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投稿日: 2011/01/18(Tue) 00:18
投稿者Ken
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タイトルID論争 (5)

 IDに対して、ダーウィニスト達は、どういう反応をしているのか。また、反論をしているのか。その話をします。

 ひとつ断らねばならないのは、ここからの話は、世界で行われている論争をすべて網羅しているとはいえないということです。これまでに述べてきたこと、例えばベーエ教授の論説などは、それを紹介しているサイトを見れば、ほぼ正確に把握できます。しかし論争となると、いろいろな人が、いろいろな所でやっているもので、そのすべてをチェックすることは、私(Ken)個人の能力に余ります。また世界の学界は、IDを「疑似科学」と決めつけ、シンポジウムの対象にもしないので、体系的に是非が論じられることもありません。いわば、言いたいことのある人が、雑多な機会に、言っているだけです。

 これから述べるのは、私個人が見聞したことで、情報源は、インターネットの記事や、米国のTV番組、さらに私の個人的な友人だと了承してください。それと、あくまでも私見ですが、内容への批評を加えておきます。

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 IDに対するダーウィニズムの反応で、私個人が見聞きしたものは、次の5つに分類できるようだ。

(1)宗教論は相手にしない
 数の上では、この反応が最も多い。IDとは、ダーウィンにやりこめられた「創造論」が形を変えて復活したもの。ユダヤ・キリスト教の神の存在を匂わせる疑似科学で論ずるに値しない、というもの。
[私見]
 これって議論を逃げてないか? ID論は(少なくともベーエ達の議論は)、実際に起こった進化を観察して、その過程が自然か人為かを論じようとしているのだ。確かに多くのID論者の肚づもりは、神の存在を示唆することにあるのだろう。しかし、論旨が科学的手法で提議される以上、同様の姿勢で対するべきであり、相手の動機を理由に、論旨自体を排除するのは科学者の態度ではない。ダーウィンが進化論を提唱した時、教会を中心とする保守派は、ダーウィンを無神論者、西欧文明の破壊者呼ばわりして、それだけの理由で進化論を貶めたものだ。それから1世紀以上が経過し、今や攻守が逆転して、かつての教会と同じことを、ダーウィニスト達がやっている。

(2)IDは危険思想
 基本的に(1)と同じだが、より積極的な非難を向けており、IDとは人々の無知を煽り、愚民化することで、社会の進歩を逆流させようとするもの。
[私見]
 そこまでの悪意があるものか。少なくともIDを支持する私の友人は善良な人々で、みずから信じるところを述べているだけである。いずれにせよ、科学の議論に「危険思想」などという視点を持ち込むこと自体、ナンセンスである。危険思想とは、社会や人民にネガティブな影響を与える、という意味だろうが、科学的真実とは、そういう「人間の都合」からは独立したものである。
 ついでに言えば、「優勝劣敗」「適者生存」を説くダーウィニズムこそ、弱者切り捨ての危険思想という考えもある。いわゆる「社会的ダーウィニズム」を、極限まで推し進めたのがナチスで、進化論に反対する米国人の多くが、ダーウィニズムをヒトラーに繋がる思想と考えているのだ。(もちろん、これも、科学理論としてのダーウィニズムを否定する理由にはならない。)

(3)IDは証明不能、よって科学理論になりえない
 太古に起こった進化が人為的なものであったかなど、検証のしようがない。それゆえ科学の対象になりえない、というもの。
[私見]
 検証できないものは科学でない、というパラダイム自体は正しい。しかし、IDは検証不能だろうか? 自然選択と人為選択では、進化の結果が異なる、というのがIDの拠り所だし、IDを検証不能というなら、まず、この点を論破すべきである。
 さらに言えば、ダーウィニストがこの論法でIDを否定するのは、自家撞着、もしくはダブルスタンダードである。なぜなら、太古の進化が自然選択だったことは、どうやって検証するのか? いや、自然選択は、産業革命時の蛾のような実例がある、とダーウィニストは言うかもしれない。しかし、我々の眼前で進行している実例なら、人為選択の方がはるかに多い。人類はずっと農作物と家畜を改良してきたのだし、最近では、遺伝子組み換えまで登場しているのだ。

 以上の3つは、IDへのまともな批判になっていない。(しかし、数の上では、これらが圧倒的に多い。)それに対して、以下の2つは、科学的な批判といえよう。

(4)中立的進化は起こりうる
 ベーエは、血液凝固機能には30個の蛋白質が必要で、最初の29個までは、優位をもたらさないのだから、こういう進化は起こらないとした。しかし、29の蛋白質は有利にもならないが、不利になることもない。このような中立的突然変異は起こりうるし、起こっても淘汰はされず、個体が生存し続けることは、研究者の間で報告されている、というもの。
[私見]
 こういう専門的な話になると、門外漢の私には、仲々、批評のしようもないのだが、素人としての疑問を提出させていただく。これって、問題が「時計作りのアナロジー」にまで逆戻りしないか? 益にも害にもならない変化は起こりうるというなら、歯車や文字盤がひとりでに出来ても害はないのだから実際にもそうなった、と言ってるのと同じでは?
 もう一つ疑問がある。益にも害にもならない中立的変化は、研究所で観察されるとしても、自然界で長期にわたって存続しうるものだろうか? 有害でなくても有用でない器官は、現実には退化するように思えるのだが・・・
 例えば、陸上脊椎動物は、魚から進化したものである。水中でエラ呼吸をしていた動物が上陸し、肺呼吸をするようになった。しかも、かつてもっていたエラは退化してなくなってしまった。一生の内にこれを経験するのがカエルで、オタマジャクシのエラは成長するとなくなるから、カエルを水に沈めると溺死してしまう。しかし、肺呼吸になったとしても、エラの存在自体が害にはならないだろう。なぜ喪失しないといけないのか?
 もう一つの例として、人間の歯を考えよう。ヒトとチンパンジーが共通の祖先から別れたのは、600万年ほど前らしい。そのチンパンジーは、ヒトとは比較にならない、強力で鋭い歯を備えている。ヒトの遠い祖先も同様であったろう。それが、現在のように貧弱な歯になったのは、道具を使い出したからだとされる。チンパンジーは、食物を切るのも砕くのも歯で行うから強大な歯が必要だが、道具を使う生物はそうではない。さらに火を使用して、食物を煮たり焼いたりすることで、ずっと柔らかくなり、ヒトの歯はさらに退化したという。しかし、強力な歯は無用になっただけで、あれば有害というわけではなかろう。
 私からみると、有害でも有用でもない器官が退化するのは、自然に思える。なぜなら、有用でない器官を作るにも、材料やエネルギーが消費されるからである。野生動物が食物を得るのは大変な苦労を伴い、慢性的な飢餓状態にあるのだ。せっかく苦労して得た食物を、無用の器官のために使うのは、真に「中立」であろうか?
 専門家の意見を聞いてみたいものである。

(5)別目的で進化したものが流用された
 陸上動物の肺は、魚が水に浮くための空気袋が変化したものである。それと同様に、別目的で進化したものが「流用」されることがある。例えば、鳥の翼は「虫取り網」として進化した、とする説がある。眼の前の虫に、羽毛の着いた腕を叩きつけると虫が羽毛に引っ掛る。これをやっているうちに、網としての羽毛が大きくなり、腕を動かす筋肉も発達して、ついには、飛行のための翼という別目的で使えるようになった。ベーエが例に挙げた鞭毛は、元は、体内物質の排出管として進化したという説もある。つまり、翼にせよ鞭毛にせよ、進化の途中過程で、決して「無用」ではなかった、というもの。
[私見]
 ここに挙げたID批判の中で、最も真っ当なもので、これこそ科学的批判というべきだろう。
 これを再批判することは、私の手に余るが、ただ、虫取り網から空飛ぶ翼への変化が、はたして連続的なものなのかどうか。依然として大きな断絶があるように思えるのだが。私が小学生だった頃、虫取り網を持って、昆虫採集をやったものである。ああいうことを続けていれば、網を素早く正確に動かせるようになるのは分かるが、だからといって飛行に流用できるまでに発達するのは、それこそ飛躍のし過ぎで、そのずっと前に、虫取りの効率が限界に達するのではないか? 空を飛ぶというのは、それほどまでに大変な作業で、ケタ違いのエネルギーがいるものである。

 それでも、(4)と(5)は、科学的批判として、まともだと思う。すべてのダーウィニスト達がIDを門前払いせず、こういう理論をもって立ち向かえば、はるかに建設的な議論になるだろう。

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次回が最終回です。これまでに言い足りなかったことを補足して、まとめてみます。


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