投稿日 | : 2011/08/31(Wed) 22:39 |
投稿者 | : Ken |
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タイトル | : 忘れた頃のID論争(笑) |
Bail Hoshikuzu Channisさん、
はじめまして。このサイトにID論争を持ち込んだKenです。
「進化が偉大な存在に導かれたのなら、今の生物は、もっと完成されたものであるはず」と主張する人は、たしかにいるだろうと思います。本サイトでの議論でも、そのような指摘がありました。
でも、この点で、私の見解は、出発点から異なります。私のID知識は、主にMichael Beheの論旨から得たもので、IDを実行したのが、「偉大な存在」とも、ましてや「神」とも言ってません。
先の投稿で書いたように、人類が行ってきた、動植物の品種改良は、すべてIDです。人間が干渉することで、自然選択では起こり得ない進化が起こりました。イノシシからブタが創られたのがよい例で、先祖のイノシシと比べて、ブタは鈍重だし、敵を攻撃する牙も、体を保護する体毛も亡くしました。これが野生動物なら、淘汰されるでしょう。人間という干渉者がいたからこそ、ブタは登場しました。
そこから類推するなら、IDの実行者は、偉大な存在でも、超越者でもある必要はないのです。それゆえ、生物が「完成」されたものであるはずという論点も、論点自体が無意味です。現存の家畜や農作物が「完成」されていると考える人はいないだろうし、だからこそ世界中の研究者が、更なる改良をめざして、努力を続けています。
さらに言えば、生物にせよ、あるいは機械にせよ、なにかの存在が「完成」されているというのは、そもそも定義が曖昧です。イノシシとブタでは、どちらが「完成」されているでしょうか? 野生環境で生きるならイノシシですが、食肉を得る家畜としてならブタでしょう。また、野生環境だけを想定しても、環境が変われば、有利な形質も変わります。例えば、3億年前の石炭紀には、大気中の酸素濃度が現在より70%も高く、皮膚呼吸をする昆虫が大型化しました。なんと翼幅75センチのトンボが飛んでいたのです。でも今の地球の酸素濃度では、昆虫は小さいことが有利になります。
今の人類が「完成」されているか、という疑問についても、まず評価基準を設定しないと、始まりません。
人類が今後さらに「進化」するか、という設問なら、まだしも考えやすいかもしれません。
一般には、人類のこれ以上の進化はないだろう、という意見が優勢のようです。進化が起こるには、ダーウィン流の自然選択にせよ、IDにせよ、特定の形質をもつ個体だけが生き残り、子孫を残すことが必要です。でも、そんなことは、現在の人権思想と、相いれません。もし、何かの不利な形質をもつ人がいても、手段を講じてその人を守るべき、という思想が、世界の主流をしめています。
ただし、人間の思想は変わることがあります。例えばヒトラーは、ダーウィンが説く「適者生存」を政治思想に取り入れ、優秀な民族が、劣等人種を支配または淘汰するのが、自然の摂理と考え、現実の政策として実行しました。わずか70年前のことです。
ナチスは極端な例としても、「問題」のない人間にだけ子孫を残させるという考えは、歴史上何度も現われたし、おそらく今でもあるでしょう。私は、昨年H・G・ウェルズの世界史を読んだあと、この作家に関心をもち、作品を順次読んでいるところですが、1905年に発表された「現代のユートピア(Modern Utopia)」には、問題のある人間には子孫を作らせないことが、ユートピアを実現する条件の1つに挙げられています。政治思想では、ウェルズはヒトラーの対極に立つ人ですが、いわゆる「優生学」について、程度の差はあれ、同じ方向を考えていたのは、興味あることです。実際のところ、ダーウィン流の「適者生存」理論から、ウェルズやヒトラーの思想へいたるまでの道筋に、あきらかな論理的矛盾はありません。
ついでに言えば、人間は皆平等で、不利な形質を持つ人でも、これを保護するべき、という考えは、元々は、宗教から発生したものです。これは、ダーウィニズムと宗教の「対立」を考えるとき、留意すべき点です。ダーウィニストが宗教勢力を批判するのは、一部の原理主義者が、万物は神が創造したなど、科学的根拠のないことを主張するせいであるのは、たしかです。しかし、多くの宗教者がダーウィニズムを批判するのは、必ずしも、神による創造を否定されるからではありません。最大の問題は、ダーウィニズムを突き詰めてゆけば、ヒトラーに繋がるではないか、という点にこそあるのです。その点では、両者の議論は、噛み合わないことが多いのです。