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「野獣暁に死す」
Oggia Me... Domani a Te!
1968年・イタリア
○監督:トニーノ=チェルヴィ○脚本:トニーノ=チェルヴィ/ダリオ=アルジェント○撮影:セルジオ=ドフィツィ○音楽:フランチェスコ=ラヴァニーノ
モンゴメリー=フォード(ビル=カイオワ)、仲代達矢(ジェームズ=エル=フェゴ)、ウィリアム=バーガー(モラン)、ジェフ=キャメロン(モレノ)、バッド=スペンサー(オバニオン)、ウェイド=プレストン(ミルトン)、ダイアナ=マディガン(マイラナ=カイオワ)ほか




 イタリア製西部劇、日本で言うところの「マカロニウェスタン」の一本。70年代に世界的ブームになって量産されたが、粗製乱造状態になってあっさりブームは終わった。本作はそんな量産された「マカロニ」の一本で、内容的にもどうという出来ではないのだが、日本の映画ファンとしてはどうしても注目してしまう一点がある。そう、仲代達矢が出演しているのである。しかも悪役で。
 西部劇に日本人が乱入した例は三船敏郎がチャールズ=ブロンソン、アラン=ドロンと共演した「レッド・サン」の例もあるのだが、イタリア製西部劇に日本人が出演してしまった例はこれだけだと思う。ただし仲代達矢は日本人の役ではなく、インディアンのコマンチ族の血が混じった男、という設定。思えば「マカロニウェスタン」の元祖「荒野の用心棒」は日本映画「用心棒」の翻案で、仲代達矢はその「用心棒」でも悪役を演じていた。もしかすると本作にオファされたのはその縁で、ということなのかも。
 そんな映画があることは以前から聞き知ってはいたが、GYAOでひょっこり配信されていたので初めて鑑賞することになった。

 原題「Oggi a Me... Domani aTe!」は「今日は俺、明日はお前だ!」くらいの意味らしい。タイトルに示されているように、かなりストレートな「復讐劇」である。マカロニウェスタンに多かったドライでざらついたタッチはこの作品でも濃厚に見られる。
 映画は主人公ビル=カイオワ(演:モンゴメリー=フォード)が5年の服役を終えて模範囚として釈放される所から始まる。これからどうする、との問いにカイオワは「復讐」とだけ答える。彼が何に復讐をしようとしているのか、インディアンを思わせる「カイオワ」の呼び名ともども過去に何があったのかはなかなか明かされず、中盤になってようやく回想シーンで明かされることになる。

 復讐をする相手が仲代達矢演じる「ジェームズ=エル=フェゴ」。仲代達矢はかなり日本人離れした顔だと思うんだけど(ギリシャ彫刻にソックリなのがある、と週刊誌でネタにされてたっけ)、こうして西洋人に混じってしまうとさすがにバリバリの東洋人。そこで設定ではインディアンのコマンチ族の血を引くことになっていて、率いる強盗団の名前も「コマチェロ」という。その彼らを罵倒するセリフが「コマンチ野郎!」としか聞こえず、日本語字幕もそのまんまになってるのが笑える(笑)。映画版空耳アワーですな。
 若いころの仲代達矢なので、一見さわやか好青年なのだが、実は大変な極悪人。主人公カイオワの友人でありながらその婚約者のインディアン娘を犯した上に殺害(このシーン、さすがにストレートではなく婉曲的表現)、しかもその罪をカイオワになすりつけ投獄に追い込むという、トコトンまで悪い奴。そりゃあ主人公も復讐の鬼になりますわな。こんな徹底的な悪役、よく引き受けたなぁ、仲代さん。「用心棒」「椿三十郎」とカタキ役続きだったので、悪役専門俳優とでも思われたとか?

 主人公カイオワは復讐を果たすため、出所するとまず隠しておいた財産を持ち出し、その金で腕の立つガンマンを次々と集めてゆく。集められるガンマンたちはそれぞれ個性派で、保安官やってるのに逮捕して牢屋にブチこんでいた男を後継保安官に任命しちゃうやつとか、プレイボーイとか、イカサマギャンブラーとか、いろいろ。このあたり、どうも「七人の侍」の侍集めを意識したんじゃないかと思うんだけど(カイオワ含めて「6人のガンマン」になる。それで30人ぐらいの集団を相手にするところも似てる)、残念ながらその個性はストーリー中ほとんど生かされない。それぞれのキャラ自体はちゃんと作られているのだが、それぞれに活躍の場を与えるほど時間の余裕がないということもある。

 途中で6人のうちカイオワともう一人が敵につかまり拷問を受ける所なんかも「用心棒」に似てると言えば似てるし、クライマックスの主人公と仲代達矢の決闘が、じっと一分ほど(?)動かずににらみあってからようやく撃ち合いになるというあたりも「椿三十郎」くさい。仲代達矢をわざわざ呼んだのもやっぱりオマージュのつもりなのだろうか。
 せっかく日本人スターを呼んだんだから、ということなのか、決闘シーンなど仲代さんが登場する場面のBGMが「東洋チック」な感じなのだが、日本人が聞くとどうしても「中国風」な感じで…まぁ、向こうからみりゃみんないっしょに見えちゃうんだろう。(2012/8/11)



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