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投稿時間:2013/01/10(Thu) 22:34
投稿者名:Ken
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著書紹介シリーズ(1) 「アシモフ選集/物理編」
ファンの間でもあまり知られていない、アジモフの著作を紹介してゆこうと思います。第一作目は、先日、伝言板で言及した「アシモフ選集/物理編」(Understanding Physics)です。伝言板でも言いましたが、この本は、物理の授業についてゆけなくて苦しんでいる高校生・大学生に是非推奨したい良書だと思います。


はじめに、2012年4月11日付の日経新聞電子版の記事を紹介しましょう。

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http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1100T_R10C12A4CR0000/
2012/4/11 日経新聞電子版

 大卒者の就業状況と入試の関係を調べたところ、文系学部で数学を受験した人の方が年収が高く、大企業に就職する比率も高いとの調査結果を京都大、同志社大、立命館アジア太平洋大のチームがまとめた。
 理系学部については受験ではなく、高校時代の得意科目を調べたところ、物理と答えた人が同じ傾向だった。
 京大の西村和雄特任教授(数理経済学)は「理科離れが進んでいるが、理数系が重要なことを知ってほしい」と話している。
 チームは昨年2月に実施したインターネット調査で、24〜74歳の大卒者1万3059人から回答を得た。
 その結果、文系学部出身で受験科目が数学だった人の年収は数学を受験していない人よりも平均約90万円高く、最初の就職先が大企業である比率や、係長以上の役職に就いている比率も高かった。
 理系学部出身で物理が得意な人は、生物が得意と答えた人よりも平均約80万円、化学よりも平均約70万円高かった。〔共同〕
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 なかなかに興味深い記事ですね。
 理科の中で、生物や化学よりも物理ができると収入が多い、つまり労働市場で評価されるというのは、どういうことでしょう?

 ある分野の知識が評価される場合、最も考えられる理由は、その分野が日進月歩しており、恒常的に最新知識が求められることですが、これは、私たちが一般的に考える物理学には該当しません。いま最も進歩が激しいのは、IT(情報技術)やバイオの分野であって、物理などはむしろ成熟した科学といえるでしょう。たしかに、物理にも最新の研究成果はあります。2011年の話題をさらった「ヒッグス粒子」などその典型ですが、日経記事がいう、収入に有利な物理知識とは、そういうものではないでしょう。だって、宇宙の起源の秘密に迫ったところで、それが企業に役立つわけではありません。

 日経記事のいう物理知識とは、もっと古典的なもの、各種力学や電磁気学、せいぜい20世紀の前半に確立された、原子論に関するものでしょう。科学者の名前でいえば、17世紀のニュートン、ホイヘンス、フック、18世紀のベルヌーイ、オイラー、19世紀のフーリエ、マクスウェル、ボルツマン、20世紀前半のシュレーディンガー、ハイセンベルグなど。こういう人々の理論を学生時代に習得していることを、社会は求めているのです。

 でも、なぜ、そんな古い知識が評価をされるのでしょうか? 例えば20世紀前半の生物学を考えてみてください。当時の人は、遺伝子の正体が染色体中のDNAということさえ知りませんでした。そんな時代の知識だけ持っていても、今の社会で専門家にはなれません。19世紀以前の知識なら尚更です。物理だけが特別なのです。

 その理由をひとことで言えば、「物理はむずかしい」のです。何世紀も昔から知られていることでも、きちんと理解できる人は、化学や生物と比べてずっと少なく、それが稀少価値として評価され、高収入に繋がるのでしょう。ですから学生、特に初めて物理を学ぶ高校生にとって、最も取っ付きにくい科目となっています。これに恐れをなして、機械や電気など、物理が必要な学科への進学をあきらめたり、進学しても講義についてゆけない大学生が珍しくありません。

 難解だけれども、身につければ人生の武器となる物理学を、どうにかして高校生、大学生に習得してもらおうと、いろいろな解説書、教養書、参考書が世に出ていますが、今回はアジモフが1966年に発表した「Understanding Physics」という本を紹介します。日本では「アシモフ選集/物理編」全三巻として翻訳出版されました。残念ながら絶版になっていますが、ネットで検索すれば、簡単に購入できます。

 なぜ、そんな古い本を? と思われるかもしれません。たしかに今の私たちから見ると、最近の半世紀の諸発見が抜け落ちており、現代に通用しない部分もあります。(特に素粒子を扱う第3巻)。ですが、上で述べたように、物理の知識として求められる大半は、実は19世紀以前の発見で、学生の皆さんがつまづくのもここなのです。そして、アジモフという人は、一種の教育の天才で、難しいことを分かり易く本質を理解させる才能が特に優れています。その対象は自然科学に限らず、歴史、文学、数学、言語など、驚くほど多岐に及び、長年に渡って、世界の人々を啓蒙しました。ここは一つ、最大の難科目、物理の教育に貢献してほしい、そう思って上記の書を紹介することにしました。

 前置きはこれくらいにして、次回から、本書の具体内容を紹介しましょう。

投稿時間:2013/01/12(Sat) 00:58
投稿者名:Ken
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著書紹介シリーズ(2) 「アシモフ選集/物理編」
 まず、物理がどれだけ厄介な科目であるか、例を挙げて説明します。そしてアジモフ先生が、本書の中でそこをどう説明してるかを紹介します。例として「単振動」を取り上げましょう。

 こういうケースを想像してみてください。おもりが1つ天井から吊り下げられています。ただし吊り下げているのは紐とか糸ではなく、伸び縮みする「ばね」。初期状態では、おもりは動くことなく、静かに吊り下がっています。このおもりを少し下向きに引っ張ってから離すとどうなるでしょう? はい、そうです。ばねが伸縮しながら、おもりが上下に振動しますよね。この時、おもりの振動1回分、例えば、ばねが一番伸びた低い位置から一番高い位置まで上昇し、また一番低い位置へ戻ってくるまでの所要時間は、おもりの質量とばねの強さで決まり、式で表すと、次のようになります。

 1回振動する所要時間 = 6.28 × (おもりの質量 ÷ ばねの強さ)のルート

 ルートとは耳慣れない言葉かもしれませんが、4のルートは2、9のルートは3、というふうに、その数を2乗したら元の数になるような数字です。16のルートは4ですね。

 例えば、おもりが1キロ、ばねの強さが4だとしましょう。ばねの強さが4というのは、例えば8の力で引っ張ったら、元の長さより2メートル伸びるようなばねの強さは、8 ÷ 2 = 4というわけです。物理では力の単位を「ニュートン」といい、8の力とは8ニュートンの力という意味ですが、今はこんなこと気にしないでけっこうです。同じ力で引っ張っても、強いばねほど伸びる量は小さくなります。8の力で引っ張って1メートルしか伸びないばねの強さは、8 ÷ 1 = 8ですね。このばねは2倍強いのです。

 そこで、上の式に数値を入れると、3.14秒で1回振動することが分かります。

 1回振動する所要時間
  = 6.28 × (おもりの質量 ÷ ばねの強さ)のルート
  = 6.28 × (1 ÷ 4)のルート
  = 6.28 × (0.25)のルート
  = 6.28 × 0.5
  = 3.14 (秒)

 0.25のルートは0.5、つまり0.5 × 0.5 = 0.25であることは分かりますか? 0.5をかけるのは、2で割るのと同じだから、2で割って0.25になる元の数は0.5ですよね。

 もしもおもりが2倍の2キロだったら?

 1回振動する所要時間
  = 6.28 × (2 ÷ 4)のルート
  = 6.28 × (0.5)のルート
  = 6.28 × 0.71
  = 4.44 (秒)

 0.5のルートはきっちり割り切れる数ではありませんが、約0.71です。0.71を2乗するとほぼ0.5になるでしょう? 計算結果は、1回の振動に4.44秒。おもりが重いほどゆっくり振動するのは、感覚的にも納得できますよね。それでは、おもりは1キロのままで、ばねの強さを2倍の8にしたら?

 1回振動する所要時間
  = 6.28 × (1 ÷ 8)のルート
  = 6.28 × (0.125)のルート
  = 6.28 × 0.358
  = 2.27 (秒)

ばねが強い方が、すばやく振動するのも、感覚的に納得できるでしょう。

 でも、なぜ

 1回振動する所要時間 = 6.28 × (おもりの質量 ÷ ばねの強さ)のルート

なのでしょうか? これを3通りの方法で説明します。1番目は物理のテストで答案に書くような形。ただし、この形で書いても、それこそ物理をすでに知ってる人にしか分かりません。2番目は、1番目のやり方を踏襲しながら、可能な限り、分かり易い形で解説してみます。例えば、学校にものすごく親切な先生がいたら、こんな具合に教えてくれるのでは、と想像しながら書きました。1番目の説明よりは分かり易いでしょうけど、やはりまだ難しいはずです。この2つの説明によって、物理学がどれだけ厄介なものかということを、実感してみてください。

 3番目に、アジモフ先生が、どういう形で説明しているかを紹介します。

投稿時間:2013/01/13(Sun) 22:11
投稿者名:Ken
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著書紹介シリーズ(3) 「アシモフ選集/物理編」
さて、ここからの話は、本格的な物理の説明になり、どうしても図表と最低限の数式が必要です。残念ながら、本掲示板では使用できないので(できませんよね?)別サイトに置いたpdfファイルで続けます。どうか、こちらを参照してください。

http://onefortheworld.web.fc2.com/direc_1/und_phy_1.pdf

投稿時間:2013/01/14(Mon) 23:24
投稿者名:Ken
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著書紹介シリーズ(4) 「アシモフ選集/物理編」
さぁ、いよいよ、アジモフが単振動の所要時間の計算をどのように説明しているかを紹介します。先に説明した教科書の方法よりどれだけ分かり易いか、実感してみてください。

 ひとこと断ると、アジモフは本書の中で、エネルギーから振動解析へ至るまでの説明を、数十頁を費やして行っていますが、その内容を、ここではずっと簡潔に紹介するため、一部に私(Ken)自身が思いついたサンプルをはさんでいます。例えば、アジモフは、下で述べる発電の話などはしていません。ロジック自体はアジモフを踏襲しつつ、説明効率を良くするための工夫だと、考えてください。


 アジモフの説明は、教科書に載っているものと大きく異なり、エネルギーのつり合いを用いています。そこで、まず、エネルギーの話をしましょう。

 そもそも「エネルギー」とは何でしょうか? 「エネルギー政策」という言葉が新聞紙面に登場します。よく知られた例では、発電所でどうやって発電するのか。石油を燃やすのか(火力発電)、ダムの水流を使うのか(水力発電)、風車を使うのか(風力発電)、火山の熱を利用するのか(地熱発電)、それとも原子炉を稼動させるのか(原子力発電)。利用される「エネルギー」はこのように多様でも、行う仕事は1つ。発電機を回すことです。つまり、発電機を回すような物理的な仕事を行うときに使われるもの、それが「エネルギー」です。そして、エネルギーには上のようにいろいろな形態がありますが、物理学の視点でも、少し異なる意味で、多様な形があるのです。

 例えば、水力発電や風力発電を考えてみましょう。これらは、水や空気が動くことで、仕事をするでしょう。発電所の発電機よりもはるかに小型ですが、手でハンドルを回す発電機もあります。平賀源内の「エレキテル」もそうですね。いずれも、水や空気や手のように、質量を持つ物体が動く(つまり速度を持つ)ことによるエネルギーで、これを「運動エネルギー」といいます。

 次に、水力発電のことをもう少し考えてみてください。川の水をダムでせきとめ、急角度で落としますね。これは、落とす前の水が高い位置にあるから可能なことです。そこで物理学では、高い位置にある物体は、高い位置にあるがゆえに、利用可能なエネルギーを内包しているのだという考え方をします。厳密に言えば、物体が高い位置にあるだけでなく、それを低い位置へ動かす力(この場合は重力)があるからこそ、このエネルギーは現実の存在となります。無重力の宇宙空間にダムを作っても、そもそも水が流れませんからね。このようなエネルギーを「位置エネルギー」といいます。水力発電では、元々位置エネルギーを持っている水が、低い位置へ移動する(つまり位置エネルギーを減らす)過程で、運動エネルギーが増大し、発電機を回すのです。位置エネルギーが運動エネルギーに姿を変えたと、解釈してもよいでしょう。

 位置エネルギーの1形態に、ばねに蓄えられるものがあります。自然な長さよりも伸びたり縮んだ状態のばねは、元の長さへ戻ろうとするし、実際に戻る時には速度をもつでしょう。このようなばねには、位置エネルギーが蓄えられているのです。

 「熱エネルギー」というのもありますね。地熱、火力、原子力発電はこれを利用する。つまり火山活動、燃焼、核分裂により発生する熱で水を沸騰させ、膨張する蒸気で発電機を回します。他にもエネルギーの種類はありますが、今はこれくらいにして、ここでひとつ、おもりを吊り下げて振動するばねのエネルギーを考えてみましょう。

 最初にばねを引っ張った状態を考えてください。おもりは静止しているから、運動エネルギーはゼロです。一方、ばねは最も引き伸ばされてるから、位置エネルギーは最大です。すなわち、

[ばねが最も伸びたとき] 運動エネルギー=0、位置エネルギー=最大

 ここで、おもりを離すと、ばねの力でおもりが引っ張り上げられます。落下する物体の速度が、重力の力でどんどん増大するように、ばねに引っ張られるおもりの上昇速度も速くなってゆきます。ただし、重力による落下とは異なる点があります。地球上の重力は一定の強さをもち、落下速度は時間が経つほど際限なく増大します。ところが、ばねがおもりを引っ張り上げると、ばねの長さが、最初に引っ張る前の自然な長さに近づいてゆくでしょう。これは、ばねが「ゆるむ」わけだから、おもりを引っ張る力は、それだけ弱まります。それでも、ばねが自然な長さになるまでは引っ張り続けるので、おもりの上昇速度は増大しますが、自然な長さまで戻ったら、そのときの速度が最大で、それ以上の加速はありません。このときのエネルギー状態は、

[ばねが自然な長さのとき] 運動エネルギー=最大、位置エネルギー=0

逆に、そこを超えて上昇すると、ばねの自然な長さよりも縮むので、今度はおもりを押し返す力がはたらき、速度にはブレーキがかかってゆきます。減速したおもりの速度がついにゼロになるのが、振動の上昇限界点です。これは、ばねが最も縮んだ状態だから、エネルギーは、

[ばねが最も縮んだとき] 運動エネルギー=0、位置エネルギー=最大

 途中の状態では、運動エネルギーも位置エネルギーも存在します。ただし、速度は自然な長さのときの最大値よりも小さいし、ばねの伸び縮みも上下両端での最大値よりも小さい。ばねが上下両端から自然長へ向かうときは、運動エネルギーが増大し、位置エネルギーが減少する。自然長から上下両端へ向かうときは、その反対です。

 水力発電ダムなら、水の位置エネルギーが一方的に運動エネルギーに変わるだけですが、ばね振動の場合は、両者が交互に増えたり減ったりするのです。

 次回は、エネルギーの具体的な計算方法、そこからアジモフ流の単振動解析を説明します。

投稿時間:2013/01/17(Thu) 21:53
投稿者名:Ken
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著書紹介シリーズ(5) 「アシモフ選集/物理編」
今回も、図と数式を含むので、pdfで提供します。

http://onefortheworld.web.fc2.com/direc_1/und_phy_2.pdf

投稿時間:2013/01/18(Fri) 01:05
投稿者名:Ken
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著書紹介シリーズ(6) 「アシモフ選集/物理編」
 単振動の解析を行う方法として、普通の教科書に載ってる方法と、アジモフの方法を紹介しましたが、きっと100人中99人まで、アジモフの方が分かりやすいと言われると思います。決定的な違いとして、アジモフの方法には微分方程式がありません。見ただけで腰が引けるような難解な表記がないから、学習者にとってずっと入りやすいはずなのです。ではなぜ、普通の教科書では同じような説明の仕方をしないのでしょう?

 それは、アジモフの方法では科学的な厳密さを欠いているからです。この説明のポイントは、ばねによるおもりの振動が、円運動の投影写像と同じであることですが、アジモフが言うように、真ん中辺りでは速度が大きく端の方では小さい、というだけでは、円運動以外にもいろいろな場合が考えられ、必ず円運動の投影写像であるという証明になりません。一方、教科書の方は、微分方程式を解くことで、振動がコサインのような、円運動の写像になることを示しています。これが、科学的証明というもので、アジモフ先生は、はっきり言えば、ロジックを誤魔化しています(笑)。

[教科書の説明]
微分方程式を解く → おもりの運動はコサインになる → コサインは円運動の写像である
[アジモフの説明]
振動の速度は、真ん中では大きく、両端では小さい → 円運動の写像に似ている

 似ているのと、実際にそうであることは、同じではありません。

 でも、ここで考えたいのは、初めから難解な数式で説明をしていたら、物理の面白さに触れる前に投げ出す人ばかりにならないでしょうか? まずは、最も感覚的に分かり易い方法で全体把握をしてもらい、あとから厳密な話をするのは、教育的見地から悪いことだとは思えません。アジモフは巻末に、この本を読み終えた人への推薦図書として、『ファインマン物理学』を挙げていますが、理数系大学生を相手に書かれたファインマンでは、各物理現象への、きっちりと厳密な説明がなされているし、アジモフ当人は、間違いなくファインマンを読んでいます。要するに、物理が宿命的に持つ入り難さ、入り口の障壁の高さを和らげて、物理の世界に入ってほしい、というのがアジモフ先生の意図でしょう。説明のロジックは厳密ではありませんが、記述する内容自体は正しいのです。円運動の写像と単振動は、たしかに同じものです。

 もう一つ考えたいことは、科学や数学の歴史を見ると、決して厳密な証明のみを積み重ねて発達してきたのではなく、経験的、感覚的な知見が先行して、厳密な証明は後からもたらされた例が少なくないのです。これは純粋な論理の世界である数学ですらいえることです。例えば、ピタゴラスの定理を思い出してください。直角三角形の斜辺の2乗は、他の2辺それぞれの2乗を合算したものに等しい。このこと自体は、紀元前6世紀のピタゴラスよりも、さらに千年以上も前から、経験的に知られていました。それを厳密な論理で証明したのがピタゴラスです。(まぁ、一般的な歴史ではそうなってます。)ニュートンだって、リンゴが木から落ちるのを見て万有引力の存在を認識し、あとはそれを証明するため惑星の動きを詳しく分析して、私たちに馴染みの方程式を導きました。科学者であるとともに、博識の歴史家でもあるアジモフは多くの科学エッセイを書いてますが、それは大抵、発見の過程を辿るという、歴史書の形体をとっています。つまり、本書のような構成の方が、人間の自然な思考経路に沿っているといえるでしょう。

 科学的厳密さをある程度犠牲にして、感覚的な入り易さを優先した本書のような作品が、物理の教科書として学校で用いられるのは難しいでしょう。(おそらく検定を通らないはず。)しかし、せっかく人生の成功につながる物理の知識を、最初の壁が高いばかりに、あきらめてしまう人たちが多すぎる現実を考えると、こういう入門書を「突破口」にすることを、ぜひ勧めたいと思います。あくまでも「突破口」ですよ。本格的な物理の勉強には、教科書が必要なのは、いうまでもありません。

『アシモフ選集/物理編』の紹介は以上です。


PS:
『ネメシス』や『ミクロの決死圏2』など、アジモフ晩年の小説には、ずいぶんと物理学が出てきますねぇ。でも「プランク定数」なんて言葉がいきなり登場しても、どれだけの読者が知ってるのでしょうか? 『アシモフ選集/物理編』を、あらかじめ読んでおけば、小説の中で何を言ってるのか分かるから、より楽しめると思います。