単なる情報宣伝だけでは市民の行動を変えていくのには不十分であると考えられる。温暖化防止京都会議と前後して全国で取り組みが広がっている「環境家計簿」では、各家庭ごとにエネルギー消費量の実態を記入するようになっており、これを適切に活用することにより個別に具体的かつ有効な対策を提案できる可能性がある。家庭向けの働きかけとしては、現状では最も効果がある取り組みと思われる。
今回は、おおさかパルコープにおいて「省エネチャレンジ」と言われる一種の環境家計簿を実施するにあわせて、アンケートを行う機会を得た。そこで家庭における環境負荷削減をテーマとして、上記研究課題のうち1、3、4、5について調査を行った。
「省エネチャレンジ」の中では、電力・ガス・水道等の環境負荷量と、環境配慮行動のチェックを記入するようになっている。
このほかにアンケートでは、家電製品の保有・利用状況、世帯属性、環境問題に対する意識、および家庭内の環境問題に対するコミュニケーションの実態について尋ねた。
またアンケート調査は省エネチャレンジを行う前と、行った後に実施し、意識やコミュニケーションの変化を調べた。
そこで、ネットワーク分析の手法を用いて、家族の中でだれが誰に対してごみや省エネに関する話をしているのかを矢印で記入してもらうことを通じて、コミュニケーションの実態を把握した。またコミュニケーション量について定量化を行い、これが環境負荷低減に効果がある指標とみなしていいものか検討を行った。
チェック項目は、家庭での環境問題への取り組みとして効果があると言われているものから、省エネに限らず30項目を選び出した。各項目について、毎月取り組めたかどうかについてチェックしてもらった。
向上の大きかったものとしては、「ラップではなく蓋付き容器の使用」「洗剤の適量使用、ためすすぎの実行」「冷蔵庫のドアの開閉」「掃除機の集塵袋をこまめに点検」といった項目があげられる。こうした項目は、今まで気をつけていなかっただけで、考えれば比較的簡単に取り組めるものと位置づけることもできる。
「油を排水口に流さない」や、「ガスコンロの火加減」などは向上点数自体は小さいものの、ほぼ取り組みが行き渡って頭打ちとなっている。しかし、「買い物袋を持ち歩く」といった取り組みは、比較的低い点数でとどまって向上もあまり見られず、単なる定期チェックだけでは改善が進まないことが考えられる。
エネルギー関連の消費量としては、電気、ガス(都市ガスもしくはプロパンガス)、水道、灯油、ガソリンの5項目をあげ、検針票をベースに毎月記入してもらった。またアルミ缶、スチール缶、牛乳パック、ペットボトル、トレーについては、個数ベースで利用量とリサイクル量をメモして1ヶ月間の集計を記入してもらった。また、ごみの排出重量を計量して、毎月記入してもらった。
電気、ガソリンが大きな割合を占めている。
電力等の検針票には、前年同月の消費量が記載されているために、転記してもらった。エネルギー消費量は気温等に大きな影響を受けるために、前年同月と比較した値が、省エネを成果を測るにあたってもっとも有効であると考えられる。集計は前年と今年の両方の値を記入している世帯のみで行った。
その結果、3ヶ月間の平均では、都市ガスと水道がいずれも3%以上削減したのに対し、電力消費量は8.5%の増加となってしまった。特に7月と8月の増加が大きく、いずれの月も前年同月に比べて10%以上の増加となっている。これほど増加してしまったのは、今年の関西地方の夏が、蒸し暑かったことが理由として考えられる。気温でみると、それほど平年に比べて暑いわけではないが、天候が不順であったこともあり湿度が高く、体感的には非常に蒸し暑く感じられた。モニターの感想でも、平年より暑かったためエアコンの消費を減らすことができず昨年より多く使ってしまった、という記入が多く見られた。
関西電力の従量電灯電力消費量の報告によると、7月と8月はいずれも前年同月に比べて10%以上の伸びを示しており、蒸し暑かったためにエアコンの消費量が伸びていることが伺える。
家族の構成員の間で、誰が誰に対してごみや省エネの話をするのかを矢印を用いて記入してもらった。最も望ましい形は、全ての人が他の全ての人に対して矢印が引かれている状態であるが、今回の調査では母親が中心となっている世帯が多く、矢印もスター状になっていた。
世帯平均では4.2本の矢印が引かれており、そのうちの半分は双方向の関係となっている。発信している人は全体の52%である一方、受信している人は83%にのぼり、受け身になっている人が多いことが示されている。また家族の中でコミュニケーションがとれていないのはわずか8%に止まっている。
また各家族関係において、情報発受信されている割合を示した。母親から父親や子どもに対しては9割以上の割合で情報発信が行われている。最も母親が発信しているほか、受信についても母親が多く、コミュニケーションの中心となっている。
またコミュニケーションに関して、(A)父親から母親に対する情報発信、(B)母親から父親に対する情報発信、(C)親から子供に対する情報発信、(D)子供から親に対する情報発信、の4種類の要素にわけて検討を行った。
それぞれの要素についてみると、情報発信としてありうる順では、(B)母から父へが180世帯(83%)、(C)親から子へが127世帯(59%)、(A)父から母へが60世帯(28%)、(D)子から親へ32世帯(15%)となっている。この順番で家庭内のコミュニケーションが困難になっていることが考えられる。
ここで、(A)から(D)の要素が0である家庭が、4つ全部そろっている状態まで変化していくことを考える。要素の数が小さい順に左から並べ、要素が一つ変化することにより動きうる変化を線でつないだ。グラフにおいて、調査から求めた該当する世帯数をあてはめると、特定の場所に多くの家庭が存在することが示された。
ありえやすいパターンを線で結ぶと、これがコミュニケーションが進展していく経路となることが考えられる。
省エネチャレンジの前と後では、コミュニケーションの総量については大きな変化が見られなかった。しかし、特に子供が情報を発信する量については、比較的大きな増加がみられた。
今回タイトルにも入っている「省エネ」に対する認識のほか、「ごみ減量」と「有害物減量」に対する認識についても同時に調べた。
全般的に問題間での大きな違いはなく、前後での変化はみられなかった。問題間で違いがでてきたものとしては、ごみや有害物に関して「何をすれば効果があるのかわからない」「家庭の取り組みだけでは解決しない」といった回答が多い傾向が見られた。
主成分分析を行ったところ成分が3つ確認された。第一成分には、「私たちはそれに取り組む責任がある」「世の中の取り組みは不十分である」「もっと情報がほしい」「まだ取り組む余地がある」といった積極的に取り組む意図が示されている。第二成分には、「2割減らすのは大変だと思う」「何をすれば効果があるのかわからない」といったことはなく、「自分はまわりと比べて取り組んでいるほうだ」といった、すでに取り組んでいる経験に対する認識が示されている。第三成分には圧倒的に「家庭での取り組みだけでは問題は防げない」といった要素があり、一方で「自分で取り組む余地がある」とは思っていないため、家庭以外の行政や企業といった主体に対する要求の要素であると言える。
以上のことから、それぞれの成分を「積極性」、「経験」、「要求」と名付けて整理を行うこととする。いずれも値が大きいほど、その程度が大きいことになる。取り組み前後では、「積極性」や「経験」が向上している結果が得られた。
エネルギー消費量に影響を与えると考えられる家庭環境としては、世帯人数、平均在宅人数、住居形態、延べ床面積、子供の数、自営業の有無の6変数をアンケートで尋ねている。
平均在宅人数については、3時間ごとに在宅平均人数を回答してもらっている。住居形態は、集合住宅を1、戸建住宅を0として数値化している。また、自営業の有無についても、自営業を行っている場合には1、行っていない場合に0をあてはめている。子供の数は、家族の中でもっとも若い世代の夫婦を基準として、その子供の数を算出した。
お互いの変数の相関係数は以下のようになった。世帯人数と、子供の数および在宅人数の相関が特に大きい。集合住宅の場合には、世帯人数が少なく、床面積が小さくなっている。しかし同時に、子供の数との相関が小さいため、大人の人数が少ない、すなわち3世代の家族が少ないことが言える。
環境負荷量を目的変数として、以上の6変数がどのような影響を与えているのかを重回帰分析を用いて検討した。正の関係があるものについては、1%有意水準を満たす関係を+++、5%を満たす関係を++、20%を満たす関係を+で示した。同様の基準で、負の関係があるものについては−で示している。
エネルギー消費項目については、世帯人数が多く、床面積が広く、自営業を行っているほど大きくなっていることが明らかとなった。住宅の形態や、子供の数には関係がなく、在宅人数では逆に在宅しているほどエネルギー消費が少ない関係が導かれた。また、ガソリンの消費量については、いずれとも有意な関係はない。一般にエネルギー消費量は、集合住宅より戸建住宅のほうが多いとされている。特に集合住宅の場合には熱の散逸が少ないために、冬場の暖房消費には大きな差が出てくるとされており、今回は夏に行った調査であるために有意に出てこなかったものと思われる。
世帯属性を説明変量、家電製品の保有量や電力消費量を目的変量として重回帰分析を行った。台数については、世帯人数が多いほど、集合住宅でないほど、床面積が広いほど多くなっている。また子供の数が少ないほど多くなっているのは、大人の割合が高いほど多く保有するものと思われる。重決定係数をみると、家電製品の台数に対しては比較的大きな値となっているものの、消費電力量は十分に説明できていない。特に家電製品の消費電力が、これらの説明変数とは関係ないものであるためと思われる。
人数以外の要因については、特にコミュニケーションに有意な影響を与えていないことが示された。
行動として、台所、部屋、掃除、風呂、買い物、日常生活の6項目に分類して整理したが、これらの項目はお互いに大きな相関を持っており、取り組む場合にはこれらを区別せずに取り組んでいる様子がうかがえる。
なお、コミュニケーション指標、主成分については、値が大きいほどその量が大きくなっているが、行動については値が小さいほど取り組みが大きい逆指標となっている。
意識のうち、「経験」の要素については行動やコミュニケーション指標と比較的大きな相関を持っている。また「要求」の要素が大きいと比較的家庭のコミュニケーション指標は小さい傾向が見られる(家庭だけでは十分ではなく政府や企業が取り組むべきと考えているため)。
コミュニケーションが大きいほど、「台所」「部屋」「掃除」「日常生活」の取り組みが大きくなる傾向がある。特に「日常生活」の項目で値が大きくなっており、取り組むにあたって家族の協力関係が必要であるためと思われる。逆に「風呂」についてはコミュニケーションが大きいほど取り組みが小さくなる傾向が見られる。
コミュニケーションが多いと、テレビの視聴時間、消費電力量、およびエアコンの台数が少ない傾向があることが示されている。また冷蔵庫とはそれほど相関がない。
行動(逆指標)が行われるほど、テレビ・エアコンの台数や使用時間が小さくなっている。行動チェック項目としてあげられている「部屋の取り組み」のみだけでなく、他の項目とも大きな相関がみられるが、これは行動間の相関係数が大きいためであると思われる。
コミュニケーションが進んでいるほど、電力・アルミ缶等については利用量が少なくなっている。コミュニケーション指標は世帯人数と正の相関があり、世帯人数はこれらの環境負荷量を多くする要因となっていることを考えると、コミュニケーションによってはより多く削減されている効果を示すとも考えられる。
環境行動に取り組んでいる世帯では、おおむね電力・ガス・水道などの消費量が小さくなっている。容器やごみの環境負荷に対して、台所や買い物での行動が影響を与えていることは取り組みの効果がでているものと考えられる。
「家族の協力が得られた」世帯ほど、電力消費量の増加は抑えられている。他についてはまだ集計していない。
時系列にそって調査が行われているので、単なる相関関係ではなく、各項目間の因果関係が把握できる可能性がある……のだが、まだやっていません。
特に環境負荷量については、これをすれば環境にいいという「環境配慮行動」と関係ない習慣的生活スタイルに密着した部分が大きいと考えられ、これらに対して大きな影響を与えているものと考えられる。
現在は母親がコミュニケーションの中心となっているが、今後環境教育が進み、子供たちが学校で学ぶこと、また会社で父親が環境教育を受けることなどにより変化することが考えられる。こうした政策が家庭の環境負荷低減に与える効果についても、コミュニケーションの変化を通じて明らかになっていく可能性がある。
省エネチャレンジを取り組む前と後で、環境負荷低減に結びつく各種の指標がどう変化したのかをみた。
○環境意識の変化
大きな変化はなかった。主成分得点の変化からは、問題に対する「積極性」が増大し、自分の「経験」認識も向上していることが見られた。
○コミュニケーションの変化
全体的にみると、特別コミュニケーションを増加させることはなかった。しかし、親子間、子供同士のコミュニケーションについては、増加の傾向が見られた。
○環境配慮行動の変化
毎月自分でチェックすることもあり、着実に行動は進んでいくことが示された。初期から比較的取り組んでいる世帯が多かったが、初期状態で取り組めていなかった対策の大部分が改善された。(平均得点が100点満点で、72点から82点へと10ポイント増加)
○二酸化炭素排出量の変化(昨年との比較)
総量では、二酸化炭素排出量は昨年に比べて増加したが、これは気候の影響が大きいと考えられる。一般に気温との関係は重視されているが、今年のように気温はそれほど高くなかったにもかかわらず、湿度が高かったために冷房需要が伸びたことがあり、適切な補正方法が求められる。
結果として、環境配慮行動以外には目立った改善がなされていないことが示された。これは、調査票を各家庭に配布した以外に、働きかけを行っていないためであると思われる。
二酸化炭素を算出する形の環境家計簿の場合には、各家庭で電卓を用いて計算をしないと二酸化炭素量が導き出されないこともあり、大きな苦労が伴う。また、二酸化炭素という家庭での環境負荷の指標が出されたとしても、それがどれだけよくないのか明確に認識できないという意見もよく耳にした。もちろんよりわかりやすい量への変換は簡単にできるが、ただでさえ計算量が多い中でこれ以上数字が並んでも混乱するだけであろう。家庭で作業をする以上は、こうした点で容易さと結果理解が両立しにくい。
そこで、集計されたデータや、平均と比べて各自がどの程度の環境負荷を与えているのかを、「省エネ通信簿」として返送する試みを行ってみた。さらに数値情報より文字情報のほうが理解しやすいこともあり、各自の状況に応じて、省エネのポイントやアドバイスなどをコメントする欄も設けた。特に、今期は蒸し暑かったためにエアコンの消費量が増えてしまい、消費電力を減らすことができなかったと落胆している世帯も多いと思われ、努力が無駄になっていないことをフォローする必要も考えられたため、その点にも注意を払った。
コメントの欄では、家庭の消費量データから考えられるアドバイスを記載したほか、アンケートにおいて尋ねた「次回継続の意志の有無」や「家族の協力の有無」などの結果を踏まえて、適切なアドバイスを加えた。これらは、エクセルのマクロを用いて自動的に作成されるように作られている。
そこで、家庭の取り組みを支援するマネージャーの役割が必要になってくると思われる。役割としては、二酸化炭素算出やグラフ作成などの面倒な作業を行ったり、全国比較データやノウハウの提供を行ったり、各家庭の事情で取り組めなかったことに対してカウンセリングを行ったりなどが考えられる。
そのほかの家庭内の教育問題、医療の問題、育児の問題、訪問販売の問題など、それぞれの問題に対しては相談に乗り、適切なアドバイスをしてくる人が社会の中に存在している。しかし、残念ながらまだ環境問題を取り組もうとして、問題にぶちあたったときに公的に相談に乗ってくれる場所はなく、個人で取り組まざるを得ないのが実状である。環境の問題に対しても、今後こうした立場の人が必要担ってくると思われる。
環境家計簿として定型化されたものはないが、継続的な改善を進めていくにあたって含められるべき要素としては以下の3点があげられる。
(1)現状を把握する項目
マネージャーとしては、この情報を元に、全国平均との比較や、改善すべき点などをアドバイスしていくことができる。
また、その家庭での問題や、何が原因で取り組みに踏み込めないのかを適切にフォローをしていかないと、問題解決には結びつきにくいことが考えられる。ここでは、単なる省エネのノウハウだけではなく、家庭で取り組みを進めていくにあたってのカウンセリングといった視点が重要になるものと考えられる。