環境配慮消費行動のゲーム理論的モデルによる検討

A Game Theoretical Analyses of Ecological Shopping Behavior

○鈴木靖文、高月紘、酒井伸一(京大 環境保全センター)

Yasufumi SUZUKI ,Hiroshi TAKATSUKI,Shinnichi SAKAI

1.概要

 各個人が環境配慮型の行動をいかにして採用できるのかについて、ゲーム理論の手法を用いたモデル化を行った。また、具体的事例として購買行動の中で省包装野菜の選択に限定しアンケートを行い、個人の利得関数を設定することを通じて問題の解決に向けた検討を行った。

2.合理的行動モデルの設定

 ゲーム理論においては利得関数を設定し、その構造から囚人のジレンマなど多くの興味深い研究が行われている。今回の環境配慮の消費行動をモデル化するにあたっては、一般のN人対戦ゲームに基づいた利得関数を設定した。ここで利得関数での損得により行動が完全に決定されるとする「合理的行動」を仮定した。


図1 環境配慮行動に関する利得関数の例

 関数の値を設定するにあたって、社会心理学的に環境配慮行動に影響を与えるとされる要因を整理し、次の3種類の要素に分類し、それぞれ( )に示すように命名した。

  (=行動コスト、

  (=環境改善の便益、

  (=社会的非難、

 それぞれの値をアンケート等で尋ねて設定することにより個人ごとに利得関数が一意に定まる。

 このモデルでは利得行列にねじれが生じる場合があり、ある「社会の協力率」を境に合理的行動が変わる「行動転換点」が生まれる。この時の協力率

 で求まる。すなわち、行動に対して影響を与える要素は「社会的非難」と「行動コスト」のみとなり、「環境改善の便益」は行動に影響を与えないという結果が導き出される。


図2 行動転換点の算出

3.アンケートによる検討

 アンケートは1995年の12月に実施し、京都市南部版の電話帳より無作為抽出した564人に対して郵送でアンケートを行い、362人 (64%)の回答を得た。利得関数を求めるにあたっては、上記3種類の要素について不確定評価技法(CVM: contingent valuation methods)を用いて尋ねた。今回は、裸売りの野菜を選択することのコストを1ヶ月あたりで費用換算して尋ねた。

 仮定した合理的行動モデルが実際の行動に当てはまるのかを検討した結果(図3)、「行動コスト」が「行動」に影響を与えていること、および「環境改善の便益」が「行動」に影響を与えていないことが確かめられた。しかし、行動転換点を通じて行動が導かれるとしたモデルとは異なり、各要素が直接行動と結びつく傾向にあった。

 経済評価の結果では(図4)、環境改善の便益に比べて行動コストを高く回答する人が多かった。このため、裸売りの野菜を選択するにあたっては、現状では非常に大きな行動コストを伴うため、取り組む便益が見出されない結果となっている。個人の利得関数を整理した結果では(表1)、そもそも全員で取り組むこと自体も望ましくないとみなす人も1/3程度見られる。

 しかし、もし店舗で裸売りの野菜と包装された野菜が並べて陳列されていた場合、行動コストが大きく下がるため裸売りの選択が望ましい選択となり、問題は解決されることが示された。

 また、環境配慮行動は社会で取り組んでいる人の割合が非常に大きな要素となっており、社会に対する信頼(まわりで取り組んでいる人がいるのをより多く認識すること)を上げることによっても、取り組みを行う人が多くなることも示された。


図3 利得関数要素と行動の関連


図4 各要素の経済評価結果

表 1 利得関数の形による分類

協力が望ましいと考える人
協力が望ま
問題なし
安心ゲーム
囚人の

ジレンマ
小計
しくないと考える人
現状の利得関数 7126 87184 89
並列展示時の利得関数 18510 9204 19

キーワード:ゲーム理論、利得関数、環境配慮行動、消費行動
(この文章は環境科学会96年講演論文集に掲載した物です)


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