第九回「ジャズの楽器について その3 ピアノ(1)」


ジャズにおいてピアノは、ソロ楽器であると同時にリズム・セクションの一員として 和音(コード)を弾いて他のソリストを伴奏する役目を持つのが普通です。  ソロの時は一般的に右手でメロディーを、左手でコードを弾きます。
今日は、1950年代を代表するピアニスト、セロニアス・モンク、バド・パウエル、レッド・ガーランド、 それから60年代後半から現在まで多彩な活躍を続けているチック・コリア、のピアノ・トリオを中心に 聴いてみましょう。  

本日のレコード

1. 「Cジャム・ブルース C Jam Blues」"Groovy"Red Garland Trio1957

まずはレッド・ガーランドの実に快適にスウィングしている演奏です。デューク・エリントンの 単純なメロディー(なんと二つの音しか使わない!)を持つブルース形式(ジャズにおけるブルースについては こんど説明しましょう)の曲で、「玉を転がすような」と形容されるピアノのアドリブが気持ちいいでしょう? ポール・チェンバースのベースも実にみごとです。

2. 「ラウンド・アバウト・ミッドナイト 'Round About Midnight」"Sol On Vogue"Thelonious Monk solo 1954

「孤高の天才ピアニスト」と呼ばれたセロニアス・モンクの名曲をモンク自身のピアノ・ソロと マイルス・デイビスのクインテットの演奏で聴き比べてみましょう。まずモンクのピアノ・ソロですが、 ちょっと聴いただけでいかにユニークなスタイルを持ったピアニストだかわかるでしょう。

3. 「ラウンド・アバウト・ミッドナイト 'Round About Midnight」"'Round About Midnight"Miles Davis Quintet 1956

同じ曲をマイルスのグループの演奏で聴きましょう。この曲はスタンダードとして多くの演奏者に取り上げられていますが このマイルスの演奏が一番有名だと思います。マイルスのトランペット・ソロはミュート(弱音器)をつけて かすれたような独特な音を出しています。マイルスのソロが終わると緊張感あふれるブレイクの後ジョン・コルトレーンの テナー・サックス・ソロになります。

4. 「テンパス・ヒュージットTempus Fuge-It」 "Jazz Giant" Bud Powell Trio 1949

   「モダン・ジャズ」ピアノの創始者と呼ばれるバド・パウエルはセロニアス・モンクの弟子でもあったが モンクとは異なり、流れるようなアドリブ・フレーズが特徴である。「破滅型」の天才の一人で、麻薬禍、 精神病と闘い続けた生涯であったが、1950年前後はまさに絶頂期であり、速いテンポでの次々にわき出てくる アドリブ・フレーズはまさに神業で、後のピアニストに多くの影響を与えた。

5. 「バウンシング・ウイズ・バド Bouncing With Bud」 "Bouncing With Bud" Bud Powell Trio 1962

心身共に疲れ果てたバド・パウエルは晩年ヨーロッパに渡り、多くのレコードを残している。これは デンマークのクラブでの録音で、ミディアム・テンポにのって美しいメロディーの自作曲を楽しんで弾いているようだ。 ピアニストはなぜかうなるような声を出しながら弾く人が多く、この曲でもきこえます。

6. 「ステップ・ホワット・ワズ Steps, What Was」"Now He Sings, Now He Sobs" Chik Corea 1968

  60年代のジャズ・ピアノの代表としてチック・コリアのトリオを聴きましょう。当時若手ナンバー・ワンの みずみずしいピアノです。ベースとドラムの作り出す柔軟でスリリングなリズムにのって当時の新しい理論に基づく アドリブ・ソロがいいですね。


生徒の意見

(女子A)1.気持ちの良い音楽だった。単純なメロディーは安心できるので 好きだ。2.こういう弾き方もあるんだなあと思った。ガタガタ箱が転がるようだった。3.真夜中じみてねむくなるな 、と思っていたらパラパラーと明かりが射したみたいになってきた、と思ったらまた暗くなった。 4.前の二曲に比べるとテンポが非常に速い。危ない感じがした。なにかくずれていくようだった。 5.晩年の方は少しおだやか。アヒルみたいにガアガア聞こえてきたが何だったんだろう。(バドのうなり声です) 6.他のと違っていて面白かった。ドラム・ソロは圧巻。

(男子B)1.ベースとピアノの組み合わせがすごくいい。2.3.ではマイルス の方がよかった。4.あまり好きじゃない。5.いい曲だった。

(男子C)最後の曲は特に良かった。とても感激しました。

(女子D)1.シンプルな曲で、ピアノの音もすごくはぎれがよくて気持ちがいい。 2.メロディーよりもコードの方が特徴があったように思える。個性的でシンプルでよかった。終わり方が 好きな終わり方だったので、それだけでも好きになってしまいました。3.ピアノ・ソロと全然雰囲気が違っていて 違う曲のようだ。こっちの方も個性的で、よかった。4.すごく速くて「あっ!」というまに終わってしまったので なんだかよくわからなかった。でもすごいなあと思った。5.気持ちのいいピアノで、「ピアノだなあ」なんて 思ってしまった。こんなすばらしい演奏ができる人がどーして麻薬なんかに手を出したんだろうなあ?6. テンポが速くて一つ一つの楽器を聞き取りにくかった。ボーっとしてると次から次に頭の中に入っては出ていくような感じで。 ピアノが走っているようで、迫ってくる感じもした。ずん、ずんって!

(女子E)テーマ・メロディーは「ソ」と「ド」の二つの音しかないということですけれど ぜんぜん単純に聞こえないところがすごい。秘書になったような気分の曲。2.時々調子外れのような所がでてきておもしろかった。今までに聴いたことのない 個性的で不思議なピアノ・ソロだった。花がどんどん育っていくような曲で、淋しい感じもする。3.これはよくあるタイプでモンクの新鮮さ・個性がなくなってしまっていたように感じる。 同じ曲をやってもこうも変わるものかと感心してしまった。私はモンクのピアノ・ソロの方が気に入った。雨上がりに一人で散歩して楽しんでいるような曲。 4.こんなにテンポが速いものは新鮮に感じられる。演奏する姿を想像してみて、「すごい」と思った。いったいどのくらいの速さで 手が動いているんだろう?5.アヒルの鳴き声のような音はいったい何だったのでしょうか!?この曲も遅くはないけど 先の曲のせいですこし遅く聞こえた。あらためて先の曲の速さに驚いてしまった。6.すごくおもしろい曲だった。 ピアノの力強さがよかった。ドラムのソロがすごく新鮮で、和太鼓のような感じの所もあっておもしろかった。


バド・パウエルのうなり声には驚いたようですね。こんどキース・ジャレットを聴かせよう。それにしても モンクのピアノが「ガタガタ箱が転がる」、Cジャム・ブルースが「秘書になった気分」、ラウンド・ミッドナイトが「雨上がりの散歩」 とは!女子高生は面白いことを言うなあ。

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