第六回「ジャズの楽器について その2・・ベース(2)」


(チャイムが鳴り、ミンガス・グループの「A列車で行こう」"Mingus At Monterey"1964 が流れる)
さあ、今日は私のウッド・ベースを持ってきました。オーケストラのコントラバスとまったく同じです。このベースで某大学の 交響楽団に参加してブラームスのシンフォニーを演奏したこともあります。ジャズではこうやって指でしっかり弾きます。(実演する) いい音するでしょう? ほかの楽器、特にドラムと一緒に演奏すると音量的に負けてしまいますので、現在(特にライブ)では普通こういう(見せる) 駒やボディーの振動を拾うピックアップをつけてアンプで拡大しています。でも昔のベース奏者はピックアップやマイクなしでいかに大きい音を出すか 工夫していたようです。
ジャズにおけるベースの演奏法について簡単に説明しましょう。「ウォーキング・ベース」4ビートの曲を演奏するときの最も一般的なやりかたで、 一小節四分音符四つずつ音を出して、コード進行にあわせて即興的なベース・ラインを作っていきます。和音をどのように分解して音をつなげていくか が面白いところで、奏者のセンスが問われます。前回説明したようにベースにはコードのルートを弾くという役割があるのですが、ルートばかり弾いては 陳腐なラインになるし、ルートをまったく無視すればコード進行がわからなくなってしまいます。また、「一小節四分音符四つずつ音を出す」といっても そのタイミングを微妙にずらすことによって演奏のノリ、スウィングが変わってきます。(実演する)どう?(わかるかな、細かい話になりすぎたかもしれない) 「インター・プレイ」他の楽器のアドリブにあわせて、四分音符にこだわらずに三連符、八分音符、十六分音符、休符などを 交えて演奏者間の交流を重視するやりかたで、ビル・エバンス・トリオで聴きましたね。「アルコ奏法」クラシックで普通に聞かれる弓で弦をこすって音を出す奏法。 ソロでもバックでも変わった効果が得られます。(弓を持ってこなかったので実演はなし)「スラップ奏法」今ではエレキベースの奏法として有名ですね。弦を叩くように 弾いて、リズムを強調します。ウッド・ベースでは古いニューオリンズ・ジャズや最近でもロカビリーの人がやってますね。 エレキベースではほかにも(ジャコ・パストリアスで有名なハーモニクス奏法とか)いろいろおもしろい奏法が試みられていますが、説明はこのくらいにしてレコードを聴きましょう。

本日のレコード

1. 「I'm An Old Cowhand」"Way Out West"Sonny Rollins 1957

  ソニー・ロリンズのテナー・サックス、レイ・ブラウンのベース、シェリー・マンのドラム、という三人編成なので、各人の名人芸がよくわかると思います。 三人それぞれのアドリブ・ソロが実にすばらしいです。

2. 「Billy Boy」"Milestones" Miles Davis 1958

 今度はピアノ・トリオです。この演奏実はトランペットのマイルス・デイビスのアルバムに入っています。 レッド・ガーランドのピアノ、ポール・チェンバースのベース、フィリー・ジョー・ジョーンズのドラムですっごく快適に スウィングしてます。ベースはピアノのバックでは「ウォーキング・ベース」ソロでは「アルコ奏法」を聴かせてくれます。

  第四回でやった「同曲異演コーナー」が好評だったので、ベース版をやってみることにしました。
3. 「Donna Lee」"The Genius Of Charlie Parker" Charlie Parker Quintet 1947

  曲はアルト・サックスの「神様」チャーリー・パーカーの(マイルス作との説もあります)「ドナ・リー」です。 まずパーカーのオリジナル吹き込みを聴いて下さい。

4. 「Donna Lee」"Jaco Pastrius" 1975

第一回で紹介したジャコ・パストリアスはこの曲をデビュー・アルバムの一曲目で、パーカッションとのデュエットで 録音しています。この演奏で当時のジャズ・ファン、ベース奏者は軒並みの大ショックを受けました。「エレキ・ベースの革命」 と言われたものです。

5. 「Donna Lee」"The Paris Concert" Oscar Peterson 1978

もう一回「ドナ・リー」です。今度はオスカー・ピーターソンのライブ録音なんですが、御大のピアノはお休みで バックのニールス・ヘニング・エルステッド・ペデルセンのベース、ジョー・パスのギターのデュエットです。このペデルセン はデンマーク出身の人ですが、十代から一流ジャズメンと共演してきたウッド・ベースの名人です。この「ドナ・リー」という曲、 聴けばわかる通りテーマを演奏するだけで「ものすごく難しい」曲ですが、ペデルセンはウッド・ベースでしかもものすごく速いテンポで 軽々と弾いています。もちろんただ弾ければいいのではなくてアドリブの内容が勝負。内容が良いから持ってきたのです。

6. 「Swingin' 'Till The Girls Come Home」" At Basin St. East" Lambert, Hendricks and Bavan 1962

   最後は、ちょっと変わったボーカルを聴いてみましょう。ランバート・ヘンドリクス・アンド・ベヴァンは男性二人女性一人の コーラス・グループで、レコードになっているジャズの名演に歌詞とコーラスをつけて(楽器のアドリブ部分も!)歌うというが特徴という「通好み」のグループです。 今回はベース特集なので、面白いものを持ってきました。前回出てきたオスカー・ペティフォードの曲なんですが、なんとベース・ソロのまねで歌詞なし(スキャットといいます) のアドリブ・ボーカル・ソロをやります。さらに最後に有名なベーシスト四人の名前を次々に挙げながらいかにもそのベーシストらしいベース・ソロを歌います。マニアックですねえ。 パーシー・ヒース、ポール・チェンバース、レイ・ブラウン、チャールズ・ミンガス、と続きます。


生徒の意見

(女子A) 1.サックスの音がよかった。パーッカッションの音がいかにも西部と言う感じ。途中でベースとドラムだけになったときも、 ドラム・ソロになったときもすごくシンプルでよかった。2.はベース・ソロのアルコ奏法が「ウォーキング・ベース」とまたひと味違っていておもしろい。 ドラム・ソロがピアノと交代で入るのがおもしろかった。みんなすごく楽しそうに演奏していて、聴いていて楽しかった。3.はサックスの音が今までとずいぶん違うような気がした。 やはり、奏者によって楽器から出る音が違ってくるものなんだ。4.は聞いていて難しそうだった。初めてジャズに関心を持ったのは中三のときテレビでジャコ・パストリアス の演奏を見たときだった。この曲を聴いて、あのときの感動を思い出した。5.はジャコのよりも聞きやすい。ベースに興味のない人はこっちの方が楽しめると思う。 6.世の中には不思議な人がいるものだ。チャールズ・ミンガスの名前ははっきり聞こえた!

(男子B)今日は生のベースの音が聞けておもしろかった。1.を聞いて自分でもサックスをやりたいと思った 5.のベースとギターもよかった。特にベースがソロですごい速弾きするところがとても良かった。最後のボーカルは、マンハッタン・トランスファーに似ていて 気に入った。

(男子C)今日のレコードもまたわけがわからなかったけど、少しはジャズがわかったような気がした。

(女子D)大きな楽器をあんな間近で見たのははじめてだった!「ドナ・リー」のオリジナルは思っていたよりずいぶん短かった。 ジャコ・パストリアスのはなんかへんな音だなあと思った。三番目の「ドナ・リー」がいちばんよかった。最後の曲は、人が楽器のまねをするなんて面白いと思った。 今まで聞いた中で一番おもしろい!

(女子E)1.は人が歩いているような曲ですごく楽しそうだった。ベースの重々しさが暗い感じを出さなかったのが不思議だった。 ドラムが楽しくて、サックスもなんだかうかれていたように思えた。2.はリズムの速さがとても気持ちよかった。こういうテンポのジャズも好きです。 パーティーやっているみたい。ベースを弓で弾くとすごく気持ちよさそうで、演奏している人の顔が見たいと思ったくらい。 3.は短くてあんまりよくわからなかった。4.はすごいとしかいいようがない。ジャコ・パストリアスが好きだけれどソロを聞くのは初めてだった。5.はすごく速くて 何が何だかわからなかった。でもすごいテクニックだなあと感動してしまった。もっと長い曲を今度は聴きたい。6.はベースのものまねなんておもしろいことをよく考えついたと 思います。ミンガスの名前しかわからなかった。

(女子F)いろいろなベースの演奏法を聴いて、同じ楽器でも全然違ったイメージになって、とてもベースはおもしろいと思った。

(男子G)ジャズというとずいぶん地味な音楽のように思っていたが、そんなことはない。 平静を装いながらも内側は変化に富んでいる。ホーンやボーカルの影になりがちなベースはその象徴のように思える。


さて、次回でもう一学期が終わってしまいます。だいぶジャズに慣れてきたみたいですね。

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