第十一回「ジャズの楽器について その5 ボーカル」


ジャズ・ボーカルとは、ジャズ的な節回しを持ったボーカルとでも言うのでしょうが、正確な 定義はむずかしいです。ジャズ・バンドをバックにスタンダードを歌えばジャズ・ボーカルだ、というものでも ないし。人によっては、楽器によるアドリブ演奏に対抗できる真の意味でのジャズ・ボーカルはビリー・ホリディ ただ一人が行ったにすぎず、他はジャズ風なボーカルにすぎないと言います。今日はそのビリー・ホリディを中心に 聴いてみましょう。  

本日のレコード

1. 「ソリチュード Solitude」"The Great Reunion" Louis Armstrong-Duke Ellington 1961

まずは「ジャズの父」ルイ・アームストロング。彼はトランペットだけでなく、ボーカルも若い頃から 達者で、いかにもジャズ風な(シャバダバダ・・なんていうあれ)歌詞のない「スキャット」を始めた人でもあります( きっかけは歌詞を書いた紙を録音中になくしてとっさにでたらめな言葉で歌ったらしい)。今回はデューク・エリントン 楽団のピックアップ・メンバーとの共演で、エリントン・ナンバーを一聴彼とわかる個性的な歌とトランペットで聴きます。

2. 「フーリン・マイセルフ Foolin' Myself」"Billie Holiday vol.2" Teddy Willson and His Orchestra 1937

ジャズの歴史に欠かすことの出来ない「天才」のひとり、ビリー・ホリディ。彼女は最悪の環境で育ち、人種差別、麻薬、 男性関係などに悩み、私たちの想像を絶する44年間の生涯を送りましたが、決して誇りを失うことなく歌い続け Lady もしくは Lady Dayの愛称で呼ばれました。一曲目は22歳のビリー。彼女と愛人関係にあったといわれるレスター・ヤングのすばらしい テナー・サックスとテディ・ウイルソンの美しいピアノをバックに歌います。実は私はこの曲を聴くたびに感動して泣きそうに なっちゃうんですよねえ。歌詞は、失恋の気持ちを隠して意地を張る勝ち気な女が、ふと鏡に映る自分の姿に問いかける言葉、「自分を 騙してるんじゃないの?」。

3. 「アイル・ビー・シーイング・ユー I'll Be Seeing You」"Billie Holiday" 1944

20代後半の絶頂期のビリー。失った男性との思い出を一つ一つじっくり歌います。 ・・・小さなカフェ、道の向こうの公園、子供用の回転木馬、栗の木、幸運の井戸、夏の日差し、宵の口、月・・・。

4. 「クレイジー・ヒー・コールズ・ミー Crazy He Calls Me」 "Lover Man" Billie Holiday 1949

  30代半ばの円熟したビリー。ストリングスの入ったオーケストラをバックに恋に夢中な女心を。 ・・・あのひとが望むなら山だって動かしてみせるわ、火の中だって入っていけるわ、そうよ私は恋に狂っているの・・・

5. 「恋を知らないあなた You Don't Know What Love Is」 "Lady in Satin" Billie Holiday 1958

ビリー・ホリディ最後は、死の一年前の録音。すでに肉体的、精神的に疲れ果て声が枯れてしまっていて、美しいバック との対比が残酷なほどだが、歌に込めた感情、心に直接訴えかける表現力が素晴らしいと思います。
・・・あなたは知らないのね愛って何なのか、切り札を出していって胸が熱くなるまで失ってみるまでは。あなたには 分からないのよ愛って何なのか、想い出がどんなにむなしいか・・・
これらのビリーの歌がわかるなら、あなたはもう大人です(?)。

6. 「スター・ダスト Star Dust」"Songs in a Mellow Mood" Ella Fitzgerald 1954

  さて、ビリー・ホリディ以降の女性ボーカリストで最も有名なのはエラ・フィッツジェラルドではないかと思います。 彼女の若き歌声でもう何度も紹介した「スター・ダスト」を聴きましょう。
・・・淋しい夜になると別れたあなたを思い出す。夢の中ではあなたと一緒だ。今のわたしの安らぎは星屑の中。星屑のメロディ、 愛の想い出・・・

7. 「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラブ My One and Only Love」"John Coltrane and Johny Hartman" 1963

  今日の最後はまた男性ボーカルです。ジョン・コルトレーンのカルテットをバックにジョニー・ハートマンがクールに歌います。


生徒の意見

(女子A)1.腹の底から響いてくるようなすごい迫力で人間の声じゃないみたいだった。 最後のトランペットもすごかった。2.すごく可愛い感じがした。昔のアメリカ映画の白黒の場面に出てくるような曲。歌詞は なんかかわいそうなんだけれど誰にでも経験がありそう。3.いかにも「女の人」が歌っている、という感じ。私は1.の方が好き。 4.前の二曲とずいぶん違った歌い方だと思った。すこしハスキー。5.こんなに変わってしまうとは思わなかった。この曲の声が一番 迫力があった。耳に残ってしまう力があってすさまじかった。6.どうやったらこんなに低音が出るのだろうとただただ感動してしまった。 7.これも古いアメリカ映画っぽかった。映画ではたいていこういう声の人はイイ男なのだけれど、この人はどういう顔をしているんだろう。 (イイ男です)この人のボーカルはすごく気に入った。

(男子B)ビリー・ホリディがよかった。特に「Crazy He Calls Me」がよかった。

(男子C)ゆったりした曲ばかりで眠くなった。男の人の方がよかった。

(女子D)1.この声はシャガレすぎて好きでない、と思ったけどこれにはこの声があってるなと思った。 2.短い曲だったけど若々しく可愛らしいくて歌い方がおもしろく歌詞が追いかけやすかった。3.すごく特徴ある歌い方。何かを 思い出すような感じだった。5.こんなにまで声がひどくなっているのに歌い続けるなんてすごいなあと思いました。感動しました。 聴いていると、とても痛々しい感じで・・歌詞を読むと泣けてきます。7.この男性ボーカルすっごく好き。「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」 を歌わせたい。

(女子E)1.とても心にしみる歌声。何かを訴えているとはっきりわかる。2.いい感じ。声がいい。気に入った。 3.いろんな想い出を語っているけれど悲しそうじゃなくて「楽しかった想い出」という感じで歌っていると思う。4.そんな最悪の環境 で育ったのなら、歌い方に出てしまってもおかしくないのに(もっとひねくれて投げやりになるとか)そんなところが少しもなく、とても 自信と気品に満ちているところがすごいし、不思議。5.こんなに声が枯れているとは思わなかった。でもそれが逆にいい効果を出していると 思う。でもこんなにすてきに歌が歌えてうらやましい。6.とにかくきれい。メロディもとても美しいと思う。7.一番今っぽく、聴きやすいと 思った。きれいで落ち着いていて、にごりがないような感じでよかった。今日はゆっくりな曲ばかりだったけど、こういうの好きだからとても よかった。感動した。(特にビリー・ホリディには)


男子生徒にはいまいちだったが、さすがに女の子はするどいなあ。

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