるものの(セックス絡みのネタ)、ミステリとしてのギミックは弱い。ダイイング・メッセージあり、意外な犯人ありで体裁を整えてはいるが、この「喉切り隊長」的な唐突なオチには、失笑。55点か。

ところでぶ厚本のイアン・ランキンの前に森英俊氏絶賛の「探偵ファルコ 白銀の誓い」にかかる。EQ9月号に作者リンゼイ・ディヴィスの森英俊インタビューがあり。少しだけ読んだけど、おお。面白そう。



9/6
新刊評
「ど田舎警察のミズ署長はかなりの凄腕サ。」ジョーン・ヘス (集英社文庫)
HMM9月号の「買い手責任」が良かったので、このシリーズ第三弾を購入した。人口七百人の田舎町マゴティを舞台にしたコメディ・ミステリ。このタフなバツイチ女署長の猛母との掛け合いは、ジャネット・イヴァノビッチのステファニー・プラムシリーズ(扶桑社文庫「私が愛したリボルバー」「あたしにしか向かない職業」など)に似ており、所詮は亜流かと思ったらあれよあれよと面白くなる。お騒がせ町長がオーナーで開店した大型スーパーのオープニング当日に食中毒事件が起り、店内はゲロまみれに。まるで和歌山カレー事件を彷彿とさせるタイムリーな幕開きである。
えらい曲者揃いの中で噂が噂を呼んで駆け巡り、フォークロア的ドタバタ(石丸某の「噂を追い越せ!」を彷彿)は盛り上がるわ、久々に声を出して俺を笑わせた本分88ページ目の爆笑の掛け合いなど、お笑いモノとしては合格。
二つの事件の真相はやや満足行く程度だが、イヴァノビッチよりは本格モノとしてしっかりしている。何より、久々に笑わせてくれる点で上出来だ。75点。