映画のトップページに戻る
「レッド・ブロンクス」
紅番區/Rumble in The Bronx
1995年・香港
○監督:スタンリー=トン○脚本:エドワード=タン/ファイブ=マー○撮影:ジングル=マー○音楽:ネイザン=ウォン○製作:バービー=トン○製作総指揮:レナード=ホー
ジャッキー=チェン(クーン)、アニタ=ムイ(エイレン)、フランソワーズ=イップ(ナンシー)、トン=ピョウ(ビル)、モーガン=ラム(ダニー)、マーク=エイカーストリーム(トニー)、クリス=ロード(ホワイトタイガ―)ほか




  ジャッキー=チェンがついに、やっと、ようやく、なんとか、今さら…でアメリカ映画市場で認知してもらえた一作。この「レッド・ブロンクス」についてはどうしてもそんな宣伝文句がついてまわってしまう。90年前後にジャッキー映画にハマりまくっていた僕なんかにとっちゃ、またそれ以前からジャッキー人気が高かった日本のファンにとっちゃ「何を今さら」な話だったし、実のところ映画の出来についてもジャッキー映画の中でも特に上位とは思えず、「アメリカ人ってこんなんで喜ぶのか」と不思議がった記憶もある。
 まあとにかくこの一作がアメリカでヒットしたおかげで、それまで何度もアメリカ進出を狙っては果たせなかったジャッキーが宿願を果たし、「ラッシュアワー」などハリウッド映画にも次々と出るきっかけを作ることになった。それ自体はファンとしてもうれしかったが、「ラッシュアワー」シリーズをジャッキー自身はお気に召さなかったと聞いてるし、その後の経緯からするとアメリカで成功することが全て人生バラ色というわけにはいかないようでもある。

 この時期のジャッキーは自身で監督することはまれになり、自身はアクション演出に集中して、映画全体の監督は専業の人に任せている。好き嫌いは出るだろうが、僕自身はそうなっていたこの時期の作品が映画としてまとまりがよく傑作になってるものが多いと思っている。この「レッド・ブロンクス」を監督したスタンリー=トンはすでに「ポリス・ストーリー3」でジャッキーと組んでいて、香港映画の枠を超えたワールドワイドな映画作りで実績を上げている。この「レッド・ブロンクス」のあとにも「ファイナル・プロジェクト」(実際は「ポリス・ストーリー4」である)も監督して、これまたワールドワイドな娯楽大作に仕上げていて、この時期連続して起用されているのも「世界に通用する映画」が作れると見込まれていたからだと思われる。逆に言えばいずれもジャッキー主演ながらあんまり香港映画っぽくないんだよね。

 物語の舞台はニューヨーク。やっぱりアメリカ人にはアメリカを舞台にしなきゃ受け入れられないという算段だったのだろう。そしてそのニューヨークのブロンクス地区といえば昔から移民にして貧民が多く、犯罪率も高いことで知られる地区で、香港人を主役として悪漢どもと戦うストーリーの舞台としてはうってつけと言えば確かにそう。もっとも実際の撮影はカナダのバンクーバーで行われたそうで、知ってる人が見れば「こんなのブロンクスじゃない」というところは多いんだろう。まぁ映画とはえてしてそうしたもんですが。
 香港の刑事・馬漢強ことクーン(「強」が「クーン」)が、叔父の結婚式に参加するためにニューヨークにやってくる。年齢的にもすっかりオジサンの叔父さんのお相手がボリュームたっぷりの黒人女性というのも面白い取り合わせで、その叔父さんは結婚を機に経営していたスーパーを中国系女性のエイレン(演;アニタ=ムイ)に売却する。エイレンたちが商談をしているときに、クーンがマジックミラーとは知らずに鏡の前でいろんなポーズをして笑いをとるあたりはいつものジャッキー映画な感じ。このクーンとエイレンがくっつくのかな、と思ったら意外と違うんだよな。この映画のアニタはほとんどコメディリリーフ役だ。

 やがて叔父さんは花嫁と新婚旅行に出かけてしまうが、その留守にスーパーは暴走族たちに荒らされる。クーンは彼らをカンフーで叩きのめすが、そのために手ひどい報復も受けてしまう。近所に住む足の不自由な車椅子の少年ダニー(演:モーガン=ラム)はクーンになついていて、その姉ナンシー(演:フランソワーズ=イップ)は実は暴走族の一員。ダニーを通してナンシーと仲良くなったクーンは(キスシーンまである!)、彼女だけでなく暴走族連中も更生させようと奮闘する。
 アクション映画なので当然ながらこの暴走族どもとクーンが何度も激闘を交えることになるんだけど、さすがジャッキー映画、絶対に銃でドンパチなんてやりません。あくまで体と体のぶつかりあい、おしおきとして叩きのめすのであって、絶対に殺したりはしない。ジャッキー映画ではおなじみの手近な家具を次々と使って繰り出される軽業アクションも連発して繰り出され、特にソファと冷蔵庫を使う部分が秀逸。これは銃乱射ドンパチに慣れ切ったアメリカ人には新鮮だったんじゃないかと。
 ほかにも、これまたジャッキー映画の見どころのひとつ、身体を張った危険アクションも次々。走るバスをギリギリでよけるカットもなにげに凄いし、ラストのホバークラフトに引っ張られる水上スキーも驚かされる(NGカットで吹っ飛ばされてるのが確認できる)。一番ビックリするのは中盤、暴走族たちにビルの屋上に追いつめられて、隣のビルの非常階段踊り場へ飛び込みジャンプをするカット。あんなの失敗したらそれこそ大事故だよ!ちなみにジャッキー、このときほぼ40歳で、ぼちぼちアクション引退?説もささやかれていたころだ。

 映画は前半まではクーンと暴走族との、どこか牧歌的(?)なケンカ騒動で進んでいくのだが、途中からいきなりハリウッドのギャング映画ばりな人たちが話に乱入してくる。「ホワイト・タイガー」なるボスに率いられたマフィア組織が大量のダイヤ密売のためにブロンクスに乗り込んでくるのだ。彼らはそれこそいきなりドンパチ、エイレンがせっかく直したスーパーもまるごと破壊(この災難連続にはついつい笑っちゃうけど)とかなり荒っぽい。中でも暴走族のメンバーを破砕機(?)につっこんでミンチ状態にしてしまう(さすがに直接描写はないが…)というくだりは、敵方がやることとはいえジャッキー映画としてはかなりキツいシーンになった。
 それでもそれに対抗するクーンのほうは、やっぱり健康的かつ平和的(?)ないつものジャッキー節で、あくまで手と足を使って敵を叩きのめす。ガタイのいいマフィアの殺し屋相手に、まず手で、次にヘルメットで殴り、それでも応えないので次は巨大なスパナ(?)を手にしたら相手が泣き顔になって降参、ってあたりは実に安心して見ていられるジャッキー印。こういう味わいを後継してくれる映画人っているのかなぁ、と思う昨今。

 最後のクライマックスはホバークラフトを海上だけでなく、海水浴場、はては大通りにまで暴走させるという、大掛かりだけど笑えてしまう大アクション。それで終わりと思ったら、そのホバークラフトをさらにゴルフ場にまで乱入させて、ラスボス「ホワイトタイガー」を追い回して轢いてしまうというトンデモない展開に。轢くといっても、そこはジャッキー映画、命はとらずに背中ズルムケでベソをかかせるだけという、実に平和的な、子供っぽい「おしおき」であるところに心が和む。それじゃ何の解決にも…とツッコんじゃうのだが、こういうセンスも案外アメリカ人は喜んだのかもしれないんだよね。
(2015/10/23)


映画のトップページに戻る