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TVシ リーズ「怪盗紳士アルセーヌ・ルパン」鑑賞記


○はじめに


 宿敵ホームズに比べると、どうも映像化の機会に多くはめぐまれていない気がする我らが怪盗紳士。
 そんな中で原作シリーズを最も多く映像化したのが1970年代初頭に母国フランスで製作されたTVドラマシリーズ(2期・全26話)でした。コメディ・ フランセーズの名優ジョルジュ=デクリエール を主演に迎えたこのドラマシリーズは好評を博し、世界各国で放映され、ルパン好きの多い日本でもささやかではありましたが吹き替えで放映されたそうです。 ルパンの声が銭形警部役で知られる納谷悟朗氏であったというのはビックリですが、僕はその存在自体つい最近まで全然知りませんでした(汗)。
 ルパン生誕100周年記念企画の一つとして、このTVドラマ全話がDVD化されたのは有難い限りでした。それも世界に先駆けて日本でソフト化した、とい うあたりがルパン愛好国日本ならではというところでしょうか。

 さて、このTVドラマシリーズですが、ルブランの原作にのっとっていることは確かなのですが、正直なところ原作ファンからすると「あれ??」と思ってし まうことが多々ある内容でもあるのです。ざっと全体を見渡すと、以下のような特徴が挙げられます。

 ※シリアス話はほとんどなく(あっても改変)、明るく楽しい娯楽志向。
 ※時代設定はすべて第一次大戦と第二次大戦の間の1920年代。
 ※原作の年代順は完全に無視、どれからでも見ることが可能な内容。
 ※舞台はフランスとは限らず、ヨーロッパ各地でルパンが活躍する。
 ※ガニマール警部がゲルシャール警視に変更され、多くの話で道化役をつとめる。
 ※「水晶の栓」に登場する部下グロニャールがルパンの相棒キャラとして全話に登場。
 ※約50分で1話完結のスタイルのため、長編原作はエッセンスのみの流用が目立つ。
 ※原作が存在しない完全オリジナルの話が8回含まれる。


 以上のようなわけで、原作重視派のルパンファンにとっては、ストーリーの改変(それもパロディっ気が強 い)の多さに、いささか失望してしまうドラマ化と言えるかもしれません。
 こういうドラマになったのはいろいろと製作事情があるようで(詳しくはDVD−BOX同梱の解説参照) 、とくに舞台が国際的になっているのはこのドラマがフランスだけでなくヨーロッパ各国の共同制作であったことが原因のようです。またあくまで明るく楽しく という原作改変の多さは、TVドラマは家族誰でも見られる健康的なものを、というフランスの文化意識が強く働いた可能性も感じます。

 まぁそれでも現時点で最も多く原作を使った映像作品には間違いないのです。濃い目のルパンファンとしてはむしろ、「原作との違い」にチェックを入れなが ら鑑賞するという楽しみ方もあります(笑)。すると逆に「あ、ここで原作を生かしている!」と感激することもあったりしまして、楽しみ方が分かってくると かなりハマります。日本発売のDVDではルパン研究家の方々の解説がDVDのメニューから読めたりしますので、ルパンシリーズ初心者にもお奨めです。

 なお、日本で発売されたDVDは全6巻の「BOX」と、各話ごとのバラ売りのものとの二種類が存在します。BOXでは各巻に詳しい解説リーフレットが付 録、バラ売りでは原作に該当する南洋一郎全集版冊子がついてきます。
 2005年春から発売され、2007年現在ではそろそろ入手困難になりそうな気もしますので、お気をつけ下さい。


第1シリーズ(1971年放送)

第1話
「水晶の栓」LE BOUCHON DE CRISTAL
おもな出演
ジョ ルジュ=デクリエール(ルパン、ニコラ)
ナディヌ=アラリ(クラリス)
ダニエル=ジェレン(ドーブレック)
イヴォン=ブシャール(グロニャール)
フランソワ=シャンテニー(ジルベール)

メインスタッフ
脚 本:ルネ=ウィーラー
演出:ジャン=ピエール=ドゥクール

ストーリー
代議 士ドーブレック邸に押し入ったルパン一味。部下のジルベールらはある物を探すうち使用人を殺害してしまう。ジルベールは逮捕されルパンは逃走、ジルベール はルパンに「水晶の栓」を託した。しかしその「栓」もルパンを訪ねてきた女に盗まれてしまう。ルパンは「水晶の栓」の謎を解いてジルベールを死刑から救う べく、ドーブレック邸に使用人として潜入、ドーブレックが「水晶の栓」に隠した汚職リストで政界要人に恐喝を繰り返していることを突き止めるが…
原作との比較
強 盗・殺人のオープニングから水晶の栓探し、ドタンバのどんでん返し、死刑執行阻止、衝撃の種明かしまで、原作忠実度がかなり高い一本。変更点は逮捕される のがジルベールだけであること(これはルパンが「殺人」をする問題シーンがあるためであろう)、「リスト」が運河事件ではなく銀行事件になっていること、 ビクトワールの代わりにルパンが使用人に化けること、ドーブレックが別人に捕われ拷問される展開がカットされて いることなど。
感想
第一 回ということで力が入ってるのが分かる力作。シリーズ中でも原作忠実度が高い方で、これだけ詰め込んでよく1時間以内にまとまったものだと思う。そのため 展開が若干慌しいが、明るい話の多いシリーズの中でひときわサスペンス性の高いドラマとして見ごたえがある。デクリエールが早くも2度もの変装を見せるの も見所で、シルクハットにマントの典型的ルパンファッションも披露する。原作ならこの回きり登場のはずだった部下グロニャールは、以後ずっと出ずっぱりに なる。

第2話
「特捜班ヴィクトール」VICTOR, DE LA BRIGADE MONDAINE
おもな出演
ジョ ルジュ=デクリエール(ルパン、ヴィクトール、ロチェスター)
マルテ=ケレール(ナターシャ)
ロジェ=カレル (ゲルシャール)
イヴォン=ブシャール(グロニャール)
ベルナール=ラウレット(警視総監)
ピエール=マシム(ブレサック)

メインスタッフ
脚 本:クロード=ブリュレ
演出:ジャン=ピエール=ドゥクール

ストーリー
アル セーヌ・ルパンを名乗る男が率いる一味による銀行強盗事件が発生。宿敵ゲルシャール警視はルパン逮捕に執念を燃やすが、警視総監はルパン逮捕のために アフリカ帰りの敏腕刑事ヴィクトールを起用する。ヴィクトールはルパンに接近するべくイギリス人の盗賊ロチェスターになりすまし、ルパンの一味であるロシ アの伯爵夫人ナターシャに接近する。
原作との比較
偽ル パンが出没し、ヴィクトール刑事がロシアの伯爵夫人に接近してその正体を暴く大筋の展開は原作どおりだが、細かいエピソードはほどんとドラマのオリジ ナル。ナターシャは本作だけで終わらずに以後しばらくレギュラーキャラクターとなる。原作のモーレオン警部の代わりにゲルシャール警視(ガニマールの分 身)も初登場してレギュラーになる。ラストに「本物」のヴィクトール刑事が出てきたり、「奇岩城」がチラッと映る。 黒人女性ダンサー・ジョゼフィン=ベイカーやヘミングウェイなど、1920年代にパリで活躍した人物への言及が目立つ。
感想
原作ではシリーズ末期のエピソードだがいきなり第2回に持ってきたのが意外。「偽ルパン」がこの当時のアラン=ドロン を思わせる若き美男子で、「本物」のデクリエールがやや年がいってるのと対照をなしている。警視総監が終始道化役でいろいろと笑いをとってくれるのだが、 ヴィクトールと警視総監の会合場所がいつもエッフェル塔の上層部分で、ちょっとしたパリ名所観光気分も。

 第3話
「ルパン対ホームズ」ARSENE LUPIN CONTRE HERLOCK SHOMES
おもな出演
ジョ ルジュ=デクリエール(ルパン、マキシム=ベルモン)
マルテ=ケレール(ナターシャ)
ロジェ=カレル (ゲルシャール)
イヴォン=ブシャール(グロニャール)
アンリ=ヴァルロジュー(ショルメス)
マルセル=デュディクール(ウィルソン)

メインスタッフ
脚 本:クロード=ブリュレ
演出:ジャン=ピエール=ドゥクール

ストーリー
銀行 家ドートレックが殺害され、看護の修道女が姿を消した。しかし荒らされた現場はいつの間にか元通りにされ、ドートレックの持つ「王妃のダイヤ」はその まま彼の指輪にはまっていた。事件の謎を解くべくイギリスの名探偵エルロック=ショルメス(ホームズ)とその助手ウィルソン(ワトソン)がパリにやって来 る。
原作との比較
『ル パン対ホームズ』の「金髪の美女」にそこそこ忠実な展開。しかも原作どおりルパンとホームズがそれ以前に遭遇していたことになっている。盗まれるのが アントワネットゆかりの「王妃のダイヤ」になっていること、「金髪の美女」が前回登場したナターシャになっていること、ホームズがイギリスに送り返されて しまうところでオシマイ、という辺りが変更点。ホームズが帰国させられる場面は「奇岩城」のすぐそば、エトルタの海岸で撮影されている。冒頭でフリッツ= ラング監督の映画が流れ、ラジオからはヒトラー率いるナチスの台頭のニュースが流れるなど「時代」を感じさせる工夫がある。
感想
一応 原作と同じく「エルロック=ショルメス」にしてはあるが、その風貌は露骨に「ホームズ」そのもの。ホームズ(ショルメス)がルパンにしてやられるエピソー ドばかりが原作に忠実に映像化されているため、ホームズの茶化し度がかなり高い。

第4話
「ルパン逮捕される」L'ARRESTATION DE ARSENE LUPIN
おもな出演
ジョ ルジュ=デクリエール(ルパン、ベルナール=ダンドレジー、デジレ=ボードリュ)
マルテ=ケレール(ナターシャ)
ロジェ=カレル (ゲルシャール)
イヴォン=ブシャール(グロニャール)
ウィリアム=サバティエール(グルネイ=マルタン)
ロベール=アンドレ(ロゼーヌ)

メインスタッフ
脚 本:クロード=ブリュレ
演出:ジャン=ピエール=ドゥクール

ストーリー ルパ ンはナターシャやグロニャールの制止も聞かず、グルネイ=マルタン邸に盗みに入るが、正体を見破られ逮捕されサンテ刑務所に収監されてしまう。しかし これはルパンの巧妙な計画の一部だった。ルパンは獄中からカオルン男爵に美術品を盗む予告状を送りつけ、まんまと盗みを成功させる。さらに裁判の当日、ル パンの独房にいたのはデジレ・ボードリュなる浮浪者だった…
原作との比較
「ル パン逮捕される」「獄中のルパン」「ルパンの脱獄」を原作にかなり忠実に映像化。 盗みに入る先のグルネイ=マルタンは戯曲「アルセーヌ・ルパン(ルパンの冒険)」の登場人物。彼の屋敷に招待されている人物の名前はロゼーヌなど「ルパン 逮捕される」の登場人物で、原作の客船上を邸内に再現した形。ルパン逮捕の日時が「1928年4月5日」と明言され、ラストで隠れ家を引き払う際にルパン は「1926年から1928年までルパンが居住」と書き残していく(「金髪の美女」からの引用)。ルパンが獄中でボードリュになりすます展開は同じだが、 裁判シーンはカットされた。
感想
「逮 捕」から「脱獄」までを綺麗にまとめており、とくにトリックが秀逸なカオルン男爵事件と脱獄計画(護送車から抜け出して刑務所に戻る話もある)は原作 そのままで、ファンには嬉しい一本。原作にはない刑務所内でルパンとボードリュが会話してるシーンは、デクリエールが二役を演じる見所。ただ原作のような 「似てる人」に変装するというアイデアの面白さは失われている。

第5話
「バーネット探偵社」L'AGENCE BARNETT 
おもな出演
ジョ ルジュ=デクリエール(ルパン、ジム=バーネット)
ジャック=バリュタン(ベシュ)
ロジェ=カレル (ゲルシャール)
ミシェル=バルドレ (オルガ)
イヴォン=ブシャール(グロニャール)

メインスタッフ
脚 本:クロード=ブリュレ
演出:ジャン=ピエール=ドゥクール

ストーリー
ルパ ンがイギリス人ジム=バーネットに変装して探偵事務所を開設。刑事ベシュはバーネットがルパンではないかと疑いつつ教会から財宝が「片腕の男」によっ て盗まれる事件、アパートから株券の束が忽然と消える事件な ど、次々と起こる難事件を一緒に捜査することになる。
原作との比較
原作 のうち「金歯の男」と「十二枚のアフリカ株券」を組み合わせて脚色、さらに「白い手袋…白いゲートル…」に登場するベシュの離婚した妻オルガを登場さ せて原作より重要な役割を与えている。「金歯の男」は金歯では映像的に分かりにくいと判断したか「片腕」に変更して筋書きはほぼ同じ。「十二枚のアフリカ 株券」は原作のトリックが形を変えて使われ、細部は意外と原作に沿っている。最後のオチは「白い手袋…」のそれをそのまま拝借したもの。原作には出てこな いゲルシャールがベシュの上司として登場する。
感想
この 「バーネット」のシリーズは1話ずつ連続ドラマにしてほしいところなので、そのうち2話だけの映像化というのはちと寂しい。「ジョージ王のラブレ ター」「バカラの勝負」が台詞だけで処理されてるのはかえって欲求不満を招く。「十二枚のアフリカ株券」もあれがベシュの株券だから面白い展開なんだが、 それが無いのも残念。それにしてもデクリエールの扮するバーネットの金髪に丸メガネの外見がいかにもいかがわしい詐欺師っぽく、ハイテンションにまくした てるところが面白い。

第6話
「緑の目の令嬢」LA DEMOIDELLE YEUX VERTS 
おもな出演
ジョ ルジュ=デクリエール(ルパン、リムジー伯爵、ルブラネシ調律師)
シュザンヌ=ベック(オーレリア)
キャスリン=アッカーマン (ベークフィールド)
イヴォン=ブシャール(グロニャール)

メインスタッフ
脚 本:アルベール=シモナン、R&A=ベッカー
演出:ディエテル=ランメル

ストーリー
ドイ ツのカジノで遊んでいたルパンは英国の女スリ・ベークフィールドに財布をすられた。彼女を追って列車に乗ったルパンだったが、突然押し入ってきた強盗 に襲われる。ベークフィールドは謎の言葉を残して気絶、別の車室では男二人が殺害された。街で見かけた「緑の目の少女」オーレリアが現場から逃げたので捕 まるが、ルパンは彼女を逃がしてやる。オーレリアには父親から秘密の遺産が残されていて、ベークフィールドほか数人がそれを手に入れようと彼女を追いかけ ていた…
原作との比較
ヨー ロッパ各国共同制作だった事情から、この回はドイツTV局による製作で、舞台がドイツに移し変えられているが、原作を生かした場面は多い。原作では殺 害されてしまうベークフィールドは死なず、ルパンの協力者となり第12話にも再登場する。原作の道化役マレスカルはマーシャルと改名し特に目立った動きは しない。最大の変更点は「緑の目の令嬢」に残された遺産の正体。原作の「湖底のローマ遺跡」が再現できるわけもなく、彼女が覚えていた曲をピアノで弾くと 隠し金庫が開くという仕掛けになった。
感想
オー レリー(ドラマではオーレリア)役の少女がイメージにピッタリ。原作の刈り込み方があまり上手いとは思えず、話が少々分かりにくいのが残念。原作とは 異なるが、ピアノを弾くと秘密の扉が開く、というアイデアはなかなか粋。

第7話
「断たれた鎖」LA CHAINE BRISEE 
おもな出演
ジョ ルジュ=デクリエール(ルパン、ゴメス)
ソーク=フーメイヤー(ヘレン)
フォンス=ラデメーカーズ (ミューレン)
イヴォン=ブシャール(グロニャール)

メインスタッフ
脚 本:ジャン=マルシラ、ジャック=アルマン
演出:ポール=カメルマン

ストーリー
アム ステルダムの港に陸揚げされたトランクの中から、二重スパイの男が発見された。水中探知機研究所の情報が内部から漏洩していることが発覚、政府はその 調査をルパンに依頼した。ルパンはスパイ団一味から重要文書を盗み出すが、スパイ団も次々と美女をルパンのもとに送り込んで罠にかけようとする。ルパンは スペイン人の鍵開け名人に変装してスパイ団に潜り込むが、正体がばれて絶体絶命の危機に…
原作との比較
前回 のドイツに続き今度はオランダ製作でアムステルダムが舞台。しかも原作が存在しない完全オリジナルの話で、「007」風味のスパイ・サスペンスになっ ている。原作とのつながりは、絶体絶命のピンチに陥ったルパンが、ルパンに惚れた敵方の女性に救われるというストーリーが「地獄の罠」を連想させる程度。
感想
政府 がルパンにスパイ捜査を依頼、って時点でかなり無理。「意外な犯人」も唐突に過ぎる感があるし。見所はスペイン人鍵開け師に化けたデクリエールの名演 ぶりぐらいか。ルパンがスパイ戦に参加するという内容は、保篠龍緒の贋作と推定される短編「青色カタログ」を連想させる。

第8話
「二つの微笑をもつ女」LA FEMME AUX DEUX SOURIRES
おもな出演
ジョ ルジュ=デクリエール(ルパン、ロダン、ルフェーブル)
ラファエラ=カッラ(アントニーナ、クララ)
ネリオ=ベルナルディ(ベルモンテ)
ジェゼッペ=ラウリチェラ(ゴルゴン)
ヴィクトリオ=サニポリ(ペピーノ)
イヴォン=ブシャール(グロニャール)

メインスタッフ
脚 本:アルベール=シモナン、デュシオ=テッサーリ、アドリ アーノ=バラッコ、マルチェロ=バルディ
演出:マルチェロ=バルディ
ストーリー
ロー マにやって来たルパンは侯爵が持つと思われる宝石を狙い、画家に化けて侯爵のアパートの階下の部屋に住み込む。ある日侯爵を訪ねて一人の金髪の美女が 間違えてルパンの部屋に入ってきたが、その彼女をなぜか刑事ゴルゴンが追跡していた。その夜ルパンが変装して侯爵邸に盗みに入ると、そこへ昼間会った金髪 の美女も潜入してくる。彼女の正体は?20年前の歌手の死とネックレス紛失の真相は?
原作との比較
今度 はイタリアで製作された一本で、舞台はローマに変更。それでも大体の展開は原作どおりで、原作のゴルジュレ警視がゴルゴン警部、盗賊バルテクスはマ フィアのボス・ペピーノに変更されている。ルパンが事件を知った理由が侯爵がバーネット探偵社に依頼をしたためとされている。歌手の死の真相が原作と異な り心臓発作によるものに変更され、アントニーナとクララは双子の設定になって女優が一人二役を演じている。
感想
原作 と異なり画家に老伯爵にと変装するルパンだが、全て頭文字が「A.L.」というオチが楽しい。イタリアに舞台を移したことで盗賊団がマフィアに設定さ れ、これはこれで妙にリアル。

第9話
「カリフの怪獣」LA CHIMERE DU CALIFE
おもな出演
ジョ ルジュ=デクリエール(ルパン、マッキントッシュ、ガラス業者)
ギュンナー=モレール(フォックス)
ベルン=シャフェール(ロバートソン)
ティロ=フォン=ベルレッシュ(男爵)
シグネ=セイデル(マチルダ)
イヴォン=ブシャール(グロニャール)

メインスタッフ
脚 本:アルベール=シモナン、R&A=ベッカー
演出:ディ エテール=ランメル
ストーリー
ドイ ツの男爵邸からオルゴールに隠された宝石「カリフの怪獣」が盗まれ、イギリスの探偵フォックスと助手ロバートソンが捜査にやってくる。到着した駅で二 人はルパンに荷物をまんまと奪われ、事件にルパンが関与していることを知る。捜査にとりかかったフォックスは、外部の者よる犯行の証拠が全て偽造であるこ とを見破った。一方ルパンは、夫人を脅して「カリフの怪獣」を奪った男に接近する。
原作との比較
ドイ ツに舞台を移して製作された2本目。原作は「ユダヤのランプ」だが、イギリスの名探偵はエルロック=ショルメスではなくポール=フォックスになってい る(自分で「ショルメスの次に有名」と言ってる)。宝石をちりばめた怪獣が盗まれる点は同じだが、隠し場所はオルゴール。またこの怪獣がアラブの首長のプ レゼントで、これを持つと産油国で顔が利くという設定になり、石油業界の暗闘が事件の背景に盛り込まれている。隠し場所が川の中であること、ルパンが撃た れて川に落ち一時行方不明になるところなどは原作シーンを使っている。
感想
原作 もあまり面白い話ではないので、脚色に苦労している感じ。シリーズにしばしば登場するエルロック=ショルメスではない探偵を登場させたのはドイツで製 作したためだろう。

第10話
「或る女」UNE FEMME CONTRE ARSENE LUPIN
おもな出演
ジョ ルジュ=デクリエール(ルパン、アンドレジー、ドートレル)
ジュリエット=ミリス(マリア)
フランソワ=シモン(ボナティ)
ルイ=アルベシエール(フィッシャー)
イヴォン=ブシャール(グロニャール)

メインスタッフ
脚 本:ジャック=アルマン
演出:トニー=フラート
ストーリー
スイ スの観光地サン・モリッツの雪の中から女性写真家の死体が発見される。直後にホテルで全ての宿泊客の宝石が偽物にすりかえられる事件が発覚。保険会社 から調査を依頼されたルパンは変装してサン・モリッツに乗り込む。事件の鍵を握る女性記者マリアに接近するルパンだったが、まんまと正体を暴かれて記事に され大恥をかいてしまう。改めて別人に変装してサン・モリッツに戻ったルパンは次第にマリアと打ち解けるが、マリアが何者かに何度も命を狙われる。
原作との比較
今度 はスイス編。原作のないドラマオリジナルのストーリーだが、事件の謎の核心部分が明らかになる過程は「ルパンの告白」中の短編「うろつく死神」のアイ デアを拝借している。原題は「或る女対アルセーヌ・ルパン」で、「或る女」とはルブランが作家活動初期に書いた心理小説のタイトルをそのままいただいたも の。作中「1929年」であることが明確にされていて、世界恐慌の発生が時代背景になっている。
感想
大仕 掛けに始まる割にスケールダウンしていく展開に失望する人が多そう。これなら「うろつく死神」のアイデアだけで作れば良かったのでは…。だいたいルパ ンに調査依頼するのか、保険会社が(ルパンもツッコミ入れてたけど)。シリーズ中では珍しくちょっとアダルトなシーンがあったり、ルパンがSF的なロボッ トアームを遠隔操作して盗みを働いたり(ルパン三世か?)、いろいろな意味で異色作。変装したルパンが「山は日本のが一番」などと口にするところは日本人 にはちょっと嬉しい?

第11話
「カリオストロの七つの環」LES ANNEAUX DE CAGLIOSTRO
おもな出演
ジョ ルジュ=デクリエール(ルパン、ダンドレジー、コルコラン)
クリスティン=バッシェガー(タマラ)
ハンス=ホルト(ナイデグ伯爵)
ハンス=ジャレイ(オルドスキー男爵)
オットー=アンブロス(コルコラン教授)
イヴォン=ブシャール(グロニャール)

メインスタッフ
脚 本:ジョルジュ=グラモン、R&A=ベッカー
演出:ウォルフ=ディートリッヒ
ストーリー
ウィー ンにやって来たルパンとグロニャールは、タクシーに間違えられた事をきっかけに宝物「カリオストロの環」の展示会に参加した。そこにはルパンも良く 知る女盗賊タマラが「カリオストロ伯爵夫人」と名乗って姿を見せていた。展示会の最中に突然の停電が起こり、その間にタマラが「環」を盗んでしまう。環の 内側には財宝のありかを示す謎の言葉が彫られていたのだ。タマラとルパンはそれぞれ謎を解いて財宝を手に入れるべくナイデグの城館に向かう。
原作との比較
今度 はオーストリアが舞台。 タイトルに「カリオストロ」と入り、「カリオストロ伯爵夫人」も登場するが、話自体は完全なオリジナル。「カリオストロ伯爵夫人」ことタマラは小悪魔的な 女泥棒に設定され、ルパンとは顔なじみということになっている。
感想
原作 なしのドラマオリジナルストーリーの中では抜群に面白い一本。ルパンとタマラの関係が何やらルパン三世と峰不二子のそれを連想させて楽しいし、ルパン が登場人物の一人に変装したり、三つ巴の暗号解読・財宝争奪戦、本格的なオーストリア・ロケなど見所が多い。とくにルパンが柔道の教科書を読みながら敵と 戦うシーンには日本のルパンマニアは大喜び!(笑)。

第12話
「トンビュル城の絵画」LES TABLEAUX DE TORNBULL
おもな出演
ジョ ルジュ=デクリエール(ルパン、アレクサンダー)
キャスリン=アッカーマン(ベークフィールド)
コニー=コリンズ(ガブリエラ)
ウォルター=ブラハム(トンビュル伯爵の父)
アレクサンダー=ヘガルス(トンビュル伯爵)
イヴォン=ブシャール(グロニャール)
メインスタッフ
脚 本:J=ナミュ、ジョルジュ=グラモン、R&A=ベッカー
演出:ディ エテール=ランメル
ストーリー
時々 陸続きになる海中の島にあるトンビュルの城館には伯爵の父子が住み、多くの絵画が収集されていた。ルパンはグロニャールを観光客に紛れ込ませてわざと 怪しい行動をさせ、伯爵を恐れさせて贋作と取り替えるようにしむける。ルパンとベークフィールドは変装して島に入り、伯爵の仮装舞踏会に参加するが、「メ イヤー」の名が書かれた手紙が届いて、伯爵は気絶してしまう…
原作との比較
ドイ ツで製作された作品で、やはり原作が存在しないドラマのオリジナルストーリー。「緑の目の令嬢」で登場した女盗賊ベークフィールドが再登場しルパンの 協力者となっている。名画を偽物ととりかえるトリックや、女性の共犯者の存在といった部分は「白鳥の首のエディス」を連想させなくもない。あらかじめ犯行 を匂わせて被害者をこちらのペースに乗せるという作戦は「獄中のルパン」にも通じる。
感想
少々 話が入り組んでいてわかりにくいところも。後半、敵の盗賊が映画撮影班を装って島にやって来るところでルドルフ=ヴァレンチノやグレタ=ガルボといっ た当時のドイツ映画スターの名前が出てくるところは映画ファンには楽しいところではあるが、ストーリー上の噛みあわせが今ひとつ。

第13話
「ハートの7」LE SEPT DE COEUR
おもな出演
ジョ ルジュ=デクリエール(ルパン、ダスプリ)
ジャニーヌ=パトリック(ポーラ)
ロジェール=デュトワ(アンデルマット)
ラウール=デ=マネ(ルブラン)
エティエンヌ=サムソン(バラン)
イヴォン=ブシャール(グロニャール)

メインスタッフ
脚 本:ナタン=グリゴリエ
演出:ジャ ン=ルイ=コルマン
ストーリー
ブ リュッセルで邸宅を借りた新聞記者時代のモーリス=ルブラン。ある夜、何者かが彼の家に侵入し、「死にたくなければ一歩も動くな」と書かれたハートの7 のカードがベッドに置かれていた。朝になると賊たちは姿を消していたが、家からは何も盗まれていなかった。ルブランがこの事件を記事にすると、謎の男が家 を訪ねて来て、王の肖像のモザイク画がある部屋でショック死してしまう。そこにはまたしても「ハートの7」が落ちていた。ルブランの友人のダスプリが事件 に興味を持ち、捜査に乗り出す。事件の背景には失踪した飛行機設計者ラコンブと、その友人であったアンデルマット夫妻とが関わっているようだが…
原作との比較
この 回はベルギーでの製作。 冒頭に「私とルパンはどのように知り合ったのか?」とルブランのコメントが出て話が始まり、ほぼ原作に忠実な映像化(原作の「わたし」が「ルブラン」と断 定された形ではあるが)。ただし舞台はベルギーになり、1920年代に時代を変えているため原作の潜水艦設計図のスパイ話ではなく、飛行機の設計図の話に 変更されている。またアンデルマットの妻の登場場面が多くなり(最後の対決にも登場)、ルパンが三役を使い分けて活躍するなど、原作をふくらませた部分が 多い。原作ではショッキングなエティエンヌ=バランの拳銃自殺はショック死に変更されている。
感想
第1 シリーズの締めくくりに原作者ルブランとルパンが出会ったエピソードを持ってくるとは心憎い。本国フランス以外での製作作品だが、原作依存度はかなり 高く、もともと短編だけに50分にうまくまとめられている。


第2シリーズへ

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