グリーンコンシューマーと「かいものガイド」について
作成日:93年9月
#1 活動の背景
イギリスでスーパーマーケットなどの環境への取り組みを評価した本、「グリーンコンシューマーガイド」が発売されると、数十万部のベストセラーになりました。このガイドブックが、イギリスの社会を変えてしまったという話を聞き、日本でも工夫して作れないかと京都ごみ問題市民会議(★1)で模索し始めたのが91年の春でした。京都市内のスーパーマーケットと生協を、環境への取り組みの視点から調べ上げ、「かいものガイド この店が環境にいい」という一冊の本として発行しました。お店に対して、買物客も環境のことを意識して商品を選び始めたことをアピールすることができ、新聞でも多く取り上げられ、日本で始めての取り組みとして高く評価されました。3000部用意した本も、瞬く間に売り切れてしまったとの話です。
そのような状況の元、もう一度「かいものガイド」をつくってみたいと集まってきた人があり、第2号を作る話が自然と持ち上がりました。第1号がすでに出されているので、取り組みとしてはその反省点を生かすことで改良が加えやすく、非常に楽であったことは確かです。ただ、以前に第1号を作ったメンバーはグリーンコンシューマーのより深い理解を目指すための勉強会を始めていて、2号を作る暇などないこともあり、市民の眼のスタッフの森さんを除いてすべて新しいメンバーで作ることになりました。
(★1)現在では環境市民と名前を変えて取り組んでいます)
#2 かいものガイド93の概要
かいものガイド93は、京都のごみ問題市民会議が93年1月に発行した、地域版のガイドです。前年に続いての2回目の発行で、スーパーマーケットが環境にどれだけ取り組んでいるかどうかの視点から調査しています。
電話帳でチェックして、京都市内のスーパーマーケットや生協、全206店を調査しています。ボランティアに頼りながら、一軒一軒足を運んで調査しました。環境の取り組みの視点で調査すると言っても、(当時は)あからさまに環境の取り組みをしているところはほとんどないため、結構いやがられることが予想されました。もちろん多少は「いやがられる」こと(=考えてもらうこと)を目指していたのですが、あまりいやがられて調査すらさせてもらえないとこちらも困るので、少しでも取り組んでいるところがあれば持ち上げるという方針で進めていきました。やっていなくて当然、意図的でなくても「環境配慮をしていれば消費者に宣伝しますよ」という態度でお願いにあがり、多くのお店に協力してもらうことができました。
そういった甘い面で調査をお願いする一方、客観的に取り組みがどれだけ行われているのかを総合評価して、お店ごとに5段階の評価を出しています。多くのお店はドングリの背比べといったところなのですが、めただないもののしっかり取り組んでいるお店がやはりいくつか見いだされました。比較的生協も取り組んでいるのですが、京都市の中で一番取り組んでいたのは、自然食品などを積極的に扱っている「ヘルプ」というお店でした。
今回大きな目標として掲げたのが、消費者に実際に使ってもらえるようなガイドブックにしようというものです。そのために、区ごとにイラストマップをつけたり、一覧表をコンピュータで作ってみたり、環境にいい商品を選ぶのにはどのお店へ行ったらいいのかといった視点でのインデックスをつけたりしました。また、せっかくですので読んでためになる物にするために、グリーンコンシューマーになるためのコラムをたくさん導入しています。
スーパーマーケットを中心に調査をしてしまうと、どうしてもスーパーの宣伝になってしまいがちです。実際には、市場で買い物をするのが一番ごみが少なくてすむことを、特集を組んで比較しました。すき焼きのメニューを考えて、スーパーで買った場合、市場で買った場合、コンビニで買った場合と比較して、市場のほうがごみが少なくて安くて、しかもおいしいという結果がでてきました。
そんな視点からガイドブックを作り、目新しいということでマスコミでも取り上げられ、およそ3000部が販売されました。
#3 グリーンコンシューマーについて
- グリーンコンシューマーの考え方:
「緑の生活者」という訳が使われますが、環境の事を考えながら買い物の選択をしていく消費者の事を言います。
普段私達は、商品を選ぶときに、値段とか、便利さとか、外見の良さなどといったもので選んでいると思います。お店の方もそれに答えるように、安さや便利さなどを宣伝してお客さんを呼ぼうとしています。お客さんの求めるものを提供していくのは、お店にとっては当然の反応です。
しかし今までの所、そこに「環境への影響が少ない商品なのか」といった視点がありませんでした。そのため、環境の事を考えずにより便利なものをと追求していくあまり、異常なまでの過剰包装がなされたり、使い捨て文化が蔓延してしまったのは、日本の現状を見てお分かりの通りです。この原因として、そのような商品を作って売っている企業を挙げることができるでしょうが、お店は売れるものを売るという構造から考えてみると、そのような商品を選んでしまっていた私たちにも原因はあるのかもしれません。
私たちにも原因がることを逆に建設的に考えてみると、この使い捨て文化の現状を打破する力は、私たちにもあるということです。つまり、今まで私たちの頭に欠けていた、「環境の視点」を入れて買い物をすれば、お店だったそれに敏感に反応して、環境によりよい取り組みを行っていくことでしょう。
このような仕組みが社会にあるのですから、これを利用して社会をよりエコロジカルに変えていこうというのが、グリーンコンシューマーの考え方です。
- リサイクル活動の反省の意味で:
環境にいいことをしていこうとする活動としては、リサイクル活動が頭に浮かぶと思います。空き缶や、トレー、牛乳パックなどの回収活動に参加するのもリサイクル活動ですし、新聞紙をまとめて古紙回収に出すのも広い意味でリサイクル活動の一つと言えるでしょう。
ただ、リサイクル活動といっても、一概に環境にいいことであると言えないものも幾つかあります。ごみとして捨ててしまうよりは、もう一度再生利用したほうが環境への負荷が小さくなるのが普通ですが、場合によっては、逆に環境を汚染してしまうものもあります。リサイクルの目的の一つとして、リサイクルした分だけ使う資源の量を減らすことができるというものがあります。しかし、空き缶に関して言えば、リサイクルしても缶ジュースに使うバージン資源の量は減りません。逆に、「リサイクルしているから買っても環境に悪くないよ」と宣伝され、消費量を増やすために手段として使われてしまっているのが現状です。
また、善意でリサイクルされたものでも、再生された商品が売れなくてはリサイクルが成り立たなくなってしまいます。牛乳パックはトイレットペーパーに再生されていますが、それがなかなか売れなくてリサイクルがうまく進んでいません。ある婦人の話ですが、再生トイレットペーパーを買ってくれと呼び掛けられたときに、「牛乳パックはリサイクルに出しているからお役に立っています。でも使うとなったら純パルプの方が質がいいから」と断ったという話です。再生品を買う事まで考えて始めてリサイクルが意味を持つことがまだ十分認識されていないのが現状です。
リサイクルは所詮、使ってしまった後で環境にいいことをしようとするもので、それには自ずから限界があります。ごみとなるものを一生懸命分けようとしても、それ以上にたくさんの物を生産し消費している以上は、いくら別けてもきりがなく無駄骨となってしまいます。本当に、環境の事を考えて行動しようとするのなら、やはり、生産し消費する場で環境の事を考えてもらわなくてはなりません。そのそも、ごみとなるようなものを買わないとか、やむを得ずごみになるものでもリサイクルしやすい商品を選ぶ、またリサイクルされた商品を積極的に選ぶといったことをしていけば、ごみを分ける段階でのリサイクル努力も報われてくることになります。
これらの反省は、リサイクル活動を行ってこれば必ずぶち当たることです。昔から市民運動をしている仲間の中では言われていたことでもあり、グリーンコンシューマーの考え方の基本となる部分は以前からあったと言えます。
そして、リサイクルと同じくらいにグリーンコンシューマーの考え方が広まるれば、日本の環境活動も新しい展開を見せることになるでしょう。
- 環境によりよいものは何か:
だれでもみな買い物をしている訳ですから、環境にいい選択をしようという心構えだけでだれでもグリーンコンシューマーになれます。ただ、環境にいいという評価基準が見た目では分かりにいこともあって、判断材料があまり情報として出まわっていません。これでは残念ながらグリーンコンシューマーとしての行動はできません。環境の事を考えて買い物をしようとする姿勢だけでも見られれば、お店としてもそのような取り組みを考えていくこともあるでしょうが、お店にとっても何が環境にいいのか分からなければ全く事は進みません。
要するに、グリーンコンシューマーの活動をしていくにあたっては、どれが環境にいいのかという判断材料が必要ということになります。京都ごみ問題市民会議が出している「かいものガイド この店が環境にいい」にも、その一部が載せられていますが、今までの市民運動の活動の中で蓄積されたものはまだまだあるでしょうし、海外から学ぶべきこともたくさんあるかと思います。いずれにせよ、本当に環境にいいものを選べるような情報を出し合っていくことは大切です。
一つ注意しておかなくてはならないのは、現在そのような意図でエコマークというものです。日本環境協会で審査を行い基準に達しているものについて「環境にやさしい」として付けられるマークで、その取り組み自体は、グリーンコンシューマーの活動の基本となるものですが、残念ながらエコマークの評判はあまりいいものではありません。本当に環境にいいわけでないものに付けられていたりして、企業の宣伝材料にしか使われていないと批判されています。
例えば、最近缶ジュースの飲み口が切り離されなく(ステイオンタブ)なっています。これは、取り外したタブが動物等にとって危険であるため、取り外れないように変えたもので、環境にいい商品であるとしてエコマークが付けられました。2種類が混在していた時代には差別化するためにある程度有効に機能していたでしょうが、全てステイオンタブになった現在でもエコマークが付けられたままです。果たして「缶ジュースは全部(ステイオンタブだから)環境にいい」と言えるでしょうか。そんなことはありません。そもそも詰め直しのできるビンで購入したほうがはるかに環境にいいはずです。しかし、こちらには逆にエコマークがついていないといった状況が出てきてしまっています。このような例は山ほどあります。
結局、このような嘘つきのマークが付けられている以上、グリーンコンシューマーとしては混乱するばかりです。自分達で、もっとしっかりした判断基準を持つと共に、このような紛い物を訂正していく努力も必要となるでしょう。
- グリーンコンシューマーの成果−イギリス:
イギリスで発行された「グリーンコンシューマーガイド」は、60万部が売れて非常に大きな社会影響を及ぼしました。
いろいろな商品について環境の視点から評価を加えていると共に、スーパーマーケットがどれだけ環境の取り組みをしているのかを調査しています。そして、取り組みの度合から四つ星とか五つ星とかいったランク付けを行ったのです。
この本が発行された次の年、今まで売り上げの1位を確保していたお店が、2位に落ちてしまったのです。このお店は必死になってその原因を探ったのですがどうしても思い付かない。ただ一つ原因があるとしたら、グリーンコンシューマーガイドで差を付けられていた、つまり低い評価を与えられたということしかなかったのです。結局、これだけたくさんガイドが売れたものですから、それを見た消費者がお店を選んだのでしょう。
その後このお店は、発売元に「どうしたら評価を上げる取り組みができるのか」と聞きにきて、その通り実行していったそうです。そしてこのお店の評価が1ランク上がって、現在の評価では並んでいるそうです。
- 豊かさの問題:
一般には、「環境を考えた取り組み=苦しいこと」と捉えられてしまっていますが、そのようなものを提案するつもりは全くありません。しかし、現在伝えられているリサイクル活動の大変さを見ると、そう思われても仕方ないかもしれません。リサイクルは、社会システムがうまく働かないと、いくら頑張っても苦労するといった構造になっていますから、致し方ないことかもしれません。
けれども、かいものは自分の考え次第で好きなものを選ぶことができますから、制限はありません。グリーンコンシューマーでは自分の好きなだけ活動ができるのです。
この活動では決して、環境に悪い商品は絶対いけないといった、苦痛を強いるような提案をする訳ではありません。商品が本当に便利であるのなら、便利さと環境影響を自分で照らし合わせて選択を決めればいいだけです。人にはそれぞれの判断基準というものがあるでしょう。安さや便利さは一つの判断基準ですし、それに環境の視点を加えていこうとするだけであって、環境の視点が全てではないのです(もちろん環境のウェイトを重くしていこうという活動ではありますが)。
現在のごみ問題が引き起こされている訳ですし、便利さだけで選ぶことはできないことは皆さんがすでに認識しているところのはずです。そこで、環境の視点を入れて、自分が思う中でもっとも豊かな生活が送れる選択をしてくれればいいのです。
つまり、グリーンコンシューマーの活動は、苦痛を強いるものではなく、最も豊かなものを選んでいこうとするものなのです。
- グリーンコンシューマーの実力:
いままで、いくつもの環境活動が提案されてきましたが、まだ模索の段階で、しっかりした成果が出ているものは小数派だと言っていいかもしれません。このグリーンコンシューマーも日本ではまだ考え方も普及しておらず、これから模索していく必要があるでしょうが、この活動には強い味方があり期待がもてます。
一つは、消費行動という非常に身近な活動であり、多くの人を巻き込める可能性があるところです。
もう一つは、金銭を動かすことができるため、経済を動かしやすいことが挙げられます。お金を払うことは、商品に対する投票行為であり、消費者が豊かな生活を送ることを要求するための権利ともいえるでしょう。
お店にとってすれば、商品が売れるか売れないかは存在にかかわる問題ですから、消費者の意向には非常に敏感です。売り上げが伸びたか減ったかについては、異常なほどの関心を持っています。ですから、消費者が環境の事を考えて物を選び始めたら、お店としても環境の事を考え始めるのは当然のことです。更に、売れないものは作っても無駄ですから、製造業者にまでさかのぼって、環境の事を考えた物作りを始めることになります。
消費者一人一人の力はわずかのように思えますが、それが1億人集まって日本の経済を作り上げているのです。日本のGNPの60%を家計消費が占めているという話ですから、家計から環境の事を考えたら日本全体だって変わってしまうのです。
#4 かいものガイドブックを作る意義
お店の環境の取り組みへの客観的評価:
先程のイギリスの例では、グリーンコンシューマーの大きな動きがあったことも一つの原因ですが、きっかけとして、お店の取り組みを総合的に比較するという見えなかった情報が明らかにしたことが挙げられます。同じ様に、環境にいいのか悪いのか曖昧のままされているものがたくさんあるのではないでしょうか。
現在の状況でも、企業としては環境の事を考える必要があるとは言われていますし、実際に行動しているところもあります。しかし、それを客観的に評価するものがなければ、「適当にやっておけば十分だ」と考えられてしまっても文句も言えません。どの企業・お店も、お互いほどほどに活動をする、のでは今後の進展は期待できません。また逆に、企業やお店がせっかく立派な活動をしていても、曖昧のまま適切に評価することができなければ、やる気さえなえてしまいます。
そこで、客観的に評価できるように情報を整理して、取り組みの違いを明らかにして、競争心を煽ったり、積極的な活動を評価したりする必要があるでしょう。
グリーンコンシューマーの手引として:
どのような視点で選ぶ事ができるのかを、情報として提供する必要があります。本来なら、商品毎に消費者テストのように、環境度を調べることができればいいのですが、信頼できる情報は、ライフサイクルアセスメントなどの手法が確立されるまでなかなか手に入りにくいかもしれません。
ただ、市民運動などのノウハウがまだまだたくさん埋もれているでしょうから、それらを出しあっていくのは大切なことです。ただ、情報は正確で信頼できるものにしましょう。
#5 かいものガイド93による影響など
一番反響があったのは、全国の市民運動の人たちが興味を持ってくれた事で、あちこちに説明に走り回ったり、講演会で話をしたりなど何度もあります。一体京都市民は何をしているのかといったくらいに、市外からの注文が殺到しました。
そのほかにも、意外と反応してくれたのは、企業の方々でした。直接スーパーとは関係ない企業でも、このような消費者の動きには注目しているようです。91年版では、トレー会社のエフピコさんが、社員教育のためと大量に購入してくれました。
京都市の人口に比べたら、大した量は売れていないので、消費者の行動が変わってきたという事を期待するのは無謀かもしれません。一つだけ、京都市内でもっとも取り組み評価の高かったヘルプというお店では、このガイドブックの発売によって忙しくなったと話していました。
しかし、直接お店へ出かけて調査をするという事を通じて、お店の取り組みが変わってきたのは事実です。前年版との比較では、ビン製品の衰退は社会的流れで止めようがなかったものの、リサイクルの取り組みなどは明らかに増えています。全体の評価でも、100店満点で1年前に比べて平均3ポイントアップしています。
93年版が出てからは正式な調査をしていませんが、行き着けのスーパーでは、新たな取り組みを始めています。他にも、新たな取り組みを始めたスーパーは多いと聞いています。
実際に、お店を回って調査したときの感想でも、環境評価を気にしているお店が多くありました。なかには、調査中に捕まえられて、ノウハウを教えて欲しいとせがまれる、というお店もありました。
あと、お店の調査には多くのボランティアの方に協力してもらいました。これらの人とも交流ができたことも、よかったことだと思います。