天の声2

ジャンル:ハードウェア
媒体:記録装置
発売元:ハドソン
発売:1989年8月8日
価格:2600円
商品番号:HC66-6


商品外見◆PCエンジン初のセーブ機器
 
 そのむかし「ゲームのデータはパスワードで保存」という時代があった。ファミコン時代を知ってる人にはおなじみだろう。そろそろその後の時代、「ゲームのデータはゲームソフトのカセット内に保存」という段階があったことを知らない世代が出てきそうな気がする。
 アドベンチャーゲームやRPGのような長時間のプレイが必要なゲームは途中でプレイを中断し、そのときの状態を保存しておき後でその状態から再開するという作業が必要になる。しかしフロッピーディスクなどの記録媒体があるパソコンならともかく、SRAMがまだまだ高価だった当時の家庭用ゲーム機では途中データをセーブをする方法など事実上存在しなかった。そこで編み出されたのがゲーム中断時点のデータを暗号化した「パスワード」による記録方法だ。中断時に表示されるパスワードを紙などにメモしておき、再開時にそれを入力することでゲームの継続が可能になる。調べたところこの方法を最初に採用したのは1985年8月発売のMSXのROMカセット版「ハイドライド」(T&Eソフト)だったとのこと。翌1986年に発売されたファミコン版「ドラゴンクエスト」(エニックス)の1作目が「復活の呪文」という形でパスワードによるデータセーブを採用しており、社会現象化が起こった「ドラゴンクエスト2」も同様で、この「呪文」のメモの紛失、読みづらい文字のため書きとめに失敗して「じゅもんがちがいます」と言われて泣きをみるなど、この世代のみが知る多くの悲喜劇を生み出すことになる。
 ゲームが大規模・複雑化してくるとパスワードは長くならざるをえず、限界はすぐに来た。そこでSRAMと電池をカセット内に組み込んでデータをバックアップするという方法が採用される。これも第一号はT&EのMSX版「ハイドライド2」のROMカセット版だったそうで、「ドラゴンクエスト」では「3」からこの方式が採られた。1980年代の末ごろには「ゲームのデータはカセット内に保存するもの」というのが常識になっていたと思う。

 その1987年に発売されたPCエンジンは「カセット内にデータ保存」という方式は最初から採用していなかった。なにせゲームソフト自体が「HuCARD」なる、まさに「カード」としか言いようのない薄型の媒体を使用していたため、その内部にバックアップ用のRAMを搭載することなど思いもよらなかったからだ(もっとも技術的に不可能ではなかったことは「天の声」バンク等をみると分かる)。そのため初期のPCエンジンソフトはセーブ機能が一切なく、RPGでは複雑かつ長大なパスワード(「凄ノ王伝説」なんか中断時の所持金やHPなどのパラメータを数字でそのまま入力させていた)を入力しなければならなかった。
 もちろんPCエンジン主催者であるNEC-HEとハドソンが何も考えていなかったわけではない。PCエンジンはその設計段階からCD-ROM媒体によるソフト供給を視野に入れており、CDそのものにデータをセーブできない以上、データセーブはソフト側ではなくハード側に搭載されたバックアップRAMを使って行おうと考えていた(なお、当時の雑誌記事を読むと「将来書き換えのできるCDが出る」とハドソンの中本伸一氏が語り、ゲーム機にこれを応用する可能性を示唆しているが、さすがに現在に至るまでこれは実行されていない)。じっさいPCエンジン最初のバックアップRAMは1988年12月に発売された初代「CD-ROM2システム」中の「インターフェイスユニット」内に搭載されている。

 HuCARDのみのPCエンジン環境向けにデータバックアップ装置が発売されたのは、ようやく1989年8月になってからのこと。意外にもNEC-HEからではなくハドソンから発売された、この「天の声2」がその最初のものだった。同時期にNEC-HEもバックアップ装置を開発していたはずで、同年11月にNEC純正の「バックアップブースター」として発売されるのだが、なぜハドソンに遅れをとったのかは不明。さらに言えばその直後の12月に「バックアップブースターII」を出すといったよく分からない商品展開もやっている。
 気をつけなければいけないのはこれらバックアップ商品が発売される以前のソフトは基本的にデータセーブができないこと。説明書表(パッケージ表を兼ねる)「バックアップメモリ対応」のロゴが入っているソフトだけがこれらバックアップ装置を使うことができ、一部のHuCARDソフトで「天の声2」発売前に出たものでも対応している場合がある。

 さてようやく本題の「天の声2」である。まずこの妙な商品名について。
 まず「天の声」というネーミングの由来は、同社がファミコンで出し、PCエンジンでも看板の一つになっていた傑作RPG「桃太郎伝説」にある。ファミコン版「桃太郎伝説」は「ドラクエ」同様にパスワード制を採用していたのだが、「ドラクエ」が「ふっかつのじゅもん」であるのに対して、和風な世界観に従って「てんのこえ」と名づけていたのだ。
 では「2」とは何なのか?僕なんか最初「2というからには1があったのか?」と思っていたのだが、ハドソン公式の説明によると「セーブ容量が2キロバイトだから」だそうな。それにしてはピンとこないネーミングなのも事実で、シリーズものを装って「なんとなく新しい雰囲気」を出そうと狙ったものじゃないかと思う。

合体状態 この「天の声2」は、写真のようにPCエンジン本体の後部端子にがっちりと接続、よいうよりむしろ「合体」して使用する。「天の声2」内データ保存のための電力は単3電2本池によって供給され、電池が切れかかると赤ランプが点灯し、すぐに電池換えをすればデータは保存される仕組みだ。しかしこのためPCエンジン本体とは別電源となって大型で重くなり、少々邪魔にもなっている。
 また「バックアップブースター」とは異なりAV出力機能はもっておらず、初代の「白PC」で使用した場合は「AVブースター」との併用は不可能のためAV出力は断念しなければならなかった。その代わり「コアグラフィックス」および「コアグラフィックスII」といったAV出力搭載のPCエンジン本体には無駄なく接続でき、かつ価格も下げられるという大きなメリットもあった。

 NEC-HE純正の「バックアップブースター」シリーズと記録容量は変わらず、それでいて価格はその半分程度に抑えられていたため、「天の声2」は爆発的に普及した。2kバイトという容量では多くのゲームをプレイしているとあっという間に不足してしまうため、複数個所有するユーザーも少なくなかったと言われる。また取り外し・持ち運びが容易なため、ゲームのデータを友達の家に持っていく、あるいは自宅に持ち帰る、あるいは交換するといった遊び方が可能となった。
 おかげでPCエンジンの記録装置のスタンダードの地位はNEC−HE純正ではなくこの「天の声2」が占めてしまう結果にもなった。CD-ROM主流時代となってからは「天の声2」の役割は終わるが、「天の声バンク」(91年9月発売)がより便利な形でその役割を引き継いでいる。
 

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