ラナイの夜は更けて

 

夜風にあたりたくて

素足でラナイに降り立った宵のことだ。

昼間の熱気が嘘のように

敷き詰められた薄煉瓦の床の

ひんやりとした感触が心地いい。

間近の潮騒をバックに

夜毎、プールサイドのステージから流れてくる

アメリカンポップスの奏。

デッキチェアに身をゆだね

眼下に広がる漆黒の海原に目をやれば

外洋船の灯火が

遥か遠く、微かな水平線上に小さく瞬いてみせる。

カメラアングルのパンをまねて

視線をゆっくりと左手の岬に移すと

誰知らぬことのないこの島の象徴の山影。

その麓の海に常夜灯のごとく赤白色の灯りが

海辺のホテルの所在を知らせている。

満天の星の瞬きを見上げれば

頬を涼やかな海風が愛撫する。

ステージの曲想がかわり

佳境の余韻を残しながら

ダンスミュージックのスローな旋律が

今宵の客のほろ酔い気分に潮時を告げようとしている。

私のお気に入りは

毎夏、この部屋の右手に広がるたたずまいだ。

アウトリガーの客室の明かり。

その向こうに少し奥まってみえるピンクパレスのランタン。

岬につき出た近代ホテルのとがった曲線。

そして永遠に吹かれていたい、この島だけに吹く風なのだ。

 

1998.8 楽園の定宿にて

Kazu.