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投稿日: 2011/01/13(Thu) 22:37
投稿者Ken
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タイトルID論争 (1)

 それでは、こちらでIDの話をしてゆきます。発表の場を提供してくださった徹夜城さんに感謝します。

 冗長とも見える基本的な話からしてゆきますが、その理由は、米国でのID論争をみていると、ID論は非常に誤解されやすい主張であると思われること、またオープンなネット掲示板なので、進化論の知識も千差万別な人が見ていると思われるからです。初回は、そもそもダーウィンの進化論(ダーウィニズム)とはどういう考えであるかを、説明します。もちろん、学校等で習って先刻承知の人が多いでしょうが、IDを論ずる上での基礎ですので、どうか我慢して読んでみてください。

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 18世紀のヨーロッパで、いわゆる「啓蒙思想」が普及すると、神の存在を否定する考えも台頭した。これに対し、神の存在を「証明」するとして提議されたのが、有名な「時計作りのアナロジー」で、言い出したのは英国のペイリーである。

「君が道を歩いていて、時計が落ちているのを見つけたとしよう。君は、当然、その時計を作った者がいると思うだろう。時計のぜんまいや歯車、振り子や文字盤などが、ひとりでに出来て、時計に組みあがるなどありえないからだ。ところで、生物は、どんなに単純な原生生物でも、時計よりずっと複雑な構造を持っている。ヒトのような高等生物なら尚さらだ。単純な時計ですら、ひとりでには出来ないのだから、はるかに複雑な生物が出来るはずがない。必ず、意思を持つ創造者がいるはずではないか」

 というものである。
 ダーウィンとウォレスが提唱した進化論は、この「神の存在証明」に対する、無神論からの回答であった。その根幹をなすのは「突然変異」と「自然選択」である。

 例えば、ここに鹿に似た動物の一群がいて、主に木の枝に生える葉を食べて生きている。たくさんいる中に、ときたま変わった形質を持って生まれる突然変異体がある。特別に足が短かったり、ひづめがなかったり、アレルギー体質だったり、骨が歪んでいたり、と。厳しい野生の環境で、こういうハンディをもって生まれると、生存は極端に困難で、大半は子孫も作ることなく死んでしまう。

 ところが突然変異には、まれに有用なものがある。例えば、首が他の鹿よりも10センチほど長い個体が現われたとする。これはハンディどころか、他の鹿が届かない高さの葉まで食べることができ、生存競争で有利に働く。たかが10センチと思ってはいけない。野生動物は産児制限をしないから、その環境の限界まで個体数が増え、結果として個々の個体は常にギリギリの状態で生きている。いわば、慢性的な飢餓状態といってよい。そういう中では、10センチの差が生死を分けたりするものである。

 こうして優位に立つ「長首」の鹿は、生存の確率、ひいては多くの子孫を残す確率が高くなる。その子孫たちは「長首」の遺伝を受け継ぐから、やはり「長首」になるだろう。そして初代と同じ理由で、他の鹿よりも優位に立ち、より多くの子孫を残す。こうなると、「長首」でない鹿たちは、「長首」との生存競争に敗れ、数が減ってゆく。何世代かすると、一頭もいなくなり、「長首」だけが残る。すると、今度は「長首」の個体同士で生存競争が起こる。やがてその中の一頭に突然変異が起こり、さらに10センチ(元々の鹿よりも20センチ)首が長い個体が現われるとする。一度目と同じことが繰り返され、20センチの長首だけの群れになってしまう。こういうことが数千万年も続くと、ついに、元々の鹿とは似ても似つかない、キリンのような動物が登場する。

 上は、身体のサイズが変わる例であるが、身体構造自体が変わる例もある。

 心臓とは血液を送り出すポンプである。心臓から肺へ送られた血液は、肺が吸い込んだ空気から酸素を溶かし込んで心臓へ戻ってくる。その酸素豊富な血液が、こんどは身体各部へ送られ、生命活動を為す各種の化学反応で酸素が消費される。低酸素となった血液が心臓に戻ってくると、再び肺へ向けて送られ、同じサイクルが繰り返されるのである。

 さて、生物の中でも、哺乳類と鳥類の心臓は優れた構造を持っていて、血液を肺へ送るものと肺以外の全身へ送るものの二種類のポンプが備わっている。トカゲなど爬虫類の心臓はそうではなく、一種類のポンプしかない。このため、せっかく酸素を溶かし込んで肺から戻ってきた血液が、心臓の中で低酸素の血液と混ざってしまい、全身を回る血液の酸素濃度が、哺乳類や鳥ほど高くない。このため全体の身体機能が劣り、何よりも哺乳類や鳥のように、体温を一定に保つことができない。

 哺乳類も鳥類も、爬虫類から枝分かれして進化したのだから、元々は一種類のポンプだったのが、ある時、偶然の突然変異で二種類のポンプを持つ心臓を獲得した。獲得してみると、これは生存競争の強力な武器となり、これを持つ生物を繁栄させることになった。太古の地球には非常に大型の爬虫類もいたのだが、哺乳類との競争で淘汰され、今ではトカゲやヘビとして、細々と生きる存在になった。

 このように、ダーウィニズムとは、全く偶然に起こる突然変異の中に、生物にとって直ちに有利をもたらすものがあり、それを持つ個体が「自然に選択」され、それが何度も繰り返されることで、ついには、時計などよりはるかに精密な構造が現われたのだ、とする仮説なのである。

 19世紀に自然選択が提唱されると、人々はその一実例が、目の前で起こっていることに気づいた。当時、産業革命が進行して工場がさかんに煤煙を吐いていたが、その中で、黒っぽい蛾が増え、白っぽい蛾が減っていることが確認されたのである。煤煙に煤けて黒くなったのではない。生まれたときから黒い蛾が増えていたのだ。理由は、町全体が煤けて黒くなったため、蛾の黒い色が保護色となり、鳥に襲われにくくなったためである。

 20世紀の中頃になると、生化学の面でダーウィニズムはさらに補強された。いわゆる「遺伝子」の正体が、染色体中のDNA配列と判明したのである。DNAには4つの種類があり、その並び方で生物の体の作り方が決まる。DNA配列は生殖細胞(卵子と精子)を通じて親から子へコピーされるから子は親に似るのだが、このコピーの仕組みは精密なもので、数万個ものDNA配列が忠実にコピーされる。ところが・・・・

 ・・・・この精密なコピー機能をもってしても、「コピーミス」を完全に防ぐことはできないのである。そして、ごくまれに起こるコピーミスこそが、上記の突然変異となって現われる。生物は時計などよりはるかに精密な機械だから、ランダムに起こるコピーミス(=突然変異)は大半が機械としての不良品を作り、ごく僅かな例外のみが「改良品」たる幸運に恵まれる。ただ、厳しい生存競争の中で、不良品はただちに淘汰され、改良品はただちに優位に立つ。このため、長い期間で見ると、どんどん改良が進むことになるのである。
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 今回は、ダーウィニズムについて説明しました。冒頭に挙げた「時計作り」の話、そしてダーウィニズムが「自然選択」という仮説でこれを覆した、という点が特に重要ですので、覚えておいてください。
 次回は、自然選択と並ぶもう一つの進化の形態、「人為選択」について、お話します。


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