幕府内の権力闘争の解説。長崎父子に権力が集中し、幕府内に赤橋守時らを中心とした反長崎勢力が結集しつつあった。そして執権・北条高時も長崎父子に激しい怒りを覚え、暗殺計画を進めていた。
真田広之(足利高氏)
沢口靖子(登子)
陣内孝則(佐々木道誉)
柳葉敏郎(ましらの石)
高嶋政伸(足利直義)
宮沢りえ(藤夜叉)
河原さぶ(南重長) 丹治靖之(木斎)
豊川悦司(吉次) 村上青児(吉次の仲間)
高品剛(窪田光貞) 高尾一生(大平惟行) 佐藤信一(猿回し)
山崎満・山口純平・加世幸市(重臣)
椎名茂・福永幸男・野口敏郎(重臣)
三本英明(近習) 石川佳代・高都幸子・壬生まさみ(侍女)
片岡鶴太郎(北条高時)
樋口可南子(花夜叉)
大地康雄(一色右馬介)
榎木孝明(日野俊基)
勝野洋(赤橋守時)
児玉清(金沢貞顕)
若駒 ジャパンアクションクラブ KRC
わざおぎ塾
国際プロ 丹波道場 園田塾 現代劇センター サン・レモ・プロダクション
劇団ひまわり 劇団いろは 劇団東俳 足利市のみなさん 太田市のみなさん
フランキー堺(長崎円喜)
藤村志保(清子)
緒形拳(足利貞氏)
○制作:高橋康夫○美術:稲葉寿一○技術:小林稔○音響効果:石川恭男○撮影:細谷善昭○照明:大西純夫○音声:坂本好和○記録・編集:津崎昭子
高氏は藤夜叉と会って「北条の姫をめとり、藤夜叉は側室に迎える」という自分の決意を伝えるべく海岸へと馬を走らせる。しかし追いついた右馬介が藤夜叉が突然鎌倉から姿を消したことを告げた。驚いた高氏は海岸に行くが、やはり誰もいない。高氏は海岸の砂をかきむしりながら「藤夜叉を見失うてはならぬ」と右馬介に行方を追うよう命じるのだった。そのころ藤夜叉は石の漕ぐ舟に乗っていずこかへ旅立っていた。「これでいいのか?」と聞く石に藤夜叉は「感謝している」と言う。
右馬介はひそかに藤夜叉の行く先が伊賀であることを突き止め、貞氏に報告していた。貞氏は右馬介に伊賀の様子を探ってくること、そしてその一帯に勢力を張る楠木党の実態を調べることを命じる。
やがて高氏と登子の婚礼の儀がとりおこなわれた。赤橋邸のかまどの火が登子に先立って足利邸に移され、その火で灯された明かりに出迎えられて、登子が足利家に輿入れする。足利家一同、赤橋守時、金沢貞顕らの立ち会いのもとで盃が交わされ、高氏と登子は夫婦となることを誓う。参列者はみな満面の笑みを浮かべていたが、一人直義だけは面白くない顔で登子をにらんでいた。
寝所に入った高氏は登子と語り合う。自分たちの結婚が周囲の様々な思惑の上に乗ったものであることを高氏は言い、「この高氏が仮に北条殿に弓を引き、そなたの兄とも戦うことになったらいかがする?」と登子に問う。「そのおつもりがあるのですか」と厳しい顔で聞く登子。その上で「私にとってはどちらでもよろしいこと。高氏さまのご一生がそのまま登子の一生となるばかりのこと」と気丈に答える。しかしその直後に「つろうござります…」と顔をうつむけるのだった。
高氏はそれを聞くと寝所にあった鞠を取り出し登子に見せる。そして母から聞いた蹴鞠(けまり)の名人の話を聞かせ、「鞠は無心に蹴ればよい」と
登子に言う。そしていきなり寝所を出て、「直義!」と弟を呼びつける。やけ酒に酔った直義は登子の姿を見て悪態をつくが、高氏は自分の妻に対する悪態をた
しなめ、「新妻に足利家の鞠を披露する」と言って直義らを相手に蹴鞠を始める。それを見つめる登子に清子がそっと近づき、手を取って「高氏をよろしゅう…」と頼むのだった。
貞氏は遠くに蹴鞠の声を聞きながらほろ酔い機嫌で廊下を歩いていた。そのとき手に触れた灯明がスッと倒れ、貞氏は呆然と立ちすくんだ。柱に必死に寄りかかってあぶら汗を垂らす貞氏。彼の体に異常が表れ始めていたのだ。
「正中の変」の事件処理が全て終わった。罪は日野資朝の方が一身にかぶって佐渡へ島流しとなり、日野俊基は無罪放免となった。牢から出された俊基を花夜叉が迎えに来る。
藤夜叉を伊賀に送ってきた石が花夜叉一座に帰ってくると、木斎が河内から矛の名手を二人連れてきていた。やや不気味な白塗りの顔の吉次というその男に石はとまどう。小屋に入ると日野俊基がいたので石は無事を喜び、楠木正成に刀を渡して来たことを告げた。身を乗り出す俊基だったが、石は正成にまるで決起する気が無い様子を語って「言っちゃあなんですけどね、あんなのんびりしたお方じゃあ…正季さまの方がよっぽど気がきいてら」と言う。失望の色を見せる俊基。立ち去りぎわに俊基は牢の中で暇つぶしに描いていた故郷・和泉の村の絵に署名をして石に渡す。「良い世の中になったらその土地をお前のものにして良い」と言われて、石は舞い上がる。
舞い上がっている石に、さきほどの白塗りの男「吉次」が声をかけてくる。彼は実は正季から密命を帯びて鎌倉に来ていた者で、石のことも正季から聞いていたと自分たちの計画への協力を求めてくる。吉次が言う計画とは長崎円喜を暗殺し、幕府を混乱に陥れるというものだった。円喜を襲撃するのは足利高氏と登子の婚礼を祝う宴会の席だと聞いた石は話に乗る。
柳営(幕府)内の華雲殿で執権・高時以下北条一門を集めた祝宴が開かれる。主賓は高氏・登子夫妻で高時が乾杯の音頭を取る、今回の婚礼の最終イベントであった。北条と足利の縁固め、と貞顕や守時が高氏に次々と酒を勧めて祝う中、「野に咲く花を泣かせて枯らせて打ち捨てたこともあろう」と声がする。見れば出席していた佐々木道誉であった。高時が聞きとがめて「泣かせて枯らせた花とは何ぞ?」と高氏に聞く。執権じきじきの質問に困惑する高氏。困っている夫に気を利かせて登子が「疲れた」と言って高氏に退出をうながす。高氏が立ち上がって「登子が帰りたがっておりゆえ…」と退出しようとすると、「さては閨(ねや)急ぎか?判官、足利殿は閨急ぎだ!」「したりしたり!」とからかう高時と道誉。困った顔をする高氏と登子だったが、難を切り抜けたという安堵もあった。
そのとき明かりがいくつか消され、暗くなった田楽舞台の上で烏天狗の面をつけた男たちによる矛を使った踊りが始まる。その中には吉次や石の姿も
ある。彼らは長崎円喜を探すが、なぜかまだ来ていない。焦っている所へようやく円喜が遅参して登場。吉次たちは面をつけて矛をふるって踊り始める。
円喜は高時の側にやってきて「奇怪なる噂を耳にしましてな、その詮議で遅参いたした」と言う。その噂とは「伊賀者がこの宴に混じり、この円喜を殺そうとしている」というものであった。「しかも、そを命じたるは大守、あなたさまであるとの不思議な噂が…もちろん一笑に付し、こうやって参上した次第」と言う円喜に高時は「そりゃ不思議よのう」と笑う。
その直後、明かりが全て消えてあたりは暗黒に。おびえる登子を高氏は抱き寄せて「そばにおれ」とささやく。そこへどこからか矛先が飛んで
きて高氏を襲った。懐刀ではじき返す高氏。そのとき、悲鳴が上がり、「長崎どのが!長崎どのが!」という声がする。高時が明かりを手に倒れている男の顔を
のぞき込む。「違う…こりゃ違うぞ!」と絶叫する高時。貞顕もその男をかかえながら「違いまする!こは長崎円喜どのにはあらず…!」と声を上げる。キョロキョロする高時の前に、全く違う所から無事な円喜が姿を現した。扇子をパタンと閉じて高時を睨みつける円喜。
「わしではない…円喜、わしではないぞ!」と弁解する高時、「曲者じゃ!出あえ!」と刀を抜いて烏天狗に襲いかかる。伊賀者の烏天狗は宙を舞い、高時の剣をかわした。宴の場は大混乱に陥り、円喜は憎々しげな表情を見せて立ち去っていく。道誉が高氏に近づいてささやいていく。「愚かなことよ。身内の者を殺すのにわざわざ伊賀の者を使うか…?噂は都へ筒抜けじゃ。北条は割れた。先は見えたぞ」
高時は伊賀者たちを追っているうちにその幻術にはまり、烏天狗が彼を取り囲まいて「妖霊星、妖霊星…」と歌う幻を見る。そして刀を振り回したあげく気絶して倒れ込んでしまった。抱き起こす貞顕は沈痛な表情。混乱の中、高氏は登子の手を取り屋敷へ戻るべく華雲殿をあとにする。それを追う一人の烏天狗。
当時、夜が乱れるとき「妖霊星」という悪い星が地上に降りてきて天下を騒がすと言う俗信が広まっていた。その妖霊星の歌を、高氏と登子は聞いたような気がした。
能の大成者・観阿弥が一座を開いた地・三重県名張市。能との深い関わりが今も続いている様子を紹介。
冒頭の高氏の「決意」であるが、どっちかを捨てるんじゃなくて「両方とも」って言ってるだけじゃん、と現代人の感覚だと思っちゃうところ(笑)。まぁ現実には妥当な選択なんだけど(実際側室はいたしね)、ここまで展開した苦悩のドラマの末の結論としては拍子抜けしちゃうような。
前回から一色右馬介の「忍者」ぶりが明白になってきている。いちおう「一色右馬介」の名は今川了俊の『難太平記』に高氏の篠村八幡での挙兵の際
に参加していた武将として記されているのだが、それ以外の情報がないためほとんど架空の人物あつかいで、山岡荘八『新太平記』などいくつかの小説で尊氏側
近のお便利キャラとして使われている。吉川英治の原作でもあちこち飛び回る便利な役どころだが、ドラマ「太平記」ではほとんど忍者かスパイといった、より
飛躍した人物に描かれている。貞氏がこの段階で楠木党に注目して右馬介に調査を命じているのが目につくところ。
高氏は登子と結婚することで身も固まり、ここで彼の「青春時代」は終わったと言えるかもしれない。「高氏さまの一生が登子の一生」の名セリフ
は「私本」からのそのまま借用したもの。それにしても高氏さん、新妻ほったらかして蹴鞠なんか始めるなよな(笑)。寝所シーンで間が持てなくなると、いき
なり外に出るのは大河ドラマ等の時代劇ではよく見る場面のような気もする。
日野俊基が和泉の領地の絵を描いているシーンは今見るとなんとなくニヤリとしてしまう。榎木孝明さんが趣味で絵を描くのは有名ですからね(まぁ似たようなことをしている俳優さんは結構いるけど)。この時くれるといった領地の話は、あとで建武新政で無視され石が恨む展開に繋がる。建武新政の事情を知る人にはその後の展開が予想できる伏線であった。
ここで「吉次」というこの回限り登場の「伊賀者」が出てくる。白塗りの顔で登場場面ではいずれもあまり顔が拝めないのだが、声を聞けば一発で確
認できるはず。吉次を演じているのはこのあとブレイクする「トヨエツ」こと豊川悦司なのだ!よく見れば出演表示に名前も載っている。実は僕も今回見返して
みて初めて気がついた「お宝映像」シーンである。このあと大河ドラマでは「炎立つ」第二部でメインキャストに登場することとなる。
高氏と登子の祝言を祝う宴で、道誉がイヤミを言い、高時が「閨急ぎ」とからかうくだりは「私本太平記」にもあるシーン。この宴が混乱して「妖霊星」の歌が出てきたりするのも同じだが(ただし烏天狗になるのは高氏自身だったりする)、この宴で長崎円喜暗殺を企てると言うのはドラマのオリジナル。正直なところこんな場で要人暗殺をするのは成功率低いんじゃないかなぁ。
ところで高時による円喜暗殺未遂事件というのはほんとうにあったのだろうか。調べてみた上で敢て言うなら「あった可能性もある」というレベルの
ものだ。狙われた対象は円喜ではなく息子の高資のほうだったみたいだけど。「未遂」の話だけあって情況証拠ばかりなのだが、1330年(元徳2)に高資排
斥の陰謀を企てた疑いで数名の者が流罪となり、どうやら高時が裏で糸を引いていたということがあったらしい。ただドラマのこの場面の年代は1326年(嘉
暦1)のことだからいちおう無関係と言うことになる。この1326年に高時が執権職を辞め、貞顕が継ぐも一カ月で辞任、結局守時の執権就任になるという政
変が起きているのでその辺をドラマに絡ませようとしたものだろう。正中の変から元弘の変まではいささか間があるので、ドラマを退屈させないための工夫だっ
たと考えた方がいい。
この暗殺計画の主体は高時で、貞顕も一枚噛んでいる様子だが、実行犯の吉次は楠木正季の指示を受けているらしく、命令系統が今ひとつスッキリ
しない感もある。第6回で正季が「俊基を救う策がある」と言っていたが、これがこの事件なのか?とするとその前に高時が伊賀者に「出前」を頼んでいたこと
になるのだが…。
「妖霊星」の歌は古典「太平記」に出てくる有名なもの。ただし元弘の変のあとでおごり高ぶる高時に滅亡の兆しが見えるエピソードとして
出てくる。高時が烏天狗に囲まれて「妖霊星…」と歌う場面は印象的なので、吉川英治もアレンジして使用している。このドラマでは伊賀者を関わらせて再現す
る形になった。
高時が伊賀者の「幻術」にかかって幻を見せられる場面があるが、催眠術なのかな?「伊賀者」と一口に言っても正体不明ですからねぇ。ただ古典
「太平記」をマメにあたると「忍者」の原形と思える特殊技能者が時々出てくるのも事実。一見無関係そうな楠木氏と伊賀、そして花夜叉を結ぶ線がちゃんとあ
るのだが、それの解説は以後の機会に譲りたい。とりあえずこの回の「太平記のふるさと」コーナーでなぜ観阿弥ゆかりの地が紹介されるのか、というのがヒン
ト。